第12話

4月も折り返しの3週目。さて、今日は……。

「もう少し私のレベリングして、次は人材確保か、塔探索と行きたいところですが。

 ……どちらがいいと思います?」

「人材確保をして塔探索、という選択肢もありかと」

「ごもっともな意見だぁ……。選択肢が増えると悩みますね」

「なんなら、俺が今週分の家事を全部受け持てば、その全部こなせるんじゃないスかね?」

「すんごく魅力的な提案が出てきた。えぇ、本当どうしましょうかね?」

んー、うーん。ここは、そうだなぁ。

「むしろバリバリ私のレベルをあげちゃおう、そうしよう」

「私とは、随分と差がついてきましたが……」

「それでもまだまだ、ついてきてもらいますからね?」

「勿論です。では早速準備をしましょう。涼太さまにはこの間に……」

「ダイナの好みの味付けを覚えればいいんスね!」

「神様に家事全般をしてもらうことに、最近抵抗がなくなってきた……。

 というより普通に私よりも主夫してる! なんか悔しい!

 だから私はもっと自分を鍛えてやる! いってきまーす!」

「と、やけくそで篭った結果、自分でも想像以上に強くなった……。

 これはもう、家のことは仲魔たちに任せて、

 私は前線に立ち続けるべきという暗示か……」

「そんな風に導いた記憶はないッス……」

「冗談はさておき、今からちょいと黒子テツヤ君の情報を探ってきます。

 ……とは言っても妖精郷の方から本人の連絡先は貰ってるし、

 顔合わせついでにそのままガイア教の方に寄って、情報渡してきますね」

「では私もついていきましょう」

「よろしくお願いします、マリア。それじゃ涼太、ささっと行ってきますから、

 他の仲魔たちとゆっくりしててくださいね。

 ……くれぐれも、ゲームのやりすぎは注意ですからね!」

「分かってるッス! 気を付けていってらっしゃい!」

「うん、いってきます」

妖精郷はずれにある公園にて

「黒子君に連絡入れて、ここに待ち合わせということになったのですが……」

「まだ、待ち合わせの時間まで少しあります」

「ま、公園に私以外いないし、みたらすぐ分かるでしょう」

しかし、メシア教団の過激派と面識のある人物、か。

警戒するに越したことはない。

「…………」

「ん? マリア、私に声をかけました?」

「いえ? 私は何も」

「すみません、貴女がダイナさん、ですか?」

「うわあああああ!」

「っ──!?」

いったぁ……。きゅ、急に人が目の前に……! 思いっきりベンチごと後ろに転げた……。

声をかけられるまで全然気づかなかった。マリアも同じ反応だったし……。

「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、うん。ごめんなさい、派手に驚いて……。えっと、君が黒子テツヤ君、でいいのかな?」

「はい、僕が黒子テツヤです。話はティーダ王とユウナ女王から聞いています」

恐ろしく影が薄い事には驚いたけど、よく見ると彼……。その、お世辞にも強い感じではない。

まだ駆け出しのフリーサマナーという表現が一番ぴったりくる。

相手は男の子だし、私より身長はあるけど、見た目的には中学生ぐらいなのかな?

「では、話が速いですね。私がメシア教団からの引き取りを断りに行く依頼を受けた、

 フリーのダイナです。よろしくお願いします」

最初はすごく情けない所を見せてしまったけど、とにかく切り替えて、依頼の話としよう。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「早速で悪いのですが、メシア教から引き取りを受けることに、何か心当たりは……?」

「……分かりません。僕があっちの施設の出身だから、ぐらいしか」

「そうですか。しかし、過激派直々の圧力となると微妙なラインですね。

 ……元いた施設のお名前は?」

「すみません。細かい組織間の話はよくわかりません。

 施設は、児童養護施設、つまり孤児院です。

 メシア教団が出資する、『聖霊の園』というところです」

「知らない名前ですね。……何か特徴は?」

「ものすごく堅苦しい所でした。

 礼儀とか、序列とかにすごくうるさかったです。

 お祈りの時間少し遅れただけで、すごい剣幕になる先生がいました。

 ……抑圧されてる感がすごくて。そんな時に妖精が誘ってくれて、家出しました」

なんという無軌道……秩序に抑えられて、反動で混沌寄りか……。

まぁ、気持ちは分からなくないし、普通にありえる程度の不満やトラブルってところですね。

「向こうに未練とかは?」

「少しはありますが、今の方がいいです。

 妖精たちに会うまで知らなかったのですが、

 どうやら僕は悪魔に好かれる性質みたいなので、戻っても何かトラブルを誘発しそうで……。

 今は、こっちで仲魔とわいわいやっている方が楽しいです。

 それに僕、異様に影が薄いですから、危ないことからは結構逃げ延びやすいです」

いやもう本当、心底びっくりさせられたから。

「他の子供達も、不満を?」

「抱えてる子も、馴染んでる優等生もいました。

 僕はたまたま飛び出す機会があって、それを掴んでうまくいきました。

 ですが、社会に出て自立すれば離れる場所ですし、

 なんだかんだ、割り切ってる子も多かったと思います」

「……いろいろ聞かせてくれてありがとうございます。

 出来る限り、最善は尽くしてみます」

「いえ、ご迷惑をかけているのは僕の方ですから。

 あ、あと良ければこれ、僕のデータです。

 まだ駆け出しなので、大したことは出来ませんが……。

 何かあれば呼んでください。仕事はきちんとこなしてみせます」

「分かりました。それでは今後、何かあった時はぜひ」

「ただその、連れ戻しにきている過激派? の人たちがどうにかならないと、

 僕も妖精郷から出られないので……。

 代わりに鍛錬とマグとマッカ集めをして、ひたすら毎日、仲魔とか増やしていますが……。

 あ、最後に何か、聞きたいことはありますか?」

「連れ戻しに来る人に心当たりは?」

「妖精王によるとウォーリアオブライトという方らしいです。

 だけど僕、そんな人は知りません」

「……彼が直々に?」

「いえ、使いの人がきただけらしいです。

 こっちの世界の偉い人だと聞きましたが……。

 どうしてそんな人が、僕なんかに? という感じです。

 孤児院の職員の誰かが、ツテでもあったのでしょうか?」

「そうですか、分かりました。ありがとうございます」

「はい。それではこの件のこと、よろしくお願いします」

黒子テツヤと別れた後、ガイア教道場にて

「こちらが、黒子テツヤという人物の戦闘能力になります」

「……随分とまた、お世辞にも強いとは言えん人物だな」

「どうやら、まだ最近フリーのサマナーになったばかりだそうで」

「ふむ……。だが、一瞬で姿をくらましたという話が俺は引っかかる。

 ……ダイナはどう思う?」

彼の能力が危険なものだという感じはしなかった。

というより、そもそもただの生まれつきの能力というか……。

わざわざ変なことを言って大事にする理由もないし、ここは普通に。

「それが、私自身、直にあったのですが……」

「ほう? それは話が早い。……どう感じた?」

「まだ能力が何も開花していないせいで、サマナーとしての存在感があまりない。

 という印象でした。正直、この能力であれば『一般人』と言われても頷きます」

「……それもそうだ。少し警戒しすぎて、過敏になっていたようだ。

 我々に特に敵意を持っている相手でもない。別に危害も加えられていない。

 この件はこれまでだ。恐らく、誰もこの人物のことを気に留めることはもうないだろう」

これで、黒子さんのことを必要以上に襲ったりすることはなくなっただろう。

彼の性格上、誰かに喧嘩を吹っかけるような人物でもなさそうだったし、誤解が解けて何より。

「では、こちらが報酬だ、受け取ってくれ。

 わざわざ足を運んでもらって、悪かった」

「いえ、たまたま近くを通ったついででしたから。それでは、私はこれで」

「ああ、また頼む」