第18話

ここ数日間で、異界内が随分と賑やかになりました。

「なんか、一気に人が増えるとこう、楽しいッスね!」

「異界経営は遊びじゃないって、前に行ったはずなのですが……」

「あ、おい火神! それは俺のだぞっ!」

「んなもん、早いもん勝ちだろーがっ!」

「こらザックス! だからって私の持ってかないでよ!」

「…………」

クラウドさん以外、賑やかを超えてる気がするけど……。

「良いではありませんか。その世界は、心がささくれ立つばかりの世界です。

 安住の地があるならば、これ以上に素敵な場所も、そうはありません。

 それで、本日の予定は?」

きっと、あの3人にはこうした安らぎが一番の治療法であると信じて、今は前に進むしかない。

だからって、神様が一番楽しそうに紛れ込んでるのも大概なんですけどね?

「今日はとうとう天塔探索ですよ? メンバーは私とマリア、後火神! お仕事です」

「やっと仕事か? 腕がなるぜ!」

「えー、私たちは留守番?」

「まだここに来て2日目ですよ? とりあえずはゆっくりしていてください。

 あのほら、涼太の遊び相手になってあげてほしいかな、うん……」

「これだけ人数がいれば、ボードゲームとか絶対楽しいッスよ!」

「お、いいね! クラウドもエアリスもやろうぜ!」

「……なんだかんだ、ザックスさんが一番場慣れしてるけど。

 ま、行きますか」

「そっちはあぶねぇぞ」

「罠か……。こっちは?」

「そこもダメだ。渡るなら……ここだ」

「悠然と空を歩くレベルの跳躍やめてくれません?」

「ですが、彼抜きではおそらく苦戦は逃れなかったかと」

「敵はそんなことないんだけどね。トラップの数がちょっとおかしいもんね!」

右向けば落とし穴。左向けば毒沼。ひどすぎる。

「とまぁ、そんな具合で」

「結構大変なんだね。異界探索……」

「もう火神は手放せないと思いました」

「別に仕事としていくけどよ。帰ったらうまい飯ぐらい食わせろよ?」

「リスみたいに頬張りながら何を言うか……」

「なんていいながら、ダイナは飯作れないじゃないスか!」

「作れなくはない! うまくないだけ!」

炒めるぐらいなら私でもできる! 味付け……? 目分量!

「さて、これからは少し、集めたい情報も多くなってまいりました」

「そうですね。私たちは少し、転生体というものに知識がなさすぎます。

 それに、二人のことを見抜いたという人物も気になる。

 何を目的にエアリスさんたちにそれを吹き込んだのか?

 もしザックスさんの命を狙っているとなれば厄介極まりない。

 ……押さえたいのは、そこら辺です」

「メシア教過激派への面接も今月までです。お忘れなく」

「あー……それを思い出すだけで胃が痛くなる……」

「もしかして、結構ダイナさんって忙しい?」

「いつの間にかそんな感じで。ま、3人は気にせず、ゆっくりするのが今の仕事だと思ってください」

「……すまない」

「クラウドさんが謝ることではありませんよ。

 ……とりあえず、ヤタガラスに顔出ししますか。

 その時に、最近の出来事とかを軽く聞いて、それから判断で」

「おっ、ひっさしぶりー! 元気にしてた?」

「お久しぶりです、高尾さん。……その、相変わらずテンション高いですね……」

「普段通りだって。それにま、ここの窓口紹介してくれたのはダイナだし?

 ある程度は便宜、計らうぜ?」

「ありがとうございます。最近、異界経営を任されまして。住所が変わったからその連絡と……」

「おっ、やっと腰を落ち着かせたの? んじゃま、色々と入用なわけだ」

「だからまぁ、ご贔屓に?」

「おっけ、適当に良さそうなの回すわ」

「それで、ここ最近で目立った動きとか、ありますか?」

「んー……。目立った……ねぇ。強いてあげるなら、メシア教過激派もガイア教過激派も、

 なんか色々動き回ってるってことぐらいだなぁ」

「……そう、ですか。何か、珍しい人物とかは?」

「珍しい? 俺の目の前にいる人とか?」

「私は珍獣ですか……」

「じょーだんだって! でもここ最近、ご無沙汰だったし?」

「それは、否定できませんが……」

「でもま、真面目な話、特に変なのが紛れ込んだりとかはなさそうだぜ?

 ……葛葉も動いてないみたいだしな」

「それが聞けただけでも、かなり安心出来ます」

ということは、ヤタガラスは転生体についての情報は持っていない、ということね。

「んじゃー、依頼は……ここら辺がいいかな?」

『対悪魔召喚者戦術研究』『惑わしの森』『新アプリ実験』の3つね。

「この、『惑わしの森』って……。結構危険じゃないですか。なのに葛葉は動いてない?」

「いつも危険度の高い任務に飛び回ってるのに変わりはないって。要は、人手不足。

 動いてないっていうのは、何か組織立っての動きってこと」

「そうですか。なら……」

今は結構調べたいことも多くある。依頼を多く受けすぎて、彼らの件が後手に回るのはまずい。

「『惑わしの森』『新アプリ実験』の2つで」

「あいよ。……でも、いいの? 結構難度あるよ? こっちとしてはそりゃ、助かるけど」

「帝都内で、しかも人通りが多いところで悪魔が巣を作っている。少し見過ごせません」

「ダイナはそういう奴だったって、忘れてたわ。んじゃ、気を付けて頼むわ」

「はい。それでは、とりあえず『新アプリ実験』の方は済ませてきます」

「おう、頼むわ。……あんま、無茶するなよ」

「忠告、ありがとうございます。死なない程度にしていますから」

「よく来ていただけました。我々は悪魔召喚プログラムの暴走を防ぐ、

 緊急遮断プログラムを開発しているのですが……COMPといっても様々です。

 頑強なものもあれば脆弱なものもあります。

 町のサマナーは、市販の情報機器にプログラムを入れていますしね。

 ですから、COMP自体の強度も勘案しなくてはなりません」

「……なるほど、ここに用意されている数種類のCOMPに何かしら刺激を与えて、

 もし暴走したらその時に悪魔退治を担ってほしい、と」

「話が早くて助かります。……早速ですが、始めてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫です。何かあったときは、対応して見せます」

「ということで、何事もなく帰ってきたのだった」

「最近のCOMPの強度は、なかなかにすごいものでした」

「なんかいいッスね、それ! 俺も見たかったなー」

「無茶いわんでくださいよ……」

「それにしても、一週間何もしないとこう……暇だ!」

「……俺たちもサマナーだ。手伝えることがあれば言ってくれ」

「そうそう! お世話になりっぱなしは、性に合わないから!」

「頼ってきたかと思えば、今度は頼って、ですか……。

 まぁ、来週からは天塔探索とか、手伝ってもらう予定ですから」

「分かった! がんばるね!」

今日一日ぐらいなら、ゆっくりできそう。

ほとんど出ずっぱりだし、異界でのみんなの様子でも見ようかな……。

「今日は何が食べたいッスか?」

「涼太の作るごはんはどれもおいしいから、悩んじゃうな」

「肉! 俺肉がいい!」

「ザックスは昨日も肉って言ってたじゃないスか!」

「俺は腹いっぱい食えて、それが美味かったら文句はねーぜ」

「火神もちょっとは考えて!?」

……あれ? この人たち、いつもご飯の事ばっかり考えてない?

まあ、疲れた体を癒すのはしっかり食べて、しっかり寝ることっていうのは否定しないけどさ。

「ダイナさま。この件なのですが……」

「ダイナ! ダイナは何食べたいッスか?」

「あぁ、マリアが前に言ってた……。もう解散させてあげてもいい頃合いだと」

「海産!? いいッスね、それでいこう!」

「…………」

今ね、私はマリアと話をしているの。……まぁ、なんか決まったならいいけど。

「たくさんの仲間の参入祝い! 派手にやるッスよ!」

「一時的だって……。聞いてないですね、これは」

「んなこまけーことはどうでもいいだろ。そういうものだと思えば」

「火神はぶっちゃけ融通無碍というか、色々なことに関心が薄すぎると思います」

「関心を持てばメシがうまくなるわけじゃねーしな。

 ……あ、そうだ黄瀬。たまには〆で米が食いてぇ。うどんも悪くねぇが、雑炊もいいぞ」

「オッケー! 手伝いよろしくッス!」

なんという蚊帳の外状態。だけど、みんな上手くいっているなら、文句なし。

「ところで旧約聖書に、『鱗のない魚や甲殻類禁止!』とか」

「日本の海産物マジ美味いッスよね!」

「……分かったつもりではありましたが、時々疑いたくなる時があります」

「マリア、落ち着いて」

しばらく経って、ご飯が出来たらしい。

「さあじゃんじゃん食うッスよ! 頂きます!」

「主よ、この食事を用意して下さった方々と、

 これからいただく私たちを祝福してくださ……あれ?」

お祈り……私、間違ってないはずなのに、なんだろう。この気持ち……。

気を取り直して、続きを……。

「父よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます。

 ここに用意された食物を祝福し、私達の心と身体を支える糧としてください。──エイメン」

「魚、脂が乗ってて美味い! 魚介の出汁が……染みて……もう最高だね!」

「米も粒が立っている。ふんわりといい香りと、白米の旨味が……」

無口なクラウドさんですらべた褒めか……。

「この貝、噛み締めるとじゅわっと汁が溢れるぜ! ダシも染みてて良い感じだ」

「行儀悪ぃけど、ダシをご飯にぶっかける!

 そして掻きこむ──美味い!」

「美味しいです」

「〆は、雑炊ッスよ!」

本当……、涼太に出会ってから、賑やかになったなぁ……。