「全く、折角旅行に来てるっていうのに、なんでこんな日まで監視されてないといけないのよ!」
毎日毎日、どこに行くも使用人はついてくるし、何をするにしてもスケジュール管理されてるし……。
こんな生活、いくら私じゃなくても嫌になるって!
……ってことで、真夜中に旅先のホテルを抜け出して草むらにやってきたまではいいんだけど。
「暗すぎてポケモンがよく見えないどころか、いる気配すらないんだよね」
今日こそは親に隠れてポケモンをゲットして、夢のポケモン生活を送るつもりだったんだけど……、何事もそううまくはいかないってことか。
「夜行性のポケモンってそんなにいないのかなぁ…………おっ?」
なんか、すごいフワッとしたものを踏んだ気がする。
「チルーッ!」
「うわぁっ!?」
もしかして今踏んだのって、このポケモンの……どこだ?
「チルルーッ!」
「痛い痛いっ!ご、ごめんって!わざと踏んだんじゃないの、許してぇー!」
どうしよう!私、戦えるポケモンなんか持ってないよ!
というか、それを取りに来てるんだけどね!?
こうなったら……
「本当はポケモンバトルで相手を弱らせてから捕まえるのがセオリーって本で読んだけど、今はこれしかないっ!いけっ、モンスターボール!」
…………って、あれ?あれあれ?モンスターボール、持ってくるの忘れてた!
「チル、チルチルーッ!」
「い゛っ……!」
痛い。腕から、血が……。でも、あのポケモンも私に踏まれた所はきっとこれぐらい痛かったはず。耐えなきゃ……。
「ココドラ、ずつきだ!」
「ココーッ!」
「チルゥー!」
な……に?なんでポケモンが倒れこんでるの?痛みと夜の視界の悪さでもう理解が追い付かない……。
理解が追い付かないのは貧血だからかな、ははは……。
「いけ、モンスターボール」
「チルッ」
誰かが投げたモンスターボールの中に私が踏んじゃったポケモンが吸い込まれていく……。
「君、大丈夫……じゃないな。腕を怪我したのか、すぐ手当てするから少し我慢してね」
「あ……、さっきのポケモン!あの子は悪くないの、私が踏んじゃったから怒ってただけで、だから……いっ!……ったぁ……!」
「こんな時までポケモンの心配して……。それもいいけど、自分のことをもっと大事にするんだよ?」
「うぅっ……痛い……。じゃなくてさっきのポケモン、逃がしてあげてもらえませんか?」
暗くて誰かわからないけど、とにかくさっきのポケモンは何も悪くないってことを訴えないと!ってか、暗くてぼやけてるけど顔近いって!
「……それならこのポケモンは君にプレゼントしよう。大事にしてあげるんだよ」
「えっ、いいの?」
な、なんかよくわかんないけど、ポケモンゲット……しちゃった?
「でも、これからはポケモンも持たずに野生のポケモンをゲットしようとしないこと。ボクと約束してくれるかい?」
「う、うん。気を付けます……」
ん……?今、ポケモンをくれた人の胸元あたり?についてる何かが、光ったような。
「家まで送ろうか」
「だ、大丈夫です!あの、ポケモンありがとうございました!」
「あっ、君……!」
そんなことよりこれ、絶対迷惑かけてるよね!ポケモン貰えたのは本当嬉しいけど、ここはもうささっと立ち去るが勝ち!
どこの誰だかわからないけど、ポケモンありがとう!絶対大事に育てるからねー!
「ん……、うーん……」
朝日が眩しい。つまりそれが告げるは朝がやってきたということか。
それにしても、懐かしい夢を見たなぁ。あの後両親にこの怪我はどうしたんだってこっぴどく叱られたんだっけ。
でも、あの時ホテルを抜け出してよかったって、本当に思ってる。
結局誰が助けてくれたのかはわからなかったけど、そのおかげで私の大切なチルットとこうして旅までできてるわけだし……。
もし叶うことなら、チルットをくれた人にお礼を言いたいな。
「ま、昔のことを考えても仕方ない。ダイゴさんももう起きて待ってるかもしれないし、さっさと私も準備しよ」
……なんて結局昨日の博物館以降、気まずいままポケモンセンターで部屋を借りたから、今から顔を合わせるのは躊躇われるんだよね。
覚悟、決めますか。
確かダイゴさんが泊まってるのは私の隣の部屋だったよね。
……3回ノックして
「おはようございます。…………まだ寝てるのかな?」
「おはよう、起きてるよ」
「わわっ!……はぁ、びっくりした。後ろからなんて卑怯だよ……」
「ははは、ごめんごめん」
びっくりさせられたことはちょっぴり腹が立つ気もするけど、こうして昨日のことは無かった感じで話しかけてもらえるのは正直助かるかな。
「えっと、今日はおつきみ山って所を抜けるんだよね。その先には何があるの?」
「おつきみ山の先にはハナダシティという街がある。そこにはハナダジムがあるから、もちろん挑戦するだろう?」
「ジムがあると聞いちゃ黙ってられないね!よぉし、そうと決まれば早速出発しよっ?」
「朝から元気だね」
これはささっとおつきみ山を抜けて、ハナダジムに挑戦だーっ!
「足元、気を付けて」
「あっ……、ありがとう」
ささっとおつきみ山を抜けるつもりだったんだけど、思った以上に暗くて足場が悪い。
ダイゴさんがいなかったらもう5回は軽く転んでるよ……。
「そういえば、捕まえたいポケモンはいたりするのかい?」
「えっ?あっ、そっか。いつまでもチルット1匹だけって訳にはいかないもんなぁ……。飛行タイプ以外を捕まえたいところではあるかな」
「それだとよく出会うズバット以外になるね。……あ、そこ足元気を付けて」
「でもこの山の中で出会ったポケモンって、まだズバットしかいないんだけど……わっ、わあっ!」
「危ないっ!」
いっ……たくない。あれ?私こけ……なかったっけ?
「こけたと思ったら実はこけてなかった……とか?」
「そんなわけないだろう?全く、言った矢先に躓くんだから」
「へへっ、ごめんごめん。…………で、あの……これ、は?」
支えてもらったおかげで背中を壁に打ち付けることは無かったから、感謝してるよ?
だけど、あの……私の背中は壁にぴったりひっついてて、ダイゴさんが左右を腕で塞いでるせいで身動き取れないんですけど。
「せっかく捕まえたし、どうしようかなって」
「ぜひ離してほしいんですけど」
すごい嫌な予感する。そう、これはまるで……コサージュを貰った時のことのような出来事が起こるような……
「ここなら誰にも見られないよ」
「そういう問題ではないと思うんですよ」
いくら山の中で暗いとはいえ、ここまで顔が近いとはっきり分かるよ……!
「たまには軽く触れていいって、許可をくれているよね」
「いやっ!あの、それは……んっ!……んぅ、ふっ……」
まっ、またキスされてる……!しかも今回は、ふか、ぁっ……!
「……。どう?」
「ぷはっ……。な、何涼しい顔してんのよ!こんのド変態ぃ!」
ん……?あれ、この顔が近い感じ……今日久しぶりに見た夢の……そう。怪我を治療してもらった時に似てる。
それであの時は、何かが光ったような。
……そうそう、ダイゴさんが付けてるラペルピンみたいにキラリと……。
「涼しい顔なんてしてないよ。ボクはいつでも海杏に好かれるために必死だからね」
「だからっ!なんでそんなに私に拘るのさ!」
「……本当にボクのこと、覚えてない?」
「覚えてるも何も……。大体私、人生で出会った人なんて両親に使用人、後は何回かあった婚約者候補と、そのご両親と……。そう!後はこのチルットをプレゼントしてくれた親切な通りすがりの人ぐらいしか出会ったことないから、むしろ忘れるほど人に出会ったことないんだけど……」
「そのチルットをくれた人って、どんな人だった?」
「えーっと、暗くて顔とかも全然分からなかったけど……。確か、ココドラを使ってる人で……ダイゴさんみたいに胸元に光る何かを付けてたのは印象に残ってるよ。だから、もし会うことが出来たらあの時のお礼したいなって。それにとっても強いトレーナーだったの。だから私の憧れでもあるんだよね」
って、なんでそんなことをダイゴさんが聞くんだろ?
……あれ?私のモンスターボールが震えてる。チルットが出たがってるのかな。
「チルルーッ!」
「えっ、えぇ?チルットがダイゴさんに甘えてる……」
そういえばこの前もなんか、気になること言ってたような……。確か、「それでずっとこのチルットをパートナーにしてくれているんだね」って……、まるでずっと前から私のチルットを知っているような……。
「チルットはボクのことを覚えていてくれたんだけどね」
「その言い方じゃまるで、チルットがダイゴさんと会ったことあるような…………へっ?」
「チルーッ、チルチルッ」
ま、まさか……、もしかして……。
「じゃぁ……あの時私を助けてくれて、チルットをくれたのって……」
「やっと思い出してくれたみたいだね」
「う、そ……。ダイゴさんが、そんな……。それじゃぁ私の憧れのトレーナーは……」
「そう思ってもらえてるなんて、光栄だよ」
や……だ、どうしよ……そんなことって……!
「チルー?」
「海杏、顔が赤いよ?」
「み、見ないでよっ!は、恥ずかしいっ!」
どうしよう……どうしたらいい!?
私、全然知らないままここ数日間ダイゴさんをただの旅仲間として見てきたけど、あの時のトレーナーさんだったなんて知っちゃったら、い……意識しちゃう……!
だって、ずっと憧れで……お礼のしたい相手で……。
その人が、今目の前にいて……私と一緒に旅をしてくれていて……しかも、その……こ、婚約……うわぁぁぁ!もう考えるだけで顔から火が出ちゃうよ!
「恥ずかしがってる海杏も可愛いよ」
「い、今からかうのは反則!本当に反則なんだからっ!あぁぁ、私これからどうしたらっ……!」
「今まで通り一緒に旅をして、トレーナーとしての腕を磨けばいいんじゃないかな」
「へっ……?で、でもっ……じゃぁ婚約は……?」
「もしかして、その気になってくれた?嬉しいな。勿論籍はいつか入れるよ。でも今は純粋に二人旅を楽しんでみないかい?」
「旅って……、私を連れ戻すのがダイゴさんの旅の目的じゃ……?」
「ううん、ボクは純粋に海杏に好かれたくて、旅を共にしてるだけだよ。……まぁ、珍しい石集めも兼ねてはいるんだけどね」
「うっ……あっ……、だからそういうことをさらっというのはっ……本当、私の心臓が持たないから……!」
こんなに……こんなにドキドキするなんて……。私、そんなにダイゴさんのことを……意識して……た、なんて……。
「そんな海杏の顔を見せられたら、ボクも我慢できないよ」
「だっ、ダメッ!今はっ……!んんっ!」
「チルーッ!?」
今までのキスは不意打ちだったから、驚いてドキドキしただけって言い聞かせれたけど……今回は、違う……。
「んっ、んぅ……んん……」
抵抗……出来ない。ううん、する気がない……。ずっとこうしていたい。ダイゴさんに、溺れてしまいたい……。
「んっ……、海杏?そんな蕩けた顔をされちゃうと、流石に……」
「チルルーッ!」
「わっ、わっ!チルット、痛いよ!君の主人を襲っていたわけじゃないんだ。いや、言い方を変えたら襲ってたことにはなるんだけど……」
「はっ……ぁ……、チルット……、ありがと……」
「チルゥ……」
自分が……こんなにダイゴさんに骨抜きにされるなんて思わなかった……。
「ちょっと急ぎ過ぎたかな。ごめん」
「うう……ん、その……今まで失礼な事言ったりしてごめん、なさい……」
「気にしないで。ボクは飾らない海杏が一番好きなんだ。だから、これからも今まで通りに接してくれると嬉しいな」
「本当?……それは、助かるなぁ。私、敬語とか礼儀作法とか、苦手だから……」
「これからは海杏の恋人として、共に旅をしてもいいかい?」
「うぅ……改めて言われると恥ずかしいよっ……。その、こちらこそ……恋人として、よろしく……」
「うん、よろしく」
うぅぅ……恥ずかしい……。でも、今までもやもやしてたのがはっきりして、すっきりしたのはいいのかな。……ダイゴさんと、とんでもない関係になっちゃったけど……。
「チルチル?チルーッ」
「ん?どうしたの、チルット?」
「チルルッ!」
ピンク色で……背中に小さな白い羽の生えた、見たことないポケモンだ。可愛いっ……いいな、欲しいっ!
「ピッピか、珍しいな」
「ピッピ?」
「うん、このおつきみ山に生息しているのは知ってるけど、結構珍しいポケモンだよ。そのピッピに出会えるなんて、かなり運がいいよ」
「ね、ダイゴさん。私、あの子捕まえる!」
「えっ、ピッピをかい?……そうだね、折角会ったんだ、チャレンジしてみるといいよ」
「よっし!行くよ、チルット!」
「チルッ!」
逃げられる前に、先手必勝!
「チルット、ピッピにつつくよ!」
「チルッチルッ!」
「ピッピ!?ピッピピー!」
よし、効いてる!このまま……
「海杏、ピッピが攻撃態勢に入ってる、気を付けて!」
「っ……!チルット、一度離れて!」
「チルッ!」
「ピッピー!」
あれははたく攻撃だ、危なかった……、離れていなかったらダメージを受ける所だった。
「チルット、もう一度つつくよ!」
「チルーッ!」
「ピッピーッ!」
「海杏、今だ。モンスターボールを」
「うん!いけっ、モンスターボール!」
今度は昔みたいに忘れたりしないんだから!
揺れてる……入れ……入れぇ……!
「…………、うん。捕まえれたみたいだね」
「ほんと……?本当に私が捕まえれたの?」
「おめでとう、海杏」
やった……、やった!初めて自分でポケモンを捕まえたんだ!
「んーー!ピッピ、ゲットー!」
「チルチルー!」
こうして私たちの関係は進展し、さらに新しいポケモンを仲間に加え、順調におつきみ山を越え、ハナダシティにたどり着いた……。