第13話

今週も今日で終わりかぁ……。さてさて、今日は何を……っと、電話だ。

「はいもしもし、こちらダイナ……。

 え、緊急の任務? 助けてほしいって……!

 分かりました、すぐ行く行きます! 場所は……帝都の自然公園。

 ……はい、待っていてください!」

「急に慌てて、どーしたんスか?」

「マリア、急いで準備してCOMPの中に。いつでも出撃できるようにしておいて」

「分かりました」

「ダンテッスか?」

「えっ、あ……うん。どうして分かったのですか?」

「その慌てようを見たら、誰だってわかるッスよ。……気を付けて」

「はい! いってきます!」

帝都 自然公園にて

「準備はきちんとしてきた。何があっても大丈夫。

 とはいえ、こんな人ごみの中で一体どんな危険な任務を……?

 ダンテは……」

「随分と早い到着だな、待ってたぜ」

「ダンテ! ……よかった、ご無事で。依頼内容は?」

「急に呼び出してすまなかったな。じゃ、行くか」

「えっ? ちょっと……行くって、その前に任務の概要を話してもらわないと!」

いくら急ぎでも、相手が分からなくては私は何もできない。

「……ったく、本当に律儀だな。任務内容はこれだ」

ダンテから紙を一枚受け取る。依頼書みたい。

えっと……、なにこれ? 報酬の事しか書いてない。えらい破格の量ね。

ということは、詳細は受注後ってことか。

「今から詳細を聞きに行くのですか? 報酬の量からして、かなり危険そうですが……」

だから、事前に私を助っ人として呼んだのかな。報酬は……まぁ、依頼達成後でいいや。

「いや、もう詳細は聞いた後だ。それで、ダイナが必要だったから呼んだ」

「私が必要となると、かなりの魔法攻撃が必要ということで……? 相手は?」

「違う、戦闘の任務じゃないんだ」

「……? では、囮とか?」

「……今日一日だけでいい。本物の彼女になってくれ」

「お断りします。私はそんな都合のいい女じゃありません」

「即答かよ……。だから言いたくなかったんだよ」

大体、話は見えた。恐らくダンテは報酬量で依頼を受けた。

これだけの量だ。私だって、まず間違いなく危険な戦闘任務と断定する。

でも、詳細を聞いたら違ったんだ。依頼を受ける以上は、そういうこともある。

それでも、この業界は【罠依頼を踏んだら自己責任】【失敗したら自己責任】だ。

私としても、危険な戦闘任務で助太刀をしてほしいと頼まれれば、報酬と勝率を聞いて受けることもある。

だが今回は、明らかにダンテの落ち度だ。……しかし、彼にしては少し慎重さの欠けるミスにも感じる。

それに、私が言わなくても自己責任ということは分かっているはずだ。それでも私を頼ってきたのは、何故?

「……詳しい話を聞かせてください。それで、私が判断します」

「悪いな、とりあえず適当な店でビジネス話と行こう」

某レストランにて

「まず、任務の内容は?」

「一日、恋人とデートだ」

「……えっ」

「一日、この帝都で恋人とデートをすれば、あれだけの報酬が手に入る」

「うっ、嘘ですよね? だってあの報酬量、普通に大物狩りとかしたときのレベルですよ!?」

どういうことなの!? デートであの桁の報酬って、依頼主は何考えてるの!?

「だろ? 俺も最初は大物狩りだと思ってたさ。だが蓋を開けてみればこのざまだ。

 ったく、久しぶりに意味不明な依頼を受けたもんだ」

「その……なんというか、ご愁傷様としか……」

「あまりに腹が立ったんで、裏を取ってみたんだがな。たまにこういう依頼を出してるやつがいるんだとよ。

 理由は単純。これだけの報酬をちらつかせて引っかかる奴なんてのは、腕に自信はある奴だ」

「まぁ……そう、ですよね」

「だが、そういう奴らは人の域を超え始めている奴らばかりだ。そうなると、まず色恋にうつつを抜かしてるような奴は少ない」

「なるほど、そういう人への当てつけ……ってところですか」

「こなせなかったら任務失敗。俺の信用が落ちる。しかも、この依頼主がまたひねくれ者でな」

「まだ何かあるんですか……」

「別に色恋沙汰がなくても、異性の知り合いが全くないわけでもないって奴もいる。

 そういう奴らは適当なのに声かけて、報酬を分けるなんなりで恋人ごっこをするわけだ」

「依頼を無碍にするわけにもいきませんし、普通の対応ですね」

私だったらどうするかなぁ……。依頼失敗は嫌だけど、そうやって割り切って恋愛事とかしたことないし……。

「任務の条件としては『必ず自分の彼女』とデートをすることと言われた。

 だが、そんなのは適当に話を合わせれば普通ならバレないはずなんだ。……だが、この依頼主はそこが鋭い」

「恋人ごっこは通じない……と?」

「ああ、一日デートが終わった後に、もう一度この依頼主を話をする、までが依頼条件でな。

 その時に異性側の反応がどうだったかを事細かく聞かれるそうだ」

「それで本物かどうかを見極めるっていうんですか? そんなの、向こうの言いたい放題じゃないですか」

「そうだ。たとえ本物の彼女だったとしても、依頼主が信用できません。といえばこの任務は失敗だ」

「とんでもない罠依頼を引き受けたものですね……。それで?

 そこまで裏が取れていながら、私を呼んだ理由は?」

「俺と一日、本物の彼女としてデートをしてほしい。

 報酬はデート終了後、依頼の中に入っている報酬量であればいくら持っていっても構わない」

「こなせない依頼の中で報酬を用意するって、何言っているか分かっているのですか……?」

「俺は必ずこの任務を成功させる。そのためには絶対にダイナが必要だ。

 そのためなら、報酬は惜しまない」

「ま、待ってください……。なぜそこまで、この依頼に執着を?」

私とダンテの関係なんて、色恋どころか、顔を合わせるのだって数えられるぐらいだし、

この前なんか依頼とはいえ、殺し合いまでしたのに……。

「癪だろ? だから、この依頼主に痛い目を見せてやりたい」

「な、なんで私じゃないとダメなんですか? その、お恥ずかしい話ですが、

 私、こういった手合いの依頼は受けたことがなくて……。

 恋愛事も一度として経験がないし、あまりにも不適合です……」

「慣れている、慣れていないは関係ない。この依頼をこなすのに必要なのは『本物の彼女』

 それだけだ。……だが、今の俺に恋人はいない。だからこうしてダイナに告白している」

「こ、こくっ!?」

「ああ、そうだ。本当を言うなら今日一日ではなく、これからもずっと恋人で居てほしいと思っている」

「な、なななな……、何いってっ!」

依頼を手伝って欲しいって流れから、どうして私は告白されているの!?

それに、ダンテの目を見たら分かる。これは嘘をついていない、本気の目だ。

だけどそんな、急に言われても!

「俺は半人半魔だ。それを隠して何人かと付き合ったこともあるが、所詮隠し事がある者同士、そう続かなかった。

 だが、ダイナは少なくとも、そう言った理由で俺を拒みはしないだろう?」

「人は生まれつき、みな違うものです。確かに、半人半魔だから付き合えません。ということは絶対にないです。

 けど……そのっ、あの、私……彼氏が出来たことなんてなくてっ!」

「なら、第一号として、俺はどうだ?」

「どう……どうと、言われてもっ……。どうしたら、いいんですか?」

「なら、俺のこと、好きか嫌いかで言ってくれよ」

ダンテのことを好きか、嫌いか?

ダンテとは、そもそもスタンスが根本的に違うところがあるから、苦手だった。

ただ、面倒くさがりでも依頼はきちんとこなすところは、流石だと思った。

実力も申し分ない。純粋に、力の使い方と銃さばきは、憧れた。

それに、フリーになってから知名度の低かったころの私と、最初に仕事をこなしてくれたのも、ダンテだ。

知名度の低い異能力者は、なかなか信頼が築きにくい。

でも、その頃からやり手だったダンテとともに依頼をこなすことが出来たのは、結構大きかったと思う。

私は……ダンテのこと……。

「好き……です」

「……なら、今日から恋人だ。よろしく頼むぜ、ダイナ?」

「ぅあ……恥ずかしい……」

「これなら、依頼は達成したも同然だな。報酬、考えておけよ」

「あ、それはいいです。その、これからお世話になるでしょうから。

 その、私。何も分からないから、リードしてください……」

「切り替えが早いと思えばすぐにそうやって顔を赤らめてると、マジで初日から襲うぞ?」

「そ、それは勘弁してください!」

「後、敬語も禁止だ。使い度に何か一つ、仕掛けるからな?」

「うぇっ……急にそんな……がんばり……がんばる」

「惜しい。じゃ、適当にデートと洒落こむか」

「よろしく、ね?」

「……マジで襲いそうだわ」

「だからそれはダメですって!?」

今日、生まれて初めて彼氏が出来ました……。でも、ダンテとなら、なんとなく……上手くいきそう。