異界から帰ってきて数日。日頃から無欲なダイナが一つだけ、ダンテに頼むことが出来たそうだ。
「ダンテ、この間の異界で言った、聞いて欲しいこと」
「そういやそんなことも言ってたな。なんだ?」
いつものカウンターに、いつもの椅子。そこに座りながら雑誌を読みふけるダンテと、ダンテの左側で一歩ほど後ろに下がりジェラルミンケースを持ってただ立っているだけのダイナ。
そんな静かな店内に、ダイナの声が響く。
「数日様子を見て、分かった。身体に異変が起きてる」
「異変? かなりヤバい感じか?」
淡々とダイナは言葉を紡いでいるだけだが、逆にそれを不気味に感じたダンテは雑誌をカウンターに置きダイナの方を向く。
「自分では、処理出来なかった。ダンテなら、出来るかもしれない」
「なんでも言ってみな」
ダンテの言葉にダイナは頷くと、ジェラルミンケースをカウンターの横に置き……。
「重たかったら、言って」
そう言って、ダンテの膝の上に座った。
「……なんだ? どうした、ダイナ」
ダンテは意味が分からず、まばたきを繰り返す。
「重たくない?」
「全然」
「そう」
短い言葉のやり取りだけがされ、ダイナはダンテに身体を預ける。
「……で、どういうことだ」
「異変の正体。ダンテに触れていたいって思うようになった」
「ほう? いいことだな」
「ダンテが嫌でないなら、助かる」
「嫌がるわけないだろ」
「……嬉しい」
ダイナが微笑む。そのことにダンテはまた驚き、ガシガシとダイナの頭を撫でてこう言った。
「もっとそうやって笑えよ」
「無表情、自覚してる。だけど喜怒哀楽がない、それは違う。色欲に当てられすぎたせいで、少し、感情豊かになったかな」
とは言うものの、ダイナの顔はいつも通り無表情だ。
「……そうだな」
それでも、共に過ごしているダンテにとっては変わったと分かる程度には、ダイナも感情を出している……かもしれない。
Fin.