Middle 05 ──── Master Scene
ここがどこであるのか。
それを一言で言い表すのは難しい。だがあえて言葉にするのであれば、そう。
──宇宙空間に出来たたった一枚の薄いガラスの上、と言おうか。
GM:ここでマスターシーンを入れます。場所は宇宙に似たようなどこか。地球のような惑星や月のような衛生がちらほら見える不思議な空間。一応酸素はあるようで、生きていることは出来る。足場はないように見えるが確かにそこに足をつけている感覚がある。ガラスに近い物質のようではあるものの、ガラスではない不思議な足場だ。
「はあ……はあ……! いつまで、続くの……」
「弱音を吐くな。走るんだ」
「もう無理よ、ミル。私はもう……」
「諦めるな! ……ウラネ、大丈夫だから」
ウラネの手を引いてこの不思議な空間を走っているのはミルだ。そんな二人を追い回しているのは一人の子ども。
「どうしたの? 何が怖いの? おいでおいで!」
無邪気に笑ってこっちにおいでと手招きするのは男の子。これに見向きもしないでミルは走るが、ついにその足を止めることになった。
走っていた先にもう一人の子ども、女の子の方が立っていたからだ。
「クソッ、どこまでも俺たちを馬鹿にして……」
苛立ちを吐き出すと、こんな声が聞こえてくる。
「どこを見てるの?」
気付くと女の子のは前にいない。どこからだと思って周りを見渡すが姿を捉えることは出来ず、今もなおゆっくりと後ろからやってきている男の子がいるばかりだ。
「こっちだよ?」
次の瞬間、ミルの右足に先の尖った長い棒が突き立てられる。
「ぐあっ──!」
「ミルッ!!!」
いつの間にかウラネとミルの間に立っていた女の子は地面に膝をついて呻くミルを見下ろし、口元を歪める。
「フフ、フフフ、アハハハッ!」
嗤い、ミルの足に刺さっている棒をさらに押し込む。ミルは必死に声を出すまいと堪えるが、叫び声を上げずにはいられなかった。
「いやあああ! もうやめて! やめてよ! どうしてこんなことするの!?」
泣きじゃくるウラネはミルに抱きつき、自分よりも一回り以上小さな子どもに懇願する。
もうやめてと。私たちを許してと。
「嫌だよ」
拒絶の言葉は二人から同時に発せられる。それは力強く、鋭かった。
「ウラネ! 俺のことはいい! 逃げろっ!」
もう歩けないと悟ったミルはウラネだけでも逃がそうと叫ぶ。しかしウラネはいやいやと首を横に振り、ミルにしがみついて赦してと嘆願する。
「逃げないの? じゃあもっとも~っと! 苦しめてあげる」
女の子がさらに棒を突き刺して行くと、ミルは痛みに耐えかね意識を手放す。それを見たウラネは絶叫し、泣き喚いた。
「──おい。遊びの時間は終わりだ」
そこへやってきたのは先ほど子どもたちを連れていた男、ルーサーだ。彼が声をかけると子どもたちは不機嫌そうにしながらも、遊び終えたおもちゃをその場に置いたままにするようにウラネとミルから離れ、ルーサーの元に行く。
「全事象演算終了、解は出た」
ルーサーが一言そう言うと、女の子はニヤリと笑う。
「じゃあこれからはもっと楽しくなりそうだね」
「目的を忘れるなよ、フラウ」
こう言われるとフラウはムッとして【敗者】のお前がいちいち指図するなと怒った。
「忘れるわけないよ。かつて己の気の向くままに力を振るい、全部を汚れさせて一つにしようとしてくれた“王”の復活。でしょ?」
「フローの言うとおり、私たちの目的は“王”の復活。忘れるわけないわ。でも、私たちは利害が一致しているから共に行動しているに過ぎない。そのことを忘れないで」
「フン──。だったらさっさと準備しろ。今から出る」
伝えることを伝えたルーサーはすぐにこの空間から姿を消す。そしてまた四人だけの空間となったことで、子どもたちは先ほどのおもちゃの元に戻ってくる。これにウラネは体を震わせた。
「飽きたから、帰してあげる」
「……えっ?」
フローの言葉にウラネは耳を疑った。
帰す? 帰してくれる? たったこれだけの言葉なのに。こんなにも聞きたいと願ってやまなかったことが今までにあっただろうか。
「帰って、ブレイクに伝えて? キミをここで待ってるって」
「アナタはブレイクをここまで連れてくるの。分かった?」
「これは絶対だよ? 破ったらキミ、死んじゃうから」
「必ずよ? ブレイクを連れて、アナタはまたここに来るの」
両手の甲がじわりと痛む。なんだと思ってウラネが見ると、今までになかった不気味な模様がそれぞれ刻みこまれていて、それは擦っても拭いても消えることはなかった。
これは何かというウラネの返事も待たぬまま、フローとフラウはバイバイと手を振る。するといつの間にかさっきまでいた不思議な空間は消えてなくなり、ウラネはミルを抱えて見覚えのない裏路地にいた。
GM:描写は以上ですが、補足を。ここでEロイス≪囚人の鳥籠≫の効果は終了。そしてフローとフラウはそれぞれウラネに対してEロイス≪絶対の枷≫を使用しました。これにより、ウラネは言われたとおりのことを達成できなかった場合、即座に死亡します。
ブレイク:詳しい条件は非公開か?
GM:公開しますよ。指示をされている内容はブレイクに先ほどの空間でフローとフラウが待っていることを伝え、そしてブレイクと共にその空間に行くというもの。フローが契約させたのはブレイクにここで待っていることを伝えること。フラウが契約させたのはブレイクと共に先ほどの空間に戻ってくることです。
アンジュ:出来なきゃ即死亡。だけど、連れて行っても間違いなく危険……。
ブレイク;やるしかない。これもウラネのためだ。
レダ:守りながらとなれば、我々にとってもっとも厳しい戦いになるな……。
GM:マスターシーンはここで終了します。
Middle 06 Scene Player ──── レダ
現在の頼みの綱はトトというUGNの新人がルーサーと【双子】の情報を持ってくることだけ。
その事実のせいで焦燥に駆られていると、一本の電話が入った。
GM:あなたたちはウラネとミルを助けるという思いで一致団結したわけですが、残念ながら現在はルーサー及び【双子】と呼ばれる存在の後を追うための手立てがありません。
レダ:トト待ちではあるのだが……。
ブレイク:先ほどのマスターシーンのこともある。急がないとミルは出血多量で死ぬ可能性があるぞ。
アンジュ:ううう。キャラクターとしてはそのことも知れないのが歯がゆい……。
GM:そんな時、図書館に設置されている固定電話が鳴ります。
レダ:私が出よう。「こちら──図書館。司書のレダです」
GM:「ああっ……! つながった……! 良かった!」と電話越しから聞こえてくるのは声を詰まらせながら必死に喋る女性の声です。
レダ:「ウラネ……? ウラネか? 今どこにいる? 状況はアンジュから聞いている。無事なのか?」
GM:「わ、私は何ともないんです。でも、でもミルが! ミルが起きなくて!」
レダ:「ミルも近くにいるんだね。すぐ迎えに行く。場所は分かる?」
GM:「……分かり、ません。分からない! 助けて! ミルが死んじゃう!」かなり取り乱していますね。
ブレイク:電話から聞こえてくる声の反響などから状況が探れないかと考えたが、適切なエフェクトを持っていない……。
アンジュ:まだイージーエフェクトにまで回してる余裕がなかったから……。
GM:反響はありませんよ。どこか外にいるってことでしょうね。
ブレイク:どこかの路地裏だとは言ってたが、天井が空いている場所か。……そんな場所はいくらでもある。絞り込むには情報が足りない。
レダ:「ウラネ、落ち着いて。必ず私が助けに行く。……今ここに電話をかけているのは、自分の携帯から?」
GM:「そう、です。ここがどこか、分からない。薄暗くて……後は、汚い壁ばかり……」
レダ:ウラネの携帯の電波を追うのが現実的か? 彼女に私の携帯番号を教えて、それに掛け直してもらうことは?
GM:今の精神状態のウラネがメモも取れない状態で番号を聞き取り、かけなおすことが出来そうだと思うのなら。それと、どうやって電波を追います?
レダ:ぐっ……。エフェクトがない……。
ブレイク:写真だ。周りの写真を取ってもらい、そこから特定する。GM、自身が行ったことのない場所でも写真で見て覚えた空間に≪ディメンジョンゲート≫を開くことは可能か?
GM:いいでしょう。許可します。ただし、難度は高いですよ。……それと、力のことがバレる可能性が高いですが。
ブレイク:どうでもいいよ、そんなこと。それで彼女たちが俺を恐れても、助けられるなら安いものだ。
GM:分かりました。まずはどうやってその写真を撮ってもらい、入手するかを教えてください。
ブレイク:「レダ、ウラネは近くにミルもいると言ったね。彼の携帯が使えるか、聞いて」
レダ:「分かった。……ウラネ、ミルは携帯を持っているか?」
GM:「ミルの、携帯……。ある、あります」
レダ:「ロックは?」
GM:「あっ……されてない、みたい」
レダ:「ならそれで周りの風景の写真を撮ってもらえる? そして今から言うメ―ルアドレスに添付して送ってほしい。そこから場所を割りだして、すぐ迎えに行く」
GM:「やる……やります……」電話越しからはカシャカシャと写真を撮っている音が聞こえてくるよ。そして少し時間がかかったけど、言われたとおりのメールアドレスに写真を添付してくれる。ちなみにそのメールアドレスはどこの?
レダ:この図書館のパソコンに使われているメールアドレスだ。業務用のだね。
GM:分かりました。ではそちらのメールボックスに一通、新着があります。
アンジュ:私が開くよ。写真はどう?
GM:ブレていたり、綺麗に取れていたりとまばら。枚数は十枚ほど。では、この写真を元に彼女たちが今どこにいるのかを知るため<知識:ネット>か<情報:Web>で難易度12に成功して下さい。ちなみにこれには何度でもトライしてもらって構いませんが、失敗した分だけ時間を経過させます。全員で振って、一番高い人の数値を採用します。
ブレイク:全員で一回の判定として扱って、全員失敗だったら指定時間分進むという解釈で合っているか?
GM:そういうことです。イメージは全員で写真を見てパソコンを使い、地図機能にあるレビューモードを使って似た場所を探す、という感じです。一人一台ずつのパソコンはあるでしょう。
アンジュ:情報収集関連のエフェクトはないし、ダイスも少ないけど、やるしかない。私は<知識:ネット>で挑戦。……9で、失敗。
レダ:≪妖精の手≫でクリアしてしまうか?
ブレイク:……いや、俺のエフェクトと財産点で3点まで底上げできるから、そっちに賭ける。
レダ:それでダメだったら使おう。次は私が振るね。アンジュと同じで<知識:ネット>で……こちらもダメか、達成値9で失敗。
ブレイク:≪オリジン:ヒューマン≫を使用だ。当然ダイスの多い<知識:ネット>を選択。……クリティカルせず9だがオリジンの効果で達成値+1、ここに財産点を2つぎ込んで12で成功に持っていく。
GM:では、頼りない写真を元に、似た場所を探して行く。汚い壁で、うっすらと光の入りそうな場所の筆頭であると思われる路地裏を重点的に探して行くと、偶然移りこんでいた壁に書かれている特徴的な落書きが地図機能にあるレビューモードで見つけられる。
レダ:よし。
ブレイク:本番は次だからな。ここで≪妖精の手≫を温存できるのはでかい。
GM:ブレイクは行ったことのない場所へ、地図のレビューモードで表示される映像だけを頼りに≪ディメンジョンゲート≫を開こうとする。<RC>で難易度は25。失敗する度に時間経過と≪ディメンジョンゲート≫を使用回数分の侵蝕率を上げてもらいます。もちろん、他のエフェクトを使うならその分もです。
ブレイク:ここ一番の大勝負だ。もう一度≪オリジン:ヒューマン≫を使用。白兵キャラにしたがウロボロスのお陰で元ダイスはそこそこある。一度クリティカルで18どまり。……レダ、頼む。
レダ:もちろんだ、≪妖精の手≫を使うよ。
ブレイク:振り直して出目は3、俺は<RC>の固定値が1ある。先ほど使用したオリジンの効果も合わせて丁度25。成功だ。
アンジュ:やった!
GM:一発で越えてくるとは……。レダの支援を受けたブレイクが空間を捻じ曲げ、ゲートを開く。ゲートをくぐった先は薄暗く、先ほど写真で送られて来た写真に載っていた特徴的な落書きが確認できる。そのすぐ傍には足から血を流したまま意識のないミルを抱きかかえているウラネの姿が。
レダ:「ウラネ!」
アンジュ:「ウラネさん!」
GM:「あっ……レダ、さん! アンジュ……!」
レダ:「待たせてすまない。もう大丈夫だ」
GM:「……っ。うあ……っ。うわああああん! 怖かった……怖かったぁぁぁ……!」
レダとアンジュはわんわん泣きじゃくるウラネを慰める。そんな中、ブレイクはミルの容態を確認していた。
ブレイク:ミルの容態は?
GM:素早く見つけることが出来たので、病院に連れていけば一命を取りとめることが出来るでしょう。
レダ:ここに救急車を呼ぶのは現実的ではない?
GM:近くまで救急車は来れますが、そこからは担架で運ぶ感じになるので時間がかかりますね。さらにここから病院はかなり遠い。……図書館に移動した方が間違いなく近いですね。
ブレイク:それにはゲートをくぐってもらわないといけないわけだが……ウラネの様子は。
GM:レダとアンジュになだめられたことでやっと落ち着きを取り戻し始めていますね。だから聞いてきますよ。「どうして、ここが分かったんですか? それも、こんなに早く……」
アンジュ:説明しても……いい、のかな。
GM:「それに、さっきからそこにある黒いのはなんです? 扉みたいに見えますが……」
ブレイク:今ゲートを閉じるわけには行かないから、開けっ放しにするしかない。余裕を取り戻したのなら当然気付くだろうな。
アンジュ:ちょっと気は引けるけど、≪ワーディング≫を使って意識を奪ってからウラネも一緒に救急搬送した方がいいのかな? その後はUGNに私から報告して、後日記憶操作を施してもらうとか。
レダ:記憶操作か。二人のことを思うのであればそれも一つの選択肢だな。だけど、私たちはこれからもずっと騙し続けながら共に司書として働く、ということにはなってしまうね。
ブレイク:オーヴァードの力なんて知らないままいられるならそれに越したことはないのだがな。ただ、それをするなら少なくとも俺は離れないわけには行かない。
アンジュ:自分の力が原因で二人が巻き込まれたことは重々承知している上で悲しい思いをするって知ってしまったからには、もう一緒には居られない……よね。
ブレイク:同じオーヴァードであるならこちらも気楽なんだがな。一般人となればそうも言ってられん。それはさておき、≪ワーディング≫は少し待ってくれ。まだ確認したいことがある。GM、ウラネの状態も調べたい。敵に連れ去られていたことはアンジュから聞いている、それぐらいするのは不自然じゃないだろ?
GM:ですね。ウラネの問いかけにどう答えたものかと言い淀むレダとアンジュを横目にブレイクがウラネの外観をざっと見る。すると両手の甲にそれぞれ形の違う不気味な文様が浮かんでいるのを確認できるでしょう。
ブレイク:「ウラネ。その手の甲の文様、どうしたの」
GM:言われるがままに自身の手の甲を確認するウラネ。それを見た瞬間、顔面蒼白になって再び震えだす。「これ、消えないの! 拭いても、擦っても……! 嫌だ……気持ち悪いよ……!」
レダ:「ウラネ、大丈夫だから落ち着いて。私たちが傍にいる。……何をされたとか、覚えていることがあったら教えてくれる? 私がこれを消す手立てを探してみるから」
GM:「ミルが……、ミルが刺されたの……。気味の悪い女の子に、ミルの足が……!」
ブレイク:「アンジュ、取りあえず図書館の方に戻って救急車の手配をしてきて。ゲートは開けたままにしておくから」
アンジュ:「……分かりました」
GM:ならアンジュはここでシーンから離脱です。救急車の手配は出来たということにしましょう。図書館に一台呼んだってことでいいですか?
アンジュ:それでお願い。足に大怪我をしている人がいて、急いで治療が必要だって言って呼ぶよ。
GM:了解です。場面を路地裏の方に戻しますね。……さあ、アンジュが扉の中に姿を消したところを見たウラネはさらに怯えます。「あ、アンジュが消えっ……消え、た……! なんなのそれ! ……ま、まさかあそこに繋がってるの!?」
ブレイク:「あそこ?」
GM:「宇宙みたいな、わけのわからない場所……。浮いてるみたいなのに、ちゃんと足は地面についてるみたいで……そこでずっと、気味の悪い子どもたちに追いかけられて……!」
ブレイク:「その文様が浮かび上がった瞬間のことは覚えてる?」
GM:「確か……ブレイクに、伝えろって。男の子が、僕たちはここにいるからって。女の子は私がブレイクを連れて来いって……」ウラネは泣きじゃくりながらこのことをブレイクに伝えた後、首を左右に振ってさらに続けます。「でも、私いや! もうあそこに戻りたくない!」
レダ:「大丈夫。大丈夫だから。ブレイク、奴らのことを知りたいのは分かるが、今はゆっくり休ませてあげよう」私はウラネを抱きかかえて……ゲートに近付くと怖がるか。意識を失わせるか?
ブレイク:流石に暴れるだろうな。ミルは俺が運ぶとして、これ以上ウラネは起きていても辛いだけだろう。……俺が≪ワーディング≫を展開する。
GM:ウラネは意識を手放します。ミルも依然起きる気配はありませんでした。
ブレイク:ゲートをくぐって図書館に戻るぞ。
GM:ここでシーンを切りましょう。