Devil trigger

 夜になると誰もいなくなったはずの屋敷から、女の甘美な声が聞こえてくる。という、なんとも怪しげな仕事がDevil May Cryに舞い込んできた。
 この仕事にあたったのは初代とダイナ。最初はおっさんが行くと張り切っていたのだが、二代目とペアを組んでいくというかなり大掛かりな仕事が別に入ったため、渋々初代に譲ったらしい。ダイナが行く理由は、もし悪魔ではなく一般女性がいた場合の対応をするためだ。
「急に男の人が入り込んできて、あんなことやこんなことを……!」
 なんてあることないこと言われて、初代が牢屋送りになるのを防ぐために。
……どうして初代に譲ったのか? 答えは簡単。本当にただの一般人がそういうことをしているだけならネロには刺激が強すぎるし、若だと本当に手を出しかねないからだ。バージルは悪魔が出ない可能性のある仕事は興味がないと行く気ゼロ。
 ネロはともかく、双子はもう少し仕事に対して真面目に取り組むべきである。そんな文句を一つも言わずに仕事を引き受けた初代はダイナを連れて仕事日の夜、噂の屋敷に来ていた。
「ここが……」
「何階建てだ? いくら屋敷だとは言っても、限度ってものがあるだろうに」
 いくら見上げても、建物のてっぺん部分が見えない。今から二人はこのバカでかい建物の内部に侵入する。
 だが外見とは裏腹に、中に入ってみれば普通の内装だった。屋敷と言えばまさにこんな感じ、といったテンプレのような玄関から始まり、一階にある部屋には全て同じ家具が取り揃えられていた。
 さらに付け足すならば、至って変な所はない。ほこりを被っていたり、いろんなところが痛み始めているものの、むしろそれが誰も使っていないという何よりの証拠だった。
「特に悪魔の気配もない」
「これは冗談抜きで、一般人がいい場所見つけたって感じで盛ってるのか?」
「悪魔がいないのはいいこと。……だけど、それはそれで対応に困る」
 廃墟となった建物は悪魔の根城になりやすい。そのため、危険があるといけないからとこの仕事を請け負っているわけだが、本当にただの人間が無断で使用しているだけとなると、こちらもやりづらい。
「悪魔の気配がしないから……って理由だけで結論を急ぐなよ。まだ調べてない部屋は腐るほどあるんだからな」
「油断はない。けど、忠告ありがとう」
 どんな言葉にもひねくれず、素直に受け取るのはダイナの魅力だ。そしてそれは、仕事を円滑に進めるためにもっとも必要な能力。特に皮肉屋のダンテーズとともに仕事をこなすなら、これぐらい順応性が高くないとことあるごとに喧嘩をする羽目になる。……あの兄貴のように。
 発言に一々目くじらをたてず、尚且つ高い戦闘能力がある。そういったところを加味すると、なんだかんだ不安があると言いつつみんな、ダイナと仕事に行くのは気が楽で好きだとかなんとか。
「これだけ広いと、手分けしたほうがいいか」
「賛成。左回りと右回りで各部屋を巡回。見終わったら階段で待機。揃ったら次の階へ……それでどう?」
「オーケーだ。それでいこう」
 効率だけで見れば二人が自分のペースで部屋を見ていく方が早い。だがそれは安全とは言えない。ダイナの提案した内容が、ある程度の安全性と効率を取っていると言えるだろう。
 こうして、外から見ただけでも何十階とある屋敷の中を丁寧に調べ始めるのだった。

 下の階から全ての部屋を調べ上げて数時間。
 悪魔の気配はおろか、夜になると聞こえる女の甘美な声というものも聞こえてこない。
「どうなってやがる……」
「依頼内容自体が嘘、だった?」
 あまりにも何もなさ過ぎて、完全に拍子抜けしてしまった二人。これ以上探索を続けようとは思うはずもなく、骨折り損のくたびれ儲けだったといった感じで二人は館を出るために一階を目指す。
 その途中で、ようやく物事が動き出した。
「……ふっ…………ぅ…………」
 女性の声だ。かすかではあるが、甘ったるい声質であったことは聞き取れた。おそらく、依頼主が聞いたという声はこれだろう。
 ただ突発的であったために、どの方角から……というのは特定できなかった。そのため二人は声を出さず、目線でやり取りをしながら気を配る。今度聞こえてきたとき、居場所を絞り込めるように。
 ゆっくりと、足音を殺しながら階段を下りていくと、先ほどの声が徐々に大きくなってきていることが分かった。
「やっ……あっ……がっぁ…………」
 突然、女性の声が甘美なものから苦痛に耐えるような声へと変わり、ダイナと初代は眉をひそめる。
「初代、今の声は……」
「急いだ方がよさそうだな」
 やりとりを最小限に、声のする方へと急ぐ。そして声がしてきているであろう一角の部屋にたどり着く。
「一応、調べた部屋。……でも、何が起こるか分からない」
 そこは一度ダイナが立ち寄り、調べたはずの部屋だった。その時は人がいるなどはなく、特に変な所のない部屋であったのは確認済みだ。だが、ここから声が聞こえてきているのは間違いない。そして扉を開けずして中を確認する術がないのなら、やることは一つだ。
「入るぜ」
 いつもの調子で一瞬の躊躇いもなく、扉を蹴ってぶち開ける初代。ダイナもそれに対して何も言わず、警戒を強めながら初代に続いて部屋に入る。
 中には血の気が引いてぐったりとしている女性と、それを抱きかかえる生気に満ち溢れた女性がベッドの上にいた。
「今日は客人が多いと思ったら……これはまた、大物が来てくれたもので」
 生気に満ち溢れた女性は初代を見ながらそんな風に声をかけてくるが、特に焦っている様子はない。
「女同士でしてるとは思わなかったぜ」
「貴方もご一緒しない? なんて、無粋かしら。彼女を抱くために、こんな怪しげな館に来たのだものね」
 艶めかしく指を動かしながら、こちらへどうぞと誘う。
「彼女……ね。そういった関係なら、俺も大歓迎なんだが」
「冗談はそこまで。……その女性に、何をしたの」
 このまま二人に話させていては永遠と駆け引きを見せつけられると察したダイナは、話の腰を折って核心に迫る。
「イイコトよ」
「意識が飛ぶぐらいか?」
「そう、意識が飛ぶぐらい。……大丈夫、安心して? 貴方達にもちゃーんと、味わわせてあげるから」
 女が言い切るのと同時に、初代とダイナがその場を飛び退く。見れば、ぐったりとしていたもう一人の女性が八重歯をむき出しにし、飛び掛かってきていた。
「本当にいい子ね。これで、二対二になったかしら?」
「……操られている?」
 人間であった女性はその面影をなくし、二人を睨み付けている。……もう、人には戻れないだろう。
「それにしても、本当にすごい身体能力ね。数はなんとか埋めたけれど、このままでは負けてしまいそう」
 妖艶な笑みを浮かべながら言うせいで、あまりにも緊張感がない。それどころか、余裕綽々と言った感じだ。
「悪いが……人間ならまだしも、悪魔になっちまった奴は切り伏せるぜ」
 初代がリベリオンを手にしながら言えば、女性は違う違うと言葉を並べた。
「それぐらいは分かっているわ。そうじゃなくて、私は“貴方も手に入れられた”ことが嬉しいの」
「……何?」
 手に入れたとはどういう意味なのか? 不穏な言葉を口にする女性の考えが分からないでいると、すぐにそれを知ることになった。
「そこから離れて!」
「なっ……これ、は……」
 異変に気付いたダイナの叫びも虚しく、初代は突然浮かび上がった足元の怪しげな文様に取り込まれる。そして文様が消えたかと思うと、初代が膝を折った。
「初代! 身体に異変は……っ!」
 初代に近づいたダイナは次の瞬間、慌てて飛び退いた。そのため、ダイナに伸ばされた初代の手は空を切った。
「あら惜しい! 貴女……少し反応が良すぎよ? 捕まっていればそのまま気持ちよくなれたのに、もったいない」
「……操ったの? 初代ほどの人物を?」
 勝ち誇ったように喋る女性を無視し、ダイナはこの最悪の状況をどう切り抜けるかに思考を巡らせる。
「……んもう! ちょっと冷静過ぎ! ……だからこそ、貴女みたいな女性の乱れる姿が見たくてたまらないのだけど」
 楽しみだと言いながらこっちへ来いと指を動かせば、初代ともう一人の女性がふらふらとベッドに近寄る。
 その矢先、女性の方は倒れ込んでしまう。
「あらら。やっぱり、まだ無理だったかしら。……良い声で鳴いてくれるから、つい飲みすぎちゃったのよね」
 何を……と聞く前に、それが何か分かった。倒れた女性の首元には、何かに噛みつかれた跡が残っている。
「飲んだ……それに噛み跡……。ということは、貴女はヴァンパイア」
「ご名答。私はヴァンパイアのビビアン。ビビって気軽に呼んで?」
 ビビアンと名乗った女性……もといヴァンパイアは愉快に笑う。だが、ダイナにとっては笑えない状況だ。三対一から二対一になったことは嬉しい誤算とはいえ、圧倒的に分が悪い。
 今から始まるのはあの伝説の魔剣士スパーダの息子にして、その父すら超えると言われる伝説のデビルハンター、ダンテとの対決。さらに付け足せば、今の彼に理性というものはない。本能で切り込んでくる彼と、真正面からやり合わなくてはならないのだ。
 口の中が急速に乾いていくのが分かる。体中からは嫌な汗が垂れる。しかし、焦りを悟られぬように平然を装い、何事もないようジェラルミンケースからレヴェヨンを取り出し、構える。
「……その選択は、あまりにも悪手じゃないかしら。本気でやり合うつもり?」
「それで初代を救えるなら」
「なるほど。あくまでも狙いは私、と。……でも、出来るのかしら? どちらに捕まっても貴女は快楽の海へ叩き落される。……いえ、まだ私に捕まった方がましかもしれないわね」
「御託はいい。私は貴女を倒して初代を正気に戻す。……それだけ」
 一寸の迷いもない瞳に、ビビアンはそれなら仕方がないと言わんばかりに大きなため息を一つ吐いた後、口元を大きく三日月型に変えた。
「いいでしょう。せっかちさんにも相応にイイコトをしてあげるのが、私のモットーだから。……でも、その前に」
 ビビアンがベッドから立ち上がり、初代に何かの指示を出す。虚ろな瞳で、話を聞いているのか怪しく見える姿が余計に怖い。本当に操られてしまったのだという現実を今一度見せつけられ、不安が募る。
「聞き分けのない子にはお仕置きが必要よね?」
 この声が合図となり、初代がリベリオンを突きたてながらダイナに突っ込んでくる。
「くっ──!」
 スティンガーを読んでいたというのに、ギリギリ避けられたといった様子のダイナ。ここから先、一手でも読み間違えれば良くてリベリオンに串刺しにされたか、最悪真っ二つだ。
「こちら側がお留守よ?」
 なんて考えている場合ではない。相手は初代だけではないのだ。ビビアンの死角から放たれる鋭いひっかきまでは避けきれず、背中に一本の切り傷が出来る。
「浅い!」
 普通なら痛みで体勢を崩してしまうものをダイナは気力で堪え、体を捻ってレヴェヨンをビビアンに突き刺す。
「いやんもう、恐ろしいほどの反応速度ね」
 対応策は最適であったが、如何せん相手が悪い。
 あの一瞬で初代が二人の間に入り、リベリオンでレヴェヨンを受け止めてしまう。そのため、ビビアンの身体に突き刺さることはなかった。
「早すぎるっ……!」
「ほら、逃がしちゃダメよ!」
 急いで距離を取ろうとするダイナを追い詰めるように、初代が斬撃を繰り出す。それを読み間違えることなく、レヴェヨンで受けていく……が。
「ふっ──うぁっ!」
 渾身の振りあげを受け切ったとき、ダイナの手からレヴェヨンが弾かれた。これを操られている初代が見逃してくれず、組みつかれてしまう。
 背中をもろに床へ打ち付けるが先ほどつけられた傷跡は残っていないため、予想しているほどの痛みはなかった。とはいえ両手首は掴まれ、足も動かせないように太ももを押さえつけられてしまった。
「はい、ゲームオーバー。……それにしても、本当によく粘ったわね」
「しょ、だい……放し、て……」
 手首を押さえつけられ馬乗りされているダイナにはもう、どうすることも出来ない。
「可愛そうに、手に力が入らないのね。……でも当然よ? あれだけの力で振り下ろされる斬撃を全て受けていたらどうなるか、賢い貴女なら分かったでしょうに」
 ビビアンの言うとおり、ダイナの手は小刻みに震えている。いくら武器で攻撃を弾いているとはいえ、何度も撃ちつけられていればその衝撃は手に蓄積される。
 結果、耐えきれなくなったダイナの手からレヴェヨンが弾かれてしまったのだ。
「避けきれない以上、受けるしか、なかった……」
「まあね。出来ていなかったら真っ二つですもの」
 クスクスと笑うビビアンと虚ろなままの初代に囲まれ、ダイナは絶体絶命だ。
 それでも……その状況でも、ダイナは次の一手を考え続けた。
「初代、お願い。目を覚まして」
「あら……。どうすることも出来なくなったら諦めると思っていたのに、最後の悪あがきをするのね。確かに、今の貴女には彼が正気に戻る以外の打開策はない」
「しっかりして。この仕事をきっちり終わらせて、皆のところに帰ろう」
 ダイナはビビアンを無視して、初代に声をかけ続ける。だが、初代の意識は戻らない。それどころか、徐々に初代の息が荒くなる。
「んふふ。彼……興奮してるわよ? 貴女のもっと深くに触れたいって」
「なっ……ダメ、初代! それはっ──」
「安心して頂戴。貴女に触れるのはまず私から。これだけは、譲れないの」
 まだダメよとビビアンが囁けば、ピタリと初代が動きを止めた。その代わりと言わんばかりにビビアンがダイナに近寄り……。
「っ……! くっぁ…………いっ……」
 鋭い牙をダイナの首に突き立て、血を啜りだした。痛みと貧血に見舞われるも、初代に押さえつけられているため微動だに出来ず、ビビアンが満足するまで血を飲まれる。
 ビビアンがようやく飲み終わる頃にはダイナはぐったりとし、もう初代が押さえていなくても動くことは出来ないほどだった。
「ごめんなさい。あまりにも美味しすぎて、ついつい……」
 舌で自身の唇を舐めながら、おいしかったと舌鼓を打つビビアン。それだけに留まらず、とんでもないことを言い放った。
「さあ、次は気持ちよくなりましょう? そこの彼に抱かれて……ね」
 今まで動きを止めていた初代が、待っていたと言わんばかりにダイナの首に吸い付く。
「ひっぃ……! う、ぁ……」
 血を抜かれ青白くなった首に、綺麗なキスマークがつく。
 一つ……二つ……。
 数が増やされていくたびにダイナは気がどうにかなってしまいそうで、甘い声を漏らしながら、心の中で初代に正気に戻ってと祈るしかなかった。
「もう骨抜きね? 彼、とっても上手そうだもの。そのまま身を委ねてしまいなさいな」
 これにはビビアンも満足そうに微笑み、もっとと二人を煽った。
「…………ダイナ」
「あぁ……しょ、だい……? んひっ!」
 不意に初代が耳元で囁きかけてきた。かと思えばまた首筋を吸われ、ダイナの身体がビクリとはねる。
「……そのまま、聞いてくれ」
「む、りぃっ……あぅ、ぁっ……」
「あら……どうかした?」
「ふぁぁ! んぁっ、く、は……」
 ビビアンがどうしたと問うと、初代の責めは一層激しくなり、ダイナはとてもじゃないが答えられる状態ではなくなった。これをよしとしたのか、初代にねっとりと攻め立てられるダイナを見て、ビビアンは嬉しそうに頬を緩めた。
「……もう少しで、俺を操ってる……術が、切れる」
「……! んっ、んぅぅ……あっ、あっ!」
 再び囁かれる言葉で何を求められているのかが分かったダイナが力を抜き、初代に身を委ねる。
「…………いい子だ」
「ひあっ、んんんっ……」
 最後に優しく言われたせいで気が緩んだのか、一際大きな声を漏らした。
「あらあら、すごくいい感じじゃない。見ているこっちがムラムラしちゃう」
 そう言ってビビアンはベッドに戻り、倒れている女性を抱き上げる。
 これが、決め手だった。
「がっ……あ、が…………!」
 一瞬の油断がビビアン命運を分けた。
 腹部を貫くはリベリオン。それを持っているのは、人ではなかった。
「その姿、は……!」
「ダン、テ……?」
 これにはビビアンだけでなく、ダイナも驚愕していた。いつもの赤いコートに身を包んではいるものの、顔も、身体も変化している。言うならば──そう。
 まさに、悪魔だ。
「バカ、な……。あれだけ、強力な……術、を……」
 大量の血を一度に失い、ビビアンは痙攣を起こす。その腹部からリベリオンが引き抜かれれば事切れたように倒れ、そして言葉を発することも、起き上がってくることもなかった。
「……初めてだったか? この姿を見せるのは」
 返り血を浴びた初代がダイナを見下ろす。そこにいるのは、紛れもない人の姿をした初代だ。
「はじ、めて。……それが、初代の魔人化?」
「詳しいな」
「おっさんから、一度だけ……聞いた」
 そう言いながら、ダイナは必死に身体を起き上がらせようとしている。
「怖くないのか?」
「……何故? 確かに、あまりにも強大な力だったから驚いた。でも、それだけ。私も半人半魔だということ、忘れないで」
「そうだったな」
 怖くないのかと聞いた時に垣間見せた、ほんの少し寂しそうな雰囲気はダイナの言葉を聞いた時には消え、初代はダイナに手を差し伸べる。その手を掴めば、ぐっと持ち上げられた。
「ありがとう」
「なんだ。そんなに首筋にキスをされるのが良かったか?」
「仕事は遂行した。あの女性は……」
 軽くスルーを決め込み、ダイナはふらつく足でビビアンに噛まれて悪魔になり果ててしまった女性に近づく。腕を掴めば既に冷たくなっており、もう助からないということをダイナは悟った。
 ビビアンが死んだことによって同時に女性も死んでしまったのか、ビビアンに大量の血を抜かれてしまった時点で死んでいたのかは、定かではない。女性を助けられなかったことは残念だが、もう二度と同じような悲劇が繰り返されることはないことを確認した二人は館を後にする。
 初代は貧血で足取りに不安が残るダイナを支えながら、事務所へ向かう。
「……魔人化のこと、すっかり忘れてた」
「どういう意味だ?」
 帰り道、ポツリと漏らしたダイナの言葉に興味を示した初代。
「私も魔人化は出来る。姿は変わらず、純粋に能力が強化される。使った後は疲弊して戦えなくなるのが欠点」
「俺が操られてる時にか? それは忘れてもらっていて良かった。流石にそこまで本気を出されたら、俺でも無事では済まなそうだからな」
 皮肉を忘れない初代に、傷つけるつもりはないと真面目な回答を寄越す。彼女はただ、魔人化をしていればここまで大量のキスマークを付けられずに済んだのではないかと、そう考えているのだった。
 この後、数日間消えることのなかったキスマークを巡って、事務所内で若と初代が大喧嘩したらしい。そこにおっさんも悪乗りした結果、事務所が半壊。ネロとバージルが今までにないほどに大激怒し、最後は二代目の怒りの制裁が下されたとか下されなかったとか……。
 これを目の当たりにしたダイナは、今度似たような事態に陥った時は絶対に魔人化してでも抵抗することを胸に刻むのだった。