Ending 01 Scene Player ──── アンジュ
本の中から無事に戻って来れたこと。それはアンジュにとって何よりも安心感をもたらすものであった。……今までは。
しかし、今回は違う。確かに戻って来れたのは良かったことのはずなのに、このことを手放しに喜べない自分がいた。
GM:最初にアンジュのエンディングです。時刻はもう夜になっていて、閉館時間はとっくに過ぎています。どうやら本の中で過ごしていただけの時間がこちらの世界でも経っているようです。
レダ:おっと。なら戻って来て早々だけど閉館準備をする。
ブレイク:俺も手伝おう。
GM:分かりました。時間を確認したレダは慌てるように閉館準備を始めます。そしてそれを見たブレイクも手伝い始めますね。しかし、アンジュは……動けない、でしょうね。一番、やるせないはずですから。
アンジュ:もうただただ茫然としてる。本の中から出て来れて、みんなでまた笑いあえるんだって思ってた。でも、今回のことはアンジュにとって理解の出来ないことが多すぎた。うまくいったのに、こんなに嬉しくないことがこの世にはあるんだって、初めて知った。
GM:自分にとって嫌なことがあった時、不満を覚えるのはごく自然なことです。それと同じように、嬉しいことがあれば手放しに喜ぶことが出来るのだと信じてやまなかったアンジュにとって、本の中から無事に脱出することが出来たという嬉しい出来事があったにも関わらず、心が晴れない感覚に戸惑います。
「どうかした?」
ブレイクの何気ない言葉が、怖いと思った。
この人は何も感じていないのか? レネゲイドビーイングとは、こんなにも感覚が違うものなのか? そんなのと長く付き合っているから、レダにもあのような一面があったのか?
……自分もいつか、何も感じないようになってしまうのだろうか。
ブレイクが、レダが。この二人と一緒にいることが、怖い。とてもじゃないが、彼の監視役を続けたいなんて思えなかった。あんなにも優しくて、頼れる人たちだと思っていたのに……。
アンジュ:「あ、の……」
レダ:「初日なのに、帰るのが遅くなってごめん。片付けは私とブレイクでしておくから、今日は帰ってゆっくり休んで」
アンジュ:「……そう、します。お疲れさま、でした」と言って何も持たずに図書館を後にする。入口が閉まった音が耳に入ったら、逃げるように走っていく。最後まで、レダの顔は見ない。……見れない。
GM:帰った後も、アンジュは今日のことを忘れることは出来ないでしょう。レダが見せた狂気。ブレイクの無頓着さ。オーヴァードとなった自分を受け入れられたのは間違いなく二人のお陰で、そんな彼らに恩返しをしたいと考え始めたばかりだというのに、実のところ、まるで二人はアンジュに興味を持っていなかったことをあなたは知った。……ということろで、エンドです。
アンジュ:うわーん! また除け者になったー!
Ending 02 Scene Player ──── レダ
今回の本の中で経験したことは、偶然の産物でしかない。それでもレダは確かに感じた。
復讐というものが一体どういうものであるのか、ということを。
GM:レダのエンディングはアンジュが逃げるように帰っていったところからです。閉館の準備をブレイクとしているところですね。
レダ:実を言うと二人きりになりたかったから、アンジュを帰した。
アンジュ;感じ取っておりましたとも。
レダ:ありがとう。それじゃあ、一緒に片付けてくれているブレイクに声をかけよう。「……ブレイク、ちょっといい?」
ブレイク:「いいよ、いつでも」
レダ:「どうして、手伝ってくれた?」
復讐の邪魔をするなら誰であっても容赦はしないと、恩人であるブレイクにすら殺気を向けたレダにとって、あんな簡単に手伝うとブレイクが発言したのは意外だった。それなりの付き合いがあってもブレイクのことは未だ謎が多いと思っているが、その筆頭は今回のようなことへと感じ方の違いが大きいのだろう。
アンジュのような反応をするのが普通だと、レダは思っているから。
ブレイク:「その理由、言ったと思うけど。レダが前に進めるのなら、復讐でも何でもすればいい。それを俺が止めることはないよ」
レダ:「ブレイクは復讐を肯定しているのか?」
ブレイク:「いや、別に。是非のあるものじゃないとしか考えてないけど」
レダ:「……そうかな、私は悪だと思っている」
ブレイク:「アンジュもそんなこと言ってたな。でも、悪だと思っているならやめてほしい」
レダ:「急に、善人になるね」
ふっと、自嘲するようにレダは笑う。するとブレイクは、何を言っているんだと本気で分からないという顔をした後、こう言った。
「悪だからやめてほしいんじゃない。悪だと思ってやったことは無駄な過去を増やすだけだから、意味ないってだけ」
レダ:「……どういう意味」
ブレイク:「そうだな。今回は復讐を題材にするけど、この行為って基本的には悪だと主張する人、多いよね」
レダ:「人を貶める行為だから」
ブレイク:「そう。たとえ命まで奪わなくとも、相手に不利益を与える。でも、これを肯定する人間も一定数いる。そういった連中は大体、自分が最初に不利益を被っている奴だ」
レダ:「ああ。報復に近いと言っていい」
ブレイク:「不利益を被って当然の相手だと信じてやまないのなら、思う存分やればいい。人はそれで前に進める。でも、迷いがあるならダメだ。本当はいけないことだと思ってやった行為は、あの時ひどいことをしてしまったという過去に囚われる」
レダ:「……それで?」
ブレイク:「愚かだよ。過去を清算するために起こした行為で、新たな過去を作ってそれに囚われるなど、愚の骨頂だ。くだらない。そんなことになるなら、やめてしまえ。最初からもっと別の、前に進めることをしろ」
ブレイクの目は冷たかった。愚者を、この世にとって価値のないものを見るような目だ。それは自分のことを指しているように、レダは感じた。
レダ:「過去に囚われている者は総じて愚か者だと言いたいのか?」
ブレイク:「そうだよ。だから俺は早く君にも前に進んでほしいって思ってる。過ぎたことは変わらない。変わらないことをいつまでも考えるより、いくらでも変えられる可能性のある先のことに目を向けるべきだ」
レダ:「この私の過去を知っていてそんな風に言うのかっ!!!」
激情したレダは自分よりも背の高いブレイクの胸ぐらを左手で掴み上げ、睨み付けていた。そして右手には拳が作られていて、今にもブレイクの右頬を捉えようとしている。
しかし、それはブレイクの影によって止められる。そしてレダを見下ろすブレイクの瞳はいつもと変わらず、何を考えているのかを読ませないものだった。
ブレイク:「この話をすれば、君が怒るだろうことは分かっていた。だから今までずっと、黙って見ていたんだけどね」
レダ:「愚か者だと嘲笑うためにか? その為に私を助けたのか!」
ブレイク:「ああ、そういう発想をするのか。あれは偶然通りかかって、気が乗ったから助けただけ。その後の君は結構頑張ってたと思うよ。少なくとも、俺の目にはそう映っていたけど。力の使い方を学んでいる時とか、仕事を探して新しい生活を始めた頃とか」
レダ:「私は……! 助けてくれた貴方に恩義を感じていたというのに……!」
ブレイク:「俺は君が前に向かって進める人間だと知っているから傍にいる。そして前を向いて歩ける人間であることを君は一度証明している。だからそこに疑念は抱いてないよ。君はまたいつか、前を向いて歩けるようになる」
レダ:「だからなんだ! 私はお前のために生きているんじゃない!」
ブレイク:「それでいい。別に俺のために生きてほしいわけじゃない。自分の命なんだ。自分のために生きてなんぼだ。そうだろう?」
レダ:「……っ! もう、いい。帰ってくれ。後は私がしておくから」
ブレイク:「じゃあ帰るよ」
胸ぐらを掴んでいた手を放すと、ブレイクは何事も無かったかのように悠然と帰っていった。
レダはその後も一人残って閉館の用意をして、最終的に帰宅したのは22時を回っていた。ブレイクと二人でしていればこんなに遅くはならなかっただろうが、とても彼と仕事をする気分ではなかった。
……言い返せなかったことが、悔しかったのかもしれない。
自分の命は、自分が生きるために使うもの。この言葉に、レダは反論できなかった。ブレイクの言葉は一つの側面において真理だと思ったからだ。だが、今の自分は妻と娘に償いたいという気持ちで生きている。
とても、自分のために生きているとは言えなかった。
Ending 03 Scene Player ──── ブレイク
レダに追い出されるようにして職場を去った後、適当な公園のベンチに腰かけて空を仰いだ。
空は曇っていて、星はほとんど見えない。今日は月の光もあまり感じられない夜だ。
GM:最後にブレイク。何かしたいことがあるならしてください。
ブレイク:暗に何も無いよってことだな。まあ、こっちが勝手にエンディングを描いてどんどん仲違いしてるからな。
GM:もう私にも分からないことになっておりますが、今のを受けて次回の形は思い浮かんでいるので大丈夫です。
レダ:頼りになるGMだ。
アンジュ:いつも甘えっぱなしでごめんよ!
ブレイク:俺のは軽く済ませよう。一人だし、出来ることもそんなないからな。さて、俺が気になることはぶっちゃけアンジュの様子でもレダの怒りでもない。……唯一の本、あれが気になる。
GM:ブレイクは今回の本の中へ連れ込まれたことを思い出してみる。過去に対して頓着はないと言っても、別に考察しないわけじゃない。必要なら思い出して、事実を導き出す。
ブレイク:「前回の本の中は絵本とも呼べないほど何も無い、幼稚な世界だった。だが今回はまだ不完全でありながら、ちょっとした読み物程度の話があった。簡単な復讐劇のようなものだったか」
理不尽に殺された人の友人が、犯人に復讐する。正当な報復と呼べなくもない程度の物語性があったとブレイクは思いながら、さらに考えを巡らせる。
ブレイク:「だが、もっとも注目すべき点は本の中じゃない。本の主だ。奴は、俺のことを知っていた。そして俺になりたいとのたまった。その意味はなんだ? 奴自身、レネゲイドビーイングだった。俺と同じであったと言える。……それで足りないというなら、言葉どおり俺という存在になりたいということか?」
前回の本の主、紙魚もレネゲイドビーイングではあったが言葉を口にすることもないほどに知能がなかった。それと比べると、今回の本の主は知能までは感じられずとも確かに言葉を口にしていた。それも、明確な意思を。
ブレイク:「本の中を作り出すのは、本の主。ならその知能に連動して、本の中に出来上がる世界の完成度も左右されると考えれば辻褄も合うな。そうなると、残るはどうやって本の主が出来上がっているかだ。唯一の本自体はEXレネゲイドが原因ではないかとされている。そして俺のようなRBとEXレネゲイドの違いは自我の差。つまりは自身をレネゲイドの一種だと理解出来ているか否かだ。……では、EXレネゲイドたちが何かをきっかけに自身をレネゲイドの一種だと理解することがあれば? そいつはもう、RBの仲間入りだ」
RBは全てをレネゲイドウィルスだけで身体を構成しているのに対し、EXレネゲイドは何かしらにレネゲイドウィルスが宿ったものだ。その媒体は犬や猫などの動物でも、雑草などの植物でも、電子機器などの無機物でもいい。だがそれらは総じて自我がない。自立行動をして人を知ろうとしたりもするものの、その動きは所詮仮初だ。
だが、それらも何かを経て自我が芽生えたとするなら、そいつらはもうRBと言って差し支えないだろう。最初の経緯は最早重要ではない。
ブレイク:「本に宿ったEXレネゲイドが、何かを経てRBとなり、そして俺になりたがる。……面白いな。やはり唯一の本は人工物だ。誰かが俺という存在をレネゲイドウィルスに模倣させるために本を選んだのは、俺の仕事を知っている奴だろう」
調べてみる価値はある。そう確信したブレイクはベンチから立ち上がり、夜闇に姿を消す。
久方ぶりに喧嘩を売りに来る大馬鹿者が現れたなら、せめて暇つぶしに使い潰してやろうとブレイクは嗤う。
「せいぜい俺を愉しませろよ」
アンジュ:これどっちが悪役なんだよー!(笑)