正当な報復

 Climax 01 Scene Player ──── レダ

 理不尽なことはいつだって唐突にやってくる。
 人為的か、あるいは天災か。どちらにしても、この世から理不尽はなくならない。そしてどう足掻こうとも理不尽には抗えない。
 だから人は報復する。合理的であるかなど、関係なく。

GM:クライマックスです。
レダ:私とビートは一回目に護送車を見つけたところに向かっているんだよね。
GM:はい。そしてビートはハヌマーンですので、その恩恵を受けたレダもいつもの数倍以上の速度で走っています。演出としては≪声援≫によって運動能力が上がった感じ。
ブレイク:ビートはここについた時点で護送車を捉えていたな。レダたちがここに辿り着くまであとどれ位だ?
GM:もう着きましたよ。ということで全員合流です。そしてやってくるのは色のついた車。
レダ:止めるための判定は?
GM:ビートがやりますからありません。手で空気を押しだすような動きをすると突風が吹き、道路を走っていた車たちを吹き飛ばして行きます。そして衝突事故を起こした一車両が遠くで爆発。その爆風に煽られて他の車も急停止したりしています。もちろん、護送車も。そしてビートはその車に近付いていきます。
レダ:ではビートを私が止めて、護送車に向けて攻撃したい。
GM:レダが雷を落とすと護送車は黒焦げになり、そして爆発するでしょう。中にいた人たちは当然、無事ではない。
アンジュ:「レダさん! なんてことを……!」
レダ:「これは私とビートでケリをつけるよ。二人は下がってて」
GM:「あの二人は?」
レダ:「私の友人たちだ。こちらに危害を加えてくることはないだろうから、安心して」
ブレイク:「やはり男を連れてきたか。己の復讐を遂げるための足掛かりにでもするの?」
レダ:「……私を止めるのか?」

 二年前に出会った時はもちろんのこと、前回だって本の中に迷いこんだ時のレダは優しい人だった。不安で押しつぶされそうなアンジュを気遣い、人付き合いの下手なブレイクのフォローをして……。
 そしてブレイクの監視をするため新米司書となったアンジュに、経緯を知っていながらも丁寧に仕事を教えてくれた。二人きりになるとすぐに手を抜くブレイクの不真面目さにだって、本気で怒ったりはしなかった。
 だが、今目の前にいるレダは今までに見せてくれたどの顔もしていない。
 己の復讐を遂げる。その考えを確固たるものにするため、手始めに他者の復讐を遂げようとしている。その邪魔をする者は誰であっても容赦はしないと全身から発せられる殺気が物語っていた。 

ブレイク:「まさか。それで君が前に進めるのなら、いくらだって手伝うよ」
アンジュ:「ブレイクさん! 何言ってるんですか! こんなこと、絶対ダメです!」
ブレイク:「アンジュ。俺は過去に対しての意見には同意したけど、復讐の是非に同意した覚えはないよ」
アンジュ:「そんな……」

 この二人は歪んでいる。
 そのことをアンジュはようやく知った。気付くのが遅くなった原因は自分が二人を妄信しているのが大きな原因だったのだろうが、それだけではない。
 二人自身が互いにどこか歪んでいることを自覚しながら共にいて、その歪みを互いに隠しあっている。だから表面上の付き合いだけでは良い人にしか見えなかった。
 アンジュはこの事実に、大きく動揺した。

GM:爆発した護送車の中から人影がこちらに向かってきます。ドグバです。それを見たビートは憎悪を顔に張り付け、今にも飛びかかりそうな勢いです。
レダ:止めるよ。何が入っているか、知っているから。
GM:さらに歩いて寄ってくるドグバですが、限界に達したのか崩れ落ちます。ここで本の主は≪生体侵入≫を解除。ドグバの身体の中から粘土のような白い植物が這い出てきます。
レダ:「なんだ、ただの人間だったのか。呆気ないな」
GM:「ジャームじゃなかったんだな。だからって許されるわけがねえ」
アンジュ:どっちが悪役か分かんなくなってきた。
ブレイク:まともが不在になってしまった。
GM:これでドグバは死亡です。復讐は遂げられました。
アンジュ:え? 死んじゃったの?
レダ:……まあ、実際の復讐なんて、本当に遂げてしまったらこんなもんなんだろうね。
ブレイク:相手がただの人間で、対してこっちが超人だとな。
レダ:GM,ビートの様子は?
GM:虚無のようなものを感じていますよ。先ほど口にした言葉自体も嘘ではありませんが、やはり呆気ないというか、こんなにあっさり人は死んで終わるんだと。それは罪人であろうと同じなんだと。
アンジュ:オーヴァードになっちゃうとそこら辺の感覚がズレちゃうっていうのもあるんだろうね。
GM:さて、復讐は遂げられましたがあなたたちの前にはまだ本の主がいます。この白い植物に目はありませんが、大きくて歪んでいる口がついています。そこから発せられる声はざらざらしていて不快な音のようです。「ブレイク。あなたを探していた。あなたを知りたい」
ブレイク:「ああ、さっきも聞いたよ。どうして俺の名前を知っている?」
GM:「あなたを探していた。あなたを知りたい」と同じ言葉を繰り返しています。
ブレイク:「話にならないなら興味もない。どちらにしろ、君には消えてもらわないと困るしね」
GM:……では戦闘に入る前に一つ、補足します。
アンジュ:嫌な予感がするー。
GM:まず、レダの行動のお陰でビートは暫定的にあなたたちの仲間となっている状態ですので、NPCとして参加してもらうことが出来ます。シンドロームはハヌマーンピュア。
ブレイク:つっよ。
GM:ただし、戦闘に参加させた場合は当然本の主に狙われることもあります。そしてビートが戦闘不能になった場合、本の中はまた崩壊して再構成が行われます。
レダ:もしかしなくても、7D点ダメージ?
GM:それだけではありません。変則的なシーン変更をするのですが、世界が崩壊した時点でクライマックスフェイズは終了し、ミドルシーンに戻ります。次の番号は8ですね。そしてまた同じことを繰り返してもらって護送車に辿り着いたらクライマックス2として処理を開始します。この時、本の主の体力は全快。ただシナリオ中に回数制限のあるエフェクトの回数は戻りません。
アンジュ:いやいや! 絶対無理だよ! 今の侵蝕率でも結構高めなのに!
ブレイク:ビートが戦闘不能になった時点で何度でも同じことを繰り返させられるのか。
GM:例外として、ビートが戦闘不能になった時点で蘇生エフェクトを使えばシーンは続行します。それか、ビート自身が戦闘不能を無効にする手段を使えば。
レダ:……危険な賭けだな。正直、ビートがジャームなのかどうか、いまだにわかっていない。
ブレイク:ビートを戦闘に参加させなかった場合は?
GM:三人で本の主と戦ってもらいます。この場合はビートが攻撃を受けることはありません。皆さんが全滅した場合のみ、ビートが殺されます。
アンジュ;ある意味で全滅はないけど、帰ることも出来ないってことなのね……。
GM:そしてクライマックスフェイズが3の時にまた本の中が崩壊した時はその時点でバックトラックを行い、エンディングに向かいます。
レダ:間違いなくろくなエンドじゃないな。
アンジュ:どうする……?
ブレイク:賭けだが、参加させて一気にダメージを稼いだ方がいいと俺は思う。正直、俺たちの侵蝕率は全員今の段階で100を超えている。ここから衝動判定に加えてエフェクトの使用も考えていくと、かなり上がるぞ。
レダ:手数は欲しいところだね。この本の主も一体だと限ったわけじゃないところも悩ませる。
アンジュ:そっか、前の本の主はジャームを二体、連れ添ってたんだよね。それに、ミドルシーンに戻った時点で私たちのジャーム化はほぼ確定だし、チャンスはこれしかない。
GM:参加させる、でよろしいですか?
ブレイク:俺はいいぞ。
アンジュ:私も腹をくくったよ!
レダ:じゃあ私から頼もう。「ビート。復讐は終わったけど、最後の片付けも手伝ってくれるかな。こいつはドグバの中から出てきたわけだし、仇の可能性もある」
GM:「ああ、それもそうだな。アビゲイルが死んだときにこいつが入ってたのかは今となっては知る由もないが、どうでもいい。手を貸すぜ」と言ってビートも戦闘の構えを取ります。

第1ラウンド
GM:それでは戦闘開始です。まず、本の主が分裂します。Eロイス≪悪夢の鏡像≫で本の主、ザイクロトルの植物は二体になりました。本当はオリジナルの分身的な立ち位置なのですが、まあ植物ですから分裂もするでしょう。
アンジュ;そんな植物聞いたことないよ!
GM:衝動判定は実はないのでこのまま。改めて、敵は二体。本の主、ザイクロトルの植物がエンゲージしていて、そこから5mほど離れたところにあなたたち四人がいます。ではセットアップですが、本の主は何もなし。ビートは≪限界突破≫を使用。
アンジュ:私はないのでこれからパス。
ブレイク:同じく。
レダ:≪加速装置≫+≪得意領域≫だ。行動値に+8と<RC>判定のダイスに+2個。
GM:行動値はレダの14が最速。次に12のアンジュ、9のザイクロトル二体、8のブレイクとビートですが、NPCなのでビートは最後。ではレダのイニシアチブですがいきなり割り込みますよ。
ブレイク:もう≪加速する刻≫か?
GM:いいえ、こちらです。Eロイス≪闇の呼び声≫を一体目の本の主が使います。ちなみにですが二体目は≪悪夢の鏡像≫で増えている奴なので他のEロイスはないです。さあ、全員どのような状態であっても強制でエンゲージです。
アンジュ:うえー! それめっちゃ困る!
GM:さらにEロイス≪絶対拒絶≫が発動。エンゲージした皆さん、侵蝕率を1D上げてください。
レダ:何かしらの拍子にエンゲージする度侵蝕率を上げてくるのか……!
GM:全員ごりっと上がりましたね。こちらはこれで終了です。改めてレダのマイナーから。

「あなたを探していた。あなたを知りたい」
 この二ことだけを繰り返していた本の主は途端、大きな口を三日月形に変えていった。
「ブレイク。あなたにナリタイ」

レダ:くっ……。ここはそのまま攻撃する。メジャーで≪雨粒の矢≫+≪ミカヅチ≫だ。対象は二体。達成値は30だ。
GM:こちらは二体ともガードを宣言。≪歪みの体≫でガード+9です。
レダ:ダメージは40点。
GM:どちらも都合31点、結構痛いですね……。次はアンジュ。
アンジュ:私はマイナーで≪赫の猟銃≫を作ってメジャーでエンゲージ離脱を宣言。合わせて10m離れたいな。
GM:認めます。では次は本の主のイニシアチブですが、ここでビートが≪スピードフォース≫で行動しましょう。
アンジュ:私の分まで頼むよー。
GM:ビートはマイナーで≪エアロドライブ≫を使用。メジャーで≪疾風迅雷≫+≪神速の鼓動≫+≪浸透撃≫+≪マシラのごとく≫+≪コンセントレイト:ハヌマーン≫です。
ブレイク:ここでもうマシラを切るか。それにしてもつええな。
レダ:流石ハヌマーン。
GM:触れるダイスはなんと一つですが、ドッジもガードも不可に加えてシーン攻撃なので対象は二体。達成値は7としょっぱいですが、当たります。ダメージは47点です。ただここで二体とも≪デモンズウェブ≫を使用し、互いに受けるダメージを3D減少させます。本の主は8点抑えて39点、鏡像の方は7点抑えて40点ダメージ……こいつら出目低くない?
アンジュ:またGMの出目腐ってるじゃん。
GM:だ、大丈夫かなこれ。ビート強くし過ぎたかしら……。まあ、次はこちらの二体が行動しますから、何とかなるでしょう。まず本の主。マイナーで≪骨の銃≫+≪オリジン;プラント≫を使用。メジャーで≪コンセントレイト:エグザイル≫+≪アタックボーナス≫+≪螺旋撃≫+≪異形の祭典≫に加え、Dロイス複製体で取得した≪ライトウェイトモード≫も追加。対象は……あ、ビートが入るって思ってなかったから数が……ええっと、ダイスで決めよう。対象はアンジュ、レダ、ブレイクの三人です。達成値は29。ドッジの場合はダイスペナルティ2個とC値+1を受けてください。
アンジュ:意味ないけどガード。
レダ:リアクションのC値を上げられたら出来ることがない。同じくガード。
ブレイク:≪リフレックス:ウロボロス≫+≪原初のD:完全抗体≫+≪原初の緑;切り払い≫だ。……ダメか、20で止まった。
レダ:≪妖精の手≫だ。
ブレイク:すまん。改めて達成値は46で回避だ。
GM:相変わらず躱してきますね! ではアンジュとレダにダメージは22点。装甲は有効です。
アンジュ:装甲値の2を引いて都合20点。次は厳しいかな?
レダ:こっちは装甲値3を引いて、残りHP7点。次はダメかな。
GM:ふっふっふ。まだまだ行きますぞ。二体目、鏡像の方も全く同じコンボで対象も同じです。……え、クリティカルなし!? えっと、固定値はそこそこあるので、14です……。もちろん、回避はダイスペナルティ2個とC値+1です。
アンジュ:C値が上がらなきゃワンチャンあるのになあ。ガードだよ。
レダ:GMは出目の悪さをエフェクトでカバーしてるようだ。ガード。
ブレイク:回避するのも侵蝕率が上がるが、ここはしておこう。≪リフレックス:ウロボロス≫+≪原初の緑:切り払い≫のみ。達成値は……13か。仕方ない、受ける。≪妖精の手≫は温存しておいてくれ。
GM:おおー。では三人は29点ダメージですが、ここでビートが≪波紋の方陣≫を二度使用します。誰が受けますか?
アンジュ:ビートつよーい! えっと、私はロイスで受けるよ。一番侵蝕率低いから。
ブレイク:俺にはしてもらえると助かる。2点抑えるだけでロイスを切らずに済む。
レダ:私は出目次第だけど、一応かけてもらえると嬉しいな。
ブレイク:足りなかったらさらに俺も飛ばそう。
GM:ゲッ、そういえばブレイクも持っていましたね。取りあえず振ります。まずはブレイク……25点軽減!? レダの方はもっと上がって31点……。
アンジュ:何が起きてるの? どういうこと? まあいいや、私はアビゲイルのロイスをタイタスにして昇華。復活するよ。復讐なんてダメだけど、成されてしまった以上仕方ない。せめてあなたの無念が晴れることを祈ります。
ブレイク:さて、ようやっと俺の番か。マイナーで≪オリジン:ヒューマン≫+≪無形の爪牙≫。メジャーで≪コンセントレイト:ウロボロス≫+≪原初の赤:吠え猛る爪≫で、対象は本の主。達成値は33だ。
GM:ガードを宣言。≪歪みの体≫で+9です。
レダ:ならここで≪力の法則≫だ。ダメージダイスを3つ増やして。
ブレイク:ダメージはでかいぞ、58点だ。
GM:ええー!? 9点ガードで……まだ耐える! しかし次はビートの手番ですが、仕方がありません。ここで本の主は≪加速する刻≫を使用。そして使用するエフェクトはこれです。≪ウルトラボンバー≫。
全員:自爆だとーーーー!?
GM:対象は鏡像を含み、アンジュ以外。これに対してリアクションは取れません。
レダ:まずい! これでもしビートが戦闘不能になったら!
ブレイク:ビートに対して≪原初の白:波紋の方陣≫だ!
GM:こちらのダメージは25点です。
レダ:私はどう足掻いてもダメだ。騒ぐ利用者のロイスをタイタスに変え、昇華して踏みとどまる。思えばあの人が持ってきた本のせいでこんなことになったんだな、と。
ブレイク:減少値は21点! そして俺もぴったり0だ。……ここは本の主のロイスをタイタスにして昇華。復活するぞ。
GM:全然ビートにダメージが入らなかった……。ではメインプロセス終了時、本の主のHPが0となります。そしてこのまま復活もありません。ですが、戦闘は続きます。次はビート。火力はもうでないですが≪コンセントレイト;ハヌマーン≫+≪疾風迅雷≫+≪浸透撃≫+≪リミットリリース≫でC値勝負と行きましょう。達成値は45と振るいました。もちろんドッジとガードは不可。ダメージは45点って高いな! ではビートの一撃は確実に鏡像で出来た本の主の模造品を捉え、バラバラにします。これにて戦闘は終了です。
アンジュ:私何もしてなーい!
ブレイク:話の流れとしてはアンジュが躊躇っている内に片付いちゃった感じだな。
GM:本の主は自爆する瞬間まで歪んだ笑みを絶やすことなく、いつまでも「あなたにナリタイ」という声を発し続けた。そんな本の主に最後まで興味を示すことのなかったブレイクは一瞥することもなく、もう一体の本の主に影を向ける。だがそれよりも一歩早く、ビートの放った空弾がそれを穿ち、絶命させていた。
ブレイク:「まあ、こんなもんか」
レダ:「ありがとう、ビート。助かったよ」
GM:「いや、俺もあんたのお陰で復讐できた。なんか、味気ない終わり方だったけどな」
レダ:「……私もだよ。ビートのお陰で、復讐を遂げれた」
GM:「じゃあな。俺はもう行くよ」そう言ってあなたたちに背を向けてどこかへ去っていくビートは最後、こんな言葉を残して行きます。「復讐をするにしても、絶対的なまでの強い思いがないとただ虚しいだけなんだな」と。そして本の主が息絶えたことにより本の中は崩れ出し、空間は消えて元の図書館に戻ってきました。当然、本の中に構成されていた世界も、ビートも、その他の真っ白な人たちも、もうどこにもいません。
ブレイク:あくまでも本の中。所詮は物語でしかなかった、ということか。