「ったく、大損だぜ」
「どうして乗ったの……としか言えません……」
「コイントスは自信あったんだよ。今まで勝てたことはないけどな」
「その自信の出処はどこ!?」
何故一度も勝ったことがない勝負で勝てると思うの!?
「ダイナが乗らなかったのは何でだ?」
「負けるビジョンしか見えなかったから……」
「そうか。ま、こんな業界だからな。危機管理能力は大事だろ。
さて、ビジネスライクと行くか」
「……何か、厄介ごとが?」
「むしろ逆だ。ダイナに、“俺”を売り込む」
「なるほど? 大損したから、何か仕事をください、と」
「そういうことだ。基本的に俺のスタンスは、
【長期間の拘束はノー】【短期的な助太刀メイン】で仕事を請け負っている。
ダイナのところに力と銃さばき、両方に長けている奴はいない。……魅力的だろ?」
「ん……。最近仲魔になったのが両方に長けてる、かな?」
「おいおい、それじゃ俺はいらないってか? あー……、どうするかね、これから」
「あ、ううん。いらないわけじゃ……。今はまだ分からないけど、厄介な案件を一つ抱えていてね?」
「……また抱え込んだのか」
「うっ。それで、もしかしたらダンテの力が必要になる可能性があるかも」
「俺を予約したいってことか」
「前渡しでダンテの望む資源1つ。実際に来てもらうことになったらさらに2つで、どうですか?」
「達成時の報酬も1でいい。そもそも、起こるかどうかも分からないんだろ?」
「ですが……」
「それに、俺とダイナの仲だ。……それじゃ不満か?」
「むしろ、売り込んできたのはダンテの方からで……」
「なら、俺がそれでいいと言っているんだ。いいな?」
「……ありがとう、ございます」
「なら、ビジネスはここまでだ。……軽くデート、するだろ?」
「えっ」
「おいおい、むしろそっちが目当てだろ?」
「えっ」
「……俺の彼女だって自覚、あるのか?」
「そ、それはあるよ! ダンテが初めてなんだもの、必要以上に意識してる!
ただその、仕事になると、そういうのは全部度外視しちゃうから……」
というか、意識しながら仕事の話なんて器用な真似、私にはできない!
「それを否定はしないが……。男としては寂しいんだぜ、そういうのは」
「ごめんなさい……。デート……します」
「どうせすぐに依頼で会うからな。軽く食っていくぐらいだ」
「ん……、分かった」
ダンテは誘ったりするときは強引なのに、決まると急に優しくなるところは、少しずるいと思った……。
5月も半ばあたり。今日は珍しく、エアリスさんから声をかけてきた。
「ねぇねぇダイナさん。今日って空いてる?」
「少し待ってくださいね。…………はい、大丈夫ですよ。何か困りごとが?」
「ううん、そうじゃなくて。お話ししたいなって」
「お話し……、私とですか?」
「うん! ……ダイナさんって、彼氏とかいるのかなって」
「うっ……。ごめんなさい、私……そういう話題は苦手で……」
「あ、別に深くまでは聞かないよ? 彼氏はいるのかとか、もし作るならどんな人が好みとか、そんな感じ!」
それのどこが深くないのかが、私にはさっぱり分からないよ!
生まれてこの方、女扱いをされ始めたのですら本当につい最近の事。それまで自分ですら性別にそこまで頓着がなかった。
こんな業界だ。男が、女が、なんて言っている暇なんてあるわけもなく、今日をどう生きていくか。そればかりだったから。
「どうしてそういった話題を?」
「だって、ダイナさんしか女性、いないじゃない? マリアさんは悪魔だし……」
そうか……。エアリスさん、周りに女性がいなくて不安だったのか……。
「ごめんなさい、気を回せなくて……。いいですよ、私でよければ話し相手になります」
「気遣ってほしいわけじゃないんだけど……。でも、お話ししてくれるのは嬉しい!」
「えっと……、彼氏がいるか、でしたよね。最近、お付き合いさせていただいている男性がいますよ」
「ダイナさん、美人だもんね! やっぱり、周りの男の人たちも放っておかないよ」
「び、じん……? 初めて言われました……」
「えぇっ!? あっ、あー……。ダイナさんって、仕事の時とオフの時、はっきりしてるものね。
私たちはここに来てからくつろいでるダイナさんも見てるけど、他の人たちはそうじゃないからか……」
可愛いとか美人とか、生まれてこの方言われたことがなかったかと思えば、急に最近いろんな人から言われて戸惑う。
「エアリスさんにも、彼氏がいらっしゃるのですか?」
「ううん、私はいないよ。今はほら、クラウドとザックスのことがあるから……」
「すみません、配慮が足りず……。彼らのことは、私も最後まで3人で生きられる道を模索してみます」
「ありがとう。……ダイナさんだけなんだ、そういってくれたの」
「……お話を伺っても?」
「最初はね、2人が転生体なんて言われても、よく分からなかった。ちょっとした嫌がらせぐらいにしか思ってなかった。
でも、ある日ね、見ちゃったの……。今日みたいに、苦しそうにしているザックスの姿を。
それがすごく不安で、いろんな人に2人のことを調べてもらったの。そうしたら転生体っていうのは本当で……。
みんな、2人を見る目が変わっていった。最初は好意的だったのに、転生体って知ると、みんなこういうの。
『早くクドラクの転生体を殺せ! それが出来るのはクルースニクの転生体だけなんだぞ!』って……。
ひどいよね。二人とも、何もしてないのに……」
信用できると思って頼った人たちが一人、また一人と態度を急変させ、彼らにひどい言葉を浴びせる。
……想像するだけでも、耐えがたい事だ。それを何度も繰り返してきたのか。
「その、転生体について調べようと思ったのは、何故?」
「最初は、そんなに転生元の悪魔が悪い悪魔だなんて思っていなくて。
転生体について詳しくなれば、ザックスの発作みたいなのを止められるんじゃないかって、軽く考えてたの。
でも、結果としてそれがさらに2人を苦しめる結果になっちゃって……。
気付いた頃には、私たち3人とも、精神的に限界で……。周りの人たち全てが敵に見える日々。
信用できるのは、ここにいる3人だけ。でも2人はいつ殺し合いを始めるか分からない状態。
誰かに助けてもらいたい。一緒に解決策を探してほしい。でもそんな人はもういない。
そんな気持ちばかりがぐるぐるして、どうしようもなくなって……。
最後の、賭けだった。ダイナさんにも無理だって言われたら……私たち、どうなってたのかな……」
「……そうとは知らず。初めは取り乱して……」
「ううん、普通の反応だもの。でも、ダイナさんは違った。そこで、それ以上何も言わず、私たちを受け入れてくれた。
私は、とりあえず2人が離れたら、少しは解決になるのかなって思ってたけど。……心のどこかで、離れたくないとも思ってた。
あの時、3人とも来ていいって言ってくれた時、本当に嬉しかったんだよ?」
「そう言ってもらえると、私もあの時の選択は間違ってなかったって思えて、嬉しいです」
「でも、どうしてそうしようって思ったの?」
「上手く言葉に出来ないのですが……」
あの時、どうしてそうした方がいいと思ったのか。一番のきっかけは、クラウドさんの『3人は離れない方がいい』という言葉だ。
確証も、根拠もない。だけど何故か、それが真理のように思えた。
「3人は、離れてはいけない気がした。……としか、言えないです」
「えぇー、それだけー? いつもきっちりしていて、理想論とかで動きそうにないのに……ふふ、変なダイナさん!」
「そんなことないですよ。私だって、夢を見ることはあります。皆が争うことなく、平和に過ごせるならば、それが一番なのですから。
……私も人の子です。罪を犯した人すべてを許せるほど、心が広いわけではない。
それでも、償おうとしている人がいれば手を差し伸べたい。
確かに、必要に迫られれば私も人を殺します。ですが、それでも……。『ただそこに生まれただけ』が罪だなんて、認めたくない。
それが私の信条であり、どうしても譲れない部分なのです」
将来、人殺しになる可能性があるからその子を殺しなさい。なんて、絶対にあってはならない。
「ダイナさんって、やっぱりすごいね。私は守りたいって思う人たちに守られてばかりで……」
「そんなことはありませんよ。私だって、いろんな人に支えられています。
それはエアリスさん、貴女にもですよ? 貴女も、私の大切な人です。
そしてそれは、クラウドさんもザックスさんも同じ。ですから、自分を卑下しないでください」
「……うん、ありがとう! じゃぁ湿っぽい話はこれで終わり! ダイナさんの彼氏の話、もっと聞かせて!」
「なっ、なんでそうなるんですか!」
「えー? こんな堅物のダイナさんを堕としちゃうぐらい、素敵な人でしょ? 興味あるもの!」
「うぅ……、お手柔らかに……」
結局この後、恥ずかしいことを根掘り葉掘りを離す羽目に……。
エアリスさん、恐るべし!