第15話

4月も今週で終わり。とりあえず、受けてる依頼の納品から……。

「さてと、4月も最後だけど、何しよう?」

「人材を確保して塔攻略を行えば、一層は苦戦することがないかと」

「そうですね、流石にそろそろ天塔攻略してもいいぐらい、実力は戻ってきてるし……」

「お、登るんスか? ずっとダイナの短期集中講座みたいだったッスもんね」

「なんだか、私の頭が悪いみたいな言い方ですね、それ」

「そんなつもりはないッス! ……ていうか、彼氏が出来て浮足立って帰ってきたかと思えば、

 切り替え早くないッスか?」

「それとこれは別ですから。公私混合は厳禁。異界経営はお遊びじゃない。

 もし色恋にうつつを抜かして注意が散漫になるようなら、別れるつもりです」

「メリハリを決めすぎッスよ……」

「もちろん、そうならないように集中すべきところはしっかりと、気を抜けるときは体を休めて」

「よい心がけです。そうでなくては」

「マリアに鍛えてもらったということは、つまりは私も堅物ということです」

「ほんっと、仕方ない人ッスね……」

「それじゃ、今日は人材確保して、天塔攻略、行ってみますか!」

「ではまず人材確保についてですが、悪魔か、人間か。

 人間のほうが成長に関して手間がありませんが、悪魔の方があれこれの情報漏洩の心配もない。

 どちらを探しますか?」

「仲魔で。流石に厄ネタすぎて人を巻き込めない……」

最近恐ろしい事に、私もマリアも涼太の存在に慣れてしまったが、

普通の感覚であれば、冗談じゃ済まない程度にはとんでもない爆弾だし……。

「では、『天塔』内部で悪魔会話と行きましょう」

「ええ、不意打ち対策に群れは避ける。

 単体でうろついている類を狙い、相手のスタンスにあった会話を心がける。

 基本を押さえて、丁寧かつ慎重に」

「それでは、狙うのは?」

今のメンバーは明らかに二人とも攻撃型。探索補助が優秀なのもいいし、情報収集に長けているのでもいい。

「とりあえず、次に天塔登る予定だし、探索特化で探してみますか」

「地図が埋まっているところはある程度回りましたが……」

「目ぼしいのはちょっとお目にかかれなかったですね。

 次からは何が出てくるか分からないから慎重に……!」

一閃!? この悪魔は……! とりあえず、会話交渉してみないことには……。

「貴方は……」

「はっ、今のを避けるたぁ、なかなかやるじゃねぇか」

「!? 嘘でしょ、英傑って……!」

「俺を従えるっていうなら、もちろん俺より強いんだろうな!」

英傑、ヨシツネ! これまたとんでもない悪魔に出会ったな……。

でも味方に付いてくれればこれ以上心強いことはない!

「なら、力を証明するのみ!」

「先制頂きだぜっ!」

ここらの地の利は向こうの方が上……かっ! でも、甘いっ!

「こっちももらいっ!」

「うがっ……! なんつー威力の魔法打ちやがる!」

「当たってピンシャンしてるほうがよっぽど悪魔ですって!」

あ、やばっ。この攻撃は避けきれ……!

「っ……ぁ……、まだ……まだぁ!」

「なっ! 今ので倒れっ……!」

「辛くも勝利……ってところですね……」

「ひやりとする場面もありましたが……」

「それじゃ、えっと……仲間になってくれますか?」

「負けたからな、なってやる、です」

「……です?」

「負けたからには何も言うことはねぇよ、俺は《英傑》ヨシツネ。普段は火神大我だ。よろしく!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「あー、その、敬語はやめろ……です。あんたの方が強いんだから」

「あ、いえ。これは性分ですから気にせず。火神さんは無理に敬語じゃなくていいですから……」

「そういうわけにはいかねぇだろ! ……です」

「いや、無理しなくていいですから、本当……」

「とりあえず仲魔を確保は出来ましたが、どうしますか?」

「さっきの戦闘、すごく危なかったからレベル上げにします!」

「では、そのように」

「なんかすごい危なかった場面もありましたが、またもりもりとレベルが上がった気がします」

「というより、ほぼ私と2倍ぐらいの差が開きましたね……」

「なんか、そこじゃない運がほしい……」

「まぁ……強くなることはいいこと……ッスよね?」

「なお、筋肉はさっぱりつかない模様」

「そう嘆かずに。本日はどこの組織に顔出しを?」

「今日はメシア教穏健派の、成歩堂神父にでも挨拶に行こうかなって」

「分かりました。では準備を整えて……」

帝都内 某メシア教会にて

「こんにちは。……あれ、留守かな?

 こんなご時世に鍵開けっぱなしで外出とは、さすがというか……。

 ご自由にお祈り下さい、ってことなんだろうけど」

教会として、心構えはまさにお手本なんだけど……。

「……無用心だし、帰ってくるまで待ちますか。

 泥棒が入ったり、ガイアのならずものが荒らしにきても大変ですし」

本当、どこまでも肝が据わってる……でいいのかなー?

「天にまします我らの父よ

 願わくは──      
   
 み名をあがめさせたまえ

 み国を来たらせたまえ    
   
 み心の天に成る如く地にもなさせたまえ   
 
 我らの日用の糧を今日も与えたまえ    

 我らに罪を犯す者を我らが赦す如く、我らの罪をも赦したまえ

 我らを試みに遭わせず悪より救い出したまえ

  国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり

 斯く在れかし(アーメン)」 

主の祈り。きちんと場の整ったところでは久しぶりな気がする。

そんなことを考えていたら、入口の方から拍手が近づいてきた。

「お戻りでしたか。でしたら、声をかけて下されば良かったのに」

「いやー……ははは」

【人間?】成歩堂龍一神父。なんか、アナライズに引っかかるんだよね、この人……。

「『あなたは、祈るときには自分の奥まった部屋にはいりなさい。
 そして、戸をしめて、隠れた所におられるあなたの父に祈りなさい。』」

「『そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父が、あなたに報いてくださいます。』

 どうやら、お気遣いを頂いてしまったようで」

「気にしない気にしない。で、本日は何の用かな。ダイナさん。

 『悔悛の秘蹟』(かいしゅんのひせき)って様子でもなさそうだけれど」

今日はあいさつ回りだから、まぁ普通に……。

「はい。そちらもやぶさかではないのですが、

 えーと、まず、このたび妖精郷より信任をいただきまして、

 異界の管理を任されることになりまして、そのご挨拶に伺いました。

 何かご入用の資源でもあれば依頼も引き受けますので、是非ご贔屓に、と」

「お! やっと君もフラフラするのをやめたんだね。

 いやー、これはめでたい!

 そうだ、さっきご近所さんから菜の花を頂いたんだ。

 お祝いというにはちょっとアレだけど、もっていきなよ」

「あ、いいですね菜の花。おひたしとか好きですよ、私」

「はは、相変わらず料理はマリア任せかい?」

「いやまぁ……返す言葉もないです……。

 それで、あの……ちょっとした厄ネタを抱え込んでしまいまして。

 主とそちらへ、相談しに参ったところです」

「具体的に、どこまで話せる話?」

「上司の見たくない面を見てしまった、というか。

 メシア教の様子を少し伺いたくて」

「ふむ……ま、詳しくは聞かないでおこうか。

 君がそう言うってことは、よっぽどなんだろうから。

 でも、破綻する前には相談してほしい」

「──はい」

「アデプト・ウォーリアオブライトの急進派。

 君が出ていった時より、勢力を増してるね。

 ちょっともう、僕なんかの立場だと、
 
 何をやってるか詳しく窺い知れない部分も多い。

「貴方ですら、ですか」

「社会の裏に悪魔が蔓延るこのご時世だ。

 恐らく裏に悪魔が絡むであろう、行方不明者数も、凶悪事件も増加の一途。

 こんな荒んだご時世じゃ、過激で分かりやすい主張が人の賛同を得るのさ。

 君だって、そこは分かるだろう?」

「まぁ、わかります。

 気まぐれに自分を殺せる巨人が社会の裏に潜んでいるなら、

 『みんな一致団結して殲滅しよう』なんて主張が、実に通りやすいことは」

「ただ、本来問題はそこまで簡単じゃない。

 ネットを通じた悪魔召喚プログラムの拡散はもう止めることができないし、

 それが不可能な以上、社会から悪魔を完全に排除することはできない。

 問題はもう『どう折り合いをつけるか』って領域なんだけれど」

「たとえ筋が通っていようが、誰もがそんな結論を受け入れたがるとは限らない。

 こんな『風の異能』があるから、私だって冷静にこう言えますけれど。

 なんの力もない無力な一般人であったなら、同じことが言えるかどうか」

「結果としてひとはメシア教の過激な秩序に安寧を求めたり、

 逆に悪魔と関わり、力を手に入れた一般人がガイア教の思想に染まったり。

 極端から極端へ。やりきれないね。 世はまさに世紀末──と。

 うん。こんな時だからこそ、誰かが愛と平和を示さなきゃいけない」

「そうですね。私もそうであれたら、と思います」

「悩みがあればいつでも相談しにくるといい。

 それと、そう。今提示できる依頼だけど」

『硝煙の安息日』『護身術教室』『お願い、助けて!』の3つ。

というか待って待って。

「……成歩堂さん、その、なんと申しますか。3つ目。3つ目……。

 報酬前払いの内容、拘束期間不明ってちょっと……」

「頼まれたからね、リストに入れただけさ。

 判断するのは、君だよ。

 第一、この人のことは、君のほうが知っているんじゃないかい?」

「……何回か、仕事で会った程度ですよ。

 『妖精郷』のほうが活動拠点の、普通のサマナーです。

 結構何事にも積極的な彼女ですが、こんな風に私を頼ってくるのは想定しずらい。

 ひょっとしたら【名前を騙った罠依頼】かもしれませんね……」

「……しかし、もし罠でなければ」

「【本当に私が必要とされている】可能性もありますね……」

「判断材料も、悠長な調査の余裕もない。

 時間は常に僕らを待ってはくれない。自分の選びに賭けるしかないよ。

 『硝煙の安息日』と『お願い、助けて!』は同時受注は不可能だ、日程が被っている。どうする?」

「……うー……ん」

「まず安牌の『護身術教室』と……『お願い、助けて!』で」

「いいのかい?」

「『よかった、病気の子供はいなかったんだね』」

罠だったとしたならば、エアリスは何事もなく、平穏に暮らしているということだ。

それが分かるのであれば、今はそれでいい。

       G o d b l e s s y o u !
「ダイナさん。君に神の祝福がありますように!」
        
    You too
「ええ、神父こそ。

 あ、後最後に、過激派の動向を」

「目的は?」

明らかな威圧とかはない。開示しても問題なさそう、かな。

「少し長くなりますが──」

「なるほど。その孤児院なら知ってるよ、別に裏のあるまずい施設じゃない」

「そうですか」

「過激派の動向は、悪いけど任意の資源2だ。

 こっちも各方面への調査費がある。払えるかな?」

「では、こちらの2つで」

「じゃあ、語ろう。といっても話はそう難しくない。
 
 【メシア計画は頓挫している】

 これは確定だよ」

「再稼働、とかは……?」

「無い。研究者が限られるからね、動きで分かるよ」

「では彼は……」

「推測だけど、廃棄個体なんじゃないかな?

 ある程度まで資質があって、育ててみたけど思ったような性能がなかった。

 そこまで育ったものを殺すのも教え的にアウト。

 だから関連孤児院に放り込んだ、とか」

「で、そのまま育って、資質のままに妖精に導かれて出奔……。

 すると、問題は……」

「相手が【額面通りに受け取ってくれるかどうか】だね。

 廃棄個体っていっても研究の成果で、調べれば多分、それなりに分かるんだろ?

 それが、【それなりの有力勢力のトップのお膝元にいる】

 まぁ、流石に警告を出すよね、意図を疑って」

「私でもそうするでしょうね」

「まぁ、ウォーリアオブライトは現在は忙しいみたいだ。

 何か他に興味があるものがあるらしくてね。

 あちこちで治安維持のためといって、

 【凶悪な大型悪魔を狩ってる】んだ」

「それはまた……」

「それと何か、ほうぼうに情報収集の手を伸ばしたり、

 口の堅い悪魔関係の研究者を集めて、何がしかの悪魔を素体に研究させているらしい。

 そのあたり、機密度が高くて僕も手が出せないんだけどね」

「なるほど」

「ま、ウォーリアオブライトには、ちかぢか君が訪ねていく、

 とアポイントメントを入れておくよ、面会できるはずだ。

 僕らは表立って敵対してるわけじゃないしね。

 これくらいの連絡は素直に聞いてくれるから」

「ありがとうございます、手間が省けました」

「ま、【反応を見るために、片手間で出した返還要求】みたいだしね。

 もと直弟子の君が動けば、話くらいは聞いてくれるだろうさ。

 ……最悪こじれたら、【僕の名前を使って強引に押していい】よ」

「それは! ……そうならないようにしたいですね。

 いくらなんでも【迷惑がかかりすぎ】ます」

「迷惑をかけられるのも、友達甲斐のうちさ」

「……では最悪の場合は、ありがたく。

 本日は長々とありがとうございました」

「いやいや、またいつでも来てくれて構わないからね」