私は今、リアカーと呼ばれるものに乗っています。……どうしてこうなったのかは、少し時を遡ります。
「緑間さん、おはようございます」
「おはよう」
いつもどおりの朝……なのだが、ララクは少しそわそわしていた。今日は、感謝を形にするために作ったクッキーをいつ渡そうか、と悩んでおり、出した答えが『早い方がいいですよね』と自分の中で決めたので渡そうとしているのだが第一声をどうするか、というところで困っている。毎日、特に何か会話があるわけではないが一緒に登校している。この会話がないというところがなかなかネックである。
「(ララク、早く渡さないと学校に着いちゃうよ?)」
「(わ……分かってはいるのですが……、なんて声を掛けたらよいのか……)」
ちょこちょこと緑間の後ろを追いながら、可愛らしくラッピングしてある袋を渡すためにカバンからこそこそと出す。
「(渡せないなら、アタシが代わりに持って行ってあげてもいいよ?)」
「(うーん、こういうのって自分で渡さないと意味がないような)うぶっ……」
カバンに入ったアンカルジアと話すために下を向いて歩いていたため、信号で止まっている緑間に気づかずぶつかる。
「前にもぶつかられたことがあるな、前を見て歩く癖を……む、その袋は何なのだよ?」
後ろを振り向いた緑間は、ララクの持っている袋に興味を示す。
「あ、えっと、その……これ」
焦ってうまく言葉は出なかったが、すっと緑間に差し出す。
「……オレにか?」
「はい! その……えっと、いつもありがとうございます」
「……もらっておくのだよ」
ぎこちない形ではあったが、とりあえずは目標達成である。その後、青色になった信号を確認しながら二人で渡った。
お昼休み、いつものように6人が集まって教室でお弁当を広げる。
「ララク、今日は苺ないのー?」
「ごめんねアンカルジア、今日はリンゴで我慢してね」
「むむ、リンゴもなかなか……おいしい……」
むしゃむしゃとリンゴを頬張るアンカルジアを見ながら、ララクも自分のお弁当箱に箸を伸ばす。
「ララクってさ、そのお弁当自分で作ってるの?」
「そうですよ。……変ですか?」
「んや、むしろすごいっていうか、感心だね! あたしはいっつもお母さんに作ってもらってるから」
「お前もララクちゃんを見習って作ってみればいいんじゃね?」
「そういう隆二はどうなのよ」
「残念、俺も弁当は自作だかんな」
「くっそー、隆二のくせに生意気!」
「なんでそうなるんだよ!」
いつもワイワイしながら食べるお弁当は本当においしく、すぐお弁当の中身は空っぽになってしまった。
「そうだララク、カバンの中にいっぱい袋があるの、なんとかならないの?」
お腹をさすりながらアンカルジアはカバンが狭いことを訴える。
「あ、忘れてた……。あの、みなさん。いつも遊んでもらっているのでクッキーを焼いて持ってきたんです。よかったら食べてください」
そういってみんなに一袋ずつ配る。
「え、いいの? 遊んでもらってるのはむしろこっちの方なんだけどなぁ」
「……ありがとう、今度私も何か持ってくるね」
「やっべー、女子の手作りクッキーとか貰うの、生まれて初めてだ……」
「オレもそうだわ。バレンタインのチョコなんて毎年義理だからなー」
各々が想ったことを口にする。みんな素直ではないが、ララクに感謝しているようだ。
「新崎」
「は、はい?」
緑間に呼ばれるなんていままでに1回あったかどうかというレベルなので、変に緊張してしまう。
「その……旨かったのだよ」
「……え、あ……本当ですか?」
何を言われるのだろうと思っていたが、クッキーの感想を言われ一瞬戸惑ってしまう。
「真ちゃん何お礼一つ言うのに照れてんだよ、顔真っ赤じゃん」
「……珍しいものが見れた」
「う、うるさいのだよ!」
こうして緑間の照れる姿を見てお昼は終わり、放課後……。
「ララクちゃん、今日の昼のクッキー、うまかったぜ」
「よかった、また今度作って持ってきますね」
「マジで? 楽しみが増えるな。あ、んでさ、今週の週末空いてる?」
「え? まぁ、特に用事はありませんよ」
「おい、その日はもう予定が決まっているだろう」
姉のことを探さないといけないことは分かっているのだがいまだに手がかり一つない状況で、完全に行き詰っている。だから予定など何一つないわけで。
「わーってるって、クッキーのお礼って程じゃねーけどさ、今度練習試合観に行くから、一緒に来る? もちろん真ちゃんも行くぜ」
「いいんですか? わ、どうしよう……楽しみです!」
何故わざわざ緑間がいることを伝えたのかはよくわからなかったが、試合を見られるのは純粋に楽しみである。
「うっし、んじゃ当日迎えに行くから、家の前で待っててくれよ! じゃ、またな!」
「はい! 楽しみにして待っています!」
練習試合に連れて行ってもらうという約束をし、当日……。
「ララクちゃん、なんで目の下にくま作ってんの……」
練習試合を見に行くために、ララクの家の前に集合ということになり、後は緑間が来るのを待つのみ。
「うー……、試合観戦が楽しみ過ぎて……眠れませんでした……。その後ろの荷台……? はなんですか?」
「ブッ、小学生かよ! これね、リアカーつってさ。俺がリアカーで連れてってくれるなら練習試合観に行ってもいいぜ。っていったら真ちゃんが『ジャンケンで負けた方がこれを漕ぐのだよ』とか言い出したから、その話に乗っかったわけ」
「そうなのですか。ふぁ……、ごめんなさい、あくびが止まらなくて……」
「もう、だから早く寝ないとダメって言ったのに」
眠たい目をこすっているとアンカルジアがカバンから顔を出し、ララクに説教している。
「てか、俺より真ちゃんが遅いっておかしくね!? 本当にララクちゃんの家の隣なんだろうな!?」
「緑間さんも楽しみで、眠れなかったのでしょうか? だからお寝坊を……」
「それだったらマジウケる!」
あまりにも突っ込みどころが多くて、笑いがおさまらない高尾。
「家の前で騒がしいのだよ」
すると緑間が不愉快そうな声を出しながら、家から出てきた。
「緑間さん、おはようございます」
「来るのが一番遅かったヤツが言うセリフじゃないぜ、それ」
ララクはマイペースに挨拶を交わし、高尾は文句を並べる。
「おは朝占いを見ていたのだよ。……行くぞ」
「んじゃ、さっそくジャンケンしますか! 覚悟はいいか、真ちゃん?」
「望むところなのだよ」
すごい気迫が2人を包む。ララクは固唾を呑んで見守った。
「最初はグー! ジャンケン!」
「くっそー、信号待ちで交代じゃんけんなのに……まだ1回もこいでなくね!?」
「そんなの……当然なのだよ。なぜなら今日のおは朝の星座占い、俺のかに座は一位だったのだから」
緑間がお汁粉を飲みながら言う。
「関係あんのソレ!?」
高尾の的確な突っ込みが入る。
「つーかわざわざ練習試合なんか見る位だから、相当デキんだろうな?」
「マネッ子と……カゲ薄い子なのだよ」
「それ強いの!?」
「んん……」
ララクが声にならない声を上げる。
「あれ、そういやララクちゃんいつの間に……」
「乗って5分もしない内に寝てしまったのだよ。全く……勝手に人の脚を使って」
そこには緑間の太腿を枕にして心地よさそうに寝息を立てているララクの姿があった。
「何オレが知らない間に羨ましい状況になってんだよ!」
「言っている意味が分からないのだよ」
「真ちゃん知らねーの!? ララクちゃんと一緒に歩いてると周りの男子の視線があんなにグサグサ刺さってくるのに!?」
「ララクは本当自分から面倒事に首を突っ込むから、アタシも苦労するんだよね」
学校が始まってまだそこまで日にちは経っていないが、ララクの困っている人を放っておけない性格は凄まじい勢いで発揮された。自分が用事のない階段付近でも困っている人がいるとそこに行って人の手助けをする。かと思えば、気づくと階層を上がって他の人の手伝いをしている状態だった。どこにでもあるような制服を着ているだけだが、ララクの空色をした長髪には、まるで彼女のために作られたのではないかと錯覚するほどによく似合っている。それにこの性格が合わされば日数など関係なく、彼女はもう学園の人気者だった。
「何のことなのだよ。それより早く! 試合が終わってしまう! おそらくもう第4なのだよ!」
「オマエが占いなんか見てたからだろが!」
高尾の突っ込みがむなしく響いた……。
黄色髪の男子が、バシャバシャと音を立てながら水を頭からかぶっている。しばらくそうして、気が済んだのか蛇口を捻り水を止めた。
「オマエの双子座は今日の運勢最悪だったのだが……まさか負けるとは思わなかったのだよ」
「……見に来てたんスか」
声を掛けられた黄色髪の男子が顔を上げると、そこには緑間がいた。
「まあ……どちらが勝っても不快な試合だったが。サルでもできるダンクの応酬。運命に選ばれるはずもない」
「帝光以来っスね、ひさしぶりっス。……指のテーピングも相変わらずっスね」
少し嫌味な感じで、口をとがらせている黄色髪の男子……。どうやら彼がキセキの世代の一人。見たプレイを一瞬で自分のものにすることが出来る、黄瀬涼太のようだ。
「つか別にダンクでもなんでも入ればいーじゃないっスか」
「だからオマエはダメなのだよ。近くからは入れて当然、シュートはより遠くから決めてこそ価値があるのだ」
タオルを投げて渡しながら、さらに言葉を続ける。
「人事を尽くして天命を待つ……という言葉を習わなかったか? まず最善の努力。そこから初めて運命に選ばれる資格を得るのだよ。オレは人事を尽くしている。そしておは朝占いのラッキーアイテムは必ず身につけている。だから俺のシュートは落ちん!」
そういった緑間の左手には、今日のラッキーアイテムと思われるカエルのオモチャが乗っている。
「……。(毎回思うんスけど……、最後の意味が分からん! これがキセキの世代No1シューター……。)」
いつものことすぎて、突っ込む気すら起きない黄瀬。
「……つーかオレより黒子っちと話さなくていいんスか?」
「必要ない。B型のオレとA型のは相性が最悪なのだよ。アイツのスタイルは認めているし、むしろ尊敬すらしている。だが誠凛などと無名の新設校に行ったのは頂けない。学校選びも尽くせる人事なのにあんな学校で勝とうとしているのが、運命は自ら切り開くとでも言いたげで気にくわん。ただ……地区予選であたるので気まぐれで来てみたが、正直話にならないな」
言いたいことはすべて言ったのか、眼鏡を押し上げた。そこにチリリ~ンとベルの音が聞こえてくる。
「テメー渋滞で捕まったら一人で先行きやがって……なんか超ハズかしかっただろが!」
ガラガラと音を立てながらリアカーのついた自転車を必死にこいでくる高尾。
「まあ今日は試合を見にきただけだ。だが先に謝っておくのだよ。俺たち秀徳が誠凛に負けるという運命はありえない。残念だがリベンジは諦めたほうがいい」
今着いた高尾には二人の話している内容が分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「ふあぁ……学校に着いたのですか? ……あ、試合はどこです?」
そんな中、ララクはのそのそとリアカーから顔を出し、眠い目をこすりながら問いかける。
「もう終わったのだよ」
「そうなのですか……、終わ……えぇ!? 終わったのですか!? 見たかったのに……」
試合が終わったという一言で一気に目が覚め、脳が覚醒する。そして事実を理解すると、がっくりと肩を落とした。
「行くぞ高尾」
「あ、もういいの? んじゃジャンケンだな!」
結局ララクは試合を見ることは叶わず、高尾の引くリアカーに乗って何事もなく帰宅する
―――はずだった。
「ねぇ、聞きまして? 今回初めてなのでしょう、候補自体を作るのって」
「いままでの歴代皇女の中にも何人かの娘を産んだ方はいらっしゃったけれど、すべて長女が継いできたのでしょう?」
「今の皇女の娘は、双子ではなかったかしら」
「それでも、どちらが姉であるかは明確なはずでしたわよ?」
王宮の間にはたくさんの階級の高い者たちがそろっていた。
「それでは今宵、二人の皇女候補の名を」
玉座に座っている厳格ある女性の声を合図に、補佐を務めていると見て取れる男が口を開くと、静かになった。
「一人目、天界13代目現皇女の娘である、ラクア・ルルアノ・パトリエ」
「はい」
名を呼ばれたラクアは数歩前に出て、膝をつく。
「二人目、同じく天界13代目皇女の娘、ララク・ルルアノ・パトリエ」
「は、はい」
ララクも真似をして、数歩前に出て、膝をつく。
「お二人にはこれから1年間、いくつかの課題をこなしていただきます。それでより優れた結果を残した御方こそ皇女になるにふさわしいと判断し、その時に改めてこの王宮の間で皇女の証であるクラウンをお渡しさせていただきます。天界の未来を大きく左右することです。もし双方が著しく低い結果を残した場合には、お二人とも皇女になれない場合もあります。よろしいですね?」
「「はい」」
この後、王宮の間はどよめきと困惑の渦に包まれた。二人とも皇女になれなかった場合、いままでの皇女の血筋は途絶え、新たな血統の皇女が誕生することになる。そうなったあかつきには、それそこ天界の未来を左右するであろう……と。
さらには、この候補制度自体が何らかの裏があると、誰しもが考えた。いままでの仕来たりを崩しかねないことをしてまでここまで大きな影響を与えることを決断したのに、理由がないわけがないと―――。
「…………。おい……おい……!」
「んぁ! ……へ……?」
何が起こったのか分からず、変な声を出してしまった。
「こんな狭い中で舟をこいでいると、転げ落ちてしまうのだよ」
「ララクちゃん、またおねんねか?」
「え……っと……?」
ボンヤリした頭で、二人の言葉を理解しようとする。どうやら今度はリアカーの上で座ったまま寝てしまっていたようだ。
「まだ寝ぼけているのか?」
「ん……っと、大丈夫……です」
少しずつ冴えた頭で考える。
「ララク、なんて顔してるのよ」
「ん……、変な顔していますか?」
「変っていうか……、複雑な表情してる」
「そう……ですか。(皇女候補……か、いつまでも天界を離れ続けていたら私も姉様も、候補から落とされちゃうんだろうな……)」
ララク自身は皇女なんてものに興味はなく、小さい頃から皇女にふさわしいのは姉で、天界に居て皇女候補だと言われた日以降も、ただ血筋で選ばれただけだと思い、深く考えたことがなかった。それでもやはりこうして天界を離れていると、いろいろと考えることもあった。
「やっと下り坂にたどり着いたぜ……。一気に下るからしっかりつかまってろよー」
高尾の声を合図に前を見ると、かなり長く続く下り坂が見える。行きもララクは寝ていたため気づかなかったが、これを上がるのは相当の労力がかかっただろう。振り落とされないように、リアカーの淵をしっかりとつかむ。
「……、高尾。もう少し速度は落ちないのか? 早いのだよ」
「いや……ブレーキかけてんだけど……ぶっ壊れちまったのか? なんか、効いてる気がしねえ……」
異変はすぐに起こった。ブレーキをかけても速度は落ちず、それどころがだんだんと速度が増している。
「お……落ちちゃう……!」
身体の小さなララクには急速度で下り続けること加えガタガタと震える振動に耐え切れず、淵から手が何度も離れそうになる。
「わあぁ! 振り落とされるー!」
ララクの髪につかまるアンカルジアに関しては上下に揺さぶられている。
「しっかりつかまるのだよ!」
「あ……ありがとうございます!」
それを見かねた緑間は振り落とされないようにと後ろから抱きかかる形でララクを支える。そのおかげで風も遮断され、アンカルジアも安堵する。
「ホントどーなってんだこれ!? 朝はちゃんとブレーキかかったのに!」
「おい高尾! 前を見ろ、電柱だ!」
「うおぉ……! なんだこれ、ハンドルがきれねえ! くっそ……真ちゃん、ララクちゃんを頼む!」
「きゃああぁぁ!」
ガシャーン! と電柱に自転車が激しくぶつかり合い、けたたましい音がこだまする。高尾はサドルからそのまま前に放り出され、緑間はララクを庇うようにリアカーから転がり落ち、地面に体をうちつけることになってしまった。
「……う……くぅ……」
「ララク、大丈夫!?」
緑間のおかげでほぼ打ち身することがなかったララクが起き上がる。
「緑間さん……? 高尾さん……?」
「……」
「…………」
呼んでも返事がない。二人とも気を失ってしまっている。
「ど、どうしよう、アンカルジア……」
「アタシも分かんないよ!」
いくらなんでもおかしい。明らかに何かの妨害を受けて自転車のコントロールが取れなくなっていたとしか考えられなかった。
「キー……キー……。ミツケタ……ミツケタ!」
「皇女ダ! 皇女ダ!」
「皇女ジャナイヨ! 候補ダヨ!」
「ドッチモ同ジ! 殺セバ……今日カラ僕ガ魔王?」
「魔王、ムリ! デモ、魔王ニ認メラレル?」
「ドロドロ……ヌチャァ……」
人ならざる者。地上には本来いない存在である者が今、ララクたちの前に3匹。小さな羽で飛んでいる一つ目の者や、金づちを持った小人に似た姿の者。さらにはスライムのようなドロドロの者。
「そんな……、どうして魔物がこんな所に……」
ジリジリと近づいてくる魔物たちに怯え、完全に腰が抜けてしまったララク。
「逃ゲルノ? 皇女ナノニ逃ゲルノ?」
「弱者ハ、死ヌ。ソレ、オキテ」
「やだ……。緑間さん……高尾さん……起きて……」
二人を何度も呼ぶが、返事はない。
「ララク! しっかりして! アタシたちが二人を護るのよ!」
「……護らなきゃ……。二人が私を守ってくれたのに、私だけ逃げるなんて……そんなことできない!」
勇気を振り絞って立ち上がり、二人を護るように魔物と対峙する。
「ヌルヌル……ピチャ……」
「何カ、スルミタイダヨ!」
「何スルノ? 何スルノ?」
「アンカルジア……。緑間さんを……高尾さんを……、二人を護る力を貸して!」
「まっかせなさい!」
するとアンカルジアはララクの声に応えるように杖に姿を変える。1mを超える金色に輝く細長い杖になった。その先端には空色の薔薇がついており、頭のほうには金色の翼に護られるように大きな水晶がついている。
「行くよ……、アンカルジア!」
ララクの思いに反応したのか、杖についた水晶が緑色に輝きだす。
「キー! キー! 眩シイ!」
「グニャアァ……」
「熱イ……体ガ燃エル……」
悪魔たちは身の危険を感じたのか襲い掛かってきた。
「大丈夫……。もう、後悔しないように、ちゃんと私が護って見せます!」
ララクが杖を魔物に向け、呪文を唱える。すると水晶から緑の光が前方に飛び出し、3匹の魔物を光の竜巻が捉えた。その竜巻めがけて上から一閃の光が降り注ぎ、T字のように地面へ光が伝った。
「キーーーー!」
「ウワアァァ!」
「ドロ……ドロ……」
甲高い声や悲鳴、声とも取れぬ音を残し魔物たちは黒い灰になり消えた。
「はあっ……はあっ……! やったの……? 私、二人を護れたの……?」
足の力が抜け、ヘナヘナと地べたに座り込む。力を使い切ったのか、いつの間にか杖は元の妖精の姿に変わっている。
「ご、ごめんララク。久しぶりに変身したから、ちょっと疲れちゃった……。カバンの中で休むね」
地上界で姿を変えるのは少し負荷が大きいのか、アンカルジアはそういってカバンの中に入ってしまった。
「……いってぇ……」
「た、高尾さん!」
意識を取り戻したのか、ゆっくりと体勢を起こす高尾。
「ララクちゃん無事だったか、よかった……。おーい真ちゃん、いつまでものびてないで起きろよ」
「……うるさいのだよ」
「緑間さんも……うっ……うぅぅっ……!」
「ララクちゃん……? どう「うわぁぁぁん! よかったああ……! 二人ともご無事で……!」
ほんの少しの時間ではあったが、大きな出来事の連続で気が滅入ってしまいそうになっていたララクにとって、二人の意識が回復したことはこれ以上ない喜びだった。あまりの嬉しさに大泣きをしてしまったララクをなだめるのに必死な高尾を横目に、緑間は少し不可解そうに二人のやり取りを見ていた。特に大きな怪我をすることもなかった高尾と緑間は、各々に思うことはあったが泣き疲れて寝てしまったララクをリアカーに乗せ、ジャンケンに負けた高尾がリアカーを引き、緑間は歩いて帰った。
「ララクちゃん、起きろー」
「……んっ」
「今日は一日中寝てたな」
緑間の言う通り、いろいろとあった気はするが今日は一日寝て過ごしたようなものになってしまった。
「せっかく連れて行ってくださったのに、すみません……」
「んな謝らなくていいって! どうせ見れてたとしても最後の5分とかだったろーし、また今度行こうぜ」
「……そうですね、また今度行きましょう!」
「そうそう、ララクちゃんは元気でなくちゃな。んじゃオレは帰るわ」
「はい、今日は本当にありがとうございました。私も今日は家でゆっくりすることにします」
ララクはそういってお辞儀をすると、先に家に入っていった。
「……高尾、オマエは何か見たか?」
「え? 気絶してるときに? 気絶してるのに何か見ましたって言ったら、それ気絶してないっしょ?」
「……それもそうだな。(あの時何か、新崎は手に持っていた気がしたのだが……。気のせいか?)」
緑間は何かを見た気がしたが、意識がほとんどはっきりしていなかったため特に気に留めることはしなかった。この後二人も各自帰宅した。