正当な報復

 Middle 03 Scene Player ──── レダ

 唯一の本。
 これをどのように認知することがもっとも正しくあるのか?
 それを知らねば“本の中”からの脱出も、その為に必要な本の主を探しだすことも叶わない。

GM:新聞を読み終え、先ほどの会場で行なわれている葬儀が何故執り行われることになったのかを知ったあなたたちは更なる情報を得るため、先ほどの色がついていた男に話を聞くことを決め、会場に戻っています。その間であなたたちには何の情報が必要であるのか、そもそも何のためにこの事件を知る必要があるのか、今一度話しあって情報をまとめ、自分たちの指針を決めることにしました。
アンジュ:「ここって本の中、なんですよね」
レダ:「怖い?」
アンジュ:「それは、その……。不安なのは否定出来ないんですけど、なんていうか、今までの不安、というか怖さとは別、みたいな」
ブレイク:「どう感じてる?」
アンジュ:「今までは全部、雑木林の中でしたよね。人もいないし、出口もない。ただ永遠と薄気味悪い場所を歩くことしか出来ない。でも今回は人もいますし、小さいですけど街並みと思える風景もあります。色がなかったりで変な部分も多いですけど、まだ私たちの世界に近い所もあるって感じられるんです」
レダ:「確かに、過去二回の本の中は明らかに異様な世界、非日常を嫌でも感じさせた。でもここは、それだけじゃない」
ブレイク:「それでもここは本の中だ。その事実は揺るがない」
アンジュ:「はい……」
ブレイク:「話は簡単なんだ。本の主を討てばいい。ただ、今の俺たちは本の主と正しく接触する方法を知らない」
レダ:「正しい? この中にも正しさがあると?」
ブレイク:「さてね。だけど、これまでとは確実に違う世界を構成したことに理由がないとは考えにくい。この見解も、唯一の本たちが元々内容の違う物であることが正しいものだというのなら、破綻するんだけど」
アンジュ:「でも、もしそうなら前の二回がおかしいってことになりますよね」
ブレイク:「……本の中に出来上がっている世界についての考察はまだすべきではないか」
レダ:「情報が少なすぎるから、何を挙げても肯定も出来なければ否定も出来ない状態にしかなり得ないだろうね」
ブレイク:「ならば、はっきりとしている部分に目を向けるのが定石だ。この世界において、色のついている物には全て関連がある」
アンジュ:「新聞には通り魔事件のことが。そしてさっき通りかけて見えた葬儀会場では、その事件で殺されてしまった人の葬儀が執り行われているようでした」
レダ:「後は我々のように色のついている男性が一人いたね。彼もきっと、この通り魔事件に何か関連があると見てよさそうだ。今のところは参列者だろうことしか分からないけど」
ブレイク:「実は通り魔事件の真犯人、とか」
レダ:「どの可能性も現段階では否定出来ないけど、そうだったとしたなら何のために葬儀へ?」
ブレイク:「それもそうか。行く理由がないな。だったらそいつ自身が本の主であることは?」
レダ:「それも可能性の域を出ないよ」
ブレイク:「時間の無駄か。いっそ、色のついている男を一日尾行した方が手掛かりを得られそうだ」
アンジュ:「相手の方が私たちを認識しているのでしょうか?」
ブレイク:「どうだろう。こっちのことが分かるなら、わざとばれるように尾行しれてば向こうから声をかけてくるかも」
アンジュ:「滅茶苦茶ですね……」
レダ:「強引だけど、出来ることから試して行こうか。話が出来るならそれに越したことは無いんだけど」
GM:では方針を決めた頃、あなたたちは先ほどの葬儀会場に戻ってきました。葬儀自体も終わったようで、参列者の白い人たちがぞろぞろと会場を後にしています。
ブレイク:色のついた男は?
GM:いますよ。すぐに見つけられるでしょう。その人も会場を後にして、どこかに歩いていきますね。
ブレイク:後をつける。
GM:では、つけるために男を見た時、最初に見た時とはまるで別人のように感じるでしょう。会場に入っていった時はとても悲しそうな顔だったのに、今は誰かを殺めるのではないかと思わせるほどの形相です。
アンジュ:なんでー!
レダ:葬儀中に何かあったのか?
ブレイク:関係ない。後をつける。
GM:……では、突然男は信じられない速度で走り始めます。バイクや車の方が遅く見えるぐらい。
アンジュ:ええー!?
ブレイク:こいつ、まさかオーヴァードか?
レダ:しまった、そのことを完全に失念していた。ダブルクロスなのに!
アンジュ:よく思えば私たち、まだ普通のオーヴァードに出会ったことなかった!
GM:追いつくためには攻撃を仕掛けて足止めをするしかないでしょう。しない場合でも、ある程度のところまでは追跡出来ますが、絶対に見失いますね。
ブレイク:攻撃か、判定の詳細は足止めすると宣言しなくても聞けるか?
GM:まず<RC>でこちらに注意を向ける必要があります、難易度は40。その次に足を止めさせるため<射撃>で難度45を超えてもらい、最後に押さえつけるため<白兵>で30です。
アンジュ:厳し過ぎてびっくりした(笑)
レダ:ひとつでも失敗したら?
GM:失敗した時点で逃げられます。何処まで追えたかは成功回数と達成値によりますね。
ブレイク:成功時の見返りはでかいのだろうことは分かるが、厳し過ぎるな。
レダ:判定を放棄してもある程度までは後を追えるんだよね。そっちにかける?
アンジュ:一発目から40でしょ? 達成値次第ですぐ見失って何も得られないとかあり得るよ。だったら普通に追いかけて、確定情報だけでも得られた方が安全。
ブレイク:なら走り始めたのを見て俺も追いかけるぞ。エフェクトは使用しない。
レダ:「いきなりだなっ……!」私も走る。
アンジュ:「ま、待って……!」走るよー。
GM:色のついた男を追いかけ始めたところで切ります。

 Middle 04 Scene Player ──── アンジュ

 色のついた男は疾走する。
 彼は何処へ向かっているというのか? それを知ろうにも、追いつくことすら叶わず。
 何も得られないのは後手に回っているからだと認める他ない。

GM:男を追いかけましたが、見失いました。
ブレイク:「早すぎるな。とても追いつけそうになかった」
レダ:「ふう……。困ったね」
アンジュ:「なんでいきなり……走り出したの、ですか? はぁ……しんどい……」
ブレイク:「俺たちに気付いたのか、何か目的があったのか」
レダ:「目的か。……もっと、素直に考えてみる? 先ほどの男は普通に通り魔事件の被害者と親しい関係があった。だから葬儀に出て、悲しみに暮れた。……普通なら、会場内で大泣きして終わりだけど、彼はオーヴァードだった」
アンジュ:「……暴走している?」
ブレイク:「だったら、そこらで暴れているかも」
GM:その時、大きな爆発音が聞こえてきます。
ブレイク:「大当たりみたい。行こうか」
GM:音のした方につくと、車がひっくり返ったり衝突したりで火の手が上がっている光景が飛び込んでくるでしょう。
レダ:「さっきの音は車が爆発したものか」
GM:その中に一台、色のついている車があります。どうやら大型の護送車のようで、男はその車の荷台を扉をこじ開けて何か言っていますね。まだ遠すぎて何を喋っているのかまでは聞こえないです。ですが中の様子は分かります。開かれた荷台には数名の囚人が乗っていて、その中には荷台をこじ開けた男と同じく色のついた人物が一人います。そいつのことをあなたたちは見たことがあります。新聞に載っていた通り魔の男、ドグバです。
レダ:ドグバの様子は?
GM:いきなりのことで何が起こったのか分からず、立ち上がって呆然としています。手錠がはめられていて、足首も床に固定されている枷がつけられていて、逃げることは出来なさそうです。
ブレイク:とにかく、声が聞きとれる距離にまで移動する。
GM:では距離を詰めていくと、だんだんと声が聞こえてきます。どうやらそれは怒鳴り声のようで、一方的に色のついた男がドグバを愚弄、罵倒などのありとあらゆる憎悪をぶちまけているようです。
アンジュ:おおう、激しいな。とにかく止めた方が良い、よね? 怖いけど、怒ってる人に何をしているんですかって声を掛けます。
GM:その程度では止まりませんね。そして色のついた男はドグバに向けて手をかざしています。近付いたアンジュなら分かるでしょう。色のついた男の手の周りには風が渦巻いているように見える。
アンジュ:ええー! でもそりゃそうだよね! えっと、それって明らかに普通の人間には不可能な感じの風?
GM:はい。オーヴァードの力ですよ。
アンジュ:わー! これってもうあれだよね! 復讐を遂げようとしてるんだよね! これ、復讐させちゃっていいのかな? ああでも、アンジュは普通にそんなことしちゃダメだって考えだから、一緒に止めてくれるようブレイクとレダに頼む! 「この人、オーヴァードの力を使ってます! 止めないと……!」
レダ:「止めない」

 レダの放った言葉は鋭かった。その瞳が一体何を捉えているのか、復讐しようとする男を止めようとしているアンジュには全く理解の及ばないものであったが、絶対までの拒絶だけは確かに感じた。

アンジュ:「ど、どうして!? 復讐なんて、いけないことですよ!」 いや、レダの気持ちも分かるんだけどねー!? 今のアンジュ知らないからー!
ブレイク:「レダ、君はまだあの時に囚われているのか?……いや、これはそれを見極めるいいチャンスだ。アンジュ。悪いけど、俺も手は貸せなさそうだ。……今は」
アンジュ:「今はってなんですか! 意味が分かりません! この間は私のことを助けてくれたじゃないですか! どうしてこの人のことも助けようとしてくれないんです!?」
GM:アンジュの訴えも虚しく、ブレイクとレダが動くことはありませんでした。そしてあなたたちが問答している間に色のついた男の腕がドグバの心臓を貫かんと迫った瞬間──。
アンジュ:「だめええええ!」どんな理由があっても人殺しなんてダメだよ! 飛び込んで止めます!
GM:では色のついた男を止めようとアンジュが近づいた時、貴女の顔に血が飛び散ります。
アンジュ:「──えっ?」
GM;理解の追いつかないアンジュは色のついた男の手を止めることを忘れ、自身の体を触るでしょう。そして理解します。顔についた血は貴女の身体から出たものではないと。
アンジュ:「なに、が……」
GM:「また来て。また来て。ここに来て」と、音のような声がどこかから聞こえてきます。
ブレイク:ドグバ自身が発しているわけじゃないのか?
GM:ドグバの声を聞いたことのないあなたたちですが、明らかに発声されたものではなく、響いてきたことは分かります。
ブレイク:これは流石に異常だな。急いでアンジュの元へ向かおう。「アンジュ、そいつから離れて」
レダ:私もだ。
アンジュ:ま、待って。血を流しているのは誰なの?
GM:何が起こったのか、今一度理解するためにアンジュは色のついた男とドグバを見比べる。すると、ドグバの腹部から大量の白い触手が飛び出してきており、それが色のついた男の身体中を貫いていることが分かる。そして、自分の顔に付いた血は色のついた男のものであるということも分かるでしょう。ここで“本の主”は≪生体侵入≫を解除。ドグバの体内からその姿を現します。真っ白な植物ですが、粘土のような質感です。腕は左右に数本、身体となっている大きな茎にまばらについていますね。
アンジュ:あーーーーーそういうーーーーー?
GM:ドグバは意識を失って倒れますが、命に別状はなさそうです。しかし、色のついた男は膝をつき、今にも絶命しそうです。
レダ:オーヴァードなんだよね? ≪リザレクト≫の兆候は?
GM:既に切れていますよ。本の主に力を吸い尽くされ、今にも倒れそうです。助けるなら戦闘不能を復活させるエフェクトを使用して下さい。
ブレイク:誰も持っていない。……お手上げだ。
GM:分かりました。では色のついた男は力なく倒れ込み、完全に命が尽きました。すると世界が震えだし、崩壊が始まります。“本の中”が崩れ出し、そして同じ町を再形成し始めている。この衝撃に巻き込まれたみなさんは7D点のHPダメージ。これに対してリアクションは取れません。ダメージ軽減のエフェクトの使用も無効、装甲値も無視です。
レダ:さっきの判定で成功していたらこれを無効に出来たわけか。ダメージは42点。≪リザレクト≫でHPは3点。
アンジュ:こっちも43点ダメージで全然足りない。≪リザレクト≫でHPは5点だよ。
ブレイク:ダメージは34点と二人より低めだが、無駄だな。≪リザレクト≫でHPは9点だ。
GM:世界は白い光に包まれ、そして消え去ります。最後に聞こえてきたのはこのような声でした。

「──ブレイク。あなたを探していた。あなたを知りたい」