過去との決別

 Middle 01 Scene Player ──── アンジュ

 図書館内はアンジュが想像していたであろう本棚と、そこに並べられているはずの本はなく、どこまでも広がり続ける不気味な雑木林であった。
 空から差し込む光もなく、吹きこむ風が葉を揺らし、どこまでも恐怖を煽った。

GM:では続けてアンジュのシーン。いきなりですが、衝動判定をお願いします。<意志>で達成値は12です。
アンジュ:12!? ひえぇ、それは出せる気がしないけど……よっと。出目は6で技能なしなので失敗。
GM:では2D点の侵蝕率を上げてください。それと状態異常の暴走を受けます。
アンジュ:一気に侵蝕率が上昇した。えっと、暴走してしまったアンジュの衝動は恐怖なので、その場に座りこんで震えあがり、泣き始める。……で、いいのかな。
GM:問題ありません。では少し描写を。最初は混乱していたアンジュでしたが、どこか見覚えのある雑木林に貴女は当惑し、そして理解してしまいます。この場所は二年前、貴女が迷いこんでしまった本の中に酷似している。いや、全く同じだと言っても過言ではないということに。ちなみに、アンジュがここを本の中だと理解出来るのはUGNに保護された時に唯一の本の説明を受けているからです。
アンジュ:あちゃー。それを理解してしまったから当時の恐怖を思い出して感情が抑えられなくなった感じかな。
ブレイク:そりゃ暴走もするわ。
レダ:アンジュにとってはもっとも思い出したくない出来事だろうしね。
アンジュ:だね。オーヴァードとして覚醒した日、つまりレネゲイドウイルスに感染して発症した日のことだし、まさに悪夢だよ。
GM:悪夢が再来してしまったことにアンジュは恐怖し、身を縮めて泣き崩れます。何故自分がまたこんな思いをしなくてはならないのか? どうしてこの恐怖の地に足を踏み入れてしまうことになったのかという原因も分からないまま、嗚咽を漏らすことしか出来ない。
アンジュ:なんで……またっ……こんな……。
GM:ですが、同時にアンジュは思い出す。二年前、絶望的な状況にあった貴女の前に二人の男性が現れ、そして助けてくれたことを。
アンジュ:……たす、けてっ。誰かっ……! 私を、助けてっ……。
GM:ではここで、お二人の内どちらかのみシーン登場可能です。どちらが登場するか相談して、教えてください。それと今回は特殊な処理として、アンジュがお二人の内どちらかと出会った時点で恐怖より安堵が勝るので暴走が解除されます。シーンが切れる時点で状態異常は自動解除なので、現時点ではフレーバーとしての使用を目的としていました。
アンジュ:りょうかーい。
ブレイク:ふむ、つまりはここで登場した方がアンジュにとってのヒーローになれるってわけか。
レダ:ヒロインに好意を寄せられる大チャンスといったところだね。
アンジュ:今の状況なら誰が来ても救世主だ!!! ってなるね!
ブレイク:キャラ的に言えば、そういう立ち回りはレダなんだろうなと思う。ブレイクはRBだし、ぶっちゃけ他人から向けられる好意に勘付ける気がしない。
GM:ではレダが登場しますか?
レダ:……ここは敢えてブレイクが登場して、アンジュの心をさらに折るのはどう?
全員:えっ?
レダ:レダが登場すれば、当然困ってる人に手を差し伸べるだろうから王道の流れだと思うけど、だからこそブレイクが出て非情な現実感を出していこうよ。
ブレイク:作るキャラは善人キャラが多いのに、中身は鬼畜なのほんと笑う。で、具体的には?
レダ:さっきブレイクは人の気持ちがあまり理解出来ないって言ってたでしょ。RBとしては王道だと思うんだよね。だからそれを前面に出していって、アンジュの弱さを露呈させるんだよ。今のアンジュは一人で何か成し遂げたことがないみたいだから。
アンジュ:ほうほう。自立するためのきっかけを作らせるわけか。それは私としてもありがたい振りだ。
ブレイク:よおし、そういうことなら任せてもらおうか。ではGM,ここで登場するのはブレイクで。
GM:了解しました。ではシーンを続けます。

 また本の中に閉じ込められてしまった。
 その事実がアンジュの体を縛る。急速に乾いていく喉。とめどなく溢れてくる涙。そのどれもが当時の恐怖を鮮明にアンジュの脳裏に映し出す。
 そんな時、葉が擦り合って奏でる不快な音に交じって近付いてきたのは何かが土を踏みつける音であった。

GM:ではブレイクがシーンに登場。貴方は肩を抱いて泣き崩れている一人の女性を見つけます。
ブレイク:まずは近寄って、見下ろせる位置に来たら立ち止まる。声はかけない。
アンジュ:じゃあ地面すれすれを見ているアンジュは、視界に飛び込んできた何かに驚いて顔を上げる。
GM:視界に入った物が靴だとすら判断出来ないアンジュは顔を上げる。すると新たに映ったのはこの雑木林の中にあるものとしては間違いなく異質なもの。服だ。
アンジュ:さらに見上げて、顔を視界に捉える。
GM:ここでアンジュはブレイクの顔を見て、ハッとします。彼は二年前、今の貴方と全く同じ状態、つまり本の中に迷いこんだ時に助けてくれた男性の一人であることに気付きます。見間違うはずはありません。
アンジュ:あ……あなたはっ……!
ブレイク:君、誰? と無機質に聞き返す。
アンジュ:私、アンジュって言います! あのっ、二年前に助けて頂いた……!
ブレイク:二年前? 俺は知らないけど。
アンジュ:え、あの……私……。と言って狼狽える。あれ、これって見間違いじゃないんだよね? トレーラーにあったアンジュを助けてくれた片割れだよね、君?
GM:はい。もう一度言いますが、ブレイクとレダが二年前にアンジュを本の中から助けた張本人です。
アンジュ:だけど今のブレイクの反応だと、アンジュのこと知らなーいって感じだね。
レダ:……ああ、そういうことか。二年前にアンジュが助かった一連のことって、アンジュが一方的に恩を感じて覚えてるだけなんだ。
ブレイク:そうだと俺は解釈した。貸した方は覚えているが借りた方は覚えていないというやつだ。
アンジュ:あーなるほど。何百年も生きてるRBが二年前に助けた小娘のことなんかいちいち覚えてないよね。
ブレイク:そういうことだ。だからブレイクはどこまでも、誰だお前って感じで接する。
アンジュ:これはアンジュの心に相当のダメージ! ただでさえ嫌なことを追体験している状態で、助けてくれた人にまた会えたと希望を持った瞬間に打ち砕かれたわけだから、もう呆然としちゃうね!
GM:頭が真っ白になったアンジュは泣くことも忘れ、何も考えられなくなります。
ブレイク:ここで、ブレイクが二年前にアンジュに言った言葉をそっくりそのままかける。君、ここから出たい? まあ、ブレイクは二年前のことを思い出してるわけじゃなくて、ただ困ってるみたいだから聞いたって感じだが。
アンジュ:全く同じ言葉をかけられるのか。これには反射的に頷いちゃう。
ブレイク:では頷いたアンジュを見てブレイクは影を動かしだす。さてGMに質問だが……あるんだよな。アンジュを本の中から脱出する術が。
GM:あります。ではここで、今シナリオのギミックについて説明しますね。
レダ:おおー、特殊ギミックまで作って来てるのか。楽しみだ。
GM:まず、「本の中から脱出する」と誰かが宣言した時点で現在のシーンは強制的に終了し、即座にクライマックスへ移行します。
アンジュ:ええっ!?
GM:そして戦闘が開始されます。対象は空間。この空間に一定ダメージを負わせることが出来れば亀裂が入り、本の中から一人だけ脱出することが出来ます。脱出したキャラはその時点でシーンから離脱。バックトラックを行ってエンディングを迎えます。
ブレイク:強引な手を使えば一人は必ず生還出来るわけだな。
GM:そして残ったキャラで再び空間との戦闘が続行。この工程を繰り返し、全員がシーンから離脱したらクライマックスが終了します。
レダ:でもそれ、現実的じゃないよね。一人だけならまだしも三人分を開けるとなったら侵蝕率がとんでもないことになる。
アンジュ:残った最後の一人は出てこれてもまずジャーム化するよね……。
GM:それと、現在はレダと合流していませんのでこの段階で行う場合、レダは1ターン遅れる形になります。誰かが空間に対して攻撃しているのを見つけて合流を目指すのに時間がかかるという設定です。もちろん、別の状況でもシーンに登場していない人は同じ処理を行います。
ブレイク:把握した。……だがしかし、アンジュが頷いたのを見てしまった以上、ブレイクは特に気にすることなく空間に対して攻撃を始める。二年前も同じ方法でアンジュを助けたってことでいいんだよな?
GM:はい。ブレイクは忘れているみたいなので覚えはありませんが、アンジュは鮮明に覚えています。二年前に助けてくれた二人が摩訶不思議な力を使って空間に穴を開け、そこから出してくれたことを。
アンジュ:その摩訶不思議な力って、当時の私は一般人だったからオーヴァードの力だって理解出来なかったってことでいいの?
GM:そのとおりです。
アンジュ:だったら今は分かるはずだよね! 私ももうオーヴァードなわけだし!
GM:分かります。ブレイクが空間に対して攻撃した姿を見て、これはオーヴァードの力だと理解出来ます。ここはブレイクに攻撃判定をしてもらいましょうか。脱出すると宣言はしていないのでシーン移行はしません。ですがエフェクトを使って判定してもらうので、侵蝕率はあげてもらいます。
ブレイク:ここで大きなダメージを出せばいいことがあると信じておこう。あ、ちなみにどんなダメージだったとしてもレダはこっちに気付けるか?
GM:たとえ0だったとしても暴れれば気付くでしょうから、そこはご安心を。大きなダメージが出ればボーナスも考えておきます。判定はマイナーとメジャーで使えるエフェクトのみ使用可。達成値ではなくダメージまで算出してください。
ブレイク:だったら全力で行くか。マイナーで≪オリジン:ヒューマン≫+≪無形の爪牙≫。メジャーで≪コンセントレイト:ウロボロス≫+≪原初の赤:吠え猛る爪≫で攻撃。
レダ:侵蝕率がまだ低いからダイス少ないな。
ブレイク:それでも回って24まで伸びた。さらに固定値の1をプラス。ダメージは3D-1で19点に装甲無視。
GM:侵蝕補正なしの状態で初期キャラとしてはいいダメージですね。しかし、残念ながら空間には若干の傷がついただけです。とは言ってもこれはあくまでもダメージ量が足りていないというだけで、壊せないわけではないと分かります。
ブレイク:なら壊れるまで同じことを続けようとする。
GM:分かりました。この光景を近くで見ているアンジュなら思い出せますが、今回の空間は二年前のものより明らかに堅いです。そしてレネゲイドの知識をUGNによって得た今のアンジュなら、このままブレイクが能力を使い続けたら間違いなくレネゲイドに侵蝕され尽してしまうと分かるでしょう。
アンジュ:慌ててブレイクの腕を掴んで止めます。
ブレイク:なら止まる。そしてアンジュの方を見て一言。なに?
アンジュ:や、やめてください! そんなことを続けたら貴方がレネゲイドに侵蝕されちゃうっ……!
ブレイク:でも君、ここから出たいんだよね?
アンジュ:それは……その……。でも、私のせいで貴方が理性を失うところを見たくない……。

 ここから出たいというのはアンジュの本音だ。
 しかし、無知であった二年前の自分とはもう違う。得たくて得た知識ではないにしても、今はレネゲイドウイルスというのがどういったものなのか、漠然とだが知り得ている。
 彼は私のことを覚えていない。だというのに、彼は二年前と何も変わっていなかった。何も変わらず、ここから出たいと願った見ず知らずの私の願いを叶えようと、脱出するための出口を作りだそうとしてくれている。
 それはどれだけ身体を酷使しなくてはならないことか。オーヴァードとなった今のアンジュには理解出来る。だから、空間に向かって攻撃を繰り返そうとする彼を必死になって止めていた。
 本の中からの脱出よりも、彼の命を優先したのだ。

 Middle 02 Scene Player ──── レダ

 本の状態を確認するために表紙を開いたと思えば、目の前に広がっているのは雑木林。
 これは確か……何年か前に経験したことがある。もしも当時と同じ状況なら館内にいたブレイクも巻き込まれているかもしれない。
 彼のことだから滅多なことはないと思うが、早く合流するに越したことはないだろう。

レダ:さてと、とても良い空気になっている二人の邪魔をするように登場すればいいのかな?
GM:状況としては空間に向かって放たれた攻撃を見かけたので急いでそちらに向かったら、ブレイクが知らない女性と押し問答をしているといった具合ですね。
ブレイク:アンジュの中のブレイクの印象はどうなってることやら。
アンジュ:忘れられてることにはショックを受けたけど、前と変わらず見ず知らずの私に力を貸してくれようとしてるってことは分かるし、良い人だって思ってるよ。
GM:レダもブレイクも行動指針は合流でしたからこのシーンで全員集まったということで、シーンプレイヤーはレダですが二人の元に着いたという描写でいきましょう。
レダ:じゃあ攻撃が放たれた場所に駆けつける。
GM:ブレイクが影を操って再び空間に攻撃しようとする腕に、見慣れない女性がしがみついています。
レダ:ブレイク! と珍しく声を荒げて近寄る。ねえGM、レダにとってブレイクは相棒だから、詳細を知ってても大丈夫だよね?
GM:もちろんです。ブレイクが古代種であり傍らに立つ影を持っていることは当然、今までにもFHやらUGNやらが乗りこんできては研究材料にしようとしたり保護しようと彼の元を訪れては全て返り討ちにあってることを知っています。
ブレイク:俺のハンドアウトに書いてあったことか。
レダ:だったら当然、彼が使う力が強大なものだということも知ってるからレネゲイドに侵されやすいということも分かってるね。
GM:RBであることも知っていますので、普通のオーヴァードよりもジャーム化の危険が高いことも知ってるでしょう。強い力を持っているオーヴァードというのは、総じてレネゲイドの侵蝕を強く受けているということですから。
ブレイク:そもそもレダにレネゲイド関係の基礎知識を教えたのってブレイクだし、知ってることは包み隠さず話してるぞ。オーヴァードとして生きていくには必須の知識だからな。
レダ:では改めて、声を荒げてブレイクに近付いたレダは力を使ったことに対してすごく怒るよ。ブレイク! どうして一人で力を使ったんだ!
ブレイク:レダ、無事で良かった。それで、何をそんなに怒ってる?
レダ:あっ――いや、突然怒鳴ったりしてすまない。君が無事ならいいんだ。だけどあまり、力を使わないで欲しいといつも……。
ブレイク:心配性だな。この程度なら問題ないよ。自分のことぐらい、自分で管理できるから。
レダ:それを聞いてレダは押し黙る。そして腕に引っ付いている女性を初めて視界に捉えたので、視線でブレイクに説明を求めるよ。
ブレイク:彼女、アンジュだって。
アンジュ:名前を呼ばれてちょっと肩を揺らすよ。
レダ:アンジュ? とオウム返しかな。突然言われても、何のことか一瞬理解が追いつかずって感じ。
GM:あ、ちなみになんですがレダはアンジュのことを覚えていますか? 二年前の本の中に閉じ込められるという経験はオーヴァードにとってもかなり珍しい現象ではありますが。
レダ:なら覚えていようかな。二年前に助けた時の女性だと、顔を見て思い出せるってことでいいのかな。
GM:大丈夫です。ブレイクの発言は恐らく彼女の名前を言っているのだと理解したレダが改めて女性の顔を見ると、昔の記憶が蘇ってくる。彼女は確か二年前にも同じように本の中に迷いこんでいた女性で、確か自分とブレイクで空間に無理やり穴を開けて脱出させてあげたということを。
レダ:もしかして、二年前にも同じような経験をした?
アンジュ:あ、はいっ。アンジュと言います。あの時は助けてくださって、本当にありがとうございました!
レダ:構わないよ、それくらい。でも、どうしてまたここに?
アンジュ:小さな図書館に入ったらこの空間に閉じ込められたことを説明する。それでブレイクに出会って、何をしてくれようとしていたのかってことも。
レダ:じゃあそれを聞いて。そうだったのか、相変わらず無茶をする。……それにしてもブレイク、本当に覚えていないのか?
ブレイク:過ぎたことに興味はないから。だがレダの言うことが本当なら、誰かに狙われてるって考えた方が良さそうだ。
アンジュ:えっ……それってどういうことですか?
ブレイク:俺は覚えてないけど、二年前に今と同じことがあったんだよね? 俺がレダと一緒に君をここから出したことが。でもまたこうして俺たちは集まってる。同じような空間にね。
GM:ブレイクはこの空間についての判定に成功していますので、ここが〝本の中”と呼ばれる場所。つまり唯一の本と呼ばれるものが作り上げた空間内であると分かって大丈夫です。レダに関しては自分が本を開いた時にこの空間に飛んだと知っているので、あの時開いた本が唯一の本(レネゲイドが宿り、本の中に空間を作っているもの)であると、アンジュを見たことで確信します。二年前に〝本の中”に入りこんだ原因も、図書館にいた誰かが唯一の本を開いてしまったことなので。
レダ:開くことがトリガーになっているわけか。しかし、開いてみるまでそれが唯一の本か分からないと。
GM:事例も少なすぎることに加え、閉じ込められてもちょっと奇妙な体験をして本の中から出られると言われてます。さらに一度効果を発動した後は普通の本に戻るとも。
ブレイク:じゃあブレイクとレダもアンジュを逃がした後、適当なタイミングで本の中から出られたのか。
GM:いいえ。……えっと、ブレイクは忘れてしまっているのでこのことは知らない前提でお願いしますね。
ブレイク:記憶にないプレイの弊害がここに。
GM:レダは覚えていますが、アンジュを逃がした後はブレイクと本の中を歩き、本の主を倒して脱出しています。その時の相手はジャームでした。
レダ:ということは本の主を倒せば脱出できそうだね。でもそれだと、さっきGMが教えてくれた情報と矛盾が……。
GM:どの情報が正しいのかは微妙な感じです。そもそも、唯一の本の存在を知らないオーヴァードもざらにいます。
レダ:となると、そんな珍しい事象を経験したことのあるレダは当然、今回も本の主を倒すことが脱出方法だと考えるな。……ああでも、まずはアンジュを脱出させようとするかな。
ブレイク:それは俺が止めよう。彼女、脱出するために力を使ってほしくないんだって。
レダ:力を使ってほしくない?
アンジュ:あ、あのっ。お二人はオーヴァード、なんですよね。二年前に私を助けるためにも、同じ力を使ってくれていましたから。
レダ:この力のことを知っているということは……。
アンジュ:私もオーヴァードです。当時は違ったんですけど、御二方に脱出させて頂いた後にUGNの人に保護されて検査されたんです。そうしたら、ここに閉じ込められた時にレネゲイドに感染してしまったらしくて。
GM:アンジュの話を聞いてレダとブレイクはおかしいと思います。唯一の本の事例は確かに少ないですが、今までに上がっている情報の中で人がオーヴァードに覚醒するほどのレネゲイドに感染したことは一度もないとされています。
アンジュ:あれー?
ブレイク:……君がオーヴァードになったの、ここに来たのが原因って本当?
アンジュ:忘れるわけがありません。私はこの中に入って、人生が狂ったんですよ? ……アンジュにとってオーヴァードになったことはデリケートだから、ブレイクの言い方に不快感を感じるかなあ。
ブレイク:すまんな。しかしブレイクはフォローに入らない。そこはレダに丸投げだ。
レダ:不器用だなあ。レダはアンジュを気遣うように声をかけるよ。この力は簡単に人の人生を狂わせる。私もこの力を得てしまった経緯は……今でも忘れられない。でも、この力で得た絆もある。例えばブレイクとの出会い、とかね。
ブレイク:ちょっと微笑んでおこう。
アンジュ:新しい、絆……?
レダ:貴女はまだ若い。だから過去にばかり目を向けないで、前を見て?
アンジュ:……がんばり、ます。

 命の恩人であるレダの言葉がじわりとアンジュの心に染みる。
 確かにレダの言うとおり、今まではオーヴァードになってしまったことを嘆き、この力を鬱陶しいとばかり感じていた。
 でも自分を助けてくれたブレイクとレダが用いたのはオーヴァードの力。自分が持っている力と同じものだ。
 この力は己の理性を喰らい、人であるという事実すらも消そうとしてくる恐ろしいものだ。しかし、きちんと制御して使えば、誰かを救う力にもなる。
 アンジュはその身を持って経験している。そのことを改めて彼らに教えてもらえてもらったような気がした。