正当な報復

 Middle 01 Scene Player ──── アンジュ

 唯一の本。
 “本の中”と呼ばれる独自の空間を作り上げるこの本の中には、本の主がいる。
 そのことを知っている人物すら、いまだ世界で数えるほどしかいない。

GM:シーンプレイヤーはアンジュ。貴女の傍にはブレイクもいます。
ブレイク:近場にいたからだな。レダの姿は?
GM:ちょっと離れていますが、すぐ合流できる距離にありますよ。レダも一瞬視界が歪んだことを感じたと思えば周りが白色に黒い線で道路や家、建物などが描かれている光景を認識するでしょう。そしてここがついこの間連れ込まれた“本の中”であるということも。
レダ:新しい“本の中”ってことだよね。
GM:そうです。この前とはまた別の唯一の本が開かれたので、新しい“本の中”に連れ込まれたということです。
ブレイク:まずはレダの傍にまで行こう。そして俺が本を開いたことも話そうか。アンジュは見ていたし、さっきの本が原因だってのは分かってていいんだよな。
GM:大丈夫です。ここで少し描写をしますね。ここが“本の中”であるということは紛れもない事実であると、オーヴァードであるあなたたちであれば直感ですが理解出来ます。そして、二年前と数日前に入った“本の中”は同じような雑木林以外は何も無い空間で、類似点がいくつかありました。しかし、今回の“本の中”は確実に前回までの二つとは違い、色がないとはいえ町が形成されています。さらに言えば、人の気配を感じる。
ブレイク:なんだと?
レダ:いくらなんでも様変わりしすぎだね。……いや、世界でたった一つの物語が綴られていると謳われているのなら、むしろこれぐらい独自色があるべきはずだ。
アンジュ:じゃあ、今まで二回連れ込まれた雑木林しかなかった世界の方が異端?
ブレイク:流石に情報が少なすぎるか。何より、まずすることと言えばこれだな。GM、空間に対して攻撃を仕掛けたい。
GM:いいですよ。攻撃するのは誰ですか? 複数人でも可能ですが、攻撃を宣言した方は使ったエフェクト分の侵蝕率を上げてもらいます。判定は前回と同じでダメージまで算出してください。使えるタイミングのエフェクトはマイナーとメジャーです。
アンジュ:どう……なんだろう? みんなで一気に大きなダメージを出して、本の主をおびき出した方がいいのかな?
レダ:私は人の気配っていうのが気になる。この世界には何か、物語が出来上がっているのかもしれない。
ブレイク:十分にあり得る見解だな。ここは俺一人でやろう。アンジュはまだ自分から率先して力を使おうとは思わんだろ? レダは支援エフェクトを使い始めると侵蝕率が上がりまくるから、ここで攻撃するのは得策じゃない。
アンジュ:前を向いて歩きだしたと言ってもすぐにはね。それにまだ“本の中”は怖いなって。
レダ:取りあえず殴るって思想はブレイクらしいし、ここは任せよう。
GM:分かりました。ではブレイクのみ、空間に対して攻撃を行うということで判定してみましょう。
ブレイク:マイナーで≪オリジン:ヒューマン≫+≪無形の爪牙≫。メジャーで≪コンセントレイト:ウロボロス≫+≪原初の赤:吠え猛る爪≫で攻撃。……まずいな、ダイス難民だ。出目の最大が3ってどうなってんだ。固定値の8を足して11だが、ダメージも腐ったので6点装甲無視。
GM:そのダメージ量大丈夫ですか……? えーっと、では空間を撫でるような感じに影を動かしてみたブレイクには分かります。空間を傷つけて無理やり出口をこじ開けることは“不可能”だと。
レダ:まさか、その手段も使えないとは……。
ブレイク:俺たちは強引な脱出はおろか、本の主をおびき出す方法すら失ったわけか。
アンジュ:それ、まずくない? 流石にその事実を知ってしまうとアンジュは取り乱すと思う……。
ブレイク:衝動判定まで入れられて侵蝕率が大きく上がるのは避けたいな。……俺はこの情報を共有することをやめておく。
GM:どう言ってごまかします?
ブレイク:俺は今、影を動かして空間を撫でただけだ。つまり、攻撃はしていない。
GM:おっと?
ブレイク:人の気配を感じるんだよな。だったら、誰かに力を使っている瞬間を見られるのはまずいと思い至り、攻撃の手を止めたように見せかける。
GM:ふむ。オーヴァード相手にエフェクトを使った事実を隠そうとするわけですね? 全員<知覚>で判定をお願いします。難易度はブレイクの出した数値とします。
アンジュ:そりゃまあそうなるよねー。
ブレイク:これはリアクションとして扱われるか?
GM:エフェクトを使用したことを隠すために更なるエフェクトを重ねるのですね?
ブレイク:ぐうの音もでねえ……。しかもこの中で固定値持ってないの俺だけか。
レダ:私が気付く分には問題ないけど、アンジュはまずいね。しかし、振るしかない。私は達成値20だ。
アンジュ:たけー(笑) 私は10だよー。
ブレイク:いやもう無理だ、隠せねえ(笑) さっきのエフェクト使用のお陰でダイスボーナス1個貰ってるが……うおー! クリティカル一回で達成値17!
GM:皆さん出目が高すぎじゃありませんか……? ではレダは間違いなくブレイクが空間に攻撃したことを認知しています。でもブレイクは事実を言わず、人に見られるとまずいから攻撃することを止めたと嘘をつきました。
レダ:理由なく嘘をつくことはないと思ってはいるが、状況が状況だ。不信感を抱かずにはいられないな。
GM:アンジュはそっかーって信じます。
アンジュ;「うっかりしていましたけど、オーヴァードの力を普通の人に見られるのは確かにまずいですよね」
ブレイク:「今までと明らかに違うことも気にかかる。下手な刺激を与えて厄介事を増やすのは避けたい」
レダ:「……分かった。ブレイクの意見を尊重するよ」
GM:暗い話題ばかりが募ったところで一度シーンを切りますね。

 Middle 02 Scene Player ──── ブレイク

 この間経験した本の中とは確実に違う。付け加えるなら、ブレイクは覚えていないが二年前の時とも違う。
 ここから無理やり脱出することが出来ないことを知ったブレイクはこの事実を伏せることを決断した。
 しかし、オーヴァードとしてもまだまだ未熟なアンジュをごまかすことは容易でも、それなりの付き合いをしているレダの目をごまかすことは流石のブレイクでも出来なかった。

GM:先ほどの続きですが、ブレイクが空間に攻撃を仕掛けたことをごまかした直後、あなたたちの気を引くものが現れます。
アンジュ:なんだろ?
GM:たくさんの人たちが歩いています。どの人も顔には陰りがあって、足取りも重そうです。ただ、その集団に目がいったわけではありません。それらは皆真っ白で、輪郭だけが黒い線で描かれているような感じですから。
レダ:その中に一際気を引くものがあった?
GM:はい。その集団の中にいる一人だけ、色がついています。
ブレイク:人としてのってことか?
GM:はい。皆さんは周りの建物や白い人たちはどこか絵のように感じますが、色がついている男性だけははっきりと人間だと感じます。
レダ:私たち自身はどうなってる?
GM:色がついていますよ。
アンジュ:間違いなく重要人物だね。でも、いきなり声をかけてもいいのかな? その人はどこに向かってるとかあるの?
GM:その男性が向かう先も色がありますよ。追いかけます?
ブレイク:まあ、ついていかない選択肢がないよな。今の俺たちには指針が何もない。
GM:分かりました。では男性と適当な距離を開けてついていくと、ある場所に着きます。どうやらこの人たちはみな、葬儀場に向かっていたようです。
ブレイク:葬儀場? いや、そこに行く理由なんてのは、考えなくても一つしかないわけだが……。
レダ:誰かの葬儀に参列するわけだよね。色がついている男性も、周りの真っ白な人たちも。
GM:そうです。
アンジュ:ええー? 入ってもいい、のかなあ?
レダ:これは誰の葬儀なの?
GM:アビゲイルさんの葬儀らしいですよ。ちなみに皆さんの知り合いとかでは全然ないですね。それと、葬儀場にまで来て気付くのですが、その先にさらに色のついた道路が伸びています。
ブレイク;色がついているところに何かがあるっていうのは間違いないはずだ。つまり、この先にも何かある?
アンジュ:分かれる?
レダ:いや、みんなで道路の方でいいんじゃないかな。流石に葬儀中は声をかけられない。人道的に。
アンジュ;オッケー。じゃあみんなで色のついている道路の方に行くよ。
GM:葬儀場の先に伸びる色のついた道をさらに歩いていくと、小さなコンビニに着きます。その中も真っ白なんですけど、新聞だけ色がついていますね。
ブレイク:手に取って中身を確認する。
GM:見出しは「通り魔逮捕!」ですね。どうやら数日前に起きた通り魔事件についての記事が書かれているようで、犯人は捕まって裁判にかけられ有罪判決を受けたことが書かれています。その時に被告人の証言は以下の通り。「相手は誰でも良かった。深い理由も無い」と。
全員:あー……。
GM:通り魔に殺された被害者の写真と名前も載っている。名前はアビゲイル。また裁判の結果は有罪だったので。犯人はどこかの刑務所に輸送されるとか。ちなみに犯人の名前はドグバです。
レダ:まあ、話は見えてきたんだけど。
アンジュ;これ、何をしてあげたらいいんだろう……?
ブレイク;今までと傾向が違いすぎてこんがらがってくるな。とにかく、男に話せるのかを知るのが先決か?
GM:皆さんが困り始めたところで切りましょう。次のシーンは一度、みんなで話し合う場面にしますね。