過去の在り方

 Ending 01 Scene Player ──── ブレイク

 戦い終えたブレイクは大したことではなかったと言わんばかりの態度で髪をなびかせている。

ブレイク:「宇宙のゴミになったのは奴らの方だったね」
アンジュ:「……これで、良かったんですよね」
ブレイク:「ジャームは人に戻れない。悠久の時から定められた事象だ。これだけが覆らないよ。どれだけ時代が改変しようとも」

 人を……いや、かつては人だったものを討った。この事実は確かにアンジュの心に重くのしかかる。それでも助けたい命があって、絶対に必要な行為であったというのも確かであった。
 何より、ジャームを放っておけば他の人がたくさん苦しむ可能性が極めて高い。好戦的な人物であったならそれは尚更だ。
 だからこれは、必要な行為であったとアンジュは自分に言い聞かせる。これからも前に進むために。

レダ:「ウラネはもう自宅に帰ってしまったかな」
アンジュ:「私、一応メモ紙を残して来たんです。なのでまだ図書館で待ってくれているかも」
ブレイク:「そうなんだ? じゃあ迎えに行こうか。全部終わったって教えてあげるためにも」

 月夜に照らされた影が小さく動くと空間が歪み、ゲートが開かれる。

レダ:「ウラネのことは二人に任せてもいい? 本当は私も顔を出すべきなんだけど……」
ブレイク:「君が一番ボロボロだし、今の状態で会ったらウラネはまたびっくりして気絶してしまいそうだ」

 ブレイクに言われてレダは自身の体と二人とを見比べ、確かにそのとおりだと苦笑した。
 先の戦いでブレイクはほとんど傷を負っていないし、アンジュに至っては彼女の持つシンドロームの影響で元気にしているほどだ。比べて自分はお世辞にも綺麗とは言えない。この姿をウラネに見せえてはまた心配事を増やしてしまうだろう。

アンジュ:「ウラネさんのことは任せてください。きちんと自宅にまで送りますから」
レダ:「うん。お願いしようかな」

 ウラネのことを任せたレダは雷の翼で空を駆けていく。行き先は方角から見て病院だろう。
 レダを見送った二人もゲートを通って図書館前に姿を出せば、図書館はまだ電気がついていた。

アンジュ:「ウラネさん、いますか?」
GM:「あっ……! メモがあったから待っていたのよ。二人とも何処に行っていたの? レダさんは? それにミルも……」
ブレイク:「ミルは病院で寝てる。手術も無事成功したって。それと、レダはミルの見舞いに行ったよ。明日にすればいいのに、せっかちだよね」
GM:「そう。私、気を失ってばかりであまり、覚えていないのだけど……」
アンジュ:「大丈夫ですよ。全部終わりましたから」
GM:「終わった? 全部?」

 何がと問う前にウラネは自分の両手の甲を見て息を呑む。
 あれだけ何をしても取れなかった不気味な文様がきれいさっぱりなくなっていてからだ。そして、アンジュたちがこれをどうにかしてくれたのだと、何となく理解出来た。

ブレイク:「今回は俺のせいで怖い思いをさせてしまった。だから元の生活に戻れる手配をしておく。数日の間は思い出してしまうだろうが、もう少しだけ辛抱して」
GM:「手配って、何をするの? ……分からないわ。私には、今回起きたことが何一つ分からない」
ブレイク:「分からなくていい。全ては夢だから」
GM:「バカ言わないでっ! ミルがあんなに痛がっていたことがっ……私があんなに怖い思いをしたことがっ……夢なわけ、ないじゃない!!!」
ブレイク:「夢になるんだ。今日のことは全て夢。君を苦しめた奴らと同じ力を持っていれば、夢に出来るんだよ」
アンジュ:「ブレイクさん……」
GM:「忘れることが、幸せだって思ってるの? ……ブレイク、貴方はいつも一方的だわ」
ブレイク:「覚えていて幸せになれる記憶ではないだろう? それに、ウラネが過去に囚われて足を止めてしまうことを俺は望んでいない」
GM:「私のことを思っての発言をしているつもり? だったら大間違いよ。ブレイク、本当に相手を想うのなら歩み寄らなくてはいけないわ。一方的な言葉には誰も耳を傾けない」
ブレイク:「はぁ。なんでこうもみんな頑固なんだ? 誰も俺の言うことを聞かない。……だから傍にいてもいいかって思えるんだけど」
アンジュ:「ウラネさん。今回のことは私の方からもお話があるんです。私というか、ある組織というか……」
GM:「アンジュもブレイクと同じ立場の人間なのね? だから、よく分からない黒い扉みたいなのに躊躇いなく入っていけたの?」
アンジュ:「あ、はい。それに、あの……本当は私、司書になったのも別の仕事のためだったんです。その仕事も今日付けで終わっちゃったんですけど」
GM:「どういうこと? ……いえ、とにかく、私の知らないことがたくさんあるのね」
アンジュ:「はい。今からは流石に遅いので後日また、きちんと説明します。それを聞いて、ブレイクさんの言ったことが分かった時は今回のことを忘れるという選択肢も視野に入れることが出来ると思うんです」
GM:「そうね。知らないから私も拒むことしか出来ない。……分かるかしら、ブレイク。こうして歩み寄ってくれれば私も話を聞こうと思えるのよ」
ブレイク:「分かった、分かったよ。全く、あんなことを経験したというのに元気だな。ミルに同情するよ」
GM:「ミルは関係ないでしょ。……今日は、送っていってくれるのよね」
ブレイク:「言うに及ばず。アンジュはどうする?」
アンジュ:「私もご一緒します。もし不安でしたら今日一日、外で張り込みしますけど」
GM:「そんなことまで頼まないわよ。頼むにしても、やらせるならブレイクにするわ」
ブレイク:「俺をそんな風に扱うのはウラネだけだよ。ミルを抱えていた時はわんわん泣いていたのに、今じゃ見る影もないな」
GM:「次そのことを掘り返したらレダさんに言って左遷してもらうわ」

 ウラネが強がっているというのは分かっている。それでも彼女は必死に前を見るために己を鼓舞している。
 そんな姿を見てられてはブレイクも、アンジュも、今回の件を本人の意向を無視して記憶操作をしようなどとは思えなかった。
 もしも記憶操作をするとしても、ウラネ自身がそれを望んだ時にしようと思ったのだ。同時に、彼女がどちらの選択をしても自分たちの立ち位置を間違えないようにと己を律するのであった。

 Ending 02 Scene Player ──── レダ

 雷神の生まれ変わりだと見紛ってしまうような綺麗な翼を背に夜空を飛んでいく。
 レダが翼を止めたのは小さな病棟の一室。締め切られたカーテンの奥をそっと眺めた。
「…………」
 誰もいないと錯覚するほどに静かだが、それこそがミルの寝ている証だとレダは安堵し、ゆっくりと降下し始める。
 その時、カーテンの奥に人影が出来た。まさかと思い降下する翼の動きを止めれば窓が開く。
「約束、守りに来てくれたんですね」
「──ああ。でも、少し時間を考えるべきだった」
「確かに、レダさんらしくない」
 困ったように二人で笑い、招かれるように開かれた窓にレダが体を滑り込ませる。ミルが怪我をしている足を引きづり、窓を開けたようだ。病室はミルを入院させた時を変わる事無く、今も貸しきりのようだった。
 とにかくミルをベッドにまで手を貸した後、レダは近くに立てかけてあるパイプ椅子に座る。
「さて、何から話したものか。私やブレイクの正体、と言っては大げさだな。それよりも何故こんなことになったのかを説明した方が……」
「何からでも。全部を理解出来るわけじゃないってのは感じてるんで」
 どこか達観しているともいえるミルの様子に戸惑いながらもレダは話し始める。自分やブレイクがどういった存在であるのか。またブレイクの特異性と、それによって今回のような事件が起きたことがあることも伝える。
「私もブレイクが知り合ってまだ三年ほどだけど、過去にも二度あった。その時は全てブレイクが一人で追い払ってしまったけどね。相手もブレイクの周りにいる人間に手を出すようなこともなかった」
「あくまでもブレイクだけを狙ったことだったと。……しかし、今回は司書のみんなが巻き込まれた」
「そういうことに、なってしまうな」
「俺、ウラネのことばかり気にかけてましたけど、アンジュの方は? あいつなんて司書になって二日でこんなことが起きて……流石に不憫で」
「アンジュのことなら心配ないよ。ブレイクが助けたようだったし、なにより彼女自身も私と同じ側の人間だから」
「それ、本当ですか?」
「人は見かけによらないだろう? 何なら、彼女はブレイクの監視役として司書になった。……いわば、スパイだね」
「あいつが……? あの、右も左も分かりませんって顔をしてたアンジュが? はあ……ほんと、何を信じていいのか分からなくなってきますよ」
 ベッドの上に座っていたミルは体を倒して仰向けになる。レダに説明されたことのいくつかを呟いては、やはり理解出来ないと言って首を左右に振り、天に向けて喋り始めた。
「俺から話してくれって言ったのに、結局理解出来なくてすみません」
「良いんだ。それが人であることの証明にもなる」
「人か。……あの場面で俺がレダさんと同じ力を持っていれば、ウラネにあんな思いをさせなくて済んだでしょうか」
「答えは否だよ。何も知らない状態で力を見るから人は恐怖するんだ。誰が持っているかは関係ない」
「そう、ですね。だけど、その力は人を守れる。違いますか?」
「それも否だ。守っているように見せかけているに過ぎないんだよ、この力は。これは人を傷つけることにしか出来ない。決して誰かを幸せにすることはない」
 レダの悲痛な面持ちにミルは瞳を伏せ、すみませんと謝った。
「俺にもレダさんと同じ力があれば、ウラネだけじゃなくて司書の皆を守れると思ったんですけど、そう上手くはいかないか」
「残念ながら。……また明日、見舞いに来るよ。図書館はしばらく休館だから、ゆっくり体を休めて」
「滅多に人も来ないような小さな図書館です。少し休みを貰ったっていいでしょ」
「それは言わないお約束だ。……それと、今回のことについて忘れたいとミルが望むのなら忘れることも出来る。その傷も綺麗に治すことが出来る。望むなら手配をするよ」
「……考えておきます」
 おやすみと互いに声をかけ合い、レダは最初と同じように雷の翼を広げて夜空を飛んでいく。ミルはそれを視線で追うことなく、静かにベッドで横になっていた。

 Ending 03 Scene Player ──── アンジュ

 FH構成員であった【敗者】及び【双子】に襲われた翌日。アンジュは朝一で自分が所属するUGNの支部局に顔を出し、局長に全容を報告。それにより、現在はミルが入院している病院へ局長と共に足を運んでいた。
「失礼いたします」
 落ち着いた声色で病室に入る局長に続いてアンジュも入っていくと、朝早いというのにミルの傍には見舞いに来たウラネとレダの姿があった。

GM:「急な訪問をどうか許して頂きたい。私はUGN支部局長を務めるアルフレッドという。アンジュの上司だ」
アンジュ:「おはようございます。みなさん、早いですね」
レダ:「おはよう、アンジュ。まあ、昨日の今日だから、心配でね」

 図書館は昨日もレダが言っていたがしばらくの間休館ということになった。ミルの怪我に加え、現在のウラネの精神状態は正常だとは言い難い。そして司書がいきなり二人も抜けてしまえば、流石に図書館を運営するのには人材が足りず厳しいということで、レダが休館することを決定した。

GM:「……俺はミル、こっちはウラネ。後そちらが図書館長のレダさん」
レダ:「初めまして、レダと申します。……私のことについても、調べはついていると思いますが、一応」
GM:「ええ、失礼ながらアンジュだけでなく他の者からも報告は受けています。三年ほど前からブレイクの傍にいる重要参考人の一人として」
レダ:「そういった評価か。いや、納得はできる。……話を続けましょう。今回こちらにわざわざ局長自ら出向いてくださったのは、ミルとウラネへの対処、ということでよろしいですか?」
GM:「対処……? 何を、するの?」と怯えるウラネの手をミルが握ります。
レダ:私も大丈夫だと笑いかけて、ウラネの前に立つように場所を変えよう。
GM:「ご安心ください。私たちはあなた方の味方だ」と言って局長は大まかにレネゲイドウイルスやオーヴァードという存在の説明をする。もちろんこれを全て理解出来ることはないのだけど、ミルは昨日レダから聞いているし、ウラネ自身も夢ではないとしっかり認識しているから、不思議パワーがあるんだ、ぐらいの理解は示す。
「そして彼女、アンジュは我々の一員であり、ブレイクの監視役を昨日まで遂行していたエージェントだ」
アンジュ:「皆さんを騙していたこと、深くお詫びします」
GM:「そして、我々はあなた達のようなレネゲイド関連の事件に巻き込まれてしまった人が日常を取り戻すための手伝いをさせて頂いております」という局長の言葉に、ウラネが「それが、記憶を消してなかったことにすることなの?」と言います。局長は知っていましたかと言ってから頷くよ。
レダ:「ミルの傷についても、綺麗に治せるよね」
GM:「可能です。傷跡一つ残さないことを約束します」
レダ:「……私は、二人には今回のことを忘れてほしいと思う。覚えていてもどうしようもないことだ」
GM:「嫌です。いくらレダさんの願いでも、それを聞くことは出来ない」とミルはすぐに断ってきます。ウラネは迷っていますね。
アンジュ:「ここ数日のことを全て忘れてしまうわけではありません。レネゲイド関連のことだけを消すだけです」
GM:「だから嫌だって。何だよ、都合よく嫌なことだけ忘れるって。そんなの生きてないだろ」
レダ:「ミル……」
GM:「この際だからはっきり言うけど、忘れたい記憶なんて山ほどある。小さい時にバカみたいな悪戯をして友達を怪我させたこととか、何気ないことで大喧嘩して両親とそのまま疎遠になったこととか、忘れたいことはいっぱいあるんだよ。でも、それを忘れてしまったら俺はただの屑野郎だ。もう二度と同じことを繰り返さないようにって今を必死に生きていこうとすら思えなくなる」
アンジュ:「それ、は……」
GM:「それに、レダさんたちは今回のことを覚えたままいるんだろ?」
GM:「……オーヴァードには施せない処置ですので、そういうことにはなります」
GM:「だったら、私も嫌。私とミルだけ忘れて、レダさんやブレイク、それにアンジュは覚えているんでしょう? それでよそよそしく接されるようになったら、絶対に嫌よ」
アンジュ:「でも、また怖い思いをするかも……」

「それは俺が傍にいる限りなくならないよ」
 病室の扉が開き、声が入ってくる。いつものペースで、自分の思うがままに、影が滑るようにブレイクの足をミルたちの傍にまで運んでいく。

ブレイク:「君、誰?」
GM:「UGN支部局長アルフレッドと。こうして顔を合わせること自体は初めてですね、“古代の影”よ」
ブレイク:「よく君の組織の連中には追い回されてるよ。ああ、だけどアンジュを監視役にしてくれたことは感謝してる。彼女、面白いんだよ。幼稚だけど」
アンジュ:「一言余計です!」
GM:「彼女の仕事は昨日で終了した」
ブレイク:「らしいね。まあ、アンジュの話は後にしよう。やあ、ウラネ、ミル。思ったより元気そうでよかった。それで、君たちの決意は決まった? 俺はどっちでもいいよ。忘れても、覚えていても」
GM:「忘れることを選んだらブレイクはどうする?」とミルが問う。
ブレイク:「一緒に俺のことを消してもらうよ」
アンジュ:「えっ!?」
レダ:「ブレイク、どういうつもり?」
ブレイク:「さっきも言ったけど、俺が傍に居る限り同じことは起こる。二人が覚えているかは重要じゃない」
GM:「そのとおりだ。貴方は誰かと関わるだけで、その力によって人を巻きこんでしまう。だからこそ、我々に保護されるべきだ」
ブレイク:「その話も後にしてくれ。ミルは昨日、レダから話を聞いたんだよね。俺のことも話した?」
レダ:「一応のことは」
GM:「何のこと? 私がまだ知らないことがあるの?」ウラネはちょっと怒ってる。
ブレイク:「俺は人じゃない。こう見えて何百年も生きてるんだ。だからみんな、俺のことを珍しがってね。この力が欲しいんだって」

 わざと大きく影を動かして地面から影の拳を突き上げれば、アルフレッドの表情が険しくなった。ウラネも少し驚いたようで、ミルの手を強く握り返していた。

GM:「貴方の力は強大故に危険だ。軽々しく使わないでいただきたい」
ブレイク:「これは俺の力だ。俺の思うように使う。……で、ウラネ。今怖いと思ったね? 俺の力を」
GM:「……怖いわ。私にそれを向けられたら、って思うと、怖い」
ブレイク:「正しい人間の反応だ。レダはちょっとこの力に慣れすぎだね。アンジュは……んー、俺のことを信用しすぎ。監視対象だったんだし、もっと警戒した方が良い。そしてミル。君も憧憬を持つのはやめておいた方が良い。これは人を殺す力だ。守る力じゃない」
GM:「昨日、レダさんにも同じことを言われた」
ブレイク:「そう。じゃあいいや。それで、まだ覚えていようと思うの? 覚えているという選択肢を取るなら俺は君たちの傍に居続ける。また同じことに巻き込まれることも増えるよ」
GM:「俺とウラネを脅してる? 何を言っても俺は忘れない。どうせ忘れたって、運が悪けりゃ巻き込まれるんだろ? だったら守ってくれる奴がいるだけマシだ」
レダ:「……私は、ミルとウラネの気持ちを尊重する。また何かあったら、私がどうにかする」
GM:「レダさん、ありがとう。……ウラネは忘れてもいい。これは俺のわがままだし、付き合わなくていい」
ブレイク:「怖いと思っているなら忘れた方が良い。もっと怖い目に合うよ」
GM:「それで私だけがブレイクのことを忘れるの? 冗談言わないで。……昨日も言ったでしょう? それは一方的よ」
アンジュ:「お二人とも、本当に覚えているつもりですか? その、私としては忘れても、良いと思います、けど……」
GM:「ありがとう。……そうだわ、アンジュに聞きたいことがあるの。アンジュは忘れたいと思うような記憶はないの?」
アンジュ:「……ありますよ。この力を発現してしまった日のことは今でも大嫌いで、忘れてしまいたいって思っています。でも、私はその日にレダさんとブレイクさんに出会って、助けてもらった。……大切な思い出でもあります」
GM:「アンジュも、助けられたことがあるのね。……私も同じ。すごく怖くて、忘れてしまいたいって思う。でも、レダさんやアンジュ、それに不愛想だと思ってたブレイクが私やミルのために手を尽くしてくれて、そして本当に救ってくれたことは大切な思い出。忘れてしまいたくない。……記憶を消してしまえば、この想いでも消えてしまうのよね」
GM:「……そうなります。レネゲイド関連の記憶ですから、そこだけを残すことは出来ない」と局長は素直に言うよ。恐らくこれ以上の問答は無駄だろうということも悟っている。
レダ:「真実を話せば忘れたがるって思っていたんだけど。見通しが甘かったかな」
GM:「では、覚えているとして、どうするつもりかまではお考えか?」と局長は別の切り口で来る。レネゲイドのことを覚えていたところで、結局力を持たない人間に何かすることは出来ない。そして忘れなければブレイクは傍にいるという。それは危険に何度も巻き込まれるということだと。
ブレイク:「そこはアンジュに任せるよ」
アンジュ:「私、ですか?」
ブレイク:「君たちが望むのは人類とオーヴァードの共存じゃなかったっけ。だったらこれは良い機会じゃないか。人間の理解者が増えるんだから」
GM:「そんな簡単な話では──」
ブレイク:「簡単だよ。何よりも君が証明している。この地域を担当している支部局長はただの人間なのだからね」
レダ:「一般人? ああ、それを調べていたから来るのが遅かったのか」
ブレイク:「遅れたことは詫びるよ。さて、話はまとまったね。ウラネとミルは記憶を消さない。だから俺も今後とも司書として働く。オーヴァードに良き理解を示してくれた一般人を守ることと、そんな一般人を巻き込もうとしている俺には何か講じなくてはならない。……そう。監視役をつけるとかね」
GM:「そちらが監視役をつけることを認めてくれるのはこちらとしてもありがたい。ただし、目を向けるべき対象が増えるのだ。こちらからは最低でも3人以上を監視役につかせたい」
ブレイク:「必要ない。一人で十分だ。俺が居ることによって生じる害意は全て俺が片付ける。無論、ウラネとミルには二度と今回のようなことに巻き込ませない。これでもまだ監視役は3人だなんてのたまう?」
レダ:「私もUGNの一員ではないですが、ウラネとミルを守るために力を使うことを躊躇うことはありません。もちろんこれはブレイクのためにも、そしてアンジュのためにも使います」
アンジュ:「でも、もう私はみなさんと一緒に司書として働くことは……」
ブレイク:「俺の監視役に認めるのはこれからもアンジュだけだよ。他は認めない。他をつけるなら全部帰ってもらうよ」
GM:「そのような条件は呑めない。事実、アンジュは一人で監視役をしていたことで今回のような危険な状況にその身を晒すことになったのだ」

「──勘違いするなよ。俺は交渉してるんじゃない。俺の提案を受け入れるかどうかを聞いているだけだ」
 脅しなどではない。本気でブレイクは提案を受け入れないのであれば今すぐ帰れという圧をかけている。これにアルフレッドは唇を噛みしめた後、アンジュに確認を取る。
「…………アンジュ。君はこれだけ危険な男をこれからも変わらず、一人で監視することが出来るだろうか」
「任せてください。ブレイクさんは良くも悪くも私には協力的です。それを利用するのは、悪手ではないはずです」

GM:「……提案を受け入れよう。今後とも、アンジュのみが貴方の監視役につく」
ブレイク:「それでいい。さあ、話は終わりだ。……ミル、俺は帰るよ。大勢でいつまでも病室にいるのも迷惑だからね」
GM:「アンジュ。我々も帰ろう」
アンジュ:「はい。ミルさん、またお見舞いに来ますね。それと、司書としてこれからもよろしくお願いします。ウラネさんも、レダさんも、よろしくお願いします」
GM:「ええ。遅れを取り戻さないといけないもの」
レダ:「待っているよ、アンジュ」

 アルフレッドは今回の決断を自分も尊重しますと頭を深々と下げ、ミルとウラネに挨拶をしてアンジュと共に支部局へと帰っていく。その時、渡り廊下でアンジュにだけ聞こえるようにこう言った。
「UGNが何年もかけて交渉し続け、それでも一度として首を縦に振らなかったほどの人物だ。もっと苛烈で唯我独尊だと思っていたが、そこまでではなかったことに少しほっとしている」
「そう、ですか? かなり局長の立場は危うかったと思うのですけど……」
「確かに、アンジュがいなければ交渉のテーブルに立つことすら許されなかったのは事実だ。しかし、言い換えればこちらにはアンジュという切り札があった。ブレイクはどうも君のことを相当に気に入っている様子だから、それを使わない手は無かった。……すまないね」
「大丈夫です。もっとブレイクさんやレダさんには返さないといけない恩がありますから、このまま監視役をさせて頂けるのは正直、ありがたいです」
「良くも悪くも利害が一致した形にはなったわけか。……しかし、深入りはしすぎないように。君の過去を考えれば強くは言えんがね」
 困った部下を持ったものだと笑うアルフレッドは歳相応で、それは少し疲れているようにも見える。
「そんなに心配しないで下さい。私も強くなりましたし、御二方とも根は優しい人たちです」
「……心配だ」
 アルフレッドがため息をつく理由など探るまでも無い。
 既にアンジュが深入りしてしまっていることに頭を悩ませながらも、ブレイクの件に関しては彼女に頼らざるを得ない状況にもう一つ、ため息が漏れるのだった。