セッションを終えて次の日。今日はシナリオ解説とクリア報酬を渡すということで、全員リビングに集合だ。昨日のキャラクターシートを広げながら、まずはクリア報酬であるSAN値回復を行うことに。
「今回のエンディングはノーマルエンドだ。ということで、無事に生還した者は1D6のSAN回復。それと食屍鬼を倒した者はその数分1D3の回復だ。最後は……ダイナが生存しているので1D3だな」
「私に、何かあった?」
自分が生きていることがどう関係しているのかと聞くと、それはシナリオの真相を語る時に説明するということなので、とりあえず今は言われた分の数値を回復する。
SAN値報酬
ダイナ 1D6+1D3=5+2=7
初代 1D6+2D3+1D3=6+2+2+2=12
おっさん 1D6+1D3=3+2=5
ネロ 1D6+2D3+1D3=6+1+2+2=11
若 1D6+1D3+1D3=1+1+2=4
バージル 1D6+1D3+1D3=3+3+3=9
最終SAN値
ダイナ SAN51
初代 SAN82
おっさん SAN73
ネロ SAN64
若 SAN59
バージル SAN77
「SAN値、回復しきらなかった」
「俺も地味に減った……」
恐ろしい勢いで削られたダイナは言うまでもなく赤字。意外とSANチェックを回避していた印象のある若も、本当に微々たるものだが赤字という結果で終わった。そんな二人にこの遊びはSAN値がどんどん減っていくものだから大丈夫だと二代目が声をかけるが、周りの四人を見ているとどうも腑に落ちない。
「初代のSAN値が80超えたぞ」
「耐久お化けの称号だけに留まらず、精神お化けにまでなったか」
「いや、バージルとおっさんも十分おかしいからな」
「ネロも盛大に減ったくせに黒字とか、どうなってんだよ」
唯一発狂したネロも黒字とはこれ如何に。そんなにポンポン増えるものではないはずなのだが、これもダイスのお導きなのだろう。他にも言いたいことは山ほどあると思うがそこは堪えて、次に技能の成長判定だ。それぞれ二代目に指示を受けたとおりに判定を行っていく。
ダイナ 目星60 五分の一1回
五分の一 1回目26
ダイナ 医学70 五分の一1回 クリティカル1回
クリティカル 1D3=1 医学71
五分の一 1回目78 1D6=1 医学72
ダイナ 組み付き50 五分の一1回
五分の一 1回目31
初代 目星80 五分の一2回 クリティカル1回
クリティカル 1D3=1 目星81
五分の一 1回目67 2回目92 1D6=5 目星86
初代 拳銃60 五分の一3回 クリティカル1回
クリティカル1D3=2 拳銃62
五分の一 1回目79 1D6=5 2回目13 3回目79 1D6=2 拳銃69
おっさん 応急手当30 初期値 五分の一1回 クリティカル1回
初期値 1D10=4 応急手当34
クリティカル 1D3=1 応急手当35
五分の一 1回目02
ネロ 目星75 五分の一1回 クリティカル1回
クリティカル 1D3=3 目星78
五分の一 1回目62
ネロ こぶし50 初期値で成功
初期値 1D10=5 こぶし55
若 目星25 初期値で成功 五分の一1回 クリティカル1回
初期値 1D10=5 目星30
クリティカル 1D3=1 目星31
五分の一 1回目22
若 図書館27 初期値で成功
初期値 1D10=2 図書館29
バージル 日本刀80 五分の一1回 クリティカル1回
クリティカル 1D3=3 日本刀83
五分の一 1回目86 1D6=1 日本刀84
バージル 言語(アラビア)71 五分の一1回
五分の一 1回目49
二代目 目星60 五分の一1回
五分の一 1回目73 1D6=1 目星61
こんな時までクリティカルを出している誰かはさておき、武器持ちがさらに殺意を高めているのが異常すぎる。そして相変わらず彼女の出目は偏っているようで、成長すらろくにしないという結果に。ダイスの女神様に嫌われすぎだとしか言う他ない。
とにかく今のでシナリオクリアの報酬は全てだということで、今度はシナリオのネタばらし。
今回のオリジナルシナリオ『永遠への妄執』は、美しくあり続けることへの異常な執念を持った女、マリアンが一連の事件を起こしていた。
家族であると同時に、女のライバルでもあった妹の交通事故を境に歪んだ思考を持つようになったマリアン。そんな彼女はある日、ヨランダと名乗る常識を覆したような少女と出会う。少女の美しさに惚れ、言われるがままに少女が信仰しているという教団の信者になると、再び夢の中でヨランダと出会うことになり、その時に願いを叶えてもらう。
不老となったマリアンは大層喜んだものの、長い時間を生きるうちに、自分よりも美しい女性が許せなくなっていく。あくまでも“老いない”だけの身体では、元から自分よりも美しく生まれた女性には勝てないという劣等感がさらにマリアンをおかしくしていった。そうして異常ともいえる彼女の思考はついに行きつくところまで行きつき、自分よりも美しい女性を醜い生物で殺したいという常人には理解できないものになっていた。
この欲求を満たすためにマリアンは方々を駆け回り『屍食教典儀』という魔道書を手に入れる。これを読み解き《食屍鬼の創造》を覚えたマリアンは、20年前の1980年1月25日にデュマーリアニマルクリニックから犬を2匹盗み出し、食屍鬼を作り出すための材料として使用する。
生み出した食屍鬼を操り、自分よりも美しい女性を襲わせていたのだが、この時はうまく呪文を制御できず、3日も持たずして食屍鬼は朽ち果ててしまった。また、とある獣医師に顔を見られたこともあり、一度この街から離れた。
そして20年の月日を経て《食屍鬼の創造》を完璧なものにしたマリアンは再びこの街へと戻ってきて、前と同じように事件を起こした。また、新たに『太古の恐怖』という魔道書を手に入れたマリアンはこれを用いて、再びヨランダに会おうとしていた。
「これが真相だ。……まあ、彼女の日記を読んだ時点で何となく分かってはいただろうが、こういった経緯もあってマリアンは美しい女性……データ的な話をするならAPP15を超える女性を食屍鬼に襲わせていた。今回はダイナがAPP15を超えたので、一番危険な立ち位置だった。それと同時に重要人物になったので、生存したらSAN値回復できるように配慮した」
「女だから狙われているのは、何となく。美人だったことも、条件だったんだ」
「良く思いつくよな、そういうの。……で、ヨランダってのは結局何者なんだ?」
最後の終わり方が後味の悪さを残しているため、ネロはそのこととヨランダという人物のことが気になっているようだ。
「魔道書を使わないと会えないような奴など、食屍鬼と同レベルの何かに決まっている」
「否定はしないでおこう。今回はあくまでもノーマルエンドだったから、ああいった後味の悪い終わり方になった。トゥルーエンドにするにはバージルが手に入れた魔道書が鍵を握っていた」
だろうなと言った様子のバージル。解読しても良かったと言えばよかったのだが、重傷者が多く出ていたということでやめておいたそうだ。確かに、あの場面で食屍鬼よりも性質の悪い何かがこんにちはしてきた場合、本当に死にかねない。
「気になると言えば教会前の少女もどうなったんだ? ……あれがそのヨランダとかいう女だったりしてな」
冗談交じりに初代が笑い飛ばしていると、二代目が真顔になる。つまりは図星だったわけで。
「……あの時の第六感は温情だったか」
「顔に出してしまったのは失態だった。……いい機会だ、あの時どんな処理をしていたかなどの種明かしもしていこうか」
そういって昨日セッション中に二代目が書き止めた数十枚に及ぶメモを引っ張り出しながら、一つ一つ丁寧に解説を始めてくれるのだった。……が、その前に。
「今回のクリティカル総数とファンブル総数を発表しよう。俺が振ったシークレットも含めて」
最後まで猛威を振るい続けたクリティカルとファンブル。一体どれほど出たのだろうか。
ダイナ クリティカル2 ファンブル1 ダイス(1D100のみ)総数33 クリファン率1/11
初代 クリティカル3 ファンブル1 ダイス(1D100のみ)総数37 クリファン率1/9
おっさん クリティカル1 ファンブル1 ダイス(1D100のみ)総数19 クリファン率1/10
ネロ クリティカル1 ファンブル1 ダイス(1D100のみ)総数25 クリファン率1/13
若 クリティカル2 ファンブル5 ダイス(1D100のみ)総数33 クリファン率1/5
バージル クリティカル3 ファンブル1 ダイス(1D100のみ)総数32 クリファン率1/8
KP クリティカル4 ファンブル3 ダイス(1D100のみ)総数51 クリファン率1/8
結果を言うなら、ダイス目がひどかったダイナはクリファンに関してはごくごく普通な感じ。おっさんとネロもそこそこに安定している。バージルはクリティカル数は多いもののSANチェック時のものばかりなので、あまり恩恵がなかった。初代は3回中2回が1クリというえげつなさを誇っているので相当に運がいい。
「真の問題児は若と……意外にも二代目だったか……」
KPをしていた二代目自体はNPCの数が多かったため、ダイスを振る回数が多かったというのも原因としてはあるが、それでも8回に1回のペースでクリティカル及びファンブルをしているのだから、ひどい有様だ。……若? 彼にはファンブラーの称号をプレゼントしよう。
「俺の判定回数が少ないのは、ラストバトルで早々におねんねしちまったからだろうな」
一発目に見事ファンブルを出した後は意外にも安定したダイス目で負担をかけず、最後の戦闘中には意識を失うことで判定をすべてすっ飛ばしたおっさんこそが二代目の味方だったのかもしれない。彼が倒れたことで死人が出る確率が跳ね上がったので、別の胃痛要因になっていたわけでもあるが。
それはさておき、実際のところは若も探索の時は何もしていないが、戦闘時の判定で劇的に回数が増加している。結果、ファンブラーの称号を手に入れることが出来たというわけだ。
「よくよく考えれば、俺らに運頼みな遊びを持ちかけたらどうなるかってのは、安易に想像がつくものだと思うけどな」
一体何をどうしたらそこまで負け越すことが出来るのかが不思議なぐらい、ダンテーズは運がない。特に女の。だが一つ弁明するなら、TRPGは決して運頼みの遊びではない。サイコロを振って出した目を進み、決められた出来事が起こる人生ゲームなどとは違い、例え失敗したとしても機転を利かせれば別の形で情報を手に入れることが可能だからだ。
「出目の話はこれぐらいでいいだろう。……さて、シナリオを進めていた時に気になったところはあったか」
「気になったといえば、一番最初のシークレットダイス。あれは何だったんだ」
若が覗こうとして失敗に終わった初めてのシークレットダイス。あれは二代目院長が“初代がダイナを口説いていることに気づくか”という<アイデア>判定を行っていたという。結果は成功したので、そっと初代に協力してやろうと考えてくれるようになったそうだ。話の展開上、そういった流れには持っていけなかったので、そこまで意味はなさなかったらしい。
「導入時の<聞き耳>は成功していたらどうなっていた」
次に質問をしたのはバージル。確かあの時は<聞き耳>に失敗し、死体を見つけてSANチェックをする羽目になっていた。もし成功していたら避けられていたのだろうか?
「ああ、あそこは失敗した方がSAN減少が少ないんだ。成功していたらもう少し値が増えていた。その代わり、死ぬ女性が美人であるという情報が追加される手筈になっていたが、あの時点ではその情報を手に入れてもそこまで気には止めんだろう」
「成功がいい方向に転ぶとは限らないのが、この遊びのいやらしいところだよな」
成功しないほうが良いとされる判定と言えば、一度に大きくSANを減少させたときに入る<アイデア>がもっともいい例だろうか。閃いてしまった結果、ネロは一時的狂気に陥ってしまった。
「気になるところと言えば、デュマーリアニマルクリニック前での聞き込みは成功したら何が出る予定だったんだ?」
三人とも失敗し、挙句の果てにおっさんはファンブルという大惨事を起こしたクリニック前の<目星>判定。
実を言うとあそこで得られる情報としては何もなかったので、結果だけで言えば不幸中の幸いだったというやつになる。が、導入が終わって今から本番と気合を入れた直後にあんな結果を見せられては、この先不安になるのは普通の心理だろう。
「俺が気になるって言ったら、温情をかけてもらった美少女の<アイデア>だな。失敗していたら第六感が働かずに声をかけていたんだろうが……」
「声をかけていたら宗教に勧誘されていた。……初代、お前だったら断るか? それとも子供の遊びだと思って勧誘に乗っていたか?」
「宗教だあ……? 生憎、神様なんてものは信じちゃいないんでね。断る」
「だろうな。その時点で即死は逃れるが……それから3日間にかけて夢を見るようになっていた」
即死という単語が飛び出したことで穏やかではないことは安易に察せられる。そして断った後に見ると言われたその夢も、大概なものであるという予想もつく。
「夢を見るようになって……最後はどうなっちまうんだ」
「最後の判定次第だが、条件を満たせば晴れてお亡くなりだ。因みに死因は自殺することになるから、自殺の内容ぐらいは決めさせてやるつもりだった」
「悪夢かよ……。本当に首の皮一枚のところで繋がったんだな」
もちろん解決する手立ても用意はされているが、それも確定したものではなかったので二代目としても出来るだけ関わらないようにさせてあげたかったようだ。その結果としてリアルの方でヤバイ気配が駄々漏れになるというのは、若干やりすぎなところがあるのも否めないが……まあ、終わったことは言っても仕方ない。
「……自殺って、最初の被害にあった女性の母親の死因と同じ」
死に方を聞いて思い出したことをダイナが伝えると、二代目がその通りだと答えてくれた。最後のフォルトゥナ教信者たちが大量に自殺した理由もそこにある。
フォルトゥナ教の信者たちは教会前に佇む少女に声をかけた。もちろん善意で。だが返ってきたのは宗教勧誘。もちろん既に信仰している対象がいるのだから、信者たちはお断りしただろう。そして夢を見るようになり……後は先ほど初代に説明された通りのことが起こったというわけだ。
「だからあんな終わり方だったのか……」
後味の悪さに納得したネロ。もう少しうまく立ち回れたらよかったのかと、ちょっぴり残念そうだ。
「それの打開策が最後の魔道書だった、というわけか。無用の長物と化したが」
手に入れても使う用途が分からなかったとバージルが口にすれば、確かにシナリオが甘かった部分もあると二代目が苦い顔をしている。神話生物が危険なのは百も承知なのだから、きちんと考慮したうえで絡めるべきだったと。
「俺が気になってるのは、最後の戦闘で急に攻撃対象を変更したことだな。理由が良く分からなくて」
犯人である女が何かを口走った後から待機していた食屍鬼が動き出したのは理解できるが、突然ダイナ以外も狙いだしたのは最後まで良く分からなかった。ただ単純にランダムになっただけだったのだろうか。
「ああ、ヨランダを招来出来なかったマリアンはあの時点で正気を失っていた。だから“美しい女性”が許せないという思想がさらに歪んでいき、最後は“美しい者”自体が許容できなくなってしまったんだ。だからあのタイミングからは攻撃対象がAPP15を超える女性から、APP15を超える人物へと対象範囲が広がったんだ」
「人間を止めちまったような奴の思考回路なんて理解しようとするだけ無駄だし、そういうもんか」
よくそんなの思いつくな、と若は感心している。確かにこのシナリオを一人で練り上げた二代目の行動力にはあっぱれだ。他の奴らは早々に根をあげるか、そもそもこの手の遊びをしようなどと言い出すこともなかっただろう。
「目的は最初にも言ったが、あくまでもお前たちの絆を試したかった。無論、楽しんでもらえればなお良しだ」
「だったら、十分に果たせたんじゃないか?」
シナリオを通して彼らは十分に協力し、互いに足りないものを補いあっていた。真剣に取り組みながら、それが楽しくもあった。今回の企画は大成功と言っていいものであるはずだ。
「……そうだな、俺も楽しかった。またやろう」
「今度も暴れられる感じので頼むぜ!」
「魔道書をじっくりと調べられる内容にしろ」
「俺は平和なのがいいな……」
「エボニー&アイボリーに頼らなくて済むように立ち回りたいところだな」
「またダイナを庇えるようなシナリオを期待してるぜ」
「ダイスを振らずに情報を取れるよう、RPを頑張りたい」
次回への姿勢は協調性のないものだが、それも彼ららしい。また次回、CoCのセッションが出来る日を楽しみに、今日もにぎやかに過ごすのだった。