Ending 01 Scene Player ──── ブレイク
本の主を倒した後は呆気ないものですぐに本の中は崩れ出し、空間は消えて元の図書館に戻ってきた。いつもブレイクが勤めている図書館に変わりはなく、当然閉館時間を過ぎた館内に人などいるはずもない。
共に本の中へ引きずりこまれたレダとアンジュを除いて。
「どうにも、面倒なことに巻き込まれたかな」
その呟きは誰か耳に届くことなく霧散する。だがブレイクだけは確かに感じたことがある。
唯一の本は間違いなく人工物だ。作っている奴の目的までは流石に見えてこないが、それでも一つ分かることがある。
この本を作っている奴はろくでなしだ。俺を欲するなど、愚者と言わざるを得ない。
GM:ブレイクだけは唯一の本が人の手によって生み出されたものだと分かったよ。
ブレイク:流石は特別な存在。
アンジュ;その設定気にいってるでしょ。
ブレイク:もちろんだとも。さてしかし、どうしたものかね。これってつまり、ブレイクの傍にいるやつは問答無用で巻き込まれるってことだよな。それを分かったうえでブレイクはレダの傍にいるか否か……。
GM:どうなんですかね? 私もブレイクはまだ掴み切れていないので、どちらに転んでもおかしくないとは思っていますが。
ブレイク:実は俺もそうなの。ふらっといなくなるのもブレイクらしいし、気にせず傍にいるのもブレイクらしい。
レダ:だね。どっちにしても自分の考えをまず第一にして動いてる感じがするから、こうしようって決めた時点で何が来ても動じないと思う。
アンジュ;あー、分かるなあ、その感じ。
GM:ですね。それでは次のエンディングです。
Ending 02 Scene Player ──── レダ
普通なら死んでいるような傷を負うことになってしまったが、どうにか本の中から出て来られた。オーヴァードの力は人ではあり得ない再生力も備え持つため、今ではもうほとんど傷はない。
また、きちんと本の主を倒したこともあって貸出予定の本も何事も無かったかのようにそこにあって、再び開いても別の空間に飛ばされることはない。ついてに、傷や汚れも特に見当たらなかった。
館内には自分とブレイク、そして不幸にも巻き込まれることになってしまったアンジュの姿がある。ブレイクはこの出来事も別段気にしている様子はなく、もう普段どおりに動いて帰宅する用意を始めている。一方でアンジュは無事に戻って来れたことに安心しきったのか、目尻に涙をためていた。
「大変なことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした」
レダが深く頭を下げればアンジュは大げさなほどに首を左右に振り、こう言った。
「……正直、怖かったです。でも私、大切なことを学びました。この力は人生を狂わせてしまうものですけど、誰かの人生を守るためにも使えるんだって」
二年前からこの瞬間まで一度として見せることのなかった笑顔。アンジュはオーヴァードになってから初めて笑顔を見せた。
「良かった。やっと笑ってくれた」
レダが優しく微笑めば、アンジュは顔を手で隠してしまった。だがその手はすぐにどけられ、もう一度、今度は困ったような笑顔を覗かせる。
「もう遅いですから、お送りいたします」
「それでは途中までお願いしても、いいですか?」
ブレイク:レダすげえ……。
GM:私も現実では絶対にこのような発言は出来ません。あ、ダメでしたら手直しします。
レダ:大丈夫だよ。レダなら言うでしょ、これぐらい(笑)
アンジュ:こんなこと言われたらアンジュが恋しちゃう(笑)
GM:昔は奥さんもいたわけですし、女性の扱い方はそれなりに心得があるでしょう。
レダ:だね。その過去を乗り切っているかは……はてさて。
GM:どうなんでしょうね。さあ、最後のエンディングに参りましょう。
Ending 03 Scene Player ──── アンジュ
本の中から戻って来れた。二人に守られるだけじゃなく、自分の力も使って。
今日は本当に自分で自分を褒めてもいいぐらい頑張ったと言える。助けがあってこそだともきちんと理解しているが、それでも今日の自分は頑張ったと言っていいだろう。
思えば二年前のあの日から今日までずっと、見えないところで二人に守られていた気がする。自分が勝手に心の拠り所にしていたに過ぎないにしても、事実として今日まで耐えて来られたのは二人のお陰だ。
ずっと心のどこかに引っかかっていた二人の安否。自分は助かったが二人がその後どうなったのかは一切分からないまま、お礼も言えずに二年も経ってしまった。
それがやっと、今日叶った。それもお礼を伝えて終わりではなく、二人の力にまでなれた。
力になれたのは間違いなくオーヴァードになったからこそだ。覚醒した日からずっと不快に思い、嫌悪していた力の本当の使い方を知ることが出来た。今ならきっと、過去ではなく未来を見て生きていける。
「今日は本当にありがとうございました。私、これからは前を向いて進んでいきます」
「そう。がんばって」
ブレイクは相変わらず淡泊な返事しか寄越してくれなかったが、気にならなかった。それが彼だと分かったから。一方でレダは最後まで良くしてくれて、家の途中まで送ってくれるとまで言ってくれた。どこまでも義理堅い人だ。
「……そうだ、アンジュ」
「はい、なんですか?」
「UGNへの報告はどうするの」
「――あっ」
すっかり忘れていたが、アンジュの目的は本の中からの脱出ではない。ブレイクとの対話して、可能ならその
まま保護というのが仕事だ。実際のところはこんなもの、保護しろと言われてるのに変わりない。
「もう一度言っておくけど、俺は行かないから」
「ですよね……」
嘘をつくような人ではなさそうだし、大体本の中でも行かないと言っていた。まずついてきてくれないだろう。だったら無理やりに、なんてのは今のアンジュにはとてもする気が起きないし、実力を見た後でやり合おうなんて思うわけもなかった。
「だけど、話に来るだけならいいよ。いつでも」
「それじゃあ、また個人的に来てもいいですか?」
「……まあ、それでもいいけど」
アンジュの純粋な答えを聞いたブレイクは若干言葉を詰まらせる。これを見ていたレダは軽い笑みをこぼした後、告げ口をする。
「保護は出来なかったけど、監視ならいいと報告してってことだよ。ブレイクが今までに妥協したことは一度もないから、間違いなくUGNは食いつく」
「えっ、でもいいんですか?」
「よくないよ。でも成果がなきゃ、アンジュは怒られる」
「怒られはしないでしょうけど……評価は下がるのかな?」
ブレイクのことが少し分かった今でこそ言えるが、彼を保護しようなんてのは正直どんな組織も不可能なことのように思えた。この仕事自体が無理難題でどうにもならないものだから、任務失敗という感覚がアンジュには沸いていない。
「監視役は必ずアンジュを寄越すこと。そう言っておいて。他の奴が来たら容赦なく叩きだすから」
「私ですか!? わ、分かりました……」
「じゃあ、俺は帰るから」
「今日は助かったよ。ありがとう」
「俺にとっては良い暇つぶしだった。それじゃ」
一足先に帰っていったブレイクの後を追うように、アンジュもレダと共に帰路につく。今日は淡い緑色のような優しい光が二人は照らす三日月の夜であった。
GM:ちょっと長くなりましたが、本日の集大成な感じで。
アンジュ:いいねー。ちなみにこの後のアンジュはブレイクの監視役になるの?
GM:なります。ブレイクのことを保護しようとしたことは無論何度もあるわけですが、全部門前払いされています。それがあのブレイクから監視役をつけていいよと言われたんですよ? そりゃつけます。
レダ:監視役がアンジュじゃないとダメだっていう制約なんてどうでもいいぐらいなのね(笑)
GM:ブレイクの力は強大です。もちろん保護できるのが一番なのですが、並みのオーヴァードでは太刀打ちできない。だからUGNとしても下手に手を出して敵視されるのは避けたい。
ブレイク:まあ危害を加えてきそうなら潰しに行くぐらいはするだろうなあ。
GM:多勢に無勢になるので最終的にはブレイクが抑え込まれるでしょうが、被害は甚大でしょう。
アンジュ:藪をつついて蛇を出したいわけじゃなし。何もしてこないならそれが一番だよね。でも、だったらなんでそんなこだわってるの?
GM:強大な力を持っているということを知っているのはUGNだけではありません。当然FHやその他の悪行を重ねているような連中もブレイクのことを狙っています。どこまでも気まぐれなブレイクが何かのきっかけでそちら側につくなんてことになれば大問題です。
ブレイク:ないとは言い切れんな(笑)
アンジュ:だから手元に置いておきたいわけなのね。
GM:それにこれだけ稀少な個体ですから、純粋に研究もしたいでしょう。
レダ:苦労してそうだな、ブレイクも。
Ending 04 ──── Master Scene
唯一の本――それはレネゲイドが宿り、人を未知の空間へ引きずりこむ本のこと。しかし、唯一の本のことを正しく理解している者はまだ誰もいない。
本の中には世界でたった一つだけの物語が綴られている。
本の中に入ってもレネゲイドに感染することはない。
本の中に連れ込まれても、適当な時間が経てば戻ってくる。
唯一の本についての知識を持っている者は皆こういうが、果たしてそれは本当なのだろうか? 人類は今一度、唯一の本というものがどういったものであるのかを知るべきではないだろうか?
本の中に綴られている世界でたった一つの物語は、何故世界でたった一つだと断言されているのだろうか?
本の中に入ってもレネゲイドに感染しないというのは、一体誰が検証したことなのだろうか?
本の中から出てきた人物は、本当に入っていった人間と同一なのだろうか?
人類は今一度、唯一の本について一から疑ってみるべきなのである。