過去の在り方

 Middle 03 Scene Player ──── レダ

 ルーサーと名乗る男は去り、ウルネとミルは【双子】と呼ばれる子どもに連れ去られてしまった。
 FHの一員だとは言っていたが、その目的はまるで見えてこない。挙句、ルーサーと【双子】の関係もよく分からない。一体、何を調べればウラネとミルを取り戻すことが出来る?

GM:それでは嵐のような人間たちが全員去り、ウラネとミルが連れ去られた後の図書館です。ここでトトが意識を取り戻します。「い……ってぇ……。あ、アンジュ、さん……」
アンジュ:「トト君! 身体の方は何ともない? 痛みとか、変な感じとか……」
ブレイク:そういえばトトいたわ。
レダ:忘れるのが早い。
GM:「それはないです。……すみません、俺、なんの役にも立たなくて……」
アンジュ:「ううん。トト君が無事なだけで、私は嬉しいよ」
GM:トト君は顔を真っ赤にして視線をアンジュから逸らしますね。そしてレダとブレイクがいることに気付きます。「あ、ち、ちがっ! これは何でもないんです!」とかいってアンジュの腕の中から離れて飛び起きてますよ。
ブレイク:「君、誰?」って言っておくか。ぶっちゃけトトがアンジュにどんな感情を抱いていようが興味ないからな。キャラクター的に。
レダ:私も今はそれどころじゃないからなあ……。すまん。
GM:おかしい。なんでこの卓は女性キャラが少ないのにヒロインの取り合いが起こらないんでしょうか。
アンジュ:仕方ないねー。
GM:「あ、俺はトトっていいます。アンジュ先輩はその、俺の先輩ってだけで……それ以上のことは何も……!」
レダ:「先輩? じゃあ貴方はUGNの人?」
GM:「あっ……」口を抑えています。
ブレイク:「ああ、じゃあ丁度いいや。さっきの奴、FHなんだって。調べてくれない?」
GM:「えっ、ルーサーのことを、ですか? でも俺、そんなに詳しくなくて……」
ブレイク:「だから調べてって頼んでるんだけど。UGNの支部局にならFH連中の情報、あるでしょ。後は【双子】とか呼ばれてる奴のこともよろしく」
GM:トト君はアンジュに助けを求めるように視線で合図を送ってきています。
アンジュ:トト君としてはブレイクに情報を流すなんてとんでもない! って思ってるわけか。
レダ:ついでにいえば私にも流したくないだろうね。私がブレイクとよくつるんでいるオーヴァードってことはUGNだって掴んでるだろうし。
GM:そのようです。
アンジュ:へいGM。これは私も一緒に支部局に戻って調べることって出来る? 結構な大事だよね、これ。一般人がFHに誘拐されたわけだし。
GM:可能ですよー。……えっと、上司に報告するってことでいいですかね? それで全面的にUGNに動いてもらうという感じで。
アンジュ:ん? うん、断る理由、ないけど。
レダ:……それ、まずくない? ブレイクは一人でもウラネとミルのことを探すよね。もちろん、私もなんだけど。
ブレイク:……あー、そうか。目的地は同じだから、最後は共闘って形になる。その方が楽といえば楽なんだが、そんなことしたら当然他の組織は“俺がUGNに加担した”って見るよな。
アンジュ:ふぁーーーー。
GM:それも相手にするのはFHですね。
レダ:後戻りはできなくなるな。
ブレイク:UGN加入ルートかー? 俺としてはどこにも属さないスタンスを崩すのはなあ。監視役を許諾した時点で今更と言えば今更なんだが。あー、待てよ。これは最悪俺が軟禁なり封印エンドもあり得そうなんだが?
アンジュ:そこまで行く!?
レダ:今回誘拐された二人はブレイクに近い人間だった。……つまり、ブレイクの傍にいる人間には自然と危険が付きまとうと判断されてしまえば、雲行きは怪しいな。少なくとも、二度とアンジュが一人でブレイクの監視役をすることは出来ないだろうね。
ブレイク:しかも俺、RBだからな。人間として扱われるかも分からんぞ。GM、上司に報告せず支部局の機材を使って情報だけ抜くことは?
GM:もちろん、相応の判定に成功すれば情報は得られますよ。
アンジュ:失敗したらバレるんですね? 分かりますが、分かりたくありません!
レダ:素直にトトを使えってことじゃないかな。彼が調べるだけならただFHのことを探ってるだけで、なんでそんなことをするのかという部分はばれない。トト自身は私たちとのつながりは一切ないからね。最悪FHのスパイって思われて大変な目には合いそうだけど。
アンジュ:一気にトト君が不憫になった。
ブレイク:アンジュ、出番だぞ。
アンジュ:仕方ないなあ。私としてもウラネとミルは助けたいし、トト君に頼もう。「トト君、お願い。私、司書になってまだ二日だけど、とっても良くしてくれた人たちなの。二人を助けるために協力してくれないかな?」
GM:「……分かりました。先輩がそこまでいうなら、俺、やってみます!」と言って支部局に走っていくよ。トト君はこれでシーン退場。ちなみに彼はまだまだ新人なので、上司に報告をしたりとかっていう融通が利かないから、一人で調べて持ってくるよ。
レダ:今はそっちの方が助かる。
GM:さて……。三人、どうします? ようやっと落ち着き始めましたけど。
アンジュ:気まずい。
レダ:私は自責の念に駆られて忙しい。
ブレイク:今はどうやってウラネとミルを探すかってことしか考えてないな。
GM:バラッバラですね……。
アンジュ:うう、気まずいけど声をかけるの私しかいないよー……。これ何言えばいいのー? うーん、もう一回謝る感じでいいかな。二人に向けて言うよ。「あの……本当に、すみません。私、UGNのエージェントなのに、ウラネさんとミルさんのことを守れず……」
ブレイク:「別に、アンジュのせいじゃないよ」
レダ:「……ブレイクの言うとおりだ。もう一度言うが、全ては現場にいなかった私に責がある。どうか、気にしないで」
アンジュ:「でも……」
ブレイク:「それも違うと思うけど」
レダ:「なんだと?」
ブレイク:「そういう話をするなら俺を責めるべきだよ。あいつら、俺のこと探してきてたんだから。それで俺がいなかったから代わりにウラネとミルを連れて行った」
レダ:「…………そう思うのなら、何故己を責めない」
ブレイク:「──確かに、一理あるな。俺は己を責めるべきだ」

 意外だった。
 ブレイクならば「誰のせいでもない。強いて言うなら自分勝手な理由で俺の元にやってきて、癇癪を起こした子どもが他の人に八つ当たりをしているだけだ」ぐらいのことを言うと考えていたから、まさか納得するとは思いもよらなかった。

レダ:「認めるのか?」
ブレイク:「俺は好きでこの力を得たわけじゃない。だが稀少かつ強大な力を多く有しているのは紛れもない事実だ。だから責任が生まれる。望んでなくてもね」
アンジュ:「それこそ、ブレイクさんのせいでは……」
ブレイク:「力を有していることは俺のせいじゃないよ。だけど、この力で起きた出来事に関しては責任を取らなきゃ」

 それが力を持つ者の責務だとブレイクは言う。
 望んで手に入れた力じゃない? だからなんだ。そこに力がある以上、必ず何かは起こる。自分が望もうが、望むまいが。
 ならば持っている力を自分の望むものに変え、それを使って責を果たして見せろとブレイクは力強く言った。

ブレイク:「俺はこの力が狙われていることを知っている。知っててウラネやミル、レダやアンジュと関わって来た。だから今回のことは、俺のせいだよ」
レダ:「そうだと分かってて私たちと関わろうと、何故思えるんだ」
ブレイク:「力によって引き起こされる事象は俺の望むものばかりではない。でも、自分が持っている力は自分の思うように使える。例えば、俺の望んでいない事象を俺の望むどおりの形に変えるために、とかね」

 ふっと、いつもの笑みを浮かべるブレイクの言葉に、レダもアンジュも不思議と納得していた。
 そんなブレイクの姿を見て、二人は感じるだろう。
 彼はRBであるが故に人としての感覚が乏しい部分がある。特に、過去というものに対しての考えは想像を絶するほどに苛烈だ。
 同時に、彼はこれだけ強大な力を持ちながら何百年も生き続けている。
 数多の出会いと別れを繰り返し、己の力によって知り合いを失ったこともあるのだろう。本人は口にしないが、そういったことがあっただろうことを想像するのは容易い。それでもブレイクは人と関わりを持ち、今を生きる人間と同じ土俵で歩いている。

GM:……まさか、ブレイクからこのような言葉が来るとは。
ブレイク:何百年も生きてるんだ。これぐらいは悟っている。
レダ:もっと淡泊で周りの人の気持ちが分からん奴だとばかり……。
ブレイク:分からなかったら人と関わったりせず一人で自由に生きてるさ。
アンジュ:えー、かっこいいー。
GM:ふむ、初めてブレイクが歩み寄ってくる姿を見たわけですけども。
レダ:「……怖くは、ないのか」
ブレイク:「己のせいで誰かが死ぬことを怖いと思わないのか、って意味かな」
レダ:静かに頷く。
アンジュ:「それは……私も知りたい。いくら自分の力を信じていても、やっぱり誰かがそれに巻き込まれて、結果助けられないんじゃないかって。そうは考えないのですか?」
ブレイク:「俺はその感覚が分からないんだ。なんだろうね、上手く言えないんだけど」
レダ:「大切だとは思うのに、それがなくなることへの恐怖がない? 誰かがいなくなったら悲しいだろう?」
ブレイク:「……悲しい? 誰かがいなくなると、悲しい? ──それは今、ウラネやミルがいなくなって俺が感じている、言い表せない感覚のことか? こう、胸のあたりがざわつくような」
アンジュ:「もしかして……悲しいって気持ちが、分からないんですか?」
ブレイク:「時折、言い表せない何かに襲われることはあった。確かにそれはいつも、知り合いがいなくなった時だ。最初の頃は暇な時間が増える程度にしか感じなかったのが、何時の頃からか胸のあたりがざわつくのを覚えるようになって──ああ、人はこれを悲しいというのか」

 そっとブレイクが瞳を伏せる。すると両目から一粒ずつ、涙が零れ落ちていく。

ブレイク:「レダはあの日の事件のことを、今も悲しいと思ってる?」
レダ:「言うに及ばず」
ブレイク:「そうか、人は悲しいから過去に囚われるのか。……ちょっと、分かるな。これだけの胸の痛みだ。人が足を止めてしまうのも仕方ないのかもね」
レダ:「ブレイク……」
ブレイク:「昨日は悪かったね。そこまで分かってやれなくて。過去に囚われることには今も賛同出来ないけど、悲しくて立ち止まってしまう気持ちなら……うん。分かってやれそうだ」
レダ:「……いや、もういいんだ。私も命は自分のために使うものだと言う言葉には、歩み寄れた。ただ、今の私はそれが出来ない。だから拒絶してしまった。私の方こそ、申し訳なかった」
GM:ここでEロイス≪歪んだ囁き≫の効果が切れます。レダの持っている放火犯への感情を元に戻してもらって構いませんよ。
レダ:関係が修復できたからか?
GM:レダの心情に大きな変化が起きたから、ですね。
レダ:……GM、この放火犯へのロイスをそのままタイタスへと昇華したい。いいかな?
GM:おお、そこまで行きますか。問題ないですよ。
レダ:犯人のことを許したわけではないが、少なくとも今はそいつに意識を向けている場合じゃないから。
アンジュ:一歩前進、かな。
GM:レダとブレイクが元の関係に戻ったところで一度切りますね。

 Middle 04 Scene Player ──── アンジュ

 二人の仲が戻った。とてもめでたいことだ。
 一方で、アンジュはまだ二人への言いしれない不安がなくなったわけではない。

GM:シーンは先ほどの続きから。……アンジュ。
アンジュ:はい?
GM:二人は仲直りしました。
アンジュ:うん。
GM:でも貴女は今回のことでさらに感じますよね、疎外感を。
アンジュ;……うん。実はさっきの会話で、二人がどうして前回のような苛烈な行為をしたかっていう理由は見えたんだよ。レダは過去に何か悲しい思いをしたんだって分かるし、ブレイクもRBだから感情とかがよく分かっていないんだって。だから、前回のような行動がとれるんだと。
GM:しかし、それとアンジュが二人の輪に入れないのは全くの別問題です。
アンジュ:私が二人に対して壁を作っているのが原因かとも思ったけど、それだけじゃないって感じるよね。……付き合いの長さとか、そもそも私のことを見てくれようとしているのかとか。
ブレイク:俺としてはアンジュに興味はあるが、それが伝わるような行動をしているかと言われると微妙だな。それに俺とレダは数年の付き合いがあるが、アンジュとは二年ぶりに再会して数日だ。流石に比重が違いすぎる。
レダ:そこは私も同じだ。アンジュのことは見守っていきたいと思うけど、自分にはまだそこまでの余裕がない。
アンジュ:うん。だからね、こう思ったの。私、焦ってるんだって。

 二人の関係を羨ましく思った。
 どこか歪んでいるという見解は変わらないにしても、基本的に二人は信頼し合っている。どうやらアンジュが帰った後に大きな衝突があったようだが、それでも二人は元の関係に戻った。
 自分もその輪に入りたかった。
 アンジュにとって二人は命の恩人だから、そんな彼らに認められたいと心の奥底で求めていた。一方的に。

アンジュ:ブレイクのことも、レダのことも。二人を知るには相当に長い年月が必要だって分かった。だって、同じ人間同士でも本当に分かり合うことは出来ないって言われるぐらい、難しいことなんだもん。ブレイクとは種族も違うから、なおさらだよ。だから、昨日のことを考えるのを今はやめる。今は、みんなで力を合わせてウラネとミルを取り戻さないと。
GM:前に進みだしたアンジュなら、その答えにも辿り着けるでしょう。
ブレイク:「もう話はいいよね。ウラネとミルの居場所を突き止めないと」
レダ:「そうだね。しかし、実際どう動く? 悔しいが、頼みの綱は先ほどの少年が調べ終えた情報を持ってくるのを待つことだけだ」
アンジュ:「……あの!」

 自分は昔のような明るさを取り戻した。そして前に進み始めていると感じていたが、それは違った。
 進んでいるんじゃなくて、周りが受け入れてくれただけなんだ。
 自分はいまだに蚊帳の外だ。それを理解したからこそ、自分から入っていかないとダメだとアンジュは二人に声をかける。
 二人のことを知って、二人のために力を使いたいと思うなら、自分から一歩を踏み出さないと──。

アンジュ:「ウラネさんとミルさんを助けるの、私にも手伝わせてください! 必ず、お役に立ちます!」
レダ:「アンジュ?」
アンジュ:「実は私、今日でブレイクさんの監視役を降りることになったんです。その、昨日のことを報告したら、ブレイクさんは危険だから一人で監視するのはやめろって……」
ブレイク:「妥当な見解だと思うけど、それがウラネとミルを助けることに何か関係が?」
アンジュ:「……私は明日で、部外者になります。でも、ウラネさんとミルさんを助けたいと思っているのは私の本心です。UGNだからとか関係なく、私が二人を助けたいんです。知り合ってまだまだですけど、皆さん私に優しくしてくれたから、だから──」
レダ:「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ」
ブレイク:「何を言いだすかと思えば。元から頭数に入れてるから、働いてもらうよ。最悪の状況になったら俺が一人でやるけど、手はあって困らない」
レダ:「何を言う。二人は私の部下だぞ。私が行かなくてどうする」
アンジュ:「あっ、えっと……私もついていきます!」
ブレイク:「君たちは俺の言うことを聞かないよね。……だから気にいって傍にいるんだけど」
レダ:「私はブレイクのことを特別な存在だとか言って持てはやす気はないからね。だけどアンジュ、貴女はまだ若いのだから、決して無理をしてはいけないよ? 危なくなる前に誰でもいいから頼るんだ」
アンジュ:「それはお互い様です。でもお二人もすぐに自分を犠牲にするところは、いけないって思います!」
ブレイク:「君、本来はそんな性格なんだね。面白いと思うよ。幼稚だけど」
アンジュ:「一言余計です!」

 想いが重なったことで初めてまとまりを見せた三人はようやく共に進みだす。
 危険な思想を見せていた【双子】と呼ばれる子どもたちからウラネをミルを助けるために。