Who will get last laugh

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 2000年6月11日午後3時10分。フォルトゥナ教会へとやってくると、そこは昨日までとは違い閑散としていた。その理由はすぐに分かるものだった。扉前には昨日と同じように佇む少女と張り紙が一つある。張り紙には数日の間神父がするにする旨が書かれており、そのために信者たちも祈りに来ていないということはすぐに分かる。とはいえここは教会だ。神父がいなくても好きな時に好きなだけ祈りを捧げて良い場所として、管理している神父がいなくても鍵はかけられておらず、誰でも自由に祈りを捧げられるようになっている。
 これは今の彼らにとっては好都合である。少女に完全無視を決め込み教会内へと入り、祭壇を目指す。そして床を見れば昨日と同じ状態であることが見て取れる。床には祭壇と同じ幅の引きずった跡も残ったままだ。

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「祭壇を退けるならSIZとSTRで対抗。何人で押してもいいぞ」
 何人でもいいならもちろん全員で押すということで判定だ。

 祭壇を動かそう
 六人 STR82 SIZとSTR対抗 [50+(35-82)×5]% 目標値285
 自動成功

「では、祭壇の下に隠し階段が見つかった。一人ずつであれば降りていけるほどの幅だ。ここで持ち物とステータスの最終チェックだ。……みんな、これでいいな」
 増えた物や減ったものを書き直したキャラクターシートを一人ずつ見せ、最後の確認を取る。誰も言葉を口にしないが、身に纏う雰囲気を感じ取ればそんなものは不要だ。二代目もこれ以上問いかけることはなく、シナリオを続ける。

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 2000年6月11日午後3時20分。みんなで跡に沿って祭壇を動かせば、下へ続く階段が現れる。お互いに顔を見合わせ、ゆっくりと階段を降りていくと、地下だというのに不思議と明るいことに気づく。……どうやら奥から光が射してきているようだ。
 階段を降りた先はかなりの広さがある部屋となっていた。壁には等間隔に備え付けられた蝋燭全てに火が灯っており、そのおかげで光源は十分だ。それと同時に見たくなかったものもはっきりと捉えられる。
 程度の差こそあるものの、それは人間によく似ていた。二本足で立っているといえる姿勢だが前屈みで、どことなく知っている生き物に似ている。
 何を隠そう、犬だ。みんなが知っている、ペットとして飼われるような愛嬌は見る影もなく醜悪な姿になり果て、中央にいる誰かを囲んでいる。そんな恐ろしい化け物たちに守られるように、一人の女が赤色で地面に描かれた六芒星の中心で本を片手に何かを呟き続けている。

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「食屍鬼を初めて見た初代、髭は成功で0、失敗で1D6のSANチェック。二度目である四人のうち、ネロは再びあの化け物と対峙するという極度の恐怖を思い出す。成功で0、失敗で1D6+1。ダイナは覚悟していたとはいえ、やはり見覚えのある犬の顔にショックを受ける。成功で1、失敗で1D6+1。若とバージルは成功で0、失敗で1D4だ」
「二代目、まだ食屍鬼には気づかれてないんだったら、奇襲をかけたい」
 若がなかなかに難しい提案をしてきたので、少し考えさせてくれと二代目がタイムを取った。その間にSANチェックを済ませてしまおう。

 見てはいけないものを見た
 ダイナ SAN46
 1D100=82

 1D6+1=1+1=2

 ダイナ SAN46→44

 初代 SAN74
 1D100=77

 1D6=4

 初代 SAN74→70

 おっさん SAN68
 1D100=54

 ネロ SAN53
 1D100=46

 若 SAN58
 1D100=59

 1D4=3

 若 SAN58→55

 バージル SAN68
 1D100=46

「あっ……ぶねえ……」
「初代がここで発狂したらマジで壊滅するからな。首の皮一枚で繋がったぜ」
 ギリギリではあったが何とか全員踏みとどまってくれた。この結果を見て二代目は残念そうにしながら、若の提案してくれた奇襲の説明を始めた。
「今回は宣言をした若のみ適用する。<隠れる>と<忍び歩き>の組み合わせ判定に成功すれば奇襲扱いにする。ただしSANチェックに失敗しているので-10の補正をかける。また成功、失敗に関わらず1ラウンド目の行動順は一番最後に固定だ。そのため奇襲攻撃が行われるのも最後。また<かばう>の宣言も不可能とする。……この条件でいいなら奇襲に挑戦してみてもいいが、どうする」
「奇襲に失敗した場合はどうなるんだ」
「普通に敵にばれたということで戦闘開始だ。行動順が一番最後になるが<かばう>以外なら行動出来る」
「オーケーだ。奇襲をかけるぜ」
「なら判定してくれ」

 奇襲なるか?
 若 隠れる70-10 忍び歩き66-10 目標値56
 1D100=31

「見事だ。では若の行動順は1ラウンド目は最後に固定だが、奇襲扱いとする」
 SAN値を削られても潜伏を決めるのは大したものだ。戦闘特化にしているのは伊達ではない。

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「っ……あ……」
「予想以上……だ、な……」
「…………」
 覚悟は決めていたとはいえ、やはり実物を直視したのは堪えたようで初代とダイナが声を漏らす。若も一瞬怯むものの、すぐに切り替えて姿をくらませた。
 しかし、一度口から洩れた声が戻ってくることはない。音に気づいた食屍鬼たちがこちらに気づき1匹……また1匹とこちらへとにじり寄ってきた。ただ中央にいる女だけが、それにも構わず何かを呟き続けている。

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「戦闘開始。相手は全部で6個体。中央にいる女が一人と、食屍鬼が5体だ」
 決戦の火蓋が切って落とされた。1ラウンド目の行動順を決めるため、同値はダイスを振る。

 誰から行動?
 ダイナ DEX12
 1D100=72

 ネロ DEX12
 1D100=28

 おっさん DEX12
 1D100=11

 マリアン DEX??
 1D100=??

 食屍鬼1 DEX??
 1D100=??

 食屍鬼2 DEX??
 1D100=??

 食屍鬼3 DEX??
 1D100=??

 食屍鬼4 DEX??
 1D100=??

 食屍鬼5 DEX??
 1D100=??

 結果、1ラウンド目はバージル→初代→食屍鬼1→食屍鬼2→マリアン→おっさん→ネロ→食屍鬼4→ダイナ→食屍鬼5→食屍鬼3→若となった。ちなみに敵の配置はこうなっていると手書きの用紙を見せながら、二代目が言葉を付け足す。
「行動宣言をする前に一つ。この戦闘中では<目星>と<聞き耳>成功でそれぞれ何かしらの情報が出る。もちろん成功、失敗に関わらず一行動としてみなすから、そのつもりでな」
 ここに来てどんな情報が出てくるのかと考えるが、バージルには関係ない。何故なら……。
「初期値はもう試さん。1体ずつ葬ってから調べればいいだけだ。食屍鬼1に<日本刀>、使用武器は閻魔刀」
 わざわざ4分の1の確率にかけて、必要になるかもわからない情報を手に入れるなど愚の骨頂だと言わんばかりに躊躇いのない攻撃宣言。戦闘に入って一番気分が高揚しているのは恐らくバージルだろう。殺意が高すぎる。

 全て斬りふせる
 バージル 日本刀80
 1D100=88

「外したな。……ダイスを握りつぶすなよ」
 どうしてこうも八割を外すのか、これが分からない。ミシミシと嫌な音を立てているダイスの心配もそこそこに、次は初代。
「<目星>の成功率は俺が一番だが……敵を減らすのとどっちがいいと思う」
 何でも出来る状態だと、逆に何が最適なのか選択するのが難しい。5体同時に襲い掛かられては確実に大打撃を受けるのは目に見えている。しかし、倒したことによって情報が取れなくなるという可能性もないと言い切れない状態だ。
「ここは数を減らす方が得策だろ。若が何かしらにダメージを与えられるのはほぼ確定だ。だったら1体は確実に倒しきれる範囲にまで削っておきたい」
「オーケーだ。そうしよう」
 情報も大事だが、今は何より命優先だ。ということで初代は<拳銃>で使用武器にエボニー&アイボリーを使用を宣言。
「二丁拳銃は未照準のルールを使用する。それに沿ってエボニーは命中減少なし。アイボリーの命中率は5分の1だ。また、攻撃対象も選択できない。味方には当たらないから安心しろ」
「俺だったら外すようなヘマはしないと抗議したいところだが……こいつはあくまでも一般人なんだよな」
 こんな末恐ろしいものを持った一般人がいてたまるかと声を大にして言いたいが、ここはぐっと堪えて判定だ。

 ハチの巣だ
 初代 拳銃(エボニー)60+20 目標値80
 1D100=46

 攻撃対象1D6=6(食屍鬼5)

 ダメージ
 1D10+3=4+3=7

 食屍鬼5 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

 初代 拳銃(アイボリー)60÷5 目標値12
 攻撃回数1D3+1=3+1=4

 1発目
 1D100=01

 2発目
 1D100=11

 3発目
 1D100=63

 4発目
 1D100=70

「二代目、1クリだぜ」
「…………今日で、二回目だぞ」
 クリティカルの出る確率はたったの5%であり、さらに1クリとなれば1%なわけなのだが、初代は本日二回目である。他の奴らも何回か出しているのを思い出すと、胃に穴が開きそうだ。
 戦闘でのクリティカルは必中扱いなのだが、そこから1クリ恩恵となると何がいいのかと二代目は頭を悩ませる。
「これはもうダメージ2倍だろ」
「2倍なんてぬるいこと言わずに、脳天ぶち抜いたってことで確殺でもいいんだぜ」
 ウキウキしながらご褒美の内容を好き勝手話し出す初代たち。どうやらその中の一つの言葉で天啓がおりてきたようで、二代目が口を開いた。
「1発目の攻撃は必中扱い。さらに攻撃対象を選んでいい」
「ダメージ追加はしてもらえなかったか。……まあ十分だ。1発目の対象は食屍鬼5。後1発は誰にあたったかダイスだな」

 ハチの巣だ
 1発目の対象 クリティカルにより食屍鬼5

 ダメージ
 1D10+1=9+1=10

 食屍鬼5 回避??
 相手クリティカルにより自動失敗

 HP??→??

 2発目の対象 1D6=5(食屍鬼4)

 ダメージ
 1D10+1=2+1=3

 食屍鬼4 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

「食屍鬼4にあたったか……一旦RPを入れるぞ」
 何かトリガーを引いてしまったらしいことを察した初代たちは、先ほどまでの喜びが一瞬で吹き飛ぶのだった。

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 先手を打ったのはバージルと初代だった。左右から迫る食屍鬼に閻魔刀とエボニー&アイボリーで応戦する。バージルの抜刀は惜しくも1体の食屍鬼の横をかすめるに終わったが、その横で引き金を引いた初代の銃弾は見事、食屍鬼2体を捉えた。
 二発の銃弾を受けた食屍鬼の身体はボロボロになり、虫の息だ。後一発、なんでもいいからぶつけてやればそれだけで崩れ去るだろう。ただもう1体の食屍鬼は銃弾が当たる直前、弾くような反応を示した。しかし食屍鬼を包み込んでいる障壁を突き破り、銃弾が食屍鬼の肩を貫いた。
 二発の銃弾を受けた食屍鬼にはなかった反応に初代は違和感を覚えるだろう。だがそれが一体何なのか、見当がつかない。
「女の傍にいる化け物を狙うなら気をつけろ。なんか変な障壁を纏ってやがる」
「化け物だから何でもありってか? 坊や、そいつは俺がやるから近寄るな」
「無理すんなよおっさん!」
 おっさんが謎の障壁を纏っているという食屍鬼に近寄るよりも速く、別の食屍鬼がダイナに迫る。その一方で女の近くにいる食屍鬼2体は動く気配がなく、また同じように女は先ほどと変わらずに何かを呟き続けている。

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「気合を入れているところ悪いが、次は食屍鬼1の攻撃だ。対象はダイナ」
「バージルが殴りかかっても狙うのはダイナ、か……」
 日記を読んでいるバージルとネロ、それからニュースで美女ばかりが殺されていることに気づいている若はもう答えが分かっているだろう。もちろん狙われ続けている張本人、ダイナも然り。
「女しか狙わないんだな、こいつら」
「さあ、どうだろうな」
 二代目は一応濁しているものの、もう答えは出ているようなものだ。PL側で言えばおっさんと初代だって気づいているが、残念なことにPC側では気づいていないだろう。特に初代が。

 当たれば痛い
 食屍鬼1 かぎ爪??
 1D100=?? 成功

 ダメージ
 1D6+1D6=1+5=6

「なかなかの数値だ」
「ダイナ絶対躱せよ! 当たったらしゃれになんねえぞ!」
「命の危機をひしひしを感じてる。<回避>を宣言」
 ここに来て二代目のKPとしての出目が良くなり始めたようで、戦いが白熱している。CoCは本来そう言う遊び方はしないのだが、こいつらだから目を瞑ってほしい。

 避けなくちゃ
 ダイナ 回避54
 1D100=73

 HP10→4

 ダイナが五割を当てられるはずがないというのは周知の事実ということで、やっぱりダメかとみんなが諦めモード。しかし耐久力が一度に半分以上減った彼女には、さらなる試練が待ち受ける。
「ごっそりいったな。[CON×5]の判定をしてくれ。失敗したらそのまま意識を失う」
「私、CONは8しかない」
「次も敵の行動だぞ。……死んだな」
 完全にバージルに見捨てられたわけだが、冗談ではなくここを外したら生きて外に出ることは叶わないだろう。

 激痛に耐えられるか
 ダイナ CON8×5 目標値40
 1D100=91

「残念だが気を失ったな。ダイナは行動不能だ」
「ちょ……これマジでヤバイことになったじゃねえか」
「五割を外す奴が四割を引けるわけがないのは目に見えていた。良い壁だった」
 行動不能。つまりそれは<回避>すら行えないということ。さらに次も食屍鬼が動くこの状況はまさに絶体絶命だ。
「躱せなかった以上、仕方ない。私はここでリタイアだから、後は頑張って」
 こうなった以上はダイナに出来ることはもう何もない。せっかくここまで辿り着いたのに最後の最後でロストというのは残念だが、致し方ないとして割り切っているようだ。
「こら、まだ死んだって決まったわけじゃないのに諦めるなよ。二代目、<かばう>を宣言だ。対象はダイナ」
「おっさん、そんなことしなくていい。目を覚ましても役に立つ目途がないのは分かっているし、私のせいで誰かが傷つくのは、例え遊びでも見たくない」
 過去に色々あったダイナにとって、自分のせいで大切な人が傷つくというのは耐え難い。そんなダイナをおっさんは軽く小突きながら、安心させるような声色で言った。
「俺は死なない。ダイナの傍からいなくなったりしないって約束を、守らせてくれよ」
「…………絶対、耐えて」
 観念したように小さな声で肯定の意を示したダイナ。
 この攻撃に関しては敵の命中判定が入るのだが、今回の対象として選ばれているのは回避行動が取れないダイナなため、食屍鬼2の攻撃は自動的に必中扱いとなる。確実にダイナにあたる攻撃を<かばう>宣言をしたおっさんは回避行動はとれず、出たダメージ分を受けることになる。

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 斬りかかられた食屍鬼は斬りかかってきたバージルには目もくれず、ダイナにその鋭い爪を振り下ろす。
「──っ! い……ぁ……」
 避けようとしたものの今一歩距離が取りきれず、その身体に大きなひっかき傷が出来る。あまりの痛みと一度に大量の血を失ったダイナは意識を保てず、地面に倒れこむ。そんな彼女にもう1体の食屍鬼が飛びかかった。
「まずい……間に合えっ!」
 肉が引きちぎられたような、嫌な音が部屋に響き渡る。見れば、ダイナを庇ったおっさんの肩が食屍鬼の噛みつきによって抉られ、同時におっさんが倒れる姿だった。
「おっさん!」
 ネロが叫ぶ。しかしその声がおっさんの耳に届くことはない。
 唯一マリアンだけは周りの騒がしさに目もくれず、ただただ何かを呟き続けている。

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 食屍鬼2 噛みつき??
 自動成功

 ダメージ
 1D6+1D4=5+4=9

 おっさんHP11→2

「……耐久力が2以下になった者は判定なしで意識を失う。髭も行動不能だ」
 まさかの最大値近くのダメージを受けることになるとは思っておらず、これでおっさんも行動不能だ。次はマリアンだが、彼女はずっと何かを呟いているので何かをしてくることはない。ということで次はネロだ、が……。
「おっさん! だから庇わなくていいって言ったのに……!」
「そういうなよダイナ。庇ってなかったら確実に死んでたぞ」
 ダイナとおっさんが言い合いに。涙こそ流していないものの、ほぼ半泣き状態のダイナを慰め続けるおっさん。彼女にとっては自分が死にかけることより、おっさんが死にかけたことの方がよほどショックだったらしい。
「なあ……俺はどうしたらいい」
 じゃれ合う二人は放っておいて、ネロはバージルと初代と相談中。若は奇襲を行うために身を潜めているため、こんな惨事になっても何も出来ないのが辛いところだ。
「今取れる選択肢としては二つか?」
「敵の数を減らすか、ダイナかおっさんを<応急手当>で意識を取り戻させるってことだよな」
「……攻撃対象になっているのはダイナただ一人だ。ならばそいつを抱えてここから逃げれば、食屍鬼も攻撃を止めたりしないか」
 そんな方法もあるのかとバージルの提案に関心するネロ。しかし、どういった処理が行われるのだろうか。
「抱えて逃げるとなると……抱えるのにSTRとSIZ対抗。その後逃げられたかDEX判定だ」
「あー……六割か、微妙だな。しかも俺、DEXは高くないし……」
「ダイナがいなくなったから今度はこっちにターゲットが向くってなったら、最悪おっさんは死ぬしな」
「私はいいから、おっさんを守って」
 おっさんが死ぬと聞き、血相を変えて話に入ってくるダイナ。自己犠牲もほどほどにしておかないと、セッション終了後にお仕置きをされそうだ。
「完全に行き詰ったな……。おい若、お前だったらどうする」
 良い案が浮かんでこないので過去の自分にバトンタッチする初代。どうすると聞かれた若は一回頭を捻った後に、こう答えた。
「食屍鬼5を倒す。そうしたら多分、まだ何とかなるんじゃねえかな」
「根拠を聞かせろ」
 仮にネロが食屍鬼5を倒したとしても、次は食屍鬼4と食屍鬼3の行動だ。さらに行動済みである初代とバージルはダイナを庇うことは出来ない。若も奇襲中であるために不可能だ。
「いやほら、さっき二代目が描写中に言ってただろ。“女の傍にいる食屍鬼2体は動く気配がない”って。それってこいつとこいつだろ?」
 そういって最初に見せられた敵の配置表に描かれている食屍鬼3と食屍鬼4を指さしながら若が言う。
「変な障壁を纏っているせいで動けない……ってことか? その代わり、直接触れると何かしらある……?」
 二代目の表情をうかがっても無表情を貫いているため真偽は分からない。それでも今日一日、一緒に遊んできて分かってきたことがある。
「それで行こう。二代目は必要のないことはわざわざ表現したりしない。つまり若の読み通りだ」
「<目星>の情報も恐らくそれだろう。となると<聞き耳>は女が何を言っているか、だな」
 ここに来てリアルINTをフル稼働させて来る辺り、転んでもただでは起きない奴らだ。若の案に最後の希望を託し、ネロは食屍鬼5に<キック>で攻撃宣言だ。
 これが決まらなかったときは、泣いても笑ってもダイナとはお別れだ。

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「くっそ……行かせるか!」
 二発も銃弾を受けているというのに撃ってきた本人には目もくれず、ダイナに襲い掛かろうとする食屍鬼を行かせまいとネロが蹴りかかる。
 ゴムのような感触が足に伝わってくるのと同時に、食屍鬼が大きく後方へと飛んでいく。その衝撃が引き金となり、ボロボロと朽ち果て砂のようなものへと変わり果てた。

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 絶対決める!
 ネロ キック80
 1D100=48

 ダメージ
 1D6+1D4=4+2=6

 食屍鬼5 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

「食屍鬼5は死亡。よって行動順から除外だ」
「よっし!」
 危機は何一つ去ってはいないが、敵を1体減らせたというのは大きい。後は若の読みが当たっているかどうかだ。
「次は食屍鬼4だが……良く分かったな。若の言う通り、こいつは何もしないで自分の手番を終える。食屍鬼3も同様だ」
 気づかれるとは思っていなかったと苦笑する二代目。もちろん、気づかなかったとしても<目星>に成功していればその情報は開示していたと二代目は語る。とはいえ、そんな暇もなかった今回ばかりは若のリアルINTに感謝だ。
「じゃあ俺は食屍鬼1に<キック>と<MA>だ」
「いいぞ、振ってくれ。成功した時点でダメージは確定だ」

 背後から殺人キック
 若 キック80
 1D100=53

 若 MA80
 1D100=30

 ダメージ
 2D6+1D4=1+5+3=9

 食屍鬼1 回避??
 奇襲により自動失敗

 HP??→??

「……私、生きてる?」
 皆の機転のおかげで1ラウンド目を生きながらえたダイナ。完全に危機を脱したわけではないが、希望が出てきたのも間違いない。
「意識を失っているのでダイナと髭以外、全員ここで<聞き耳>だ。若は+20で振っていい」
 一体何の補正を貰っているのか不穏だが、言われたとおりに<聞き耳>判定を行う。

 何の音だ?
 初代 聞き耳60
 1D100=70

 ネロ 聞き耳25
 1D100=73

 若 聞き耳25+20 目標値45
 1D100=36

 バージル 聞き耳25
 1D100=34

 秘密の結果
 KP シークレットダイス
 ??=??

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「隙だらけだぜ」
 ダイナの身体を引き裂いた食屍鬼は背後にいる若に気づかず、もろにその蹴りを受けた。かなりのダメージを負ったようで、足っているのも怪しい足取りをしている。
 次の攻撃に備えるように若が構えを取ると、階段の方から聞いたことのある音を感じ取った。
「……ガスの音? いや違う、独特なこの感じ……マフラー音だ」
 徐々に近づいてくる音に食屍鬼たちも気づいたようでじりじりと階段から離れ始めると、音の正体が姿を現した。赤色が一際目立つそれ──バイクに跨った二代目が狭い地下の階段を強引に降りて来たようで、所々に壁で擦ったような傷がついている。
「二代目──!? なんでここが……!」
「話は後だ。……ダイナと髭を診る」
 来るはずがない人物の登場に初代は驚くが、この状況ではありがたいことこの上ない。今は存分に頼ることにしよう。

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 見てはいけないものを見た
 二代目 SAN??
 1D100=?? 成功

「二代目、なんで……」
「最初に参加しないって言ってたよな?」
 まさかの参戦に一人を除いた全員が驚いている。これに少し困った様子で二代目が答えた。
「ただのNPCとして終わらせようと思っていたんだが、お前たちがかなり俺のNPCに友好的に接してくれたから、役立てようと思ったんだ。ちなみに場所はバージルがこっそりと伝えてくれたから辿り着けた。それが無かったら来ていないぞ」
「マジかよ、いつの間に……」
「ナイスだバージル! これで全員で生きて帰れそうだぜ!」
「鬱陶しい! ひっついてくるな!」
 大喜びする若は勢いあまってバージルに肩に腕を回している。それを邪魔だと払っていると、おっさんと初代にまでよくやったと背中を叩かれたり頭を撫でられたりでしっちゃかめっちゃかに。もちろん三人は幻影剣で壁のオブジェへと早変わりだ。

 誰から行動?
 初代 DEX15
 1D100=57

 二代目 DEX??
 1D100=??

 ということで2ラウンド目からはバージル→二代目→初代→食屍鬼1→食屍鬼2→マリアン→おっさん→ネロ→食屍鬼4→ダイナ→食屍鬼3→若の順になった。
「当然攻撃。食屍鬼2に<日本刀>。閻魔刀を使用だ」
 心強い味方も増えたところで一転攻勢に出るバージル。……まあ、例え二代目が来ていなかったとしても彼がすることはただ敵を斬り裂くのみなのだろうが、そこはあえて言及しないでおこう。
 また当たりさえすれば一撃が重いので、まだダメージを与えていない食屍鬼2を選択したようだ。

 全て斬りふせる
 バージル 日本刀80
 1D100=47

 ダメージ
 1D10+2+1D4=8+2+3=13

 食屍鬼2 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

「食屍鬼2もふらついているな……。さて、俺はダイナに<医学>と行こうか」
 どこかの誰かさんが反論してくるのは目に見えているので、予め口を塞ぎながら二代目は宣言する。そんな彼の腕を必死に剥がそうとダイナはもがくが力及ばす。引き剥がせないのでもごもごと声にならない声を漏らすダイナを見て、おっさんは愉快に笑っている。

 いたいのとんでけ
 二代目 医学??
 1D100=?? 失敗

「すまない、失敗だ。……探索者側に回るとダイスを振るうのにも一喜一憂する気持ちが分かるな」
 ずっとKPを続けて来た二代目もNPCとはいえみんなと同じように探索側に入れるのは嬉しいようで、楽しそうにダイスを振っている。ようやく手を放してもらえたダイナは軽くむせながら、例えおっさんを治療していても失敗していたから、どちらが受けても変わらなかったとして割り切ったようだ。
「ここは確実に1体減らすか、それとも数撃ちゃ当たるで行くか……」
「最悪2体残っても俺とネロで庇うから、1発でも多くあてた方がいいんじゃねえの」
「……ネロもそれでいいか?」
「ああ、構わないぜ」
 待機中の二人から許可も下りたので、初代は先ほどと同じく二丁拳銃だ。

 ハチの巣だ
 初代 拳銃(エボニー)60+20 目標値80
 1D100=63

 攻撃対象1D5=3(食屍鬼2)

 ダメージ
 1D10+3=8+3=11

 食屍鬼2 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

 初代 拳銃(アイボリー)60÷5 目標値12
 攻撃回数1D3+1=1+1=2

 1発目
 1D100=26

 2発目
 1D100=75

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「雑魚が……散れ!」
「狙い撃ちだ!」
 バージルが振るった斬撃を正面から受けた食屍鬼は大きくよろめく。そこに初代が追撃をかければ2体目の食屍鬼も程なくして朽ち果てていった。ただその食屍鬼を打ち抜くことに意識が行き過ぎたためか、もう一丁から打ち出された銃弾2発は床を抉るに終わった。
「……血が……止まらん」
 一方でダイナの傷を防ごうと手を尽くす二代目だが、彼はあくまでも獣医師であって人間を診るプロではない。大切な助手の血まみれな姿を見て動揺したため、うまく処置が出来ないでいた。
 そこへ若に蹴られた食屍鬼がふらつきながらも近づいてくる。

──────────────────────

「……なあ二代目、医療行為を行うってことは患者の傍にいるよな」
「そうだろうな」
「しかも倒れている患者を治療しようってなったら、そりゃもう覆いかぶさる勢いで色々施すよな」
「覆いかぶさる状態というのは想像できないが、言いたいことはそこはかとなく伝わっては来る」
「つまり、食屍鬼の視点から行けばダイナに辿り着く前に、二代目が邪魔だってなるよな」
「まあ、邪魔だろう」
「ってことで、この状況だと攻撃対象にダイナを選ぶのは無理だと思うんだ」
 若のリアル言いくるめに二代目が眉間に手を当てる。確かに若の言うとおり、食屍鬼視点で言えばダイナに治療を行っている二代目は邪魔だし、今回に限っては二代目の<医学>は失敗しているから、意識を取り戻さない彼女の傍を易々と離れる状態ではないだろう。ただこうなってくると<回避>を行うのもおかしな話になってくる。
「……まあ、若の言うとおりだな。食屍鬼1の攻撃対象は俺。そして<回避>はなしだ」
「あっ、そういう処理になっちまう?」
「別に構わん。最悪俺のはNPCだ、有効に使ってくれ」
 なんか悪いことをしたと謝る若と、別段気にしていない二代目。何事も状況次第ではあるが、その状況に合わせた判定を行うのもTRPGの楽しみの一つだ。

 食屍鬼1 かぎ爪??
 対象が動いていないので自動成功

 ダメージ
 1D6+1D6=1+5=6

 二代目 HP??→??

「背中で受けたな。が、意識を失うほどではなかったようだ。……痛いだろうが」
「あくまでも二代目ってNPCだから、残りの耐久値とか分からないんだったな……。まだ耐えてくれるといいんだが」
「ある程度の算出は出来ると思うが、まあ頑張ってくれ。次の女はそのままパスだ。行動不能の髭も飛ばして、ネロの番」
「俺も若も<応急手当>は初期値だし、率先して潰したいのは食屍鬼1だよな。その次はなんか纏ってる奴を相手にすることになると、初代とバージルはそっちに回れた方がいいから……食屍鬼1に<キック>」
 早く起こしてやりたいのはやまやまだが、若に託して失敗したとなると痛手だ。それならここでネロが倒しきってしまいたい。最悪外しても若に任せられるし、自分が決めればそのまま若が<応急手当>に回ればいい。

 殺人キックには劣るけど
 ネロ キック80
 1D100=25

 ダメージ
 1D6+1D4=4+4=8

 食屍鬼1 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

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「ダイナ、しっかりしろ。……ダメだ、意識が戻らん。他に手は……ぐっ!」
 治療に集中していたため、自分の傍にまで来ている食屍鬼に気づかなかった二代目は背中を大きく引き裂かれる。激しい痛みに身体が前に折曲がるが、歯を食いしばって耐え切る。
「邪魔すんなよ!」
 直後、ネロの蹴りが二代目を引き裂いた食屍鬼を捉える。ぐしゃりと体躯が折れた食屍鬼も他と同様に朽ち果てその姿を消した。
「助かった。……悪いが、ダイナを診てやってくれないか。俺ではどうも……情けないが、手の震えからかうまく治療が出来ない……」
「分かった、やってみる。……おっさんのこと、頼む」
「死力を尽くそう」

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 食屍鬼1も無事撃破し、残るは襲い掛かってこない食屍鬼2体とマリアンのみだ。ネロの後に控えている2体は待機で終了ということで、最後に若の行動だ。
「あーっと、残ってる2体って片方はよく分かってねえけど、もう1体は確実になんか纏ってるんだよな」
「若の攻撃手段は蹴りか……。良く分からないうちは触れない方がいいと思うぞ」
 得体のしれない何かがあるというのは怖いが、こちらも打つ手がないわけではない。少なくとも初代の拳銃であればダメージが与えられることは確認済みなので、最悪それが頼みの綱だ。
「だったらダイナに<応急手当>してみるか」
 とにかく意識が戻らないことには逃げ出すことも出来ないので、叩き起こしてみることに。

 いたいのとんでけ
 若 応急手当30
 1D100=97

 ダイナHP4→3

「順調だと思ったらこれかよ」
「……傷を抉ったな。ダイナはHPから1引いてくれ」
「これを見た後に<応急手当>振りたくねえ……」
 最後の最後にひどい結果で終わった2ラウンド。次の3ラウンド目はバージル→二代目→初代→マリアン→おっさん→ネロ→食屍鬼4→ダイナ→食屍鬼3→若の順番だ。
「何かを纏っているのは食屍鬼4だったな。そいつに<日本刀>、閻魔刀で斬りかかる」
 現状では得物を持っているバージルと初代が頼りなので、ここは是非決めていただきたい。

 全て斬りふせる
 バージル 日本刀80
 1D100=03

 ダメージ
 1D10+2+1D4=4+2+1=7

 食屍鬼4 回避??
 必中により自動失敗

 HP??→??

「こちらも先ほどと同様一瞬何かに阻まれたような気がするが、それをもろともせず閻魔刀で斬りかかれた」
「少なくとも、俺と初代であればねじ伏せれそうだな」
 確認したいことは出来たと満足気味のバージル。一方で三人ほど重症である。
「俺の番か。髭に<医学>だ」
「期待してるぜ二代目」
 そろそろ床でおねんねは暇になってきたようで、二代目の出目を期待している。

 いたいのとんでけ
 二代目 医学??
 1D100=?? 大失敗

 おっさん HP2→1

「すまない髭。若と同じく傷を抉ったようだ。HPから1引いてくれ」
「これが死力を尽くした結果か。いや……まあ、仕方ないんだろうけどさ。獣医師ってのは呪われた職業なのか?」
 格好よく登場したのに、これでは台無しだ。一体どこで間違えてしまったのだろうか……。
「次は俺か。食屍鬼4の行動が回ってくるまでに落としておきたいということで、アイボリーのみで食屍鬼4を狙いたい」
「了解だ。なら<拳銃>の元の値で振ってくれ。ただし、何発出てもすべて食屍鬼4にしか当たらないぞ」
 二丁拳銃をやめて確実に1体屠ることにした初代。二代目から出された条件にもちろんオーケーを出し、いざ判定。

 ハチの巣だ
 初代 拳銃(アイボリー)60
 攻撃回数1D3+1=2+1=3

 1発目
 1D100=63

 2発目
 1D100=06

 3発目
 1D100=41

 1発目ダメージ
 1D10+1=9+1=10

 2発目ダメージ
 1D10+1=5+1=6

 食屍鬼4 回避??
 1D100=?? 失敗

 食屍鬼4 回避??÷2 目標値??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

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 自身も深い傷を負ったせいか、手の震えが止まらない二代目はおっさんへの治療もうまく出来ないでいた。その傍らではバージルと初代が動く気配のない食屍鬼1体と交戦している。
「フンッ!」
 一刀両断する勢いで食屍鬼を切りつけるものの、一瞬何かに阻まれたような感覚に襲われる。だがバージルの持つ閻魔刀はそれすらも無視して食屍鬼に確実なダメージを与えた。
「バージル下がりな! 後は俺がやる!」
「確実に仕留めろ」
 いくら相手が動かないとはいえ化け物に変わりはない。深追いは禁物だと一旦距離を置けば、そこに初代の拳銃から打ち出された銃弾が二発、食屍鬼をぶち抜いた。それにより身体を保てなくなったのか、食屍鬼が徐々に朽ち果てていく。同時に、何か纏っていた光のようなものも消えてなくなっていった。
 残すは1体。そう思っていた矢先、突然女が両手を天へと突き上げ、先ほどまでとは打って変わって声を張り上げてこういった。
「夢の魔女。崇拝者の心を曇らせる、夢の魔女。己が姿を幻影に隠す夢の魔女。己が姿を奇妙な美しさに隠す。覆い隠すもの。影の中で不信心者に絡み合う、覆い隠すもの。道誤り害意を持つものを貪り食らう、覆い隠すもの。今こそ姿を現し、我の元へ!」
 常人には到底理解できるはずのない言葉を口にした女はそれでもなお、両手を天に突き上げたまま同じ言葉を何度も繰り返し続けている。しかし、何の変化も起こらない。
 すると女は、そんなはずはないと脱力したように両手を下ろし、おもむろにこちらを見た。
「……憎い。私よりも美しい者が憎い。私よりも美しくあっていいのはヨランダ様だけ。ヨランダ様以外に、私より美しい者なんて許されない!」
 女の言葉に反応した最後の食屍鬼は動き出す。赤い目をギラつかせ、主に仇名す者を引き裂き、噛み千切らんとしてこちらへと襲い掛かってきた。

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「えっと……なんか呼んでたけど、失敗したってことでいいのか?」
「その解釈でいいぞ。次は髭を飛ばしてネロ」
 一体何を呼び出そうとしていて、そのためには何が必要だったのかは皆目見当もつかないが、阻止出来たならそれでよしだ。女が哀れな気もするが、そもそもこんな化け物を従えている時点でまともではないのは確かなのでさっさととっちめてしまおう。
「つっても、俺はダイナに<応急手当>だな。……そうだ二代目、俺は1回ダイナから救急セットを借りたことがあるし、持ち物にあるって知っててもおかしくないし、使っていいか?」
「緊急事態だし、誰も咎めることもないだろう。+20%していいぞ」
 出来る限りのことはした。後は決めるだけだ。

 いたいのとんでけ
 ネロ 応急手当30+20 目標値50
 1D100=84

「もう起こせないな」
 ここまで治療系の技能が成功しないのは想定外だ。というか、技能を取っている者が真っ先に意識を失ったのが痛手だ。そしてここからは食屍鬼の番。残り1体になってしまったが、それでも先ほどまでの個体と同等かそれ以上の火力を持っていることが予測されるため、結構ピンチだったりする。

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 今までのどれもがダイナを狙っていた食屍鬼が急に対象を変え、別の者に襲い掛かった。
「何っ!?」
 自分が狙われるとは微塵にも考えていなかったバージルへ、食屍鬼の鋭い爪が振り下ろされる。しかしその爪は大きく空を切り、バージルにあたることはなかった。

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 狙うは?????者
 攻撃対象1D3=3(バージル)

 当たれば痛い
 食屍鬼3 かぎ爪??
 1D100=?? 失敗

「なんだ……? なんで急にダイナ以外を狙いだしたんだ?」
 まさかここに来てバージルが狙われ出すとは誰一人として予想していなかったため、なんだどうしたと困惑している。一つ付け足しておくならば、決してミスではないぞ。
「やけになって手当たり次第に変わったか? それだとおっさんも最悪死ぬ可能性出て来たな」
「あー……じゃあ、もう<応急手当>より化け物をこの世から消した方がいいか。こいつもなんか纏ってる可能性あるけど、いいだろ」
 触れるのはまずいだとの言っていたのに、最終的にはこの雑さ。それがこいつらクオリティ。ということでいっちょ蹴り飛ばしてみることに。

 殺人キック
 若 キック80
 1D100=98

 若 MA80
 1D100=32

「なんとなく予想はついてた」
 冷静に発言する若。実はこれ、もしもおっさんに<応急手当>をしていた場合確実にあの世に送っていたことになるので、敵に攻撃を仕掛けたのはある意味でファインプレイだったのかもしれない。
「盛大に空振ってこけたので、次のターン起き上がってくれ」
 今日一番の危機が去ったためにみんなの気も抜けて来たのだろうか。それほどに出目が悪くなっている。
 4ラウンド目はバージル→二代目→初代→マリアン→おっさん→ネロ→ダイナ→食屍鬼3→若だ。そろそろ決着がつくといいのだが、どうだろうか。
 バージルに関してはもうすることは決まっているので、対象だけ伝えた後即行でダイスを振りだす。

 全て斬りふせる
 バージル 日本刀80
 1D100=61

 ダメージ
 1D10+2+1D4=1+2+2=5

 食屍鬼3 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

「こちらも先ほどの奴と同じく一瞬何かに拒まれた感じがするが、閻魔刀で難なく斬りつけられた」
 だろうなと言った様子で自分の番を終わり、次は二代目。<医学>は一つの傷につき一度までしか行えず、再び試みるにしてもある程度の時間経過がなければ出来ないということで、彼のとった行動は……。
「女には恨みもあるし、蹴っておこうか。とはいえ生身の人間だ。<キック>のみで判定しよう」
 20年前に犬を盗まれ、3日前にも再び犬を盗まれ、挙句の果てには大切な助手に大怪我を負わせる原因を作った相手だ。それはもう色々と溜まっているだろう。

 手加減はしてやろう
 二代目 キック??
 1D100=?? 成功

 ダメージ
 1D6+1D4=1+3=4

 マリアン 回避??
 1D100=?? 失敗

 HP??→??

「ふむ……。少し痛がった程度だな」
「さり気にDB持ちとか、二代目も殺意高いのな」
 初めに言っていた“ダイナ以外DB持ち”というのは、もちろんNPCとして制作された二代目も含めての発言である。やっぱりこいつらCoCの遊び方間違えてるよ。
 それはさておき次は初代。先ほどと同じようにアイボリーのみで食屍鬼3を狙い撃つ。

 ハチの巣だ
 初代 拳銃(アイボリー)60
 攻撃回数1D3+1=3+1=4

 1発目
 1D100=33

 2発目
 1D100=80

 3発目
 1D100=93

 4発目
 1D100=79

 1発目ダメージ
 1D10+1=7+1=8

 食屍鬼3 回避??
 1D100=?? 成功

「こんだけ撃って全弾ミスか……ちょっと雲行きが怪しくなってきた感じだな」
 ここで確実に息の根を止められると思っていたので、これは厳しいことになってきた。次のマリアンの行動は何かをまた呟き始めたということでターンが終わり、髭も気を失っているのでネロだ。
「おっさんに<応急手当>するの、すげえ怖いんだけど……」
「そんな気にするなよ坊や。ファンブルしたら死ぬだけだ」
「ちなみに、自分の手で人を殺したらSANチェックだ」
「ますます振りたくねえ……」
 どうしたものかとネロが悩んでいるとき、ふとダイナが思いついたことを口にした。
「次、私が狙われたら、死ぬ?」
「……そう、だな。唯一庇える若は現在転倒中で行動不可能だから、そうなる」
「はあああ!?」
 まさかの大ピンチに一同騒然。またもやネロに全てが託されるという嫌な構図に。
「あ……っと……ど、どうしたらいい?」
「私ぐらい、見捨てていいけど」
「いや、ダイナ死んだら絶対SANチェック入る。そうしたらもっとやばいことになる」
 何かいい手はないかと必死になっていると、バージルが一つ案を出した。
「愚弟が起き上がるのを手伝ったらどうだ」
「ふむ……。それでネロの行動を消費することになるが、構わないか」
「ああ、それで頼む。若、ダイナのこと頼むぞ」
 なんとか最悪の事態は脱したが、何一つ好転はしていない。どうしてここまで泥沼にはまってしまったのかは誰にもわからないが、とにかくできることをしていくしかない。
 ということでやってきた食屍鬼3の番。こいつの攻撃対象の選び方もいまだに良く分かっていないため、とにかく外してくれるのを祈るしかない。

 狙うは?????者
 攻撃対象1D3=2(若)

 当たれば痛い
 食屍鬼3 かぎ爪??
 1D100=?? 失敗

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「若、大丈夫か!」
「わりい、力みすぎた! ……って、あぶねえ!」
 転倒した若をネロが起こしてやると、若が声を荒げながらネロの腕を引っ張って後ろに飛びのいた。そこには食屍鬼のかぎ爪が振り下ろされており、間一髪のところで避けられた。もしネロが起こしに来ていなかったら、あの爪にやられていただろう。

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「サンキューネロ、助かったぜ」
 起こしてもらえていなかったら確実に若も大怪我を負うところだった。ということで4ラウンド目最後の若。起こしてもらっているので行動も出来る。
「今度こそ食屍鬼3に引導を渡すぜ」
 冗談抜きでこれ以上長引くのはよろしくない。今全員が生きているのも偶然に偶然が重なって出来た、いわば奇跡の賜物なのだ。

 殺人キック
 若 キック80
 1D100=05

 若 MA80
 1D100=95

 ダメージ
 1D6+1D4=5+4=9

 食屍鬼3 回避??
 必中により自動失敗

 HP??→??

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「こんのっ……お返しだぜ!」
 仕返しだと言わんばかりに若が思いっきり蹴り上げると、食屍鬼の体は大きく後ろへ仰け反る。そして早口で鳴く犬のような声を上げながら朽ち果て、その醜悪な姿を消した。
「終わった……のか……?」
 半ば放心状態でネロが終わりを口にすれば、周りにいる他の者たちも徐々に実感する。
 あの化け物はもういない、と。
 しかし、元凶である女はまだ諦めていないのか先ほどと変わらず、呟く言葉を止める様子がない。女に近づいたバージルが閻魔刀の鞘で峰打ちをしようとすれば何やら勘が働いたのか、ひらりと躱した。

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 峰打ち
 バージル 日本刀80
 1D100=53

 ダメージ
 1D6+1D4=6+4=10

 マリアン 回避??
 1D100=?? 大成功

「二代目、敵の時は頑張らなくていいんだぜ……」
「いや、俺もそのつもりなのだが……うまくいかないものだな」
 ちなみに10面ダイスが二個お亡くなりになりました。こんなこともあろうかと、二代目が新しい10面ダイスを二つ用意したところでNPCの二代目の行動だ。
「また蹴るのか?」
「そう……だな、バージルほどの手慣れの攻撃を避けるのだから、蹴るだろう」
「躊躇いがないな」
 初代はそういうものの、二代目がやらなければ結局は彼がやるのだから結果は変わらないだろう。ここにいる奴らに遠慮や躊躇いなど出てくるわけがないのだから。

 手加減はしてやろう
 二代目 キック??
 1D100=?? 成功

 ダメージ
 1D6+1D4=2+2=4

 マリアン 回避??
 1D100=?? 大失敗
 追加ダメージ1D3=?

 HP??→??

──────────────────────

「いい加減にしろ」
 往生際の悪い女に、二代目が容赦のない蹴りを放つ。それを先ほどと同じように避けようとした女は足をもつれさせた。そのせいで予想以上に蹴りがめり込み、あばら骨が砕ける音がする。
「ヨラ、ン……ダ……さ、ま……」
 血を吐きながらもなお“ヨランダ”という名を漏らし、気を失った。そのため、手に握られていた本も地面に落ちる。その何気ない音が戦いの終わりを告げる、何よりもの証拠だった。

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 クリティカルの次はファンブルと、最後まではっちゃけ続けるダイスの女神様の出番ももうすぐ終わりを迎える。だが今はそれ以上に、重傷者は出てしまったものの、全員が生きているという事実が何よりも嬉しかった。
「とにかく、ダイナとおっさんに<応急手当>だな。振っていないのは俺とバージルぐらいか?」
「……髭に対しては俺以外誰も振っていないな」
 先ほどまでの行動を順に確認した二代目が伝える。おっさんも起こさないとだのなんだと言っていた割に、結局誰も試す暇がなかったようだ。
「残っている処理は……戦闘が終了したのでダイナは目を覚ますな。それぐらい時間が経ったと思ってくれ」
「あ……いいの?」
 戦いが始まってすぐに意識を失ったダイナだが、耐久力はかろうじて3残っているので意識を取り戻せるという。おっさんはもちろん意識不明のままだ。意識を取り戻して早々だが、ダイナはおっさんに<医学>。初代とバージルは<応急手当>だ。

 いたいのとんでけ
 ダイナ 医学70
 1D100=39

 回復量
 1D3+1=1+1=2

 おっさんHP1→3

 初代 応急手当30
 1D100=50

 バージル 応急手当30
 1D100=60

 最後の最後に役に立てたとご満悦のダイナ。これで全員意識は取り戻したことになる。もちろん重症に違いはないが。

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 2000年6月11時午後4時。全ての化け物を無へと帰した一行は、今もフォルトゥナ教会地下にいた。
 気を失っていたダイナが目を覚まし、自分を庇って瀕死の状態になってしまったおっさんへ手当てを施せば、彼も虚ろながらに意識を取り戻した。生きてくれていて良かったと泣き崩れるダイナを慰めながらそれぞれ傷の手当てをし、女をどうするかの話し合いが始まった。
「ったく、肝が冷えたっての」
「そう怒らんでくれ。……あーほら、お嬢ちゃんも泣き止んでくれよ。この通り無事だからさ」
「もう二度と、無茶しないで……ください……」
 目元を赤く腫らしながら弱々しくも怒っているダイナだが、彼女の傷だって大概なものだ。一応止血は出来ているものの、病院送りは確実だろう。そんな二人が無理をしないようにネロが見張っていると、二代目がやってきて申し訳なさそうに声をかけて来た。
「うまく治療できなくて、悪かった」
「構わないさ。俺だって自分の助手が同じような目にあっていたら、どれだけ優れた腕を持っていても、冷静に処置なんか出来やしない」
「そういえば、どうして二代目院長がここに…………! その、背中の傷……!」
「大した傷じゃない。心配するな」
 その後、診せてくださいと言って聞かないダイナに根負けした二代目は背中の傷を見せることになった。
 重傷者たちが互いに傷を診ている中、初代は辛うじて生きているマリアンに手錠をかける。その横でバージルは落ちていた書物を手に取った。
「初代、そいつどうすんだ」
「強盗及び殺人の罪で逮捕だ。……もっとも、病院での治療が先だな」
 意識を取り戻したら自白させるだけだが、果たして正直に喋るのかどうかは怪しい。それでも、罪を認めさせるのも警察の仕事だ。

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 タイトルはなんだ
 バージル 言語(アラビア)71
 1D100=08

 いたいのとんでけ
 ダイナ 医学70
 1D100=44

 回復量
 1D3+1=1+1=2

 二代目 HP??→??

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「……一応止血はしましたが、無理しないで下さい」
「助かった。……不甲斐ない上司ですまない。こんな怪我までさせて、俺は……上司を名乗るのもおこがましいのだろうな」
「そんなことありません。あの時……私が決めたことを止めるよりも背中を押してくれた時、二代目院長が私の上司でよかったって、心の底から思いました。私の意思を尊重してくれたことに感謝こそあれど、恨み言なんて出てきません」
「……そう、か。そう言ってもらえると幾分か楽だ。が、今度は止めるぞ。もうこんな思いは二度とさせるわけにはいかない」
 結局みっちりと説教を受ける羽目になったダイナではあったが、これも生きているからこそだと思うと、怒られているというのに不思議な気分だった。
 それを横で見ていたおっさんが俺たちもこんな風になれたらいいな、なんて口を滑らせれば、冗談じゃないとネロに一蹴される。まったく素直じゃないと思いながら、それも坊やらしさだと一人結論付けてニヤニヤしていると、気持ち悪いからその顔を止めろと再び一蹴されるのだった。
「それだけ騒げるなら歩けそうだな。俺はこの女で手一杯だから、他の奴らで支えあってくれ」
 マリアンを背負いながら初代が指示を出していると、一向について来ようとしないバージルに気づいた若がどうしたんだと声をかける。
「何やってんだよ。ここから出ようぜ」
「『太古の恐怖』」
「はあ? 何言って……」
「この本のタイトルだ。戦いの最中、急に女が変なことを口走っていた時があっただろう。これを読めば、原因が分かるのかもしれん」
「原因、ね。それもいいけど、今は手を貸してくれよ。あいつら重傷者なんだからな」
 今すぐにでも読んで解読したいという欲求を抑え、これ以上待たせると本当に愚弟が騒がしくなると悟ったバージルは二代目に肩を貸す。ネロもおっさんに手を貸し、若もダイナを支えながらフォルトゥナ教会地下を後にした。
 地下のことは公になると面倒なので祭壇の位置を元に戻した後、そのまま救急車で無事に搬送されることになった。特に傷の大きいダイナとおっさんはしばらく入院ということになったが、二代目はその日治療だけを受けてすぐに自分の動物病院へと帰ったそうだ。
 また、マリアンも意識不明の重体ではあるが命に別状はないとして、十分に回復した後で取り調べが始まるとのことだった。この日を境に凶悪な連続殺人事件はぴたりと止まり、同じ事件が起きることはなかった。しかし犯人はまだ捕まっていないため、この街に住む住人達はほとぼりが冷めるまでの間は恐怖心を抱きながら街を歩かなくてはならないだろう。……殺人犯であった化け物がこの世にいないことを知っている彼ら以外は。
 またこれは後日の話だが、街ではささやかな噂が流れていた。
 ──フォルトゥナ教信者の多くが自殺をした、と。
 根も葉もない噂は尾ひれを付け、最近では“フォルトゥナ教会前にいたらしい絶世の美少女”が何らかの原因を作っているのではないか、なんて言われている。
 とはいえ、都市伝説はどこにだってあるものだ。街の人たちも冗談半分で話しを作り、日々の娯楽として用いているに過ぎない。
 ……そう。この世に存在してはならないそれらを見たことのない人間にとっては、娯楽と変わらないのだ。

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「永遠への妄執、シナリオクリアだ。おめでとう」
「いよっしゃあああ!」
「全員で生きて帰れたな!」
 ついにエンディングを迎えたと若が大はしゃぎ。初代も全員で生還できたことが相当嬉しいようで、いつになく喜んでいる。
「一時はどうなるかと思ったが、何とかなるもんだ」
「ずっと足を引っ張り続けた気がするけど……最後はみんな無事でよかった」
 最後の戦いで文字通り死にかけたダイナとおっさんも生き残れたことに、安堵の表情だ。
「なんか……不穏な終わり方だったけど、こういうもんなのか?」
「やはり、あの本は調べておくべきだったか……」
 バージルとネロは煮え切らない様子で、シナリオの考察をはじめている。
「初めてのKPだったために不手際も多かったが、少しでも楽しんでもらえたなら幸いだ」
「刺激的だったぜ。人間の視点に立って悪魔みたいな奴らに抗うってのも、味があっていいもんだ」
「たまにはこうやって頭も使わないとな。ダイナが慌てる様も見れたし、俺は大満足だ」
 初代とおっさんが二代目を労いながら今回の感想を述べる。PCのポジション的にも引率する先生みたいな場面が多々あったので、実質この二人が話の軸になっていただろう。
「シナリオの全貌を知れたわけじゃないと思うけど、それぞれ目的に向かっていく感じが楽しかった。……出目がもう少し安定すれば、もっと良かったんだけど」
「肝心なところで役に立てなかったのは悔しかったな。けどまあ、実際人間が化け物見たらあんな感じなんだろうなとも思う」
 ダイナとネロは出目に振り回されたことの苦労を語る。とはいえ、それも加味して今後どう動くべきかを模索していくのが楽しかったとも。
「探索ではすることなかったから、そこら辺も考えて作ればよかったなってのが一つだなあ……。でもまあ最後は派手に暴れられたし、何より提案したら吟味して意見を通してもらえたから、すげー楽しかったぜ」
「武器が破格の強さだというのは嘘ではなかったようだな。……まあ、良かったんじゃないのか」
 思いついたことを提案すれば、程度に差はあるものの手を加えて挑戦させてくれたのが良かったと若は言う。バージルは具体的な感想を言ってくれることはなかったが、最後まで参加していたのが楽しんでいたという何よりの証拠だろう。
 セッションが終わって時計を見れば、時刻は次の日を迎えていた。今日は丸一日付き合ってくれてありがとうという二代目からの感謝の言葉を受けたそれぞれは、照れくさそうにしたり、こちらこそと感謝の言葉を返したりと違った反応を示した。今日はここまでとして残りは明日に回し、雑談や考察もほどほどにして、自室に戻って眠りにつくのだった。