第3話

さらりとした、首元にまで伸びる銀髪。

赤を基調としたロングコートを地肌に纏った大柄の男。

腰には二丁拳銃を提げ、手には大剣を握っている。

「っ……」

マリアの額から、一滴の血が垂れる。人を一人ぶった切った勢いでマリアにもかすり傷を負わせるその手腕……。

「貴方、でしたか……」

形だけ戦闘の構えを解き、あいさつをする。

「お久しぶりです。ダンテさん。──いつかの仕事で協働して以来、ですね」

「ああ、そうだな。覚えているぜ、ダイナ」

ダンテさんは手に持った大剣──リベリオンに付いた血を振り落としながら、こちらを見据えている。

同業者とはいえ、彼の方が格上。

相手によって態度を変えるわけじゃないけど、言葉使いは慎重に……。

「再会を祝うという空気でもなさそうで……残念です」

「そう言いつつ、少しでも有利な位置取りを探してるって所か。

 ダイナが相手となれば、流石に手は抜けねぇな」

そういって彼は臆することなく私に一歩、また一歩と近づいてくる。

それに合わせて私とマリアも一歩、また一歩と距離を取る。

彼は基本的に【単独行動を好む】人物。

私と、マリア。二人がかりで挑めば【分が悪いが、勝ち目がない相手ではない】といったところ。

しかし、さっきの戦闘で一回やらかしているし、これ以上の消耗は出来れば避けたい……。

「ここにはどういった用事で来た?」

どう、答えたものか──。

「既にある程度察しておられるかと。

 事が起きて、誰かが私に依頼した……。何時もの事です。

 ──貴方こそ、こちらで何を?」

セタンタを殺した相手を殺せという依頼は受け持っていない。

つまり、私側に彼を狙う理由はない。が、相手側がそうであるかの判断がつかない……。

「事が起きて、誰かが俺に依頼した。何時もの事だろ?」

どこまでが依頼か、見極めきれない。彼の性格をよく考えなくては。

彼は【単独行動】で動きまわるぶん、身軽さと打撃力が売り。

足を引っ張られる拠点防衛なんかの仕事は、【基本的に受けない】はず。なら……

「(ダイナさま、決裂の際は全力でお逃げ下さい。……一命に代えても、時は稼いで見せます)」

「(ああ、胃が痛い。この人が相手だといつもこうだ。どうしても、根本的な部分で反りが合わないから……)」

マリアは戦闘態勢を崩すことなく、私とダンテさんの間に立ってくれている。

「ああそうだ。俺は【どっちでもいい】ぜ」

この言葉の真意は? 考えろ、考えろ。ここで選択を間違えれば戦闘は避けられない。

ここでその言葉を使うのであれば、意味は戦っても戦わなくてもいいということ。

仕事の依頼に入っているのであれば、彼の性格上戦わないなんて選択はあり得ない。

なら、これはつまり……

「それなら、この先の景色を見に、軽く散歩はどうです?」

「せっかくのレディからの誘いを無碍にするのはガラじゃないが、そいつは無理だ。

 流石にすぐに刃を返すのは仁義に反するし、報酬にも関わる。そうだろ?」

【セタンタ殺しまでが彼の仕事】で確定した。後はこちらの任務を伝えるだけ。

「なるほど、【よくわかりました】──そうであれば仕方ありません。

 私も嫌がる相手を強引に誘うような、無粋なことはしませんから」

「いいのか? お互い見逃せないだろ?」

「顔を合わせたのも縁でしょうけど、【すでに散歩が済んだのなら】今どうこうすることでもありません」

これで私の方も、貴方と戦うのは依頼条件外です、と……伝わればいいな。

「なるほど。実にシンプルだな?」

そういって彼は、私たちに向けていたリベリオンを背中に背負う。交渉は成立と思っていいかな。

──私たちは【ここで出会わなかった】

彼は一足早く離脱して、後の惨劇は知らない。私は一足遅く突入して、儀式を滅茶苦茶にする。

それで【双方が依頼達成条件を満たせる】はず。

「今度送る、お中元を豪華にしておきます(【借り一つ】で勘弁してください、と)」

「そいつは楽しみだ。ダイナのセンスは良さそうだからな」

「まぁ、そんなところで。……失礼してもよろしいでしょうか?」

「俺を相手にそこまで優雅に振る舞えるのはダイナぐらいだ」

えっ。なんか、ツボに入ることあった……? えぇー?

「……また会えたら、その時はよろしくお願いします」

「ああ、その時は手加減なしだ。じゃあな」

そう言い残して、彼は私たちに堂々と背を向けて帰って行った。

本当……こっちの肝は冷えっぱなしだっていうのに、どこまでも度胸の据わった人。

それを見送ったマリアも戦闘態勢を解除する。

「なんとか【契約の範疇で危険な戦闘を回避】できたようです。

 情報によれば、残る戦力は少ないはず……」

「そうね。一度負けた後なんだけど……

 まあ、気合を入れ直してもう少し、仕事と行きましょう」