「本当に申し訳ございません!なんと、なんとお詫びしたらよいか……」
「いえ、気にしないでください。それにしても……ははは。随分と行動力のあるお嬢様ですね」
「昔のお前のようだな、ダイゴ。いや、今でも時折フラフラとあちこちでかける所は変わっていないか」
「親父が言えた立ちじゃないだろう」
ボクは今、お見合のためにとある会場に来ていた。……のだが、相手方の親御さんたちの話によるとボクの相手であるお嬢様、海杏さんは今日の朝から姿が見えず、代わりに置手紙が一つあったそうだ。内容は
『今までポケモンを隠して育てていたことが許せなかったからと、私の大切なパートナーを取り上げることはいくら親でも許しません。私の大切なパートナーは返してもらいます。』
と、家出の旨を伝えたものだったそうだ。そういうわけで、ボクのお見合い話もなくなるだろう。ボクとしてもまだ結婚は考えていなかったから少しホッとしているところがある。が、ここまでの行動力と即決力がある相手に出会えなかったというのは単純に興味として少し残念にも思う。
「しかし、相手がいないとなっては今日のお見合い話はなかったということでよろしいですかな?」
親父の言葉にびくりと肩を揺らす相手側の親御さんが少し気の毒に感じる。まぁ、デボンコーポレーションという大きな権力が手に入るかもしれないというのを逃すと思うとそういうものなのだろう。ボクとしてはなんだか自分のことを見てもらえていないようでいい気分はしないな。
「3日!いえ、2日待ってくださいませんか!必ずや娘を連れ戻してまいりますので!」
「そうは言われても……。御社もデボンコーポレーションには敵わずとも大きな会社であることは勿論存じ上げているが……」
「この手紙にもあったように、娘は本当にポケモンが好きなのです!ですから私共はトレーナーとしてのダイゴ様に娘を会わせたかったのです!」
……なるほど。つまり、会社としての後ろ盾が欲しいわけではなく、純粋に自分の可愛い娘を思っての相手選びとしてボクが選ばれたってことか。……うん、やはりあの娘を育てたご両親だ、一安心。
「待ってよ親父。結婚するのはボクなんだから、相手を見る権利ぐらいはくれよ」
「ダイゴがそれでいいなら私は別に構わんが……」
「おぉ……ありがとうございます!必ずや探し出して連れてきて見せます!」
「いや、恐らくそれだと逆効果でしょう。お嬢様は旅をしたがっているようですし、見つけたらどこにいたかだけ教えていただけますか?後は僕が直接会って話をしてみたいのですが」
「分かりました。娘もダイゴ様のお顔は写真で拝見しているはずですので、恐らくは分かると思います。……腰を抜かしてびっくりするかもしれませんが……」
「ははは。出来るだけ驚かさないようにします」
「ご主人!海杏様と思わしき人物を見たとの情報が!」
おっと、思った以上に見つかるのが早かったな。まぁほとんど外にも出ていないそうだし、すぐ見つかるのは普通か。
「おぉ、でかしたぞ!で、それはどこら辺だ?」
「そ、それが……カントー地方行きの船に乗って行かれた、と……」
「なんだとぉ!?」
前言撤回。やはり物凄い行動力のあるお嬢様だ。昔会った時も見たところ黙って抜け出していたようだし、それぐらいはやってのけそうではある……って、関心してる場合じゃないか。
「それはまた……随分と冒険しましたね。しかし、カントーか。それならボクもさっそく準備して追いかけることとします。いいよね、親父」
「ついでに珍しい石も見てくるのだろう?好きにしてくるといい」
「お手数をおかけして、本当に申し訳ございません……。どうか娘をよろしくお願いします」
「頭を上げてください。お嬢様に会いたいとわがままを言ったのはボクの方です。これぐらいはせめてものお礼としてさせてください」
「そんなとんでもない……!本当にありがとうございます」
「それじゃ行ってくるよ、親父」
「あぁ、行ってらっしゃい」
こうしてボクは海杏と呼ばれるお嬢様を探しにカントー地方へと、手持ちのエアームドに乗り、向かったのだ。