Dyed by craziness

「さっさと合流して捕まえようぜ。そうしたら事件解決でハッピーエンドだ」
 若の言葉に一同が頷き、合流してマレットアパートに向かうと宣言。それを受けた二代目が時間を合わせてアパートに移動したところから描写を始めてくれた。
 これで終わると思っている彼らは、ここから先こそが地獄への入り口だということをまだ知る由もない……。

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 2000年6月11日午後1時10分。女の所在を突き止めた初代と合流した一行はマレットアパートに足を延ばしていた。築10年を迎えたこのアパートは現在空き部屋はなく、新規登録を行っていない。そのため、出入りするのはアパートに暮らす住人と管理人である大家。後は荷物を届けに来る宅配業者ぐらいだろうか。外から見て分かるのは三階建てであるということぐらいだ。

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 アパート自体は新しいもののようで三階建てであるという情報は手に入れられたが、肝心なことが分かっていない。
「二代目、女の部屋はどこだ?」
 初代の問いかけに二代目は目を伏せる。……つまり、自力で探せということを諭されたのだ。
「管理人を探せばいいんじゃねえか? 部屋はどうせ鍵がかかってて入れないだろ」
「坊やが<鍵開け>を持ってるぞ」
「やらねえよ! 大体どこの部屋か分かってもいねえのに片っ端から開けろってか?」
 ネロの言い分はごもっともだ。そんなことを白昼堂々やっていようものなら不法侵入で逮捕されることは目に見えている。流石の初代でも庇いきれない。
「おい、各階層に部屋はいくつだ」
「五部屋ずつ設けられている」
「全部合わせて十五部屋。対してこっちは六人。……一人二部屋あたれば管理人なり女なり引き当てられそうだな」
「待て待て、管理人ならいいが女と鉢合わせはまずいぞ。何してくるか分かったもんじゃねえ」
 一人は危ないということになり、二人一組で各階層を調べるのか、何が起きても対応できるように階層は同じでそれぞれ調べるべきかということで意見が分かれた。
 ……分かれたまではよかったのだがここから並行し続ける討論が始まってしまい、どちらも一向に譲る気配がないためシナリオがさっぱり進まなくなってしまった。真剣なのはいいことなのだがこのままでは埒があかないということで、二代目が急遽助け舟を出すことを決断するのだった。
「……言い合いをしているお前たちに朗報だ。アパートの住人らしき人間が帰って来たぞ」
「今の言い合いって時間に含まれてんのか?」
「組み込んでやってもいいが、そこまで酷なことはしないでやろう。それで、どうする」
 時間で言えば5分以上言い合っていた彼ら。とはいえこれは本気で挑んでいるが故に起きたことでもある。そこら辺の融通が利かせられない二代目ではない。とはいえ夜もいい時間だ。日を跨ぐまでにセッションが終わるよう、時間配分をするのも彼の仕事である。
「俺が声をかける。管理人の部屋を教えてほしいと聞くぞ」
「なら、自分がここの管理人だと答える。……少し、お前たちのことを怪しんでいるな」
 統一性のない男五人と女一人の集団だ。これを見て訝しまない方が異常というものだ。
「あー……。警察手帳を見せたら<信用>で振れるか?」
「いや。それを見たら少し驚いた後、何か事件でもあったかと聞かれるな」
「素直に答えるか。それを調べたいからマリアンって女の部屋を教えてほしいと聞くぞ」
 変に警戒心を持たれるのは嫌だが、ここまで来た以上引き返すわけにもいかない。分かっていても初代を信じて待つしかないのがもどかしいようで、若とダイナがそわそわしている。
「二階の一番奥、205号室を使っていると教えてくれる」
「……他に何か聞くことあるか?」
 思った以上に簡単に情報が出て来たので拍子抜けの初代。他に何か聞くべきことがあったかどうかを相談されたので、おっさんとバージルがそれぞれ二代目演じる管理人に話を聞く。
「部屋に本人は帰ってきてるのかどうかだな。それが分かればこっちから奇襲がかけられる」
「そこまでは分からないと答えるな」
「……部屋まで管理人の同行は可能か」
「むしろ同行させてくれと頼まれるな。本人がいなかった場合は自分しか鍵は開けられないし、調査するのだったら現場に立ち会いたいとも」
「俺らが泥棒だったら困るもんな。こっちとしてもついてきてもらった方がありがたい。じゃあ205号室を開けてもらうとするか」
 とんとん拍子に事が進んでいき、もうラスボスのお部屋に到着だ。さあ……鬼が出るか蛇か出るか。

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 2000年6月11日午後1時20分。タイミングよく管理人と会うことの出来た一行はマリアンが借りている部屋、205号室の前までやってくる。何度かインターホンを鳴らしたものの反応がなかったところを見る限り、留守にしているようだ。
「それでは、開けますね」
 管理人がマスターキーを使ってロックを外し、ゆっくりと扉を開けた。
 部屋の中に溜まっていたであろう空気が扉を開くと同時に外まで流れ出てくるのが感じられる。そしてそれは異様な臭いであるということも理解できるだろう。その正体を確かめるために警戒しながら足を踏み入れれば、そこはただならぬ様相をしていることが嫌でも眼中に広がっていることを脳は把握する。
 まず目につくのは床や壁に飛び散った赤黒いシミ。かなりの時間が経過しているのか、これを完全に落としきるのは不可能だろう。これが一体何なのか? それは先ほどから漂い続ける臭いと色から推測できてしまう。
 独特な鉄臭さを含むこれは間違いなく血であると。
 部屋の中はどれも血で汚れているが、テレビとそれを乗せている台、ベッド、冷蔵庫、洗濯機、机、本棚と女性が住んでいる割にはかなり質素なものだ。また、ベランダ前の床にはほかの場所よりも多く血痕がついているという有様だった。

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「この惨状を目撃した全員SANチェック。成功で1、失敗で1D3だ。後、管理人もこれを見てあまりの衝撃に気を失うぞ」
「今は他人の心配より我が身だな……」
 覚悟はしていたが思った以上の惨事だ。さらにこの後の展開を考えると、こんなところでSAN値を持っていかれるのは避けたいところ。

 血だらけの部屋を見た
 ダイナ SAN47
 1D100=06

 ダイナ SAN47→46

 初代 SAN75
 1D100=43

 初代 SAN75→74

 おっさん SAN69
 1D100=92

 1D3=1

 おっさん SAN69→68

 ネロ SAN56
 1D100=100

 1D3=2

 ネロ SAN56→54

 若 SAN59
 1D100=26

 若SAN59→58

 バージル SAN70
 1D100=44

 バージルSAN70→69

「みんな耐えるものだな」
 失敗したのは探偵である二人。とはいえおっさんは最小値で留めているのでみんなと減少値が変わっていない。唯一削られたのはネロだが、注目するのはそこではない。
「100……100ファン……」
「SANチェックがクリファン適用外で本当によかったな」
「ダイナお前っ……! 俺に移しただろ!」
「出目が悪くなったら私のせいにする風潮作ったの、誰」
 その風潮に関して言えば、誰かが作ったというよりは自作したと言ったほうがしっくりくるだろう。それほどまでに彼女の出目はひどかったから、仕方がない。
 出目の悪さの擦り付け合いもほどほどに、この部屋を今から調べるわけだが……。
「管理人、気を失ったんだったな」
「一緒になって坊やもひっくり返っておくか?」
「うっせえ。また殴るぞ」
「おっと、それは勘弁だ。まあ一緒に中を見て回られても何も出来なさそうだしな。ここらで横になっててもらいますか」
 管理人のことは放置ということで話がまとまり、警戒しながら部屋の中を調べることに。
「質素とはいえ調べる箇所が多いんだよな。重要なものが出てきそうな場所ってどこだ」
「ベッドの下」
 即答する若の考えは言わずとも分かる。確かに出て来たなら、それは重要なものに違いないだろう。色んな意味で。しかし、残念なことにこの部屋を利用しているのは女性であることを忘れてはならない。
「俺は本棚だ。どうせ<図書館>が必要になる」
 バージルの予想通り、本棚を調べるなら<図書館>での判定だと言われる。若はベッドの下と詳しく場所を指定したので<目星>で+20%の補正をかけてもらえることに。
「冷蔵庫と洗濯機は触れたくないんだよな。訳わからねえものが出てきたら困る」
「この部屋ってただでさえ血生臭いんだろ……。いかにも臭いが出そうな場所を開けるのは最後にしとこうぜ」
「そうなると残りは机とテレビ、後はそれの台か」
「ベランダ前も調べられるぞ」
 他の場所よりも多く血がついているベランダ前からも情報が得られると聞き、担当場所が決まっていない面々が嫌そうな顔をする。どういった配分がいいか話し合った結果、SAN値の低いダイナは初代と一緒にテレビとその台を担当。ネロが机で、ベランダ前にはおっさんが行くことになった。
「これでただSAN値が減るだけだったら恨むぜ、二代目」
「勘弁願いたいな。髭と本気でやり合うのは俺でも骨が折れる。……処理に移ろう。テレビと台の二人は<目星>。若はベッドの下に<目星>+20%の補正。バージルは本棚に<図書館>。ネロは判定なしで情報だ。髭はまず[POW×5]の判定。それに成功したら続けて<アイデア>を頼む」
 一先ずダイスを振って、その結果を見てから全員に情報を開示するということなので、お楽しみタイムだ。

 テレビと台には何がある
 ダイナ 目星60
 1D100=46

 初代 目星80
 1D100=96

 ベッドの下にはお宝が
 若 目星25+20 目標値45
 1D100=05

 どんな本が並べられている?
 バージル 図書館80
 1D100=87

 ベランダ前は臭いがきつい
 おっさん POW12×5 目標値60
 1D100=81

「初代が……ファンブル、だと……」
「壊滅したな……」
 ダイスの女神様は荒ぶりすぎだって、それ一番言われているから。
 二代目にとって唯一の良心──出目的な意味で──だった初代もとうとうファンブルの仲間入り。その一方で若はクリティカルとハチャメチャが一気に押し寄せて来た。
 初代の方はファンブルのペナルティは何かしら入るとしても、まだダイナが成功しているので情報自体は期待できるだろう。ただ問題はバージルとおっさんである。特に八割を外している本棚はかなり痛手だ。
「情報だ。ダイナはテレビに変わったところは見られないと分かる。テレビ台の収納スペースには何冊かの雑誌が入っていることに気づく。……初代に伝えるか?」
「えっ……」
 二代目が良いことを思いついたと、それはもう嬉しそうに訪ねてくる。そんな表情を見せられたら、はいという肯定の二文字も飲み込んでしまうというものだ。
「ファンブル処理だ。初代も何か入っていることに気づき、軽率にも状態を確認することなくそれを取り出した。タイトルを見た感じ、それが女性モデルの雑誌だということに気づくだろう。……そして、表紙のトップを飾っているであろう女性の顔の部分だけが刃物でズタズタに引き裂かれていることにもな。それを見た初代、それから傍にいたダイナも目撃するだろうからな。成功で0、失敗で1D2のSANチェックだ」
「待て二代目! ファンブルしたのは俺だけだ、ダイナは関係ない!」
「この世には連帯責任という言葉があるのを知っているか」
「やべえ、二代目が本気を出し始めたぞ……」
「ファンブル出したら巻き込まれるのかよ……」
 ただでさえSAN値ピンチなダイナが巻き込まれたのは不運だったとしか言いようがないが、なかなかにきつい。悪いと謝る初代にダイナは気にしていないと普段と変わらない表情のまま、ダイスを転がした。

 引き裂かれたモデル雑誌
 ダイナ SAN46
 1D100=35

 初代 SAN74
 1D100=63

「成功したから、無問題」
「本当に悪い。気を付け……たいのはやまやまなんだがな……」
 ここに来てようやくダイナの出目が安定し始める。……いや、むしろ彼女の出目が安定し始めたから周りが荒ぶりだしたのかもしれないが、それは神のみぞ知るだ。
「ダイナは落とせると思っていたんだが……まあ、いい。次に若はベッドの下を調べる……が、特に何も出てこない」
「そ、そんなわけねえだろ!? そりゃあもうやべえ本が出てくるだろ!」
「……出てこないはずだったんだがな、クリティカルを出されては仕方ない。ということで出て来たぞ、お前の望む本が」
「マジでか! 中身は!」
 ベッドの下から出てくるやべえ本といえば、あはんうふんなそれしかないだろう。……本当はそんなものを出す予定は一切なかったのだが、二代目もどう処理をしたらいいのか困った末の決断だろう。マリアンのイメージがガタ落ちだが、許してほしい。
「中身は……屈強な男と気の弱そうな男が」
「ふざけんな! 誰がそんなもん読むか!」
 二代目が描写しきる前にどういった内容かを察した若は激怒しながら、その本を破り捨てると宣言。自動成功ということになり、マリアンの愛本は見るも無残な姿に。
「……若、SANチェックを」
「入れたら二代目にでもマジで切れるからな」
 シリアスな場面であったはずだというのに、どうしてこうなった。完全にへその緒を曲げてしまった若はさておき、残すはネロだ。
「机上を見たネロは古びた本の存在に気づくだろう。表紙には血が飛んでいるせいでタイトルは分からない。また机自体には引き出しが二つある。どうする」
「二つとも開く」
「一つは空だ。もう一つは鍵がかかっていて開かないな」
「<鍵開け>する」
 躊躇いなく宣言される<鍵開け>。管理人の気を失わせておいてよかったと二代目は思いながら許諾する。

 開けゴマ
 ネロ 鍵開け51
 1D100=26

「中から二人の女性が映っている写真が一枚出てくる。雰囲気が似ているところから、姉妹だと思うだろうな」
「他にはなんもねえのか? 裏とか」
「裏を見たんだな? なら“1959年8月20日 マリアン&シアン”と書かれていることに気づくな。ネロ、ここで<アイデア>だ」
 さりげない一言で思いもよらぬ情報が出てきたかと思えば、そのまま<アイデア>判定と言われてネロは焦る。リアルだけでなくPCも頭がそこそこにいいため、これは閃いてしまいそうだ。

 何に閃く?
 ネロ アイデア70
 1D100=54

 普段の七割は信用ならない癖に、嫌な予感がするときの七割というのはとことん仕事をしてくれるものだ。こうなったらもらえる限りの情報を貰っていくのが、せめてもの抵抗だろう。
「ネロは確か……大学の図書館でも資料に全部目を通していたな。ということでこの2つの名前に心当たりがある。今から40年前に、シアンという女性が交通事故にあっているということ。その時に姉であるマリアンという女性がコメントを残していたことも。この写真はその1年ほど前に取られた写真であることにも気づくだろう。そして映っている女性は二人とも20代と言った感じだ。……そこで思い出す。二代目院長が20年前に追い詰めたマリアンという女も20代だと言っていたことに。これに気づいたネロは言い知れぬ恐怖を覚える。SANチェック、成功で0、失敗で1D2」
「はっ……? どういうことだ?」
 予想以上の情報が出てきすぎてネロは理解が追い付いていない。考えをまとめたいところだが、まずはSANチェックだ。

 マリアンとは一体
 ネロ SAN54
 1D100=51

「情報は取りこぼすわりに、SANチェックだけは異様に強いな……」
 発狂させたいらしい二代目はうまくSAN値が削れなくて残念がっている。こちらとしては遠慮願いたいが、今はそんなことはどうでもいい。
「マリアンってのは複数いるのか?」
「分身出来るってか? 冗談じゃないぜ」
「いや、そこじゃなくて、見た目と年齢が一致してないのが問題なんだろ」
「間違いなくなんかやらかしてるんだろ。こいつは何に手を出したんだよ……」
 その何をしたかを知らないことにはこちらも手が打てない。その手がかりがあるとすれば、残っている冷蔵庫と洗濯機、後は失敗した本棚とベランダ前ということになってくるが、果たして……。

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 2000年6月11日午後1時30分。管理人を廊下の壁に横たわらせ部屋に入った一同は何かないかと慎重に調べ始める。
「……テレビは、特に何も」
「ん? テレビ台の収納スペースに……これは、なかなかパンチが効いてるな」
「悪趣味」
 初代が取りだした女性のモデル雑誌を見た二人はそれぞれ感想を口にするものの、これぐらいで動じることはなかったようだ。一方でベランダ前を調べようとしていたおっさんは臭いにあてられたのか、少し気分が悪そうだ。
「おっさん、大丈夫か」
「……悪い、思った以上にベランダ前の血の臭いがきつくてな」
「あれだったら外に出てろよ。俺が調べてくる。……ダイナもついてくるなよ」
「分かった」
 ぐったりするおっさんにダイナは付き添い、一旦廊下へと出ることに。バージルも本棚を調べていたが部屋の臭いのせいか、特にめぼしいものを見つけることは出来なかった。そんな中、奴は違った。
「……! あったぜ! 秘蔵のやべえ本が……!」
 ベッドの下からお宝を見つけたとそれを引っ張り出した若は表紙を見る。そこには二人の男が描かれており、そのポージングはまるで恋人がするようなものであった。これを見た若は大激怒。力の限りそれを引き裂いた。
「若は何一人で騒いでんだ……っと、開いたな。中は……写真? 姉妹、か? マリアン&シアンに……この日付! なあバージル、この名前覚えてるか? 昨日の地元新聞で見たと思うんだが」
 目ぼしいものを見つけられなかったバージルは声をかけてきたネロの元へ行く。同じように写真を見てから裏を確認したバージルもどういうことだと眉をひそめながら、一つ提案をした。
「……動物病院の院長に見せてみたらいいんじゃないのか。あいつは女の顔を見ているのだろう」
「そうか。あの人なら分かるはずだよな」
「それより、お前の方で本棚を調べてくれないか。一応調べてみたが、見落としがあったら癪だ」
「ああ、分かった。だったらこの本、読んでおいてくれねえか? 何が書かれてるのかまだ見てねえんだ」
「いいだろう。……おい愚弟。騒ぐなら出ていけ、喧しい」
「へいへい。あんなイカれたもんを置いてる部屋なんか1秒だっていたくねえぜ。外でダイナでも守ってるとしますかね」
 見つけたものが相当お気に召さなかったらしい。未だにあれはないとぐちぐちいいながら、若も部屋から出ていった。

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「いいRPだな。……さて、写真を共有したバージルはSANチェックと行こうか。成功で0、失敗で1D2」
「巻き込んで悪い……」
「構わん。お前一人だけで抱えておく情報ではなかった」
 バージルのSANチェックと共に初代のPOW対抗とネロの<図書館>もまとめて処理だ。

 マリアンとは一体
 バージル SAN69
 1D100=35

 どんな本が並べられている?
 ネロ 図書館65
 1D100=30

 ベランダ前は臭いがきつい
 初代 POW15×5 目標値75
 1D100=05

「おっ、名誉挽回だ」
「初代までもが俺の敵に回ったか……」
 PLとしてはクリティカルは嬉しいものだが、KPからすればファンブルもクリティカルも胃痛の元だ。こんなに出るならいっそのことクリファンも不適用にすれば良かったと思うが後の祭り。とはいえ、この処理をするのもなんだかんだと言いつつも楽しくもあるのでやめられないのだが。
「先にネロへ情報だ。本棚を調べていると、皮表紙の黒い本を1冊見つけることが出来る。どうする?」
「どう……って、中身を読む」
「中身を読むなら手に取るだろうな。ならば気づく。その表紙はどこかで触った覚えのあるものだ。それは自分の身体、正確には皮膚と同じ感触であると」
「皮膚!?」
「つまりこの皮表紙には人間の皮膚が用いられていると理解した。SANチェックだ、成功で1、失敗で1D3。後、タイトルが読めたか判定も入れていいぞ」
 表紙が人間の皮膚で出来ているってどんなのだよというネロの突っ込みも虚空に終わり、非情にもSANチェックは行われる。

 正真正銘のやべえ本
 ネロ SAN54
 1D100=49

 ネロ SAN54→53

 タイトルはなんだ
 ネロ 言語(???)1
 1D100=29

「硬いな……」
「二代目待ってくれ。1%ってなんだよ、1%って」
「対応した言語を持っていないからな、初期値の1%で振らせてみた」
 少なくともこの本は英語で書かれているわけではないということは分かったが、読めないことが分かっても全然嬉しくない。この中で他の言語を取っているのはバージルの<言語(アラビア語)>とダイナの<言語(日本語)>だ。
「なるほど、だから推奨技能の一つだったわけか」
「……これは言ってもいいか。バージルでも読めんぞ」
「なんっ……」
「何のための推奨技能だよ!?」
 推奨技能とは一体何だったのか。全員で1%にチャレンジしろということか? 二代目、流石にそれは鬼畜過ぎないか。
「誰かに渡せば答えが出てくるかもしれないな」
「誰かにって……人間の皮膚で作られたこの本をか?」
 誰かに渡せばSANチェックが入るのが目に見えている状態でこの本を回せとは、なかなかに鬼のようなことを言う。しかし二代目が探索なしでここまで情報を出してくるということは、何かしらあるということなのだろう。
「そういやネロとおっさんって、手袋を持っていなかったか?」
「……あっ」
 若の一言に、すっかり忘れていたと二人が情けない声を出す。持ち物はあくまでも持っているだけで、装着する旨の宣言がなければ効果がない。武具は装備をしなければ意味がないというやつだ。
「今からつけてもいいのか……?」
「いいぞ。ネロのSANチェックをなかったことには出来ないが」
 ネロが無駄にSAN値を削った代わりに手堅い経験を得たということで、この本の処理はおっさんに託すことにした。
「露骨に擦り付けて来たな」
「役に立ってないんだから荷物持ちでもしてろ。それに手袋持ってるの俺とあんただけなんだから、こうなるのは必然だ」
 やべえ本の処理が終わったので次は初代。ここではクリティカル恩恵が楽しみだ。
「ベランダ前を調べようとすれば、そのおびただしい血に気分が害されるだろう。しかし初代は腐っても警官だ。その程度では物怖じせず、調べきることが出来た。ということで血まみれのハンマーを見つけることが出来る」
「武器として使えってことか?」
「それでも構わんが。……追加情報だ。動物病院のケージや非常用出入り口が壊されていたが、その時に用いられたのがこのハンマーだと確信する」
「確定情報か、ありがたい。ということはこの女が盗みを働いたので間違いなさそうだな。持っていく」
「なら持ち物に追加しておいてくれ。最後にバージルは本を読むんだったな。……1時間かかるぞ」
「構わん。お前たちはその間に情報共有でもしておけ。ネロ、写真のことだけは伏せろ。無駄にSANを削る理由はない」
 マリアンが黒であるということが分かったので、後はどこかに逃亡しているであろう本人を探すのみだ。その時にここで手に入れた証拠品たちは、大いに役立ってくれるだろう。
 バージルがここで読むということなので、二代目は用意していた1枚の紙を手渡す。それに合わせてダイナにもHOが渡された。

 ダイナへHO
 “黒い本のタイトルがフランス語であることが分かる。二代目が学生時代にフランス語を専攻していたという話を聞いたことがあり、その時に見せてもらった文字の羅列によく似ている”

 古びた本の内容

 1960年8月14日。妹のシアンが交通事故にあった。奇跡的に一命は取り留めたけど、昨日までの見る影もない姿になってしまった。────嬉しい。
 1960年8月16日。事故から2日。シアンのお見舞いにいろんな人がやってきた。交友関係の広いシアンは男女関係なく愛されていた。だけど妹の姿を見ると皆が顔を曇らせて帰っていった。
 1960年8月23日。事故から9日。シアンの友人たちは見舞いに来なくなった。……結局は顔だったのだろう。この前帰っていく男性グループが“あの顔はない”と言って去っていくのを見た。やはり、女は美しくなければならない。──だからこそ、嬉しくてたまらない。ライバルであるシアンはもういない。
 1960年9月1日。今日はこの世の誰も敵わない、美しすぎる少女に出会った。あまりの美しさに、悔しいという感情すら沸かなかった。そんな少女が私に声をかけて来た。ヨランダと名乗った少女が“私の信者にならないか”と言ってきた。信者になったら何でも願いを叶えてくれるらしい。何故だか分からないけどそれが本当な気がして、私は彼女の信者になった。今晩、夢の中で叶えてくれるらしい。
 1960年9月2日。ヨランダは本当に夢に出て来た! だが、本当に叶ったのだろうか? 実感がない。
 1972年5月10日。久しぶりに日記をつける。私は今も26歳の身体で生きている。少女は本当に願いを叶えてくれていたのだ! ああ、ヨランダ様…………。
 1975年6月2日。ああ、憎い。私よりも少しキレイだからという理由だけで、どうして他の女が周りに良くされるの? 私は永遠にこの美しさを保っているというのに……!
 1980年1月20日。私よりも美しい女はヨランダ様以外許さない! すべて死んでしまえばいい……! それもただ死ぬだけなんて許されない。この世の醜いものに無残な死をもたらされるべきなのよ!
 1980年1月25日。犬を盗ってきた。これを使って“それ”を生み出し、私より美しい女を根絶やしにするの!
 1980年1月26日。こんなのじゃダメ! 一人しか殺れていないじゃない! しかも動物病院にいた男に後をつけられていた。なんとか巻いたけれど“それ”を蹴り殺すなんて信じられない。……一度、この町から離れよう。
 1999年10月17日。この街に帰ってきた。後は道具をそろえるだけ。
 2000年6月8日。明日、犬を盗む。そして再び“それ”を呼び、フォルトゥナ教会の地下でヨランダ様にお会いする。もう、誰も私を止められない。

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 2000年6月11日午後2時。バージルは本を読み切ってから部屋を出るということなので、それ以外のメンツは廊下で待機することに。
「あの部屋で本を読むとか、どんだけ本好きなんだよ」
「問題はそこかよ。つかおっさん、俺を守るとか言っといて先にバテてどうすんだ」
「悪かったって。年寄りにはなかなかきつかったんだ」
 都合のいい時だけ歳を引き合いに出すのはいつもながらに卑怯だと思いながら、ネロはおっさんに手袋をさせてから皮表紙の黒い本を渡す。
「本とか勝手に持ち出して来ていいのか?」
「さっき、なんかの本を原形留めないほどに引きちぎっていた若にだけは言われたくねえ」
 あれだけは許せなかったと語る若はさておき、今は緊急事態だ。警察官である初代もいるし、なんとか隠ぺいしてもらえるだろう。なんて責任を擦り付け合う三人を横に、おっさんは手渡された表紙を見る。ダイナもそれを見ようと覗き込む。
「なんだ……タイトルからして読めねえな」
「…………これ、フランス語だと思います。読めないですけど、文字の羅列は見たことあります。二代目院長だったら解読してくれるかもしれません」
「二代目ってフランス語読めるのか。……こっちも不法侵入に使われたであろう鈍器を見つけた。確かめるために一度クリニックには寄るつもりだから、そのついでに頼んでみるか」
 二人の口喧嘩をいなしながら初代が提案すれば、ネロが慌てて言葉を足した。
「その本、絶対に素手で触らないように注意してやってくれ」
「ただの皮表紙だろ。それともなんかあるのか、坊や」
「……なんつーか、人の皮膚を使ってるような材質でさ。すげえ気持ち悪かった」
「表現が穏やかじゃねえな。……つっても、坊やがそう言うなら本当にそんな感じなんだろう。気を付けて渡すとしようかね」
 2000年6月11日午後2時30分。助手からの忠告を素直に聞き入れ、暇つぶしに読めない本をペラペラめくっていると部屋からバージルが出て来た。その手には先ほどの古びた本があり、読み切った本人はかなり不快そうだ。
「おうバージル。血まみれの部屋での読書は新鮮だったか?」
「黙れ愚弟。……そっちの本は解読できそうか」
「フランス語が読める奴がいれば解読できるってことまでは分かったぜ」
 専門外の言語だったため、バージルも読むことはしなかった。それに解読できそうな人物がいるというのなら、そちらに託してしまったほうが早いし、確実だ。
「とにかく、ここからずらかるとしようか。ここは……管理人を叩き起こして応援の警官を呼ぶってことで手を打つか」
「現場を荒らした後なんだが、他の警官を呼んで平気か?」
「俺の上司にしか連絡は入れないさ」
「お前の上司を務めてるってことは……つまりそういうことか」
 ここまで好き勝手する初代の上司ということは、融通の利くそれはもう優れた警官だろう。ということで管理人を起こして、状況が状況なので他にも応援を呼ぶことを説明する。野次馬などが来ても面倒なので一旦この部屋は閉じてもらい、応援の警官が来たらそいつの指示を聞いてくれという丸投げをして一同は現場を後にし、クリニックに戻るのだった。

──────────────────────

 バージルが読んだ情報は移動中に全部伝えるということなので魔法の言葉、かくしかを使い全文省略だ。時間経過に関してはこれぐらいなら口頭であれば移動時間中に済ませられたものにしていいという、二代目の温情がかけられた。
「時間に関しては温情をかけたが、日記を読んだバージルはSANチェック。成功で1、失敗で1D3だ。他の奴らは……まあ、あくまで口頭だ。減少はなくていい」
「ありがてえ」
 飴と鞭の絶妙なバランスに感服している面々を見ながら、バージルは一人ダイスを転がす。

 控えめに言ってヤバイ日記
 バージル SAN69
 1D100=14

 バージル SAN69→68

 本当に削れないと心の中でため息をつきながら、二代目は今から渡されるであろう黒い本の処理も済ませてしまう。

 タイトル読めるかな?
 二代目 言語(フランス語)??
 1D100=??

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 2000年6月11日午後3時。再びデュマーリアニマルクリニックへと戻ってきた一行は、二代目院長にことのあらましを伝える。
「……で、だ。証拠品であるこれらを預かっていてほしいのと、この本の解読を頼みたい」
 血塗れたハンマーに古びた日記、それから皮表紙の黒い本を二代目に見せながらお願いすれば、快く引き受けてくれた。
「この本は素手で触るなと坊やがえらく念を押してくるんでね、守ってくれると嬉しい」
「分かった。必ず手袋を着用してから解読する。……タイトルぐらいは伝えれられると良かったんだが、見た感じすぐに読むのは難しそうだ。すまない」
「二代目じゃなきゃ読むことすらままならねえんだ。謙遜するなよ」
 報告もそこそこに証拠品を二代目に渡そうとすれば、今手袋を取ってくると別室へ移動しようする。それなら俺が持っていくから、置く場所を教えてくれとネロがおっさんから黒い本を受け取り、二代目の後をついていく。バージルも初代から血塗れたハンマーを預かり、日記も持ってネロに続いた。
「……ここにおいてくれるか」
 二代目が自分の事務机に綺麗な布を敷き、そこに乗せるようにと言われたので指示通りに布の上に置いた。
「その、確認があるんだけどよ。マリアンって女の顔、今でも覚えているか?」
「似顔絵を描け、と言われたら無理だ。だが写真を見せられたら、そいつであるかどうかぐらいの判断がつく程度には覚えているつもりだ」
「なら、こいつで間違いないか?」
 ネロが取り出したのは、先ほどのアパートで見つけた姉妹の写真。白黒でかなり古びているが、それでも人物を特定するのに問題はない程度には保存状態がいい。
「……ああ、当時に見た女で間違いない」
「お前が見たのは20年前だと言ったな。この写真は今から40年前の写真だ。……それでも、間違いないのか」
「そうだ。俺が20年前に見たのもまさにこの容姿の女で間違いない。20年経っても年を取らないというのは……生物としてあり得ないがな」
 人間が何十年という月日を経ても姿が変わらないというのも異様な話だが、それを言い出したら犬のような顔をした人並みの大きさをした化け物がいる事も異様なのだ。そしてその異様なことを目の当たりにしている以上、人が年を取っていない程度がなんだというのか。
「昨日の昼までだったら絶対に信じなかったような話ばかりで、頭が痛くなるぜ」
「俺としてはオカルトを取り扱っているからな。現実として存在するならば、作品も作りやすいというものだ」
「肝が据わっていて何よりだ。この写真も預かっておけばいいか?」
「頼む。これはまだ俺とバージルしか知らないんだ」
「……必要になれば、俺から伝えるとしよう」
 そうならないのが一番いいに決まっている。それでも、これから向かう場所は何があるか分かったものではない。保険はいくつあっても足りないぐらいだ。聞きたいことはこれで全部だと言ってネロが部屋を後にする。それに続こうとする二代目をバージルが引き留めた。
「二代目と言ったな。──────」
「…………助かる。元より、そのつもりでいた」
 証拠品を預け終えたネロが一足先におっさんたちと合流する。そのすぐ後にバージルも二代目と一緒に出てきてロビーで待っている初代たちと合流すれば、二代目が見送る前に一つ、問いかけて来た。
「犯人の居場所は特定出来たのか」
「……ああ、必ず捕まえてお前に頭を下げさせてやる。楽しみに待ってろよ」
「無理はするな」
 二代目の言葉を背に受けながら彼らは向かう。
 ──決戦の地、フォルトゥナ教会地下へ。

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「とうとうここまで来たか」
「比喩とかじゃなく長かったぜ……。待ってろよ殺人犯。絶対捕まえて二代目に突き付けてやるからな」
 時計を見れば日付が変わる1時間前。特にすることがなければこのままフォルトゥナ教会へ殴りこみに行くわけだが、ここが最後の準備時間だ。出来る限りのことはしておきたい。
「俺は閻魔刀があればそれでいい」
「俺も身体があれば十分だな」
 脳筋兄弟は程よく殺意も高まっているようで、特に準備物はなさそうだ。とはいえ探偵組もその足から繰り出される殺人キックで葬る気満々。ダイナは治療に専念することになるだろうし、残るは初代。
「……なあ、二丁拳銃ってもちろん出来るんだよな」
「可能だ」
「だったら俺もこれでいい。頼むぜ、エボニー&アイボリー」
 自分の腰に提げてある愛銃を軽く叩きながら気合を入れる初代。なんだかんだでこいつ殺意が一番高い。
「では、フォルトゥナ教会に着いたところから描写していこうか」
 泣いても笑ってもラストは近い。不定の狂気もリセットを入れてもらい、それぞれが気合を入れ最後の戦いへと赴く。

 秘密の結果
 KP シークレットダイス
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