ここ数日間で、異界内が随分と賑やかになりました。
「なんか、一気に人が増えるとこう、楽しいッスね!」
「異界経営は遊びじゃないって、前に行ったはずなのですが……」
「あ、おい火神! それは俺のだぞっ!」
「んなもん、早いもん勝ちだろーがっ!」
「こらザックス! だからって私の持ってかないでよ!」
「…………」
クラウドさん以外、賑やかを超えてる気がするけど……。
「良いではありませんか。その世界は、心がささくれ立つばかりの世界です。
安住の地があるならば、これ以上に素敵な場所も、そうはありません。
それで、本日の予定は?」
きっと、あの3人にはこうした安らぎが一番の治療法であると信じて、今は前に進むしかない。
だからって、神様が一番楽しそうに紛れ込んでるのも大概なんですけどね?
「今日はとうとう天塔探索ですよ? メンバーは私とマリア、後火神! お仕事です」
「やっと仕事か? 腕がなるぜ!」
「えー、私たちは留守番?」
「まだここに来て2日目ですよ? とりあえずはゆっくりしていてください。
あのほら、涼太の遊び相手になってあげてほしいかな、うん……」
「これだけ人数がいれば、ボードゲームとか絶対楽しいッスよ!」
「お、いいね! クラウドもエアリスもやろうぜ!」
「……なんだかんだ、ザックスさんが一番場慣れしてるけど。
ま、行きますか」
「そっちはあぶねぇぞ」
「罠か……。こっちは?」
「そこもダメだ。渡るなら……ここだ」
「悠然と空を歩くレベルの跳躍やめてくれません?」
「ですが、彼抜きではおそらく苦戦は逃れなかったかと」
「敵はそんなことないんだけどね。トラップの数がちょっとおかしいもんね!」
右向けば落とし穴。左向けば毒沼。ひどすぎる。
「とまぁ、そんな具合で」
「結構大変なんだね。異界探索……」
「もう火神は手放せないと思いました」
「別に仕事としていくけどよ。帰ったらうまい飯ぐらい食わせろよ?」
「リスみたいに頬張りながら何を言うか……」
「なんていいながら、ダイナは飯作れないじゃないスか!」
「作れなくはない! うまくないだけ!」
炒めるぐらいなら私でもできる! 味付け……? 目分量!
「さて、これからは少し、集めたい情報も多くなってまいりました」
「そうですね。私たちは少し、転生体というものに知識がなさすぎます。
それに、二人のことを見抜いたという人物も気になる。
何を目的にエアリスさんたちにそれを吹き込んだのか?
もしザックスさんの命を狙っているとなれば厄介極まりない。
……押さえたいのは、そこら辺です」
「メシア教過激派への面接も今月までです。お忘れなく」
「あー……それを思い出すだけで胃が痛くなる……」
「もしかして、結構ダイナさんって忙しい?」
「いつの間にかそんな感じで。ま、3人は気にせず、ゆっくりするのが今の仕事だと思ってください」
「……すまない」
「クラウドさんが謝ることではありませんよ。
……とりあえず、ヤタガラスに顔出ししますか。
その時に、最近の出来事とかを軽く聞いて、それから判断で」
「おっ、ひっさしぶりー! 元気にしてた?」
「お久しぶりです、高尾さん。……その、相変わらずテンション高いですね……」
「普段通りだって。それにま、ここの窓口紹介してくれたのはダイナだし?
ある程度は便宜、計らうぜ?」
「ありがとうございます。最近、異界経営を任されまして。住所が変わったからその連絡と……」
「おっ、やっと腰を落ち着かせたの? んじゃま、色々と入用なわけだ」
「だからまぁ、ご贔屓に?」
「おっけ、適当に良さそうなの回すわ」
「それで、ここ最近で目立った動きとか、ありますか?」
「んー……。目立った……ねぇ。強いてあげるなら、メシア教過激派もガイア教過激派も、
なんか色々動き回ってるってことぐらいだなぁ」
「……そう、ですか。何か、珍しい人物とかは?」
「珍しい? 俺の目の前にいる人とか?」
「私は珍獣ですか……」
「じょーだんだって! でもここ最近、ご無沙汰だったし?」
「それは、否定できませんが……」
「でもま、真面目な話、特に変なのが紛れ込んだりとかはなさそうだぜ?
……葛葉も動いてないみたいだしな」
「それが聞けただけでも、かなり安心出来ます」
ということは、ヤタガラスは転生体についての情報は持っていない、ということね。
「んじゃー、依頼は……ここら辺がいいかな?」
『対悪魔召喚者戦術研究』『惑わしの森』『新アプリ実験』の3つね。
「この、『惑わしの森』って……。結構危険じゃないですか。なのに葛葉は動いてない?」
「いつも危険度の高い任務に飛び回ってるのに変わりはないって。要は、人手不足。
動いてないっていうのは、何か組織立っての動きってこと」
「そうですか。なら……」
今は結構調べたいことも多くある。依頼を多く受けすぎて、彼らの件が後手に回るのはまずい。
「『惑わしの森』『新アプリ実験』の2つで」
「あいよ。……でも、いいの? 結構難度あるよ? こっちとしてはそりゃ、助かるけど」
「帝都内で、しかも人通りが多いところで悪魔が巣を作っている。少し見過ごせません」
「ダイナはそういう奴だったって、忘れてたわ。んじゃ、気を付けて頼むわ」
「はい。それでは、とりあえず『新アプリ実験』の方は済ませてきます」
「おう、頼むわ。……あんま、無茶するなよ」
「忠告、ありがとうございます。死なない程度にしていますから」
「よく来ていただけました。我々は悪魔召喚プログラムの暴走を防ぐ、
緊急遮断プログラムを開発しているのですが……COMPといっても様々です。
頑強なものもあれば脆弱なものもあります。
町のサマナーは、市販の情報機器にプログラムを入れていますしね。
ですから、COMP自体の強度も勘案しなくてはなりません」
「……なるほど、ここに用意されている数種類のCOMPに何かしら刺激を与えて、
もし暴走したらその時に悪魔退治を担ってほしい、と」
「話が早くて助かります。……早速ですが、始めてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。何かあったときは、対応して見せます」
「ということで、何事もなく帰ってきたのだった」
「最近のCOMPの強度は、なかなかにすごいものでした」
「なんかいいッスね、それ! 俺も見たかったなー」
「無茶いわんでくださいよ……」
「それにしても、一週間何もしないとこう……暇だ!」
「……俺たちもサマナーだ。手伝えることがあれば言ってくれ」
「そうそう! お世話になりっぱなしは、性に合わないから!」
「頼ってきたかと思えば、今度は頼って、ですか……。
まぁ、来週からは天塔探索とか、手伝ってもらう予定ですから」
「分かった! がんばるね!」
今日一日ぐらいなら、ゆっくりできそう。
ほとんど出ずっぱりだし、異界でのみんなの様子でも見ようかな……。
「今日は何が食べたいッスか?」
「涼太の作るごはんはどれもおいしいから、悩んじゃうな」
「肉! 俺肉がいい!」
「ザックスは昨日も肉って言ってたじゃないスか!」
「俺は腹いっぱい食えて、それが美味かったら文句はねーぜ」
「火神もちょっとは考えて!?」
……あれ? この人たち、いつもご飯の事ばっかり考えてない?
まあ、疲れた体を癒すのはしっかり食べて、しっかり寝ることっていうのは否定しないけどさ。
「ダイナさま。この件なのですが……」
「ダイナ! ダイナは何食べたいッスか?」
「あぁ、マリアが前に言ってた……。もう解散させてあげてもいい頃合いだと」
「海産!? いいッスね、それでいこう!」
「…………」
今ね、私はマリアと話をしているの。……まぁ、なんか決まったならいいけど。
「たくさんの仲間の参入祝い! 派手にやるッスよ!」
「一時的だって……。聞いてないですね、これは」
「んなこまけーことはどうでもいいだろ。そういうものだと思えば」
「火神はぶっちゃけ融通無碍というか、色々なことに関心が薄すぎると思います」
「関心を持てばメシがうまくなるわけじゃねーしな。
……あ、そうだ黄瀬。たまには〆で米が食いてぇ。うどんも悪くねぇが、雑炊もいいぞ」
「オッケー! 手伝いよろしくッス!」
なんという蚊帳の外状態。だけど、みんな上手くいっているなら、文句なし。
「ところで旧約聖書に、『鱗のない魚や甲殻類禁止!』とか」
「日本の海産物マジ美味いッスよね!」
「……分かったつもりではありましたが、時々疑いたくなる時があります」
「マリア、落ち着いて」
しばらく経って、ご飯が出来たらしい。
「さあじゃんじゃん食うッスよ! 頂きます!」
「主よ、この食事を用意して下さった方々と、
これからいただく私たちを祝福してくださ……あれ?」
お祈り……私、間違ってないはずなのに、なんだろう。この気持ち……。
気を取り直して、続きを……。
「父よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます。
ここに用意された食物を祝福し、私達の心と身体を支える糧としてください。──エイメン」
「魚、脂が乗ってて美味い! 魚介の出汁が……染みて……もう最高だね!」
「米も粒が立っている。ふんわりといい香りと、白米の旨味が……」
無口なクラウドさんですらべた褒めか……。
「この貝、噛み締めるとじゅわっと汁が溢れるぜ! ダシも染みてて良い感じだ」
「行儀悪ぃけど、ダシをご飯にぶっかける!
そして掻きこむ──美味い!」
「美味しいです」
「〆は、雑炊ッスよ!」
本当……、涼太に出会ってから、賑やかになったなぁ……。