第14話

私は今、ダンテの彼女として、街を歩いている。

自分でいうのもあれだけど、どうしてこうなった……?

そもそも、小さい頃は異能力者として蔑まれ、いつも一人。

メシア教に無理やり入団されられてからはテンプルナイト。

周りは男しかいなかったけど、喧嘩を売ってくる輩はいても好きだとかのたまう男はいなかった。

大体、その頃の私は物凄く高圧的で、舐められないようにと相手を見下すような態度ばかり取っていた。

当然、彼氏なんてものどころか、異性の知り合いすらできるわけもなく……。

マリアのおかげでだいぶ丸くなったころにはメシア教を抜け、フリーのサマナーに。

それから男女問わずいろんな人と関わるようにはなったが、全てがビジネス話。

恋愛どころか、誰かを好きになるなんて初めてで……。

というか、さっきの質問のされ方だと、嫌いじゃない時点で好きというしかなくて、

好きといえば付き合う流れだったんじゃ──!?

「ダンテ。さっきの、私のこと嵌めた……?」

「んなことしてないだろ? ダイナは好きでもない奴と付き合うほど、軽い女なのか?」

「それは違います。好意がないのに付き合うのは相手に失礼です。

 一度も付き合ったことがない私でも、そんなことはしません」

「なら、それが答えだろ? 俺のことが好きだっていう、な?」

「うっ……ぁ……。私、本当に慣れていないから……からかわないでっ……」

「自分から話し振ったんだろ? なら最後まで責任持たないとな?」

「~~~っ! 許して……」

「あー、ヤベ。俺が抑えられなくなる」

「だからそれはダメですって!」

さっきからダンテの好き放題されてる……! なんか悔しいっ!

だけど私、本当にこういうの初めてで……。

不本意だけど、エスコートしてもらうしかない。

……そういえば。

「どうしてダンテは、私を恋人に? 私たち、かなりスタンスが違うと思うんだけど……」

「確かに、スタンスは違う。だから恐らくこの先、衝突もするだろう。

 それで愛想が尽きてさよならするかもしれない」

「否定は、出来ません。本当にお互いが譲れない道だったら、別の道を行くしかないでしょうから」

「ああ、そうだろうな。だが、そうなる未来だったとしても、俺は今、ダイナと居たいと思った。

 それじゃ理由が足りないか?」

「足りない……というか、本心が見えません」

「……変なところで勘が鋭いな」

「ダンテの濁し方が下手なだけかと」

「言ってくれるな。……同情、なのかもしれれない。俺は半人半魔だ。それだからこその苦労もあった。

 ダイナは異能力者だ。俺とは違う部類だが、世間から見れば大差はない。

 だからか、ダイナを見ていると昔の自分を見ているような気分になる」

「ダンテの言う通り、苦労はした、と思います。

 でも、そういうことなら、好きという感情ではなく、哀れみとかのほうでは?」

「はじめはそうだったんだろうな。だが、数回だがともに任務をこなして感じた。

 お前は過去なんてのはとっくに振り切っていて、前に進んでるってことを。

 それで気付かされたんだよ。俺は自分の過去を哀れんでほしくて、ダイナを哀れんでいたんだ」

「ダンテ──」

「それからだ、態度を改めたのは。もし対峙することになったら絶対に手は抜かないとも決めていた。

 ま、結果として惨敗したが……」

「あれは惜敗だってば……。それで、その……、態度を改めたら、私のことを好き……に、なったの?」

「ああ、そんなところだ。だが、それだけじゃない。普通に女としていいなと思っていた。

 それを決定づけたのは、間違いなく俺の腹筋を触っていた時だな」

「あっ、あれはだからっ! 本当にごめんなさいって!」

「取り乱しても、依頼のことになればすぐに切り替えられる冷静さ。戦闘時の判断力。どれをとっても一流だ。

 メシアンじゃなけりゃ、すぐに手を出していた」

「……そこは、譲れませんから」

「ダイナが神を信仰してることに対しては何も言わない。だが、メシアンというのは堅物ばかりだからな。

 どうしてもそこで踏ん切りがつかなかったんだが、あの時のあんな恥じらう姿を見せられたら──な?」

「な? と言われても……。あの時は本当にその、実用的な意味で羨ましくて……。

 寝ているのをいいことに触って、ごめんなさい……」

「怒ってるわけじゃない。ま、結局原因を作ったのはダイナの方だからな。責任、取ってもらうぜ?」

「お手柔らかに……」

哀れみ、か。それなら私は、憧れだったんだと思う。

初めて会った時、純粋なまでに、どこまでも強い人だと思った。

私がダンテを見る目が変わったのはきっと、この間の試合で勝てたから。

憧れだった人に勝って、勝手だけど、対等な立場になれたような気がした。

だから……、憧れから好きへと昇華したんだと……そう思う。

それに私は、過去のことを振り切れるほど、強い人間じゃない。

今だってまだ、引きづっている。

……いつの日か、ダンテに話せる日が来るだろうか。

また、ダンテが私に打ち解けてくれる日が来るだろうか。

その答えはまだ分からないけど、そうである存在になりたいと。

なれるように努力したいと……心から思う。

「結局ぐだぐだと話してたら昼になっちまったな。……何かしたい事はあるか?」

「うっ……その、デートって何をするの……?」

「本当に経験ないんだな……。とりあえずどっかで腹ごしらえして、買い物でもするか」

「買い物……って、魔石とか地返玉とか、そういうのじゃなくて……?」

「……色気ぜろだな」

「これまでの人生、買い物なんて必要なものを買い揃えるっていうイメージしか……」

「なら、今日は俺から何かプレゼントってことにするか」

「そんな、理由もなく何かをもらうなんて……」

「彼女にプレゼントしたいっていうのは理由にならないのか? たとえそれがなかったとしても、

 今日は急に呼び出した挙句、こうして付き合ってもらってるんだ。礼ぐらいいいだろ?」

「それなら、うん。……プレゼントなんて初めてだから、ワクワクしちゃう」

「ああ、期待しておいていいぜ」

食事を終えて、ダンテがプレゼントを選ぶために立ち寄ったのはアクセサリー店。

そこまで高価というわけではなけど、どれも綺麗。

「あっ。これ……」

目に留まったのは、ロザリオ。私よりも、ダンテに似合いそう。

「それが気に入ったのか? なら……」

「ううん。私がこれをダンテにプレゼントしたいって思っちゃった」

「おいおい。自分のじゃなく、俺のを選んでどうするんだよ」

「アクセサリーには、不幸を避けるお守りとしての意味もあるの。

 ダンテはきっと、これからも危険な任務をこなすだろうから……」

「だったら、身に着けても壊しちまうだけだ」

「アクセサリーが壊れてもダンテが無事なら、

 嘆くよりも身代わりになってくれたと、喜べばいいの」

「……ったく。なら、俺からはこれだ」

「ブレスレッド……? あ、ワンポイント入ってて、可愛い……」

着けても邪魔にならない細身な感じに、小さなエメラルドが一つ。

「ありがとう、大事にするね」

「ダイナも結局俺に買ってたら意味ないだろ……」

「いいの。私が贈りたいって思っただけだから」

「……大事にする」

気付けばもう、月が街を照らす時間。

「今日は本当に助かった。無理に呼んで、悪かったな」

「まさかこんなことになるとは思ってなかったけど……。

 私、恋愛経験ないから、また粗相をしたらごめんね?」

「これから日があれば、いつでも体験させてやるぜ? 今度はもっと濃いのをな」

「……う、ん。私も頑張って、リード出来るように勉強する」

「勉強、か。相手はもちろん俺だろ?」

「他に親しい男性なんて、いないから……」

「色々と抱え込んでいるようだが、潰れる前に相談しろよ」

「それはお互いさま」

「気付いている、か」

「聞いてほしくないって顔をしてたから。……私と同じで、巻き込むのが怖いっていう顔」

「俺から告白しておいてこんなことを言うのはなんだが、面倒ごとを抱えているからな」

「それは……私も、かな」

ダンテが抱え込んでいることは、恐らく半人半魔のこと。

気安く触れていい話題ではないし、別に隠されているとも思わない。

言いたくないことを言う必要なんてない。本人がそれできちんと折り合いが付けられるなら。

そうでいられなくなった時に、頼れる人がいれば、それでいい。

願わくば、それが私でありたい。

「時が来れば、言うことになるだろうさ」

「それもお互いさま、かな」

「ダイナ」

「んっ──!」

「……気を付けて帰れよ」

「あっ……おやすみ、なさい……」

不意を突いてからの即時撤退。本当に……敵わないな。

今日は自分でも驚くぐらい、ダンテに躾けられちゃった……。