第17話

5月に入った今日この頃。

「天塔攻略が何一つ進んでいない件について」

「不測の事態の連続と、純粋に手数が足りないのが原因かと」

「本当にね。猫の手も借りたいとはまさにこういう状態ですか……」

「言っても仕方ありません。

 とりあえず『お願い、助けて!』の依頼をこなすことから始めましょう」

「罠依頼だったらエアリスが無事と分かってそれでよし。もし本当にエアリスだったら……」

「恐らく、厄ネタでしょうね」

「どっちに転んでも大差なし。とりあえず行きましょう」

帝都某所の異界にて

「ダイナさん、本当に来てくれたんだ……」

「本当に……って、貴女が呼んだのですよ? 私は呼べばやってきますよ」

「えへへ、それもそうだね。……だけど、ダイナさんの予想通り、とびきりの厄ネタだよ?」

「それが……そこにいる男二人っていうのまでは、なんとなく」

エアリスのボディガードというより、なんか……3人とも友人って感じだけど。

「初めまして。フリーのデビルサマナー、ダイナです」

「ザックス・フェアだ、よろしく!」

「……クラウド・ストライフ」

「よろしくお願いします。……で、エアリスさん。どういう関係で?」

「友達……かな。あのね、ダイナさん。

 この二人に、ちょっと稽古をつけてほしいの。

 対サマナー、対悪魔の戦闘について学ばせたくて。

 勝敗にかかわらず、前渡し資源2で、どう?」

「それは、構いませんが……。むしろエアリスさんより二人の方が強く見えますが?」

「そうなの! なんか気付いたら抜かれちゃってて!

 だからもう私じゃ相手にならないから、ダイナさんならと思って!」

「普通に私も負けそうですけど……。殺す気でやっても?」

「蘇生アイテムくらいは、こっちで用意してあるから気にせず!

 ダイナがドジ踏んで死んでも、蘇らせてあげるよ」

「……もしかして、誰かに狙われて?」

男二人に反応あり。狙われている……までは行かなくても、何かしら命の危険がある状態、か。

「なんなら私が処理……なんて、そう簡単そうな話でもないみたいですね」

「ほら、二人とも! 先輩サマナーが稽古つけてくれるって言ってるんだから早く位置について!」

「だから、俺は頼んでないって!」

「ザックス、こうなったエアリスは頑固だから、諦めたほうがいい」

「ったく、ダイナさん、だっけ? あんま手抜くと痛い目見せっから!」

「そこまで私も強くないから安心して大丈夫ですよ」

つまり、本気で殺るってことなんですけどね。

「やっぱダイナさんは鋭いね。隠し通せるとは思ってなかったけど……。

 ダイナさん。……少し、お話ししていい?」

「もちろん。事情次第では力になりますよ」

「あの二人、人間に見えた?」

「……いえ。何か、別のものが混じっていた、ような。

 でも、悪魔と合体した魔人、って雰囲気ではなかった」

「うん……。私、一生懸命調べてみたんだけどね。あの二人は、いわゆる転生者なんだって」

「高位の悪魔の魂の一部をもって生まれた人間……。

 なるほど、だからすぐにエアリスさんを抜く程度の力が……。

 なのに、素人臭さが抜けていない。だけどマグネタイトは充実している……」

「あの二人の転生元はね、【クルースニク】と【クドラク】なの」

「ちょっと……二人ともそろってるってこと?」

【クドラク】は【クルースニク】と戦い、殺される定めにある。

また【クルースニク】も、【クドラク】を殺す定めがある。

「……クルースニクのほうは、まだ善意がある悪魔。擁護のしようもあるけど、クドラクの方は……」

「分かってる。その上で、私の依頼はこう。

 【二人が生き抜くための助力】をして欲しいの。

 つまり一仕事終わるたびに、連続する形の依頼になるかな」

「……分かってるのですか? 悪疫の幽鬼の転生体、つまり、クドラク側が転生元の魂に覚醒したら……」

「……うん。世界に、ありとあらゆる悪疫が起こる。……悪魔として生まれるって、そういうこと」

エアリスさんは本気だ。本気で、二人を生かしたいと思っている。

「なんとも、随分な厄ネタを抱え込んで……」

ある意味、こっちとどっこいなんだけどさ。……だけど、彼女の意図は、どこにある?

「端的に聞きますが、そもそもどうしてこんなことに?」

「私が依頼をこなした時に、たまたま助けたのが、あの二人。

 それから二人は、私に助けられっぱなしは嫌だってフリーのサマナーになって、

 3人で依頼をこなすようになったの。

 それでしばらくしたとき辺りから、二人とも急に強くなって……」

「それから?」

「たまたま、凄腕の方が私たちを見て、二人は転生体だって。

 クラウドがクルースニクで、ザックスがクドラク。

 クルースニクしかクドラクは殺してはいけないから、

 クラウドがザックスを殺さないと、世界に害がふりまかれるって……。

 でも、出来るわけない! 二人は小さい頃から親友だって言ってた!

 ザックスは何もしてないっ。悪い事どころか、困ってる人を助ける良い人!

 なのに……そんなザックスをクラウドが殺さないといけないなんて……。

 ……それから、周りの人たちの目が気になりだして、二人とも、口にはしないけど。

 精神的にかなり滅入っているのが、私には分かる。だから、どこか静かな所で、

 少しでも二人を休ませたくて……。でも、もうどの人を信用していいか分からなくなって……」

それで、最後の頼みの綱として、私に依頼、と……。

「……分かりました、引き受けますよ」

「ほ、本当!?」

「ただ生まれてきたことが罪だなんて、私の流儀じゃありませんから」

「……ありがとう」

「自分でいうのもあれだけど、苦労を背負うのはやっぱ、性分なんだなぁ……。

 とりあえず行ってきます。まずは最初の依頼をこなさないとね」

さて、『対サマナー、対悪魔の戦闘について学ばせたい』ってことだけど。実力差的に、どうしようかな……。

相手は二人。私が一人だと、レベル的には互角だけど、やっぱ厳しいかな。

マリアを呼べば、かなり私の方が有利になるけど、向こうに勝ち目がなくなるほどではないって感じ。

実力のあるサマナーの恐ろしさを教えてもいいし、ほどほどに手加減してぺちぺちやりあうのもまた、鍛錬ってね。

だけど、私はさっき殺す気でやるって決めたからね。

『勝てない相手には勝てない』と学んでおくのは、この業界で一番大事なこと。

ここは心を鬼にして……

「マリア、蹂躙します。……戦術はいつも通り」

「承りました」

「……ザックス、来た」

「よし、俺が一発いれっから、クラウドは援護だ。頼むぜ?」

「ああ、無理はするな」

……正面から一人くる。

「……マリア」

「では、もう一人の方を片付けてまいります」

マリアが気配を消したのと同時に一人、勢いよく飛び出してきた。

「先手必勝っ!」

「うっ、その位置……!」

陽動に気付いている動きではない。なら、これはたまたま……。

しかし、その位置取りをされると、魔法が打てないっ……!

「ダイナさまっ──!」

「マリア、こっちはいいからっ!」

たとえ魔法が打てなくても、戦闘速度で圧倒すればいいだけ。

しかし、今の一瞬、マリアが止まったのはまずい。

「ふっ!」

「その大振りは、当たりません」

私の方にはザックス、マリアの方にはクラウド。

悪くない戦況。むしろ私たちの方が押してる。……なのにっ!

「ぜってー勝つっ!」

「ぐっ……ぬぅぅー!」

「ダイナさんに、勝っちゃったの……?」

「どうだ見たかエアリス! 俺たち強いだろ?」

「ザックス。……今回は運が良かっただけだ」

「いやお恥ずかしい……。勝負は確かに時の運もあるから、言い訳はしません……」

「もう……。ダイナさん、よろしくお願いしますよ?」

「いやうん、本当……何も言えない……」

「申し訳ございません。あの時の敗因は間違いなく、私です」

「ま、過ぎたことは仕方ないとして! 報酬渡したら、次の任務、お願いね!」

「ビジネスに切り替えますか……」

「えっとね、次の依頼なんだけど、

 3、4か月の間【クラウド】か【ザックス】を預かって、鍛えてほしいの」

「はあ!? 聞いてないぞエアリス!」

「俺も……悪いが反対だ。俺たちは、離れるべきじゃない」

この依頼、エアリスが独断で動いているせいで、3人はバラバラ……。

「預かるのはいいですが、その間エアリスさんは?」

「私はちょっと……調べもの!」

今回の依頼を受けていくとして、根本的な問題はクドラク……。

クドラクの天敵はクルースニク、それはクラウドさんだ。

エアリスさんの考えは、二人が離れていれば、命を狙う必要も、狙われる理由もない、といったところか。

……だけど、何か引っかかる。本当に3人は離れていいの?

クラウドさんの言うように、離れるべきではないと……直感だが、そう思う。

「エアリスさん。今回の依頼主は貴女だから、無理は言わないけど……。

 私は3人とも預かってもいいですよ」

「えぇっ!? でも……、いいの?」

「エアリスさんが言ったんですよ? どこか静かな所で、少しでも二人を休ませたいと。

 なら、1人2人増えたって、こちらは対して問題ではありません。

 ただその……、こちらも今、結構厄介な案件を抱えているので、

 そちらに巻き込んでしまうことにはなりますが……」

「エアリスは心配性だな。俺もクラウドも全然平気だ!」

「……いや、俺たちは平気かもしれないが、エアリスが……」

二人が疲弊しているというのであれば、それはエアリスだって例外ではない。

これでもまだ、エアリスさんは食い下がってくるか……?

「じゃあその、お願いしてもいいかな……? 全部、頼りっきりになっちゃうけど」

「大丈夫ですよ。2人もそれでいいですか?」

「俺は、3人一緒にいていいと言ってくれるなら、文句はない」

「クラウドまでっ! ……ったく、しょーがねぇ。世話になる!」

「では、私の経営している異界に案内しますね?」