今日の朝も、ザックスさんは精神力だけでクドラクの暴走を抑え込んだ。
そんな彼を見て、クラウドさんは昨日ほど荒れる様子はなく、どこか達観していたように見える。
……良くない方へ向かわないことを今は願うしかない。
そんな彼らに見送られ、マリアとともに『死霊使い』の依頼をこなすべく現地へ。
ダンテと合流した……の、だが……。
「(この、状況は……まずい!)
マリア、足止めをッ!
ダンテッ! こちらへ!」
「分かっている!」
「■■、■■■■■■──?」
「いま、マリアが落ちました。COMPに情報だけで戻っています」
「……最悪だな。来るぜ、ダイナも覚悟はいいな?
マジでイカれてるぜ、この依頼は……」
ギギ……と、扉と床がこすれる鈍い音。
「さあ、鬼ごっこです。たーくさん、遊びましょうね。
何も我慢しなくていいのですよ、【アリス】?」
「わあい! 黒おじさん似のおじさん、ありがとう!」
アリスと呼ばれた少女。姿はあどけない。
どこか良いところのお嬢さん、人形のような華奢な体。
そんなことを彷彿とさせるが……今の私には、まさに悪魔にしか見えない。
「あっちのおにーちゃんは、いつかのまじめなおにーちゃんに似てるなぁ。
おねーちゃんは、へんなおにーちゃんに似てるやー。
おにごっこ♪ おにごっこ♪ たのしみだなぁ!」
「ダイナ! 先手を取る! 俺に合わせろ!」
「分かりました、援護します!」
「2人とも速いんだね! 全然追いつけないや……」
「そこだっ!」
「いったあぁい! ……でも、……えへへ、捕まえたっ」
「ダンテッ!」
嘘でしょ! あのダンテの脳天割りを直でくらって立っているだなんて……!
「ちゃんとおねーちゃんとも遊んであげるから、安心してね?」
「っ! こいつ……俺の力をっ……!」
「ぁ……くっ! これだけ離れているのに、平気で吸い上げて……!」
これが青峰さんたちが言っていた、カラッカラの死体が出来上がる原因!
間違いない、吸血系のスキル! 干からびる前に、倒し切らないとっ!
これだけでもまずい状況なのに、まだ不安要素が減らない! 何か……何かまだある!
「良い感じに体力も戻ったから……
ねぇ
死んでくれる──?」
「──っ!」
「させないっ! ≪マハザンマ≫!」
間一髪! 今ダンテが落ちれば、間違いなく私も死ぬ!
「ナイスだダイナ! こいつを食らいなっ!」
「わわわっ! おにーさん、銃も上手なんだね!
でもそんなに撃たれちゃ近寄れないよー」
「……もう、その必要はないぜ、ベイビー」
「えっ──」
「これで終わりだからなっ!」
「あっ……がっ……! 痛い……痛い……よ。
黒おじさん似のおじさん……助けっ……」
アリスという悪魔の心臓部にダンテのリベリオンが突き刺さる。そして脳幹に2発の銃弾。
霧散していく体。……私たちの、勝ちだ。
「ああっ……あああ! アリス……アリス!
行かないでくれっ、アリス!」
「短い間……だったけど、アリス……楽し……か……」
「……ったく、とんでもない悪魔を使役してくれたもんだ。
次はお前だ、分かっているよな?」
「許さん……許さんぞっ! よくもアリスを──っ!」
「こっちの世界で好き勝手やったんだ。……今のてめぇにはその姿がお似合いだ」
「使役者も脳幹2発……」
「まさか、生かせとは言わないだろ?」
「……、反省の色も見えなかったし……」
「ならこの依頼はこれで完了だ。久しぶりに肝が冷えたぜ」
「本当に……。あまり、力になれなくてごめんなさい……」
「おいおい、そういうのはなしだぜ? あの時ダイナが勘づいたから、
俺がここにいる。……それじゃ不満か?」
「うう、ん……。本当にダンテが無事で……よかっ……た……」
「今回の依頼のパートナーがダイナで、本当に助かった。
だが依頼はもう一つある。その時はまた頼むぜ?」
「は、い……。がんばります」
「そんなに泣くなよ。公私混合はしないたちじゃなかったのか?」
「ごめ、なさ……切り替えます……から、少しだけ……待って……」
安堵したら急に涙が込み上げてきた。……自分でも、信じられないくらいに。
「俺としては嬉しいがな。……立てるか?」
「……んっ。もう、大丈夫です。心配をおかけしました」
「そうか。じゃあ、また今度だ」
「はい。次の依頼もよろしくお願いします」
「先日は最後までお傍にいられず、申し訳ありません」
「マリアが謝ることではありませんよ。危険な依頼を受けてしまった、私の落ち度です。
それに貴女は最後まで庇ってくれた。……感謝しています」
昨日みたいにならないよう、これからはもっと依頼を吟味しないと……。
「……では、気を取り直しまして。本日は?」
「今日は引き続き天塔探索に行こうかなと。私とマリア、後ザックスさん、いけそうですか?」
「お、仕事か? ちょうど体を動かしたいって思ってたからな、もちろん行くぜ!」
「いいなー! 今度は私も連れて行ってね!」
「ザックス。……気を付けて」
「心配すんなよ! 俺は強いからな! なんたって……」
「私に勝ちましたからね」
「俺のセリフ!」
「ダイナさん、ザックスのこと、頼みます」
「もちろん、無理はさせませんから。……では、行きましょうか」
「普通に敵が強いのですが……。よく昨日、探索できましたね……」
「火神が偉大だったってことを今すげぇ実感してる……」
「ダイナさま、ここは一時撤退がよろしいかと」
「そうですね、しんがりは私が務めます。全員、速やかに撤退してください」
「じゃあ、やっぱり火神さんがいれば探索はいけるってことね!」
「お、おいエアリス、まさか……」
「クラウド! 火神さん! 探索行きましょ!」
「……ちなみに、何層の予定で?」
「もちろん、2層!」
「……火神、くれぐれも頼みましたよ」
「ああ、任せとけ!」
「今回も順調だったよ! はいこれ、いろんな道具があったの」
「探索、私よりエアリスさんたちのほうが上手? ということは異界経営も……」
「ダイナさま、お気を確かに」
おかしいな。エアリスさんと私だけでも倍近く、レベルが離れているはずなのに……。
「ま、そんなときもあるッスよ! 悲観するより、後輩サマナーの成長を喜べばいいんスよ」
「涼太が……すごくいいことを言っています。ですがその通りですね」
「今のさり気にひどくないッスか!?」
「ダイナさまの調子が戻ったところで、今日はどうしますか?」
「……そろそろ、妖精郷から受けている依頼をこなさないとね。
いつまでも黒子さんが妖精郷から出られないのも、辛いでしょうから」
「……会いに、行かれるのですね」
「はい。……ついてきてくれますか? マリア」
「無論です」
「……よく分かんないスけど、気を付けて」
「ええ、行ってきます」