The story isn’t over

 ダイスの女神が大はしゃぎした1日目はなんとか終了し、彼らは次の日の朝を迎える。時間が指定されているのは一体どういう意図があるのか、それは今に分かる──。

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 2000年6月11日午前8時。今朝のニュースとして、以下のことが流れていた。
 昨夜未明、ベオウルフカフェ前にて女性の遺体が発見されました。顔の損傷が激しいものの、持ち物の身分証明書から被害者は23歳の女性、名前はロザリーさんではないかとして調査が行われています。死因は大量の出血による失血死であると思われ、2日前に起きたパンドラパーク殺人事件の手法と酷似していることから、同一犯による犯行ではないかとの見解です。
 また同日未明、ルシフェルアミューズメントパーク前でも同じく女性の遺体が発見されました。持ち物の身分証明書から被害者は27歳の女性、名前はコリーンさんではないかとして調査が行われています。こちらも顔の損傷が激しく、死因は大量の出血による失血死であると思われ、同じ犯行を使ったグループ犯である可能性が出てきました。

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「このニュースは自宅にいる全員が知ったということでいい。……さて、ニュースを見ていたということは、もちろん被害者の女性の顔写真を見ているだろう。ということで全員<アイデア>だ」
「待て待て待て、初っ端からこんな大事件をぶっこんで来るか?」
「ヤバイってレベル超えてるぞ。化け物作ったやつ、本格的に動いてるじゃねえか」
 その反応を待っていたと二代目は嬉しそうだ。聞かされた側としてはたまったものではないが、言っても仕方ない。2日目の初ダイスは全員で<アイデア>判定だ。

 何に閃く?
 ダイナ アイデア65
 1D100=91

 初代 アイデア65
 1D100=81

 おっさん アイデア65
 1D100=27

 ネロ アイデア70
 1D100=32

 若 アイデア60
 1D100=28

 バージル アイデア80
 1D100=99

「どうして全員で振ると誰かファンブルを出すんだ」
 高アイデアであったとしてもファンブルには勝てないのがお約束。初代が外しているのも珍しいが、ダイナの外している安定感も凄まじい。結局、2日目に入ったからといってこいつらの出目が大人しくなるわけがないということを証明したところで、二代目が重い口を開いた。
「まずは……成功した三人。どちらの女性もかなりの美人であると感じた。髭は大学の図書館内で聞き込みもしていたな。だったらパンドラパーク内で殺害されたレスティアという女性も美人だったと思い出す。ダイナと初代は特に思うところはない。そしてバージルは……読書にでも夢中だったのだろう。ニュースに対して無関心だ」
「……いやダメだろ! 犯人とっちめたと思ってたら他にもいたんだろ!? 俺らも無関係でいられないって!」
「知るか! そういう処理をされたのなら仕方ないだろう!」
 犯人をやっつけてめでたしめでたしと思っていたら、次の日には同じ手口で二人も死んだと言っているんだ。また警察に目をつけられるのは勘弁だ。
「……しまった。一つ処理を忘れていた。ダイナ、悪いが起きた時点で[CON×5]をしてくれ。先ほどの<アイデア>は……まあどのみち失敗だ。流してもらえると助かる」
「どういう意図か分からないけど……うん。取りあえず、分かったことにしておく」
 どのみち失敗という破壊力の高い言葉に心を痛めながら、ダイナは言われた通りにダイスを振る。

 何の判定だろう?
 ダイナ CON8×5 目標値40
 1D100=31

「成功するとドキドキするようになった」
 もはや外しすぎているせいで感覚が狂っている。今後ダイナが素直に喜べる日が来るといいが……。
「ダイナは朝起きた時点で体のだるさを感じる。微熱があるといったところか。全ての技能値に-10%の補正をかけるぞ」
 本当は先ほどの<アイデア>も補正をかけなければいけなかったのだが、忘れていたので除外ということに。……まあ、どのみち失敗だからね。
「全技能マイナスとか、かなりでかいぞ」
「ただでさえ外すのに、そこからまだ引かれるとか……もうダイナは判定行わないほうがいいな」
 それぞれがダイナに投げかける言葉には優しさが半分込められている。もう半分? もちろん自分に被害が及ばないようにだ。なんて馬鹿な話はさておき、このニュースを見た彼らはどう動くべきかと考えをまとめだす。
「俺と坊やは気づいたからな。一応レスティアって女性の情報を共有しておこう」
「俺はニュースの話をバージルに振って、少しでも気にしてもらう。……後は初代に電話か? 事件のこと、確認取りたいし」
「ナイスだ若。その時、美人ばかりが死んでるなって感じで情報共有頼むぜ。俺はアラストル警察署に移動だ。それで20年前の事件のことと、動物病院から犬が盗まれたことも調べておきたい。それが調べ終わったら若とバージルを迎えに行く」
「ではそのように処理しよう。探偵組はそのまま9時まで時間を進めていいか?」
「そうしてくれ。9時にダイナの家の前に着いてるぐらいで頼む」
「分かった。若の方は電話をしたら初代から迎えに行くと言われるが、それまで家で待機しているか?」
「ネロから呼び出しがない限り待ってるぜ。それまでにバージルの奴を<説得>する」
「……時間経過で何度か判定を入れてやろう。初代はRPを挟もうか」
 ここでどれだけ情報を引き出せるかで今後の方針が決まるため、初代の顔つきが真剣になる。それに応えるべく、二代目も気合を入れなおすのだった。

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 2000年6月11日午前8時30分。ニュースを見終わった初代は今日も出勤するべくアラストル警察署へ向かう。その途中で若から電話があり、事件のことはどうなったかと聞かれた。それを今から確認しに行くのと、少し調べ物があるからそれが終わったら昨日みたいに迎えに行くから待っていろと伝え、電話を切る。
「美人ばかりが狙われる、か」
 話の途中で若が言った、被害者はどの人物も美人ばかりだという言葉に若干の引っ掛かりを覚えた初代はそれを頭の片隅に置き、警察署内へと入る。
 中は案の定といった感じに他の警官たちが慌ただしく駆け回っている。現場から持ってこられた遺品や証拠品などを検査にかけたり、今回の事件に他の関連性はないのか特定したりと、誰もが忙しそうだ。
「……遅刻だぞ、初代」
 そう声をかけてきたのは上司だ。これで何度目だと言わんばかりの声色で、若干あきらめも交じっているように聞こえる。
「昨日は色々あってね。大目に見てもらいたい。……それより、二つほど聞きたいことがあるんだが、答えてもらえるか?」
「事件に関係のある事。それと俺が知っていることなら答えよう」
「流石、俺みたいな問題児を抱えてるだけあるぜ。……20年前にも、似た事件があったっていう記事を見つけたんだが、本当か?」
「20年前……? …………言われてみれば、かなり類似している事件があったな。確か未解決事件のはずだ」
「……ビンゴ。あともう一つ。同じく20年前に犬が盗まれているはずだ。デュマーリアニマルクリニックからな」
「ああ、それは間違いなくあった。何せ、当時に担当したのが俺だからな。忘れるわけないさ」
「あんたが……? 初耳だ、詳しく聞かせてくれ」
「捜索願を出してくれたのは当時で今のお前ぐらいの年の男だ。今は院長にまでなったとも聞いたな。……結果は今のお前と同じだ。犬がいなくなった次の日にさっき言った殺人事件が起きてな。結局、ろくに捜索してやれず仕舞いのまま月日だけ経って、未解決のまま。……20年も経っちまったら、流石に犬は寿命でくたばってしまっているだろう」
「そのことを知ってて……。だから俺に第一発見者を保護しろなんて言ったのか? 自由に動くことを承知で? ……バレたらクビだぜ」
「覚悟の上さ。確かに殺人事件は大事だ。だが犬を盗まれたのだって、当人からすれば大事だ。事件に大小なんてない、そうだろ?」
「……本当、あんたの部下でよかったと心底思うよ。後は直接院長に聞いてみることにする。ありがとよ」
「せっかちだな。……これを持っていけ。それが20年前の事件概要だ。ないよりましだろう」
「助かる。……自分の立場が危うくなったら、すぐに俺を切れよ」
「バカ言え。そんなことしてまで続けるほど、この仕事に価値はない」
 2000年6月11日午前9時。上司から資料を受け取った初代は兄弟の家に向かう。……とある人物に電話をかけながら。

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「モブだと思っていた俺の上司がこんなに有能だとは思っていなかった」
「二代目が上司かって妄想しちまったけど、二代目をイメージしたNPCはダイナの上司なんだよな……」
 まさかこんな軽い感じに出てきたNPCが重要な情報を吐き出すとは……RPの重要性を思い知らされる。みんなもしっかりRPをしようと心に決めたところで、初代は誰に電話をかけたのかというと……。
「順当におっさんだ」
「俺は!?」
 情報を貰えると思っていた若は自分に電話が来ると思っていたので、なんでといった様子。
 だがよく考えて欲しい。兄弟は今から迎えに行くが、おっさんとは会う予定がない。今の時点で誰か一人に電話をして情報を与えるとするなら誰が一番良いかと考えれば、もちろんおっさん以外の選択肢はないだろう。
「先ほど上司から渡された資料を渡しておこう」
「……ふむ。これはおっさんにそのまま流していいか?」
 問題ないとのお達しが出たのでそのままおっさんに横流し。これに手早く目を通したおっさんはこれで情報が揃ったと笑みを浮かべる。
「時刻的にダイナの家に着くかつかないかぐらいだな。……これを聞いた髭はどうする」
「坊やに情報共有だ。後電話を切る前に、初代もこちらに来れないか確認を取りたい」
「俺か? ……あんな話を聞いた後だしな、出来るなら自分から二代目に確認を取りたい。後は……昔の殺人事件の方も知ってるかもしれないか。兄弟を迎えに行って、そいつらも同行していいなら行けるぞ」
「こちらとしても兄弟は知り合いだ。断る理由がない。ということで全員で時間を合わせて二代目に会いに行くぜ」
 こうすれば最悪情報共有に漏れがあったとしても、その事柄を知っている人間が二代目に問い詰めればいい。二代目が相手となると、例えNPCだとしても気合の入りようが違うのはあっぱれだ。
「大所帯だな。時間はこちらで合わせてやろう。……ちなみに初代が来るまで、ダイナの家の玄関で棒立ちしているか?」
「あんまり出歩かせたくはないな。家に上げてもらうのも……流石にあれか」
 結局良い案も出なかったので、本当に玄関前で初代たちが来るのを待つことに。ちなみに呼び鈴はまだ押されていないので、ダイナは自分の家の前に探偵二人がいることを知らない状態である。
 距離からして初代が兄弟を拾いに行くのに20分。そこからダイナの家の前に行くまで10分かかるので計30分待機することになったおっさんとネロ。……周りから見れば不審者極まりないのだが、ご愛敬だ。
「若、バージルにニュースの話をきちんと伝えられたか<説得>しようか。時間経過を見て……2回判定だ。成功したらバージルもニュースのことを情報として入手していい。出来なかったら弟が無駄に騒いでいるとしか思わない」
「なんか、伝えるのがバカらしくなってきた……」
「おい。それでは何かあった時に俺が行動出来ん。何としても決めろ」
 若の<説得>は初期値だというのに無茶を言う兄だ。だがこうなった以上は振るしかない。

 俺の話を聞け!
 若 説得15
 1D100=100

 若 説得15
 1D100=62

「はあああああ!?」
「貴様……っ! ふざけているのか!」
 二代目はここで思う。茶番でダイスを振らせるのはもうやめようかと。どうしてこいつらは処理に困る場所でクリファンを出すのだろうか?
挙句の果てには100ファンという考えうる限りで最悪の結果。つまり……。
「若の<説得>に耳を傾けるどころか、騒がしいとさらに腹を立てたな。バージルはニュースの話を聞くだけでイラつくだろう」
「……具体的なデメリットはなんだ」
「ニュースに関連する事柄、つまり殺人事件のことを次に聞いたら[POW×7]の判定を行い、失敗したら……弟にでも八つ当たりするんだろうな」
「とばっちりかよ!」
「元はといえば貴様のせいだろう!」
「先にファンブル出したのはそっちじゃねえか!」
 PCが喧嘩する前にPL間同士でのリアルファイトが勃発。飛び道具の撃ち合いに留まらず、閻魔刀とリベリオンで斬り合う大喧嘩に。こうなったら好きなだけやらせておくのが吉なので、双子は放っておいて次の場面に。
「初代が兄弟の家に着いて呼び出せば、不機嫌な二人が出てくる」
「知ってる。……これ、事件のことに触れたら判定が入っちまうが……言わなきゃついてこないよな」
「そもそも、バージルはお前が来ることも知らなかったはずだ。まあ、昨日絡みであることぐらいは察するだろうが」
 バージルのPCのことはバージル自身が考えるのが好ましいが、今はそれどころでないので二代目が代理を務めている。まったく、TRPGをしているというのに他の遊び──血みどろの喧嘩──を始めるとは何事か。
「俺としては、昨日の化け物が本当に死んだのかどうかも疑わしいんだよな。証拠らしいものは何一つ残っていないし、化け物自体を俺は見ていない。それでまた同じ手口の殺人が起きている以上、実は犯人はまだ生きてましたって方が濃厚だ。それにプラスで協力犯がいるってことと、さっきの上司の話を聞いちまったら……全部話して今日もついてこいって言うな」
「妥当だろうな。バージル、[POW×7]だ」
 喧嘩真っ最中であっても器用に話は聞いているようで、ダイスが転がるようにテーブルを蹴る。厳密には振っていると言えないが、こいつらならこれぐらいよくあることだ。

 また事件の話か
 バージル POW12×7 目標値84
 1D100=71

「イラつきはしたものの、切れるには至らなかった」
「現在進行形で切れてるけどな」
 蹴り上げた勢いでダイスだけでなくテーブルの上に置かれている地図やらキャラクターシートなども宙を舞うが、誰も気にすることなく必要な用紙を己でキャッチしてテーブルの上に乗せなおす。なので双子分の用紙だけが地面に散らばった。
「ここから10分経過して、ようやく髭たちと合流だな。……ダイナを呼ぶか?」
「ああ、普通に呼び鈴鳴らして出てきてもらう」
 ダイナも断る理由がないので普通に出る。外に出てみれば昨日知り合った面々が勢ぞろいなのだから、若干の驚きはあるだろう。
「全員そろったし、二代目院長に会いに行きますか。ついでに持ってる情報も共有しあっておこうぜ」
 今までのことといえば今朝のニュースの話と、初代が持ってきた20年前の事件の概要だろう。ということで先ほどのHOに全員が目を通す。
 ちなみに喧嘩の結果は引き分け。そろそろRPが始まるということで髭と初代に取り押さえられるのだった。その間、ダイナに確認を取るメモが二代目から手渡されていた。これに対しての行動をダイナが示すと二代目が一度だけダイスを振るった。
 そしてシナリオは動き出す……。

 秘密の結果
 KP シークレットダイス
 ??=??

 HO情報
 “1980年1月25日、デュマーリアニマルクリニックで治療を受けていた犬が2匹盗まれる事件が起きた。現在も犯人は特定できておらず、捜索は難航している”
 “1980年1月26日、午前0時~2時の間にデュマーリアニマルクリニック前の歩道にて、ジャクリーン(女性・28歳)の死体が発見される。顔の原型が残らないほどに鋭利な何かで引き裂かれていた。目撃証言として『赤い目』をみたというのがあがっている”

 ダイナへの確認HO
 “風邪のことはみんなに話すのか?”→“性格上、我慢をするタイプだと思うので黙っている”

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 2000年6月11日午前9時30分。望む、望まざるに関わらず、気づけば昨日と同じ顔を合わせることになった面々はデュマーリアニマルクリニックにたどり着く。今回の事件と類似している約20年前の事件の情報を知るために。
「二代目、いるか? 邪魔するぞ」
 彼の知り合いである初代を先頭に他の五人も続けて院内に入れば、薬を持って歩いている二代目院長がすぐに出迎えてくれるだろう。
「初代か。……他にもいろいろと引き連れて来たみたいだな」
 動物病院だというのに誰一人としてペットを連れて来ていないというのは珍妙な光景だが、あくまでも目的は話を聞きに来たのだからそれもある意味で自然といえば自然だ。探偵である二人は色々と報告することもあるということで、二代目と初対面である兄弟の説明もそこそこに、まずはダイナのことへの謝罪から話はスタートする。
「実は昨日、初代が追っている事件の方の殺人犯と出くわしちまってな。あんたとこのお嬢さんに怪我をさせちまったんだ」
 怪我と聞いた二代目は眉間にしわを寄せながらも、彼らの言い分を黙って聞いてくれた。
「本当に申し訳ない。俺が傍にいたんだが……その……手も足も出なくて……」
「怒るなら俺に怒ってくれ。坊やに任せて護衛対象から離れた、俺の判断ミスだ」
「……全くだ。初代からの紹介だったから信用していたんだがな。それと訂正しておくが、別に俺はダイナの父ではないぞ」
「いや二代目、それは分かってるって」
 居心地悪そうに頭を掻きながら初代が突っ込む。ただ今回の件に関してはたまたまではあるが初代も同行できる可能性があったというのに、それすらも出来ずに怪我を負わせてしまったんだ。返す言葉もない。
「ダイナ、傷の方は」
「探偵さんが手当てしてくれました。驚くぐらいに手際が良くて、特に痛みもありません。……二代目院長、こう言っては何ですが、危険を承知で同行したのは私です。彼らに非はありません」
「それでも彼らは護衛の依頼も引き受けた。とはいえ、犬を盗んだ犯人に襲われたわけではなかったのであれば、依頼外でもある。……試す物言いをしてすまないな。今回のことは不慮の事故だったということはよく分かった。それでも言い訳をしない態度も好感が持てた。そして手当てまでしてくれたというのだ、俺の方からは感謝こそすれ、文句はない」
 厳めしい顔つきから一転し、ダイナを守ってくれてありがとうと二代目院長が頭を下げた。
「俺らは頭を下げられるようなことはしていない。感謝するなら、たまたま居合わせた兄弟の方にしてくれよ」
「必要ない。自分の身を守るためにやっただけだ」
 ダイナの件についての報告も適度に終えたところで、立ち話もあれだからということで二代目がロビーのソファに腰かけるように促す。業務に携わっている人間がここには二人しかいないのと、そもそも人間を持て成すような店ではないということもあり、これだけ大勢の人間を一度に案内できる部屋がない。そのため、現在は事件があったために休館しているのを利用してロビーで本題に入ることにしたようだ。
「ダイナの怪我に関しては理解した。……が、本題に入るのは少し待ってくれないか」
「本当、勘が鋭いっていうか……それだけ察しがいいなら警官に向いてそうなもんだがな」
 初代の誘いに検討しておくとだけ答えた二代目はおもむろにダイナに近寄り、彼女の額に手を当てながら怒った声色で詰め寄った。
「体調のことは探偵の者たちに伝えたのか」
「に、二代目院長! 人前です!」
 突然のことに動揺するダイナのことはお構いなしで、二代目院長はさらに語気を強くして問い詰めた。
「いいから答えろ。熱があることはきちんと伝えたのか」
 言葉を詰まらせて下を向くダイナの態度から、伝えていないことを悟った二代目院長は大きなため息を一つ漏らした。仕方のない奴だと口にはしないものの、若干の諦めも混じった様子で彼は言葉を続けた。
「獣医師が人間を見るのは法律に触れるが……致し方あるまい。どうせ病院に行けと言っても聞かないだろうしな。……ということで俺は今からダイナの症状を調べるので、少し時間を貰えるか? その後でよければ本題を聞かせてもらおう」
「俺も同行していいか? 昨日手当てしたとはいえ、俺は知識があってやったわけじゃないんだ。確認しておきたい」
「そういうことなら構わない。初代たちはどうする」
「俺はこいつらと待ってるさ。言い方は悪いが……隠してること、全部話してもらうぜ」
「…………後で話を聞こう。それと、くれぐれもこのことは誰にも言わんでくれよ」
 こうして、ダイナの傷の程度と体調を調べるために三人は別室へ移動する。その間、残りの四人はロビーで情報をまとめ合いながらまったりと待機するのだった。

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「二代目が言わなきゃダイナが体調崩してること、俺たち知らないままだった……」
 危なかったと冷や汗を流すネロ。なんで言わなかったんだと他の面々に責められているダイナは、私だったら言うわけがないと平然としている。 事実、PCの性格などを考えると言わないのは自然なのだが、それによって不利な状況に陥ってしまうことがあるのがTRPGの難しいところだ。これを如何にRPや相手の性格を見て行動していくかを考えるのも、なかなかに楽しい部分でもあるわけだが。
「しかし、なんで二代目は気づいたんだ?」
「まあ……メタ的に言えば出目だな」
「あっ、さっきのシークレットダイスはそういう……」
 NPCである二代目院長に関してはキャラクターシートがきちんと二代目の手によって製作されているので、それに乗っ取った何かしらの判定を行ったのだろう。あくまでもKPは必要なことがあればダイスを振るうわけであって、それが必ずしもPLたちにとって不利益なものばかりではない。TRPGというのはKPとPLが協力し合い、より良いシナリオになるのを目指すごっこ遊びなのだから、KPは敵ではないのだ。
「そうだ二代目。<心理学>をしたいんだが、いいか?」
「ふむ。……最後の“後で話を聞こう”という部分に……で、あっているか」
「そこでいい。他は……そもそも二代目を疑う要素を持っていないよな」
「少なくとも俺とバージルはないな。今初めて会うわけだし、別に接点もない」
「俺も、ダイナを怪我させちまったって負い目はあっても疑う理由はないんだよな。それに依頼主の上司だし」
 おっさんは二代目の方について行っているわけだから<心理学>をする必要もないと考えているので、今回は初代のみだ。

 なにかんがえてるの?
 初代 心理学60
 1D100=??

 秘密の結果
 KP シークレットダイス
 ??=??

 KP シークレットダイス
 ??=??

 KP シークレットダイス
 ??=??

「<心理学>の結果だ」
 さらりと書き上げられたHOに目を通し、内容を見なかったことにするかのようにそっとテーブルに伏せるのだった……。

 初代HO
 “本当に聞いてもらえるのかどうか分からなかった”

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 2000年6月11日午前10時。まずは傷の状態を見てみないことには話が始まらないため、ダイナは言われた通り怪我をした肩を二代目に見せる。これを見た二代目院長は表情を曇らせたまま、確認するように問いかけた。
「この傷跡は……。本当に昨晩、殺人犯に襲われたのか?」
「パンドラパークで殺害された被害者を見つけた第一発見者が先ほどのバージルさんで、その方が見た犯人で間違いないと言っていたので」
「……人、だったのだな?」
 念を押して確認してくる二代目院長の言いたいことが、ダイナには分かるだろう。
 今朝の時点でも鏡で自分の傷を見て思ったはずだ。……明らかに動物、それも大型犬に噛みつかれたような傷跡であるということに。このような傷跡を人間が噛みついたところで出来るわけがない。
 ただ問題は、本当のことを言っても信じてもらえる根拠がない。何一つ証拠がない状態で、探していた犬が化け物に姿を変えていただの、それが襲い掛かって来ただの言おうものなら、疲れているからゆっくり休めと家に押し戻されるのがオチだ。
「化け物だったって話だぜ。……もっとも、俺と初代は見ていないんだが、携帯越しに早口で鳴く犬のような声は聞いた」
「探偵さん、それは……」
「お嬢ちゃんは嘘も隠し事も出来ない性質だろ? ……というか、こんな勘が鋭い上司が相手じゃ俺だって隠し通せる自信がない」
 笑われてもいいから吐き出しちまえと背中を押してくれたのはおっさんだった。それでも踏ん切りがつかないダイナは二代目院長の様子を恐る恐る窺えば、ふざけたことをと怒っているどころか、真剣な眼差しが自分に向けられていることに気づく。
「そいつを……ダイナは見たのか」
「……はい。犬のような顔をしていて、前屈みな姿勢でした。垂れた耳に平たい鼻。それから赤い目と八重歯が特徴的で……その、盗まれた犬の1匹……でした」
「それに噛みつかれたんだな?」
「そうです」
 これを聞いた二代目の表情は一層険しいものになり、急いで薬棚のところへ行って何種類かの薬瓶を持って調合を始めた。
「申し訳ないが、初代たちを呼んできてもらっていいか」
「お安い御用だ。……ちなみに、何作ってるんだ」
「ダイナの体調不良の原因が分かったのでな、それに効く特効薬だ」
 特例だと苦笑いしながらも、薬を作る彼は真剣そのものだ。ダイナも二代目院長が作る薬なら大丈夫だと信じているようで、完成した薬を躊躇うことなく口にした。おっさん自身も自分に対して作られた薬だと言われたら訝しんだだろうが、可愛がっている部下に対して得体のしれない薬を作ることはないだろうと思い、言われた通りロビーで待機している面々を呼んで戻ってきた。
 2000年6月11日午前10時30分。薬を服用したダイナの顔色は先ほどと違い、かなり健康的な肌色に戻っている。
「随分と待たせた。それで初代、俺に聞きたいことがあると言っていたな。話を聞こう」
「今から約20年前、ここから犬が2匹盗まれた事件のこと、覚えているだろ。……犯人はどうなった」
「事件があったことは認める。だが犯人は分からん」
「その翌日に目の前の歩道で女性が死んでいたってのは」
「知ってはいるが、俺が発見したわけではない。当時の内容はお前の方が詳しく調べられると思うが?」
 ここまで話して初代はどう切りこむべきか、悩んでいた。
 特別なことを知っているわけでないなら、捜索の依頼を出す時点で昔にもよく似た事件があったことを話してもいいはずだ。だが二代目はそれをしなかった。今の話した感じで行けば、忘れていたというよりは故意に話していなかったように思える。ならばどう伝えるべきか言葉を選んでいると、ふと二代目と視線が合う。たったそれだけのことではあったが、何故か初代は二代目に怒られたような気がするのと同時に、どうしてそのように感じたのかを理解し、自嘲した。
「ははっ……そうだ。相手は二代目なんだ、遠慮することなんかないよな。……単刀直入に聞くぜ。赤い目をしていて早口で鳴く犬のような声の化け物に心当たりはあるか?」
「その化け物とやらをお前は見たのか」
「生憎、俺はまだだ。……が、ここにいる四人は見てるぞ」
 先ほど二代目に証言したダイナはもちろんのこと、ネロに若、バージルも化け物を見たと皆が一様に証言すれば、二代目は観念したように話し始めた。
「……ダイナがいる前では話すつもりはなかったが、実物を見たと言っているなら隠す理由もないか。何より、偶然という言葉ではすまないところまできているようだ。この際、全て話すとしよう」
 少し長くなると前置きをした上で、二代目は語ってくれた。
 20年前に犬が2匹盗難された時と、今回の盗難のケージの壊し方や非常出入り口からの侵入などがよく似ているということから、同一犯ではないかと睨んでいること。
 昔の事件の時は“マリアン”という、当時20代後半ぐらいの女を問い詰めたことがあるそうだ。しかし、突然女を庇うようにして現れた赤い目をした前屈みの何かに襲われ、取り逃がしてしまったという。腕に噛みついてきたそれを振り払い無我夢中で蹴り飛ばすと、それは早口で鳴く犬のような声を上げながら朽ちていき、死体が残ることはなかった。
 ──だが、その時に見た顔は一生忘れることはない。それは間違いなく盗まれた犬と同じだったからだ。その後女の行方も分からなくなり、20年の月日が経った。
「これが俺の経験した一件だ」
「経験したなら、なんでもっと早くに言ってくれなかったんだ」
「質問に質問で返すのは主義に反するが、敢えて問うぞ。人間の出で立ちをした犬のような化け物に襲われたと聞いて、お前は信じるか?」
「…………いや、あの二代目がジョークを言うようになったと、一種の感動を覚えて終わりだな」
「俺とて話だけでは信じない。もっとも、今回については伝えておけばダイナが怪我をせずに済んだのかもしれないと考えると、やりきれない部分もあるが」
 どう転んだところで誰にも信じてもらえない話であることに変わりはなかった以上、二代目が黙秘を貫こうとしたのにも一応の理解は示せる。しかし、二代目は覚悟を決めて話してくれた。こうなったら、初代のすることはたった一つだ。
「話してくれてありがとよ。後は俺に任せておけ、絶対に犯人を捕まえてやる」
「頼もしい限りだ。……無理はするな」
「簡単にくたばったりしないから心配すんな。……さて、これで事件の全貌もある程度見えてきたし、飯を食って再出発だな」
 2000年6月11日午前11時。二代目院長の話を聞いたそれぞれはどこを目指すべきなのかを知ったところで、クリニックを後にする。……前に、二代目院長に引き留められた者がいた。
「探偵の二人に話がある」
「犬の捜索はまだ終わっていないが……他にも何かご所望で?」
 ダイナには薬のことで話があるということで先ほどの部屋で待ってもらっている。ということで、他の三人だけが先に外で待っていることに。
「そのことだが、俺自身が体験した事例とダイナの経験からして、残りの犬がどうなっているか大体の想像はつく。それを承知で捜索してくれという依頼を出し続けることは出来ない」
「依頼を取り下げるってことか?」
「もちろんキャンセル料などは支払わせてもらう。……悪い話ではあるまい」
「お断りだ。俺は受けた依頼はきっちりこなす主義なんでね」
「……おっさん、俺は下りた方がいいと思う。あれは……冗談とかじゃなくやばい」
 ネロの口からそんな言葉が出てくると思っていなかったおっさんは驚く。これまでにもなかなかにスリリングな仕事は受けてきたが、それでも弱音を吐くことがなかったネロが下りた方がいいと言い出すなんて、微塵にも考えていなかったからだ。
「坊やは見たんだったな。目撃したお前が下りた方がいいっていうなら、そうなんだろうな」
「昨日助かったのだって、本当に運が良かったからなんだ。だから──」
「ネロ、お前は下りていい。そのことを誰も責めたりしない」
 普段から坊やとしか呼ばない癖に、何かを諭すときだけ名前で呼んでくるのがおっさんだ。だから、おっさんが何を考えているかなんて、ネロには手に取るように分かる。
「ふっ──ざけんな! おっさんは続けるつもりか!? 本当に殺されちまうかもしれねえんだぞ!」
「だったら尚更だ。そんなところに初代を一人放り込めってか? ……安心しろ坊や、こう見えて護身術は心得てる。そう簡単にくたばったりしないさ」
「俺より体力もなけりゃ身長もねえくせに……」
「それに関しては言わないお約束だろ? 結構気にしてるんだ、傷つくぜ」
 少しでも冗談交じりな言葉を投げれば、すぐにそれに乗って粋なジョークを返してくるのもいつも通りだ。これから危険なことに首を突っ込むなんて思ってもいないような、飄々とした態度。
「……しょうがねえから、最後まで付き合ってやるよ。どうなっても知らねえからな」
「言うようになったな坊や。見苦しいところを見せちまったが、くれぐれもお嬢ちゃんには内緒に頼むぜ」
 もう普段通りに振る舞って、最後にはネロが駄々をこねたみたいに扱う。そんな彼でも何かあれば本気でネロを庇って、小馬鹿にしながらしっかりしろと叱咤してくれる。そんなおっさんが自分のあずかり知らぬところでくたばるなんてことがあったら、この先どうしたらいいか分からなくなる。だったら、危険だって分かっていたってついていくしかない。
 これが、ネロの出した答えだった。
「君たちがそれでいいというなら、もう俺は止めない。……無茶してくれるな」
「分かってるさ。死んじまったらあんたから依頼料がもらえなくなっちまう」
 最後まで緊張感のかけらもないまま、おっさんはクリニックの外で待っている初代たちの元へと行ってしまう。これを追いかけるようにネロも出ていった。
「二代目院長。さっきの話ですが」
「あれだけ騒いだら聞こえているか。……初代の知人であることを失念していた」
 医療室から様子をうかがっていたダイナが若干の気まずさを覚えながらも部屋から出てくる。様子を見るに熱は引き、体に異常はなさそうだ。
「あの……私も行きます。ちゃんと自分の目で、他の犬たちも見つけたいんです」
「化け物のような姿になっていたとしてもか」
「動物たちに罪はありません。……どんな形であれ、最期を看取るのも獣医師の務めだと私は考えています」
「……止めても無駄、ということか。まったく、どうして俺の周りにはこうも頑固者が揃っているのだろうな」
「ご自身が一番よく知っているかと」
「言うじゃないか。……これを持っていけ。緊急だったから一つしか作れなかったが、ないよりマシだろう」
 そういって二代目が手渡したものは、先ほどダイナが飲んだものと同じ薬だった。効果に関してはダイナが実証済みであるから、何かあれば安心して使えるものであることに間違いない。
「さっきの残りですか?」
「そんなところだ。……いいか、化け物に“噛みつかれたら”使え。奴らはレプトスピラ症の元となる細菌を持っている。俺も昔かかったからな、ダイナと同じだ」
「その時も、自力で治療を?」
「警察に相談したところで信じてもらえないことは目に見えていた。それどころか、噛み傷を見せたところでただの不注意と思われるのが関の山だろう」
 獣医師である以上、噛み傷なんて見せたところで何の根拠にもならないだろう。蹴り飛ばしたそれ自体も跡形もなく消えてしまっている以上、証明が不可能だというのが何よりも手痛かったと二代目は言う。
「薬、ありがとうございます」
「いいか、今日は絶対に初代たちから離れるな。それと、決して無理はするな」
「はい。動物たちの治療の方、お願いします」
「当然だ。俺の腕は知っているだろう」
「はい、私の憧れです。……それでは、いってきます」
「気を付けて、いってきなさい」
 2000年6月11日午前11時20分。二代目に見送られたダイナはクリニック前で待ってくれていたみんなと合流する。──今度こそ、真犯人を捕まえるために。

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「やっぱり二代目は重要人物だったな」
「ようやっと事件の全貌も見えたし、俺と初代は固まって動く理由も出来たからやりやすくなったぜ」
 二代目自身もNPCとはいえみんなとRPが出来たのが楽しかったのか、どことなくだが機嫌がよさそうだ。ネロとダイナもPCらしい行動が出来たと先ほどのRPをかなり気に入っている。
「残るは20年前に二代目が捕まえ損ねたというマリアンなる女性の居場所を突き止めることと……飯だな」
「また聞き込みか?」
「住所ぐらいだったら警察署に行けば調べられるんじゃ?」
 目標は決まったものの、その人物を探す手がかりがないという困った状態。どうしたものかと考えを巡らせてもこれといった案が出てこなかったため、先にご飯の描写を済ませてしまおうということになる。……前に、確認事項が一つ。
「そうだ。私のマイナス補正、どうなった」
「ああ、薬を飲んだから解除されたぞ。後、持ち物に一つ追加しておいてくれ」
 何かが変動したときは、忘れないうちに確認を取って処理を行うことを常に心掛けたい。でないと後々になって分からなくなってしまうからだ。

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 2000年6月11日午前11時30分。デュマーリアニマルクリニックを後にした一行は一先ずお昼を済ませるために適当な店に入り、注文を取る。それから料理が運ばれてくるまでの間、今後についての話が始まった。
「まず……兄弟は家に帰すか」
「はっ!? なんでだよ!」
 いきなり帰されると言われ、若は声を荒げた。対してバージルは言われることを予測していたのか、何か声を上げることはなかった。
「なんでって……理由がないだろ、ついてくる」
「それは……そうかもしれねえけど、ここまで事情を知って引き下がれってか?」
「だからお前はバカなのだ。事情を知りすぎたからこそ、今ならまだ後戻りが出来ると初代は言っている」
 初代は仕事という理由を抜きにしても、大切な友人を20年以上も縛り付けている今回の一連の事件から手を引くなんてあり得ない。そしてその危険な事件に首を突っ込もうとしている友人を持つおっさんも然りだ。ネロも自分で決意してついていくことを決めているし、ダイナにだって退けない理由がある。
 ただ、この兄弟は完全に運悪く巻き込まれただけの一般人。最初こそ無実を証明するためという理由があったが、犯人の有力候補が出てきたとなれば話は別だ。
「残念なことだが今日も事件が起きている。それにニュースでも言っていただろ、グループ犯である可能性が出て来たって。ということは実質、バージルが単独で犯行を行うことは不可能だ。……こいつに協力してくれそうな友人がいると思うか?」
「……思わない」
「おい、どういう意味だ」
 運ばれてきた料理を口に運ぶ手を止め、初代と若の発言に苛立つバージル。しかし弟である若にとっては日常茶飯事過ぎて効果はないし、初代も短い間ではあるが扱いに慣れたのか謝る気配もない。今にも閻魔刀に手をかけ抜刀しかけるバージルを落ち着かせているおっさんを横に、ネロが若に声をかけた。
「若はあんなことがあって、怖くないのか?」
「あー……。怖いっつーか、それ以上に俺がやらねえとって気持ちの方が強かったからな。ダイナは荒事なんて無縁の人間だっただろうし、ネロだって素人ではないにしても専門に扱ってるわけでもないのは知ってたし」
「こいつの心配なんぞするだけ無駄だぞ。それよりも、俺はお前の方が心配だ。……おい髭、無理強いしていないだろうな」
 恐怖のあまり動けなかったネロの姿を見ているバージルは、弟である若以上にネロのことを気にかけているようだ。自分の弟もこれぐらい可愛げがあればという皮肉なのだろうか。
「坊やが自分で決めたことだ。それに口出しするのは野暮ってもんだろ? 俺に出来るのは守ってやることだけさ」
「その貧弱な体力でか? 笑わせる」
「おまっ──。気にしてるからそれは言うなって何度も……」
「おっさん。揉めてるところ悪いが、何とか説得しといてくれ。俺はちょっくら署まで行ってマリアンって女の住所、調べてくるからよ」
「おいこら逃げんな。……行っちまいやがった」
 ここはバージルの友人であるおっさんと、若の友達であるネロに任せた方が得策だと判断した初代は料理を平らげ、一旦一人で警察署へと戻っていった。丸投げされたおっさんはどうしたものかと兄弟の顔を見れば、それはもう説得なんて聞く気がないと言わんばかりの表情を浮かべていらっしゃる。
「俺は何を言われてもついてくぞ。ネロのことはもちろん、ダイナのことも放っておけねえ」
「荒事の専門家がついてきてくれるのは俺としてもありがたくはあるんだが……責任が取れないんだな、これが」
 この兄にしてこの弟あり。一度言い出したら何を言っても無駄だろう。それどころか、無理に家に帰したところで勝手に自分たちで調べ出して現場に行こうものなら、それこそ危険だ。ただ、相手が何をしでかすか想像がつかない以上、何かあった時の保障が出来ない。
「己のことは己で何とかする。それが出来ずしてついていくなどとは言い出さん」
「ああ……バージルもついてくる気満々なのね。分かってはいたけど」
「当然だ。俺に濡れ衣を着せたこと、後悔させねば気が済まん」
「なんか……犯人が気の毒になってきた」
 悪事を働いている以上見逃すつもりは毛頭ないが、それでも一応相手が女性であるということを知っているおっさんは複雑な心境の様子。というか、最初は犬探しだったのが気づけば殺人犯探しになるなんて、誰が考えつくというのか……。
「おっさん、若も連れていくのか?」
「本人がやる気だしなあ……。言っておくが、報酬はねえぞ」
「別に金を目当てに行くわけじゃねえから。俺はネロとダイナが守れるならそれでいい」
「俺も貴様と違って金には困ってない。いいから黙って連れていけ」
 おっさんの説得も──する気は一切なかった──空しく終わり、結局この面々で犯人をとっちめることになった。後は初代が戻ってくるのを店の外で待つばかりだ。

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「ふむ……帰らなかったか」
 二代目はこれに関しては想定内だったようで、別段困っている様子はない。まあ彼らの性格を鑑みればこうなることぐらいは簡単に想像がつくというものだ。というか、もし立場が逆で二代目が探索者だったとしても、ここで帰るなどとは言い出さないだろう。
「これで初代が女の所在を掴めば最終決戦か……」
「望むところだ」
 全員の目的が合致し、残るは居場所を突き止めるのみ。食事を取ったことでペナルティを心配する必要もないし、ダイナの体調不良も完治済み。さらに特効薬もあるとなれば、負ける気もしないというものだ。
「では女の所在を掴めたかどうかは……資料探しだろうな。<図書館>で判定だ」
「その技能は持ってないな……。何か別のもので代用は利かないか?」
 まさかの初期値技能を振ることになるとは思っておらず、何とかならないかと抗議する初代。ここまで来て情報が取れなくて犯人を取り逃しましたなんて情けない終わり方は是が非でも避けたい。
「いや、これに関しては<図書館>のみだ。そう警戒せずに振ってくれ、悪いようにはしない」
「……お前ら、外しても恨みっこなしだぞ」
「ファンブルじゃなきゃ許してやるから安心して振ってくれよ」
 お前がそれを言うかとおっさんに青筋を立てながらも、怒っても仕方がないのでとにかくダイスを振るのみだ。

 女の所在はどこだ
 初代 図書館25
 1D100=61

「やっぱダメか……」
 成功回数はぶっちぎりで一番の初代だが、何でもかんでもうまくは事が運ばないのが世の常。後は二代目がどういった判断を下すのかを待つしかない。
「では、女の所在自体は見つけることが出来たが、普段から資料探しには慣れていなかったため探し当てるのに30分かかった」
 どうやらこの判定は成功、失敗に関わらず情報自体は出てくるものだったようだ。もちろん、失敗した以上はそれなりの対応……今回で言えば時間が多くかかったことになる。
「ここに来て多めの時間経過か……」
「警戒しなくていいと言っただろう。俺もそこまで鬼じゃないさ。……女の住んでいるのはここだ」
 どうせこの後おっさんたちと合流して現場に直行することは分かっているので、地図を見せながら全員に見えるように指をさす。
「マレットアパートね……。そこしかないよな」
「6匹の犬の目撃もそっち方面だった。まず間違いないだろ」
 昨日の夜に離れていたおかげで襲われなかった二人組は地図の右側もある程度聞き込みしているので、あたりはつけていたようだ。
 ちなみに、初代が戻った時点で兄弟も残っているのを見たらどういう反応をするのかと聞けば、おっさんの知り合いだって聞いた時からある程度覚悟はしていたから、渋々連れていくということで納得したという。