Secret present

 大所帯なためにいつも賑やかなDevil May Cry事務所は現在、異様な静けさに包まれていた。一同が揃いも揃って険しい表情を浮かべ、悩んでいるのには訳がある。
 一週間の内に、相手が喜ぶプレゼントを贈ること。
 何がきっかけだったかはもう忘れてしまったが、先ほど引いたくじに書かれている人物へ贈り物をしなくてはならないのだ。この贈り物、選ぶからには相手が喜びそうなものでないといけないのはもちろん、他にもいくつかの条約が決められている。
 一つ、期限は一週間。
 二つ、必ず本人に手渡しすること。
 三つ、他人に相談してはいけない。
 という何とも難度の高い条約があり、何よりも相手が喜びそうな物を選ぶというのがとにかく鬼門だった。仲のいい者へなら対して悩むこともなかったが、くじ引きで決めたためにそうもいかず、一体何を渡せば喜ばれるのか見当もつかないという困った状況にそれぞれが陥っていた。
「あ……あー、相談……ダメなんだよな」
「相談されると、相談された奴は自分じゃないって分かっちまうからな」
 早くも音をあげる若に、ダメだと念を押すネロ。今回の醍醐味は何といっても“誰から貰えるか分からない”という部分にある。これが機能しなくなっては、面白くない。
「誰が当たっても余裕だ、なんて思っていたが……いざとなると何を贈るか、悩むもんだな」
 珍しく初代も頭を悩ませており、先ほどから何度も腕組みをしては解き、手を腰に当てたかと思えばまた腕組みをしたりとせわしない。しかしおっさんは真逆で、これしかないと言い残して早速買いに出かけていくという正反対さ。
 二代目も自室にそそくさと引っ込んでいってしまった所を見るに、かなり分かりやすい人物が当たったように考えられる。
 一方バージルは、これまた分かりやすいほどに何を贈るべきかと悩んでおり、何が好みなのか分かりにくい、または嫌な奴に当たったかといった具合だ。ある意味で隠す気がないのもバージルらしいが。
「……私も、出かけてくる」
 ダイナも相当に悩んでいた様子だがここにいても仕方ないと考えたのか、とにかく外でそれらしいものを探しに行くことにしたようで、一言残して出て行った。これに続くようにバージルも無言で出ていってしまい、残るは三人。
「あー! 分かんねえ! 俺も気晴らししてくる!」
 完全に煮詰まってしまった若も荒々しい足音と共に姿を消し、残った初代とネロもどちらが何を言うわけでもなく自室へと戻っていく。こうして、物寂しい玄関広間が出来上がるのだった……。

 一番最初に行動を起こしたおっさんは、決して一人では訪れないような小洒落たアクセサリー店に足を運んでいた。というか、借金まみれのおっさんが立ち寄ってもまず意味がないような場所である。にも関わらず、自分は客だといった態度で展示されている品々を流し見していく。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
 店員が、落ち着きがないというか、明らかに場慣れしていないおっさんに対して接客を始める。声をかけられたおっさんは向こうから何か勧めてくれるのならそれも良しとして、自分の求める物を伝えた。
「失礼ですが、その方はどのような職務に就いているなどはお聞きしても?」
「職務……ねえ。強いて言うなら、ちょいと危険な仕事だな」
「でしたら、お守りなどはいかがでしょうか? こちらには魔除けや身代わりといった、その方の不幸を代わりに引き受けてくれる、なんて言われていますよ」
 こちらです、と案内された先に展示されているのはロザリオのネックレスだった。色見から大きさまで様々で、金でコーティングされた輝かしいものから宝石を散りばめたものなどが見受けられる。
 正直に言って、これらを見たときに思った感想は別のものを探すか、だった。魔除けだか身代わりだか知らないが、ロザリオと聞くとどうしても宗教色が強くなるイメージを持っていたからだ。生憎そういった類に興味もなければ関心もないおっさんは無論のこと、贈り先の相手もそういったことに無関心であろうと察しはつく。だからこれはないと思った。
「あー。せっかく勧めてもらっておいてなんだが、別の……」
 言いかけて、止まった。本当に偶然ではあったがふと視界に入った一つのロザリオ型のネックレスから、視線が離せなくなった。理由はよく分からないが、ただとにかくこう思った。
 これを贈りたい、と。
「こちらはダイヤモンドを六つほど使用してロザリオの形を模したものになっております。ダイヤモンド本来が持っている“永遠の絆”などの意味合いの方が強くなる一品です」
「決まりだ。これを貰えるか」
「ありがとうございます」
 豆粒にも満たないダイヤモンドが店内の光にあてられて輝きを増す。この美しい光沢が手渡した相手の首元に添えられ、その存在感を主張する日が来ると思うと今すぐに渡したくてたまらなくなった。
「そうだ。ついでになんだが……」
 おっさんは丁寧にラッピングされた贈り物を満足そうに見つめながら、この際だから前々から考えていた物も用意してしまうかと、もう一度店員と話し始めるのだった。

 次は自室へといの一番で引っ込んでいった二代目。綺麗に手入れの行き届いた部屋の片隅に置かれている、自分が昔身に着けていた衣装たちを引っ張り出してくる。どれもが破れていたり穴が開いていたりと損傷が激しいのに、それでも大事に取ってあるのはどれもそれなりに思い入れのあるものだからだろう。
 一番若い時に来ていた赤いコート──現在若が身に着けている物──を手に取ると、出来るだけ長さを取れる場所を探し出し、一枚の細長い布になるように切ってしまった。同じものを何枚か作ると今度は布たちを重ね合わせ、一本の丈夫な紐へと姿を変えさせた。
 出来栄えも良く、この紐が先ほどまで衣装としての用途を失っていたコートから作られたものだと言っても誰も信じないほどの出来栄えだった。
 紐を作った二代目が、家事をさせれば壊滅的、依頼の仕事は派手に暴れて時たま大怪我を負って帰ってくる若の未来の姿だというのだから、時の流れというのはとんでもない力を持っていると認めざるを得ない。
 二代目は作った紐の強度を確かめるために力を込めて数回張り、捩じった。相当な負荷を加えられた紐は悲鳴を上げるどころかまだまだ余裕で、これならば相手に渡しても大丈夫だろうと自分で作ったものに太鼓判を押す。後はこれをいつ渡すかと思案していた時、控えめな音を扉側から聞き取った。
「どうぞ」
「入るぜ……って、悪い。作業中だったか?」
「いや、丁度作り終えたところだ。何かあったか?」
 完全にタイミングを見誤ったと、気まずそうに部屋へ入ってきたのはネロだった。
 各人一部屋ずつ設けられているため、滅多なことがなければ自分以外の個室に入ることはないし、ネロがこうして二代目の自室に足を踏み入れるのは初めてのことだったりする。普段から綺麗に整頓されている部屋に、わざわざ入る理由がないからだ。だからなのか、必要以上に視線が泳いでしまう。
 また、この一週間は否が応にも相手のことを意識せざるを得ない。特に、自分が贈り物をすると当たった相手だったら尚更。そのため、本人すらも気付かないうちに左手を後ろに回し、まるで何かを隠すようなしぐさを取ってしまっていた。
 ネロの態度に二代目は少し困ったように口元を緩めたが、自分から聞くことはせずに相手が口を開くのを待った。表情の変化やどうしたという問いかけ以降何も言ってこないことに、自分の言葉を待っているんだと理解したネロは歯切れを悪くしながら左手を突き出した。
「何かあったわけじゃ、ないんだけどよ……」
 握られていたのは新品の髭剃り。これを見て今の状況を理解出来ないほど二代目が鈍いわけもなく、感謝の言葉を口にして受け取った。
 受け取ってもらえたことでネロの内心は幾分か落ち着きを取り戻す。感情の高ぶりが収まると今度は照れくささが異様に膨らみ、聞かれてもいないのに何故これを選んだのか、説明を始めた。
「二代目ってさ、その……髭の手入れに気を遣ってるだろ? 今使ってるのも随分年季が入って来てたし、替え時だと思って」
「知っていたのか」
「朝の準備で一緒になることが多いから、自然と洗面所で会うこともあったし。まあ、俺の中ではおっさんが基準になってるところがあるから、それと比べちまってるだけなのかもしれないけど……」
「いや、髭の手入れを入念に行っているのは事実だからな、助かる。……ただ、そうか。ネロがそのことに気付いているとは思っていなかった」
 歳で言うと年長者と年少者なので接点が少なく、二人が話をするのは家事当番で一緒になった時ぐらいしかないというのが実情だったりする。さらにバカをすることもないために喧嘩をすることもなく、会話らしい会話を交わしたことが数える程度しかなかった。だからこそ、今回の贈り物は偶然であったとはいえ、距離を縮める良い機会になるとネロは密かに感じていた。
 しかし、変な表現になるが、ネロにとって二代目はおっさんの未来の姿なので妙な距離感を感じてしまうのは致し方ないにしろ、二代目からすればネロはおっさん時代から関わりのある相手ということになる。無論、年がら年中一緒に居るわけではなかったにしろ、ネロの抱いている距離感と二代目の抱いている距離感には相違があるはずだ。
 その相違を感じさせない振る舞いが取れるのは普段から感情の起伏が乏しいが故なのか、それとも二代目自身としてもネロとの微妙な距離感を抱いているからなのか……。どちらにしろ、緊張やら気まずさで冷静さを欠いているネロにこの差異を感じ取ることは出来なかった。
「今回、二代目に贈り物を渡すことになったのは完全に偶然だったけど、俺はいいきっかけになったって思ってるから」
「大切に使わせてもらう」
「それじゃ、用事はこれだけだから」
 用件も済んだので部屋から出ていこうとするネロは扉を開けようと手をかけたが、何か思うところがあったのか二代目の方に改めて向き直し、伝えたいことを口にした。
「二代目は未来からきているんだから俺のこと知ってるのに、俺は二代目のことを全然知らなくて……なんか、悪い」
 ネロがおっさん以外のことを良く知らないというのは別に不思議なことではない。相手のことを知らないという事柄に関して言及していくなら、みんな同じ土俵である。
 ただ、ネロには過去や未来、そして別の世界線から来ている彼らとは違う、この世界で同じ時代を生きてきたおっさんという大きな存在がある。だからネロの中でダンテと言えば、飄々としながらもどこか憎めない、大事な場面で信頼できる彼こそが基準となっている。
 そんなおっさんと他のダンテたちは同一人物であるということが事務所内で導きだされている解であり、そんな彼らを比べるなというのは無理な話である。いつかおっさんにも二代目のような貫禄が出てくるのだろうと理屈では理解していても、どうにも納得しきれない部分というものがあるのは事実だ。
「まあ……髭を見ていると別人のように感じてしまうのは仕方ないだろう」
「今でもおっさんが二代目になるって……あんまり信じれなくて」
 おっさんと二代目と会話を交わした後に、彼らは同一人物ですという説明を適当な十人にしたとしても、ネロと同じ反応を十人がするだろう。これは、それほどまでに人が変わっているからこその解である。ただ、ネロがそう信じたくないのは……おっさんに変わってほしくないという思いも込められているのかもしれない。
 また、ネロ自身はただ思ったことを口にしただけであったが、この一言で二代目の内心は大きな波を起こした。最も、二代目が心の揺れを悟られるような不覚は取らなかった。

 今回の企画が行われた初日に贈り物をしたのはネロだけだった。他の面々は未だ何を贈るか悩んでいる者と、どのタイミングで渡すかで四苦八苦している者で分かれていた。一度タイミングを逃してしまった者はどんどん渡しづらくなっていき、ただ時間だけが過ぎ去っていく。
 このままでは埒が明かないと、とある人物が行動を起こしたのは企画が話として持ち出されてから三日後のことだった。
「若、入るぜ」
 一応声はかけるものの、相手の返事を待つことなく扉は開かれた。時刻は深夜ということもあり部屋の明かりはつけられておらず、何よりも声をかけられた本人は気持ちよさそうにベッドの上で眠っていた。これに構うことなく若の部屋に入り込んだ人物は、ベッドに近付こうとして踏み出した足先に何かが当たる感覚を覚える。一体何がと足元に目を向けてみるが、当然暗いため目で捉えることは出来ない。
「ん……誰か、いんのか?」
 いつも大声で呼びかけたり殴り飛ばしたりしないと起きない若が、先ほどの微かな物音で目を覚ました。若干気怠そうにしているようにも見える。暗闇の中でぼんやりと浮かび上がる漆黒のシルエットは上体を起こし、扉付近に視線を向けているようだ。
「おう。起きたなら丁度いい。電気付けてくれ」
「その声…………これでいいか?」
「恩に着るぜ」
 声質で誰なのかを把握した若は慣れた足つきで自室の中にある電源スイッチを入れた。部屋に入ってきていた人物は暗闇に慣れ始めていたため、刺激の強い白色を受けて眩しそうに目を細める。
 少しでも目に受ける刺激を減らそうと再び視線を足元へ移すと床一面に散らばる雑多な物を蹴ったことを理解すると同時に、これまたパンチの効いた内装だという感想を抱き、二代目やネロに口うるさく片づけをしろと言われても仕方がないとも思った。
「んで、こんな夜中にどうしたんだよ。初代」
 若は隠すことなく大きなあくびをしながら、真夜中に尋ねてきた初代の用件を聞く。いまだ寝ぼけているようにも見える態度で、しっかりと頭が働いているのか怪しい。それでも初代は構うことなくベッドに腰を下ろしている若の隣まで若干の時間を要しながら辿り着き、同じように腰をかけてから何かを渡した。
 若は手渡された物が一冊の雑誌であったため、警戒することなく受け取る。
「……なっ! こ、これはっ!」
 中身を適当にめくっている内にこれが一体何であるのかを理解した若の頭は一気に覚醒し、興奮冷めやらぬといった様子で大きな声を出した。
「色々考えたんだが、俺の秘蔵コレクションを分けてやろうと思ったんだ」
「さっすが初代! 太っ腹だぜ! マジでこれ、貰っちまっていいのか?」
「おう。その代わり絶版だからな、大事にしろよ」
 絶版というからにはレア物なのだろう。表紙を見る限りではただの雑誌のようにしか見えないが、先ほどの若の様子を鑑みると……中身の全容は察せてしまいそうだ。ただ、そういった内容の本は若自身何冊も持ち合わせているはずだ。であるにも関わらずあそこまでテンションが上がるということは、何か他の雑誌たちとは一味違う部分があると考えられる。
「それにしても……結構似てるな」
「髪の長さと色が同じだからな。ただ、あの鍛え抜かれた身体と比べるってなると、体格はもう一声欲しいところなんだよ」
「だなあ……。それにもうちょい小柄だとバッチリなんだけど……ちょっと違うところがあるからいいんだよな、こういうのは」
「ああ。本人とまるっきり同じってのは背徳感が強すぎて、流石に萎えちまう」
 男同士にしか分からない世界というものがあるようだ。結局、贈り物をした初代も名残惜しいのか、二人は雑誌の中身を眺めながら話に花を咲かせ、いつの間にか暖かな日差しが朝を教えに来る時刻を迎えていた。
 朝日が昇ってから数刻も経たぬうちに乾いた音が近づいて来る。真夜中に男二人で雑誌一冊を眺めて盛り上がっていたなんてこれっぽっちも知らない誰かが、いつものように若を起こしに来たようだ。
 ダイナは、毎度ながらノックなんてまどろっこしいことはしない。しても返事がないことなど目に見えた結果なので、形式だけにしかならないことなどする道理がない。もしもノックをすることがあったとしても、合図を送るのとほぼ同時に扉を開くだろうから意味を成すことはないだろう。
「……初代? どうして若の部屋で寝ているの?」
 扉を開けて真っ先に視界へ飛び込んでくる光景は情報量の多い内装なのだが、是非はともかく慣れてしまったダイナの視線はすぐに若のベッドに向けられる。いつもと変わりがなければ半裸で気持ちよさそうに爆睡している若しかいないのだが、今日に限っては何故か初代も一緒に寝ているではないか。
 不思議でしかない光景にダイナは戸惑うが、目的は若を起こすこと。ついでに初代も起こせるのであれば一石二鳥だ。
 慣れた足取りでベッドに近付き、若と初代に声をかけながら肩を揺すっていると若が雑誌を大事そうに握りしめていることに気付く。
 このままでは寝返りを打った時に下敷きにしてしまう可能性がある。それだけならば良いが、下手に身じろきでもしようものなら破れてしまいそうだ。どうしたものかと一瞬思案したダイナは気を利かせて雑誌を枕の横に置きなおすため、雑誌を握っている方の若の指を外そうと手を触れたとき、若の意識が覚醒した。
「これはダメだ!」
 彼女にだけは絶対に見られてはいけないという野生の感だろうか。ダイナが何かを言うよりも早く飛び上がり、雑誌を自分の背に隠す。
「……おはよう」
「あ、ああ。おはよう」
 面を食らったダイナは何と声をかけるべきか悩み、目覚めの挨拶をする。この対応に同じく面を食らった若は警戒心を全開にしたまま挨拶を返す。
「中身を見るつもりはなかった。大事そうにしていたから、どけておこうと思っただけ」
「そう……か、わりい。勘違いして」
「ううん。私も無神経だった。……それで、どうして初代がここに?」
 見られたくない物なら必要以上に触れるのは良くないと考えたダイナは話題を変える。朝から横で騒がれた初代は若が言い淀んでいる間に意識がしっかりとしてきたようで、かなり怠そうにしながら体を起こした。
「ダイナか……。いつもご苦労なことで」
「おはよう。別に苦労は感じていないけど、たまには自分から起きてくる朝も良いものだと思う」
「……考えとく。昨日の晩、ちょいと若と盛り上がってな。気づいたらここで寝ちまってたんだ」
 嘘はついていない初代の説明に納得を示したダイナは二度寝はしないようにとだけ釘を刺し、部屋から出て行った。扉の閉まりきる音が耳に届くと同時に胸を撫で下ろす若を横目に、初代は口元を緩めた。
「見られなくて良かったな」
「焦った……」
 もしも、見られていたら。
 そんなたらればを考えるだけで嫌な汗が流れてくる。ただ、ダイナの性格を考えれば無断で覗くようなことがないのは分かることだというのに、先ほどの態度はあまりにも露骨に嫌がってしまった。とっさに謝罪の言葉が出てきたのは我ながら良くやったと思えるほどだ。
「大事に隠しとけよ」
「つっても、俺の部屋の物は把握されてるんだよな……」
「自分で部屋を片付けるしかないな」
 素敵な贈り物を受け取ったはずであるというのに、別の問題が浮上してしまった若は渋い顔をする。このまま不貞寝でもしてやろうかとも思ったが、またダイナに部屋を訪れられるのは先ほど以上に挙動不審になってしまいそうなので、今回は寝不足の体を無理やり起こし、同じく眠そうにしている初代と一緒に一階へ降りるのだった。
 時を同じくして、ダイナが二階へと寝坊助どもを起こしに姿を消した一階では静かな時間が流れていた。
 今日は奴らが起きてくるのにどれぐらいの時間を有するのか、なんて下らないことを考えて暇をつぶしているネロは、先ほどまで共に朝食の準備に勤しんでくれた二代目と一緒にコーヒーを飲む。
 もう一人、こちらは我関せずな態度を貫き読書を続けるバージル。相も変わらず古い魔導書を読み漁っているようで、それらを知って何をするつもりなのか。
 怪しい書物に夢中なバージルをぼんやりとネロが眺めていると、二代目が声を発した。
「……丁度いい。バージル、少し閻魔刀を貸してもらえるか」
 コーヒーカップをテーブルに置き、バージルに頼み事をする。
 彼が頼み事をすることなんていうのは相当に珍しく、今耳に入った発言だけでも驚きを隠せない。しかも内容は、閻魔刀を貸してほしいと来た。これには流石のバージルも疑問ばかりが浮かんできたようで、書物から顔を上げて、いつも以上に険しい表情を二人に晒した。
「何故だ」
「すぐに返す。警戒しないでくれ」
「……ネロも持っているだろう」
「バージルのでないと意味がなくてな」
 頑なに理由を言いたがらない二代目と、問いかけに対して満足な答えを得られなかったバージル。空気は随分と重い。
 この中で一番緊張したのは、傍で話を聞いていたネロだ。喧嘩をしているわけではないというのに、一触即発の空気が一瞬で作り上げられるというのは居心地悪い。
 自分は何にもしていないというのに、どうしてこんな思いをしなくてはならないんだと、半ばヤケクソに残っているコーヒーを喉に通す。口の中一杯に広がる苦味に集中しても場の空気が変わるわけはなく、誰でもいいから早く起きてきてくれと願うばかりだ。
「断る」
「……理由を語らずして、貸してはもらえない、か」
 二代目の理想は何も聞かれず閻魔刀を貸してもらうことだった。しかし、虫の良すぎる話でもあるとも理解している。だから断られるのも承知だったようだが、どこか寂しそうだ。
「用途を話せ。それ次第では考えてやらんこともない」
「これを、つけてやりたくてな」
 懐から取り出されたのは一本の紐。それにネロは見覚えがあった。これは数日前、二代目の自室に初めて足を踏み入れた時、サイドテーブルの上に置かれていた物だ。
「下緒か……?」
「ああ。自作だから立派なものではないが、バージルが使っている閻魔刀の下緒も随分とくたびれていただろう? だから、良い機会だと思ったんだ」
 ここまで話されれば、下緒が用意された訳も、そして閻魔刀を貸してほしいと頼んできた理由も分かる。
 ネロの贈り物の対象が二代目であったのと同じように、二代目は相手がバージルだったということだ。
 今回の企画は内容の性質から、贈り物をしてくれた相手に返せば良い、というわけにはいかないのが難しい。相手から貰い物をしたからお返しする、というのは自然な流れであるため比較的理由付けも簡単に出来る。だが今回に関しては渡してくれた相手にお返しできる確率は低い。
 だからこそ、貰った時にきちんと感謝を伝えられるか。また、本当に相手を想って渡すものを選ばなくてはならないのだ。
「結び方は知っているのか」
「一応、知識としては身につけたつもりだが……自信はない」
「貸せ」
 有無を言わせず二代目の手の中から下緒を奪い取ったバージルは腰に提げている閻魔刀についている下緒を外し、奪い取った方の下緒を手際よく鞘にくくり付けていく。
 洗練された動作にネロはもちろんのこと、二代目もまるで見惚れるようにバージルの手元に視線を向けていた。
「これで文句はないだろう」
「受け取ってもらえたと、解釈しておくぞ」
「フン。……強度にも問題ない。使ってやる」
 どこまでも素直じゃないバージルと、自分よりも一回り以上歳が下である兄に四苦八苦する二代目。親子と言っても差し支えないほどの差があるはずなのに、双子とは言えずともギリギリ兄弟と呼べるような距離感を保っている二人の関係性に、ネロは不思議な気持ちを抱くのだった。
「何してんだ?」
「二代目とバージルが喋ってるなんて、珍しいじゃないか」
 だらだら階段を下りてきたのは若と初代。ダイナの姿が見当たらないのはおっさんを起こしに行っているからだろう。
「俺から言わせてもらうと、初代はともかく若がこんな早い時間に起きてくることの方が珍しいんだけど」
 起こしたって二度寝は当たり前。そうでなくても後五分と言いながら三十分以上ベッドの中から動こうとしないのが常であるあの若が、ダイナの甘っちょろい起こし方で起きてくるなんて今までに一度でもあっただろうか。ひどい言われようかもしれないが、これが事実だから仕方がない。
「ネロって辛辣だよな……」
 言い返す言葉がないため、若は困ったように片手を首筋にあてながら視線を泳がせる。一方、二代目も初代の問いに対し、自分が口を開くのはそんなにも珍しいのだろうかと疑問を抱きながら言葉を返した。
「俺だってバージルと話すことぐらいある。なに、用件も終わったところだ」
「用件、ね。なるほど、そういうことか」
 こちらの会話に意を介さないバージルは閻魔刀を腰に提げなおしていた。その様子を見逃さなかった初代は閻魔刀の変化に気付き、二代目の用件が何であったのかを把握する。
 すると突然、初代の眼前に誰かから何かが投げてよこされた。反射的に何かを掴むと、材質は革であることが分かった。
「くれてやる」
 脈絡なんて一切ない、突然の贈り物。
 初代は最初、先ほどバージルに対して視線を向けたことにでも腹を立てられたのかと考えたが、くれてやると言っているのだからそういうわけではなさそうだ。というよりはもう、ただただ不器用なだけという表現が一番しっくりくる。
 渡したと言えるかは些か怪しいが、とにかく掴んだものを広げるとすぐに全貌が分かった。
「ガンホルスターじゃん」
「おお……すげえな。エボニー&アイボリーがピッタリ入るぜ」
 純粋に実用性の高いものを貰い、初代もこれには大満足。横で見ていた若も羨ましがるほどだ。
「当然だ。貴様の銃器に合わせたものを選んできたのだからな」
「それって……探すの大変だっただろ」
「すぐに壊したら承知せん」
 対悪魔用に自作されているエボニー&アイボリーは性能はもちろんのこと、使い手である初代の手に馴染む大きさに規格されている。従来の物よりもサイズがいくらか違うため、きちんと収められるガンホルスターというのはなかなか手に入りづらいのが実情だ。
 事実、初代が先ほどまで使っていたガンホルスターは相当に使い込まれており、出来ることなら替えた方が良いほど。しかし、簡単に代替えが見つかるものでもないため、同じものを使い続けるしかなかった。
 これを見つけてくるのはかなり苦労しただろう。
「あー……その、バージル」
「何だ。俺からの用件はそれだけだ」
「ありがとよ」
 思ってもみなかった言葉に、バージルの思考が止まる。しばらくといっても一分もなかったが、じっと初代を見つめ続けるバージルの視線に耐えかねた初代が先に目線を逸らす。それにつられるようにバージルも視線を外し、ソファに置いてあった書物で顔を隠すように読書を始めるのだった。
「これは流れに乗って、俺も渡しちまうか」
 照れくさそうにしている初代の傍を離れた若は、コートのポケットから手のひらに収まるサイズの何かを取り出し、ネロの左手を掴んで握らせた。まさかここに来て自分への贈り物だと思っていなかったネロはどうしたらいいのか、自分の左手と若を交互に見返した。
「……手を開いたら、虫が飛ぶとか」
「感触で虫じゃないって分かるだろ。ていうか、ポケットに虫を入れておく趣味はないって」
 感触を確かめるように手に力を入れてみると、まるで分厚い布を触っているような感覚だった。ずっと握っていても仕方がないので、恐る恐る手を開いて渡されたものを確認すると……。
「何だ、これ。包帯……か?」
 真っ白な包帯だった。しかし、それだけだ。特別な感じはない。
 包帯を用いるとすれば怪我をした時だと考えるのが自然だが、別にネロは怪我をしていない。一体全体、どうして若はこれを選び、ネロへの贈り物にしたのだろう?
「それさ、俺の魔力を込めてあるんだ」
「若の?」
 魔力の込められた包帯。……と聞いても、やはり用途が分からない。若の、というよりダンテの魔力が込められているとなると相当に強い効力を発揮するのだろうことは推測できるが……。つまりは、怪我をした時にこれを使えば怪我の治りが早くなるということだろうか。
「俺らは見慣れちまってるし、そもそも半魔だから気にしてないけど、右腕は街に行くとき目立つから隠してるだろ?」
 ネロの右腕。
 ダンテやバージルの魔人化のように具現化が自由自在なものではなく、ダイナのように容姿へ変化が及ばない類とは違う。あの日をきっかけに顕現してから一度として普通の右手に戻ることがない、悪魔の右腕。
 今でこそこうなってしまったのが運命であったのだと納得もしているし、皮肉な話ではあるがこの腕のお陰で大切な人を守ることが出来たのも事実だ。それでも不便なことは多く、どこかへ出かける時に右腕を隠すということはどうしても必要なことだった。今までに用いているのは無難に自分の着ている服の袖をしっかりと手首まで降ろし、手袋をつけること。
 ただ、この手袋をつけるというのが大変気を遣う。まずこの右手を包み込める大きさの手袋なんてそうそう手に入らないし、手袋なんてものは結局は布なので、少し力を入れるだけで破れてしまう。破れてしまったら最後、隠すという目的を満たせなくなるので捨てる他ない。これが何度も続くと嫌気も差してくる。だから最近は気味悪がられようと手袋をつけるのは諦めているのが現状だった。
「最近は面倒がってあんまりしてないけど、まあ……そうだな」
「包帯を巻くってのも目立たないとは言えねえけど、嫌な視線を向けられるほどではなくなると思うんだ。俺の魔力で強度も高めてあるから、ちょっと力を入れた程度じゃ千切れたりしないからよ」
 素直に嬉しかった。
 若が、自分が右腕を気にしていることに気付いてくれていることもそうだし、何より手間をかけて少しでも周りの視線が和らぐようにと包帯という形で準備してくれたことに、胸の奥が温かくなった。
「若、ありがとな。……マジで嬉しいわ」
「おう! なくなったらまた作ってやるから、遠慮なく使えよ!」
 屈託のない笑みにつられ、ネロも表情を崩す。まるで幼い子供のやり取りにも感じられるそれは、一切の闇が入り込めないほどに眩しいものだった。
 これには近くにいた初代や二代目、そしてバージルの心にもネロの感じた温かみを分けるようだった。
「……さて、後はダイナがおっさんを起こしたら朝飯だな」
 こんなにも温かなやり取りを見逃したと知れば、二人はどんな表情を浮かべるだろうか。おっさんは顔には出さなくても残念そうにするだろうし、ダイナも表情は変わらずとも見たかったと悔しがるだろう。
 さて、一階で起きた出来事に立ち会えなかった二人はというと、おっさんの自室にいた。当然、おっさんは自分のベッドで気持ちよさそうに眠っているし、ダイナは叩き起こすのに悪戦苦闘している。
 声をかけた程度で目を覚まさないのは周知の事実。揺すればほんの少しだけ瞼が持ちあげられるが、大体二度寝されるか、邪魔をされた腹いせにそのままダイナをベッドに引きずり込んで再び眠るという、まさに強敵。出来る限り近寄らずに起こしたいというのが本音だが、声掛け程度では埒が明かない。
 結局、腹をくくったダイナはおっさんの肩を叩いたり、上体に両手を当てて揺する。
「ん……もう少し、寝かせてくれよ」
「朝だから起きて。もう、若も初代も下で待ってる」
「……あの若がか?」
 珍しいこともあるものだと思ったおっさんは先ほどの発言とは一転して、体を起こした。ダイナから言えばこれまた珍しいことが起こったというもの。近日中に槍でも降りそうだ。
 しかし、槍が降る心配よりも、別の問題を心配しなくてはならない事態に直面していた。
「おっさん。起きたのなら、離して」
「んー? ダイナだけ俺に触れるってのは不公平だろ?」
 間延びした声色に加え、訳の分からない理屈をこねて両腕をしっかりと掴んで離さないおっさんに抗議するも聞き入れてもらえることはなく、数分が経つ。
「いつまでこうしているの」
「そうだな。……逃げないって約束してくれるなら、離してもいいぞ」
「伝えることがあるなら聞くと、いつも言っている。逃げたりしない」
 言質を取ったおっさんはこれを良しとしてダイナを離す。彼女も逃げ出すことはなく、おっさんの言葉を待つ。
「もうちょい、こっちに近付いてくれねえか?」
 もう少しと言われたので、警戒心もそこそこにベッドに腰を掛けているおっさんに近付く。すると突然視界が暗くなり、何事かと腕を突っ張ればおっさんの胸の中に収められていた。
「よーし。これで逃げられないな」
「おっさん! 何を……っ」
「暴れるなって」
 急にトーンの下がった声を耳元で聞かされ、ゾワリとした形容しがたい何かが背中を駆けた。その感覚を忘れなくてはいけないと本能で感じ取ったダイナは瞼をきつく閉じ、早くこの時間が終わることを祈った。
「もういいぞ」
 終わったと言われ、おっさんの胸元から解放される。離されるとなんてことはなく、むしろ寂しさすら覚える。
 何を考えているのだと自分の考えを否定するように首を左右に振ると、首元で何かが揺れた。揺れるような物なんて身に着けていないのにこの感覚は何だとダイナが視線を下ろすと、そこにはダイヤモンドが美しく光り輝いていた。
「こ、れ……」
 六つほど埋め込まれたダイヤモンドはロザリオの形をしている。ダイナが壊れ物を扱うように、そっと手のひらに掬い上げると太陽の光が当たる角度が変わり、先ほどまで無色だったそれはオレンジ色の光を放ち始めた。
「俺からの贈り物さ。……やっぱ、これにして正解だな。良く似合ってる」
「ダイヤモンドって、すごく高価な物じゃ……」
「“永遠の絆”」
 高価な物過ぎて素直に喜びきれないダイナの言葉を遮りおっさんが伝えたのは、ダイヤモンドが持つと言われている石言葉。
 占いやそれに類するものに興味があるわけではないが、おっさんの口から贈られた言葉がゆっくりと心に入っていく。そして胸がいっぱいになっても嬉しいという思いは際限なく溢れだし、ダイナの頬を綻ばせた。
「うれ、しい……。嬉しい、よ」
「いいねえ。いい笑顔だ。……受け取ってくれるか?」
「ありがとう。本当に……嬉しい。私、みんなとの絆……絶対に大切にする」
 今までアクセサリーを身に着けたことのないダイナが初めてもらった、着飾る物。戦いを第一に考え、そのために不必要な物を全て排除してきた彼女が身に着けるは六つのダイヤモンドで形成されたロザリオ型のネックレス。
 ──家族との、永遠の絆。
「そんなにも嬉しかったなら、また何か贈ってやろうか」
「ううん。これだけでいい。これだけで……充分過ぎるから」
 言い終わると同時にダイナがおっさんの首に両手を回す。
 突然で、それでいてダイナから抱きつきに来るのは初めてで。おっさんは何が起こったのか、すぐに理解出来なかった。ただ、拒むなんて発想が出てくることはなく、今度はおっさんが壊れ物を扱うようにゆっくりとダイナの背中へ両腕を回そうとして、首元に何かが当たったのを感じ取り、そちらに気が向いた。その一瞬の間にダイナはするりとおっさんの両腕を通り抜け、身体を離してしまった。
 抱きついてきたわけではなかったという虚しさと名残惜しさを感じながらも目線を落とせば、そこには先ほどまでなかったものがあった。
「なんだ。ダイナもネックレスを選んでくれたのか」
「うん。私がもらったものと比べると、その……」
 ダイナの身に着けているネックレスはここにあると言わんばかりに存在感を見せている。一方、おっさんに掛けられたネックレスは一粒のルビーがついているだけで、おっさんの上着に隠されてしまっている。
「ルビーを選んだのは、やっぱり赤色だからか?」
「そう。おっさん……というか、ダンテはやっぱり赤が似合うから。それに、ルビーには力強さがあるって思ったの」
「ダイナも俺のことを考えて選んでくれてたってわけだな。……最高の贈り物だ。ありがとう」
 おっさんは飾り部分を指先で弄りながら嬉しそうに目を細める。
 これは本当に偶然でしかなかったが、お互いにネックレスを選び、結果的に交換し合えた形となったことがおっさんには堪らなく嬉しかった。
「……みんなが待ってる。行こう」
 いまだ頬を緩めながら、おっさんに朝食を食べに行こうとダイナが声をかける。そんな彼女の頬をおっさんは軽く引っ張ったり縮めたりする。からかわれていると理解したダイナはその手を止めるように抗議すると、意外にもすぐに離された。
 今日は本当に珍しいことが良く起こる。そんな風に考えているダイナには、おっさんが他の面々にダイナの先の笑顔を見られたくないからという心理に辿り着くことはない。
 遅くなってしまったと急ぎ足で階段を降りると、おっさんと自分以外揃っており、腹が減ったという声が聞こえてくる。
「ごめん、待たせて」
 彼女の後を追うように降りてくるおっさんは相変わらずゆっくりで、待たせて申し訳ないなどとは一切思っていないようだ。
「やっと降りてきたな! 早く飯を……食おう、ぜ……」
 腹が減ったとうるさかった若がダイナに視線を向けると、紡いでいた言葉が歯切れ悪くなっていった。急に声が小さくなっていくものだから他の者たちもどうしたと同じくダイナに視線を合わせると、理由が分かった。
「どうしたんだ? それ……」
「あ、おっさんから貰ったの」
「ちなみに、俺もダイナから貰ったぜ」
 羨ましいだろと言いながらおっさんも首にかかっているネックレスを見せびらかす。これには初代と二代目が一本取られたと内心穏やかではなかった。
 そんな中、一番騒ぎそうな若はというと……。
「そ……っか。良かったな」
 先ほどまでの元気は一体どこに行ってしまったんだと言う他ないほどにしおれていた。まるで見たくないものを見せられたような、悲痛の叫びが聞こえてきそうなほどの……。
「……何か、あった?」
「いや、何でもねえよ。それより早く食おうぜ」
 若が一体何を感じたのか。静かに己の首元へ伸ばし、触れることなく引っ込められた手は何を意味していたのか。
 若が話題を逸らそうとしているなんていうのは分かり切っていた。分かり切っていたが、問いただすことは誰にも出来なかった。二代目にも、おっさんにも。そして、バージルすらも。
「俺も腹が減ったんだ。朝早くから誰かさんに起こされたんでね」
「ああ、食べようか」
 初代が気を利かせて替えられた話題に乗り、二代目の一言で全員が何事もなかったかのように食事へと手を付け始める。どんどんなくなっていく料理を見てダイナとおっさんも急いで自分の席に着き、自分の分を確保するため争奪戦に参加する。
 この後はいつもと変わらない大騒ぎの朝食を終え、家事当番が片付けを。他の連中は好き勝手に過ごした。
 また本日をもって、秘密の贈り物も無事に幕を閉じた。