Prologue

 昨日と同じ今日。今日と同じ明日。
 世界は繰り返し時を刻み、変わらないように見えた。
 ──だが、世界は既に変貌していた。

 約二十年ほど前から突如として増えた奇怪な事件。原因不明の発火や爆発、殺人にテロと言った事件の急増に、各国政府は頭を悩ませていた。
 一体何が起こったのか? それは自然の摂理に反逆するモノと名付けられた“レネゲイドウィルス”が世界に解き放たれたのが原因だった。
 既に人類の約八割はレネゲイドウィルスに感染していると推測され、ほとんどの人が何かをきっかけに人を超えた者、オーヴァードへと変貌する可能性をその内に宿している。そしてレネゲイドウィルスの侵蝕に負け、人間としての理性を失ってしまったオーヴァードはジャームと呼ばれるようになり、このジャームこそが奇怪な事件を起こしているという現実がそこにあった。
 そんな、人智では到底解決できないとも思える事件に立ち向かう者たちがいる。Universal Guardian’s network(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)──通称UGN──と呼ばれる組織で、多くの人々に知られることなく活動していた。
 その正体はオーヴァードと人間の共存を掲げる、オーヴァードたちで構成されたレネゲイド事件を専門として扱う組織。共存を掲げているが故に今はまだレネゲイドという存在を世界に公開するべきではないという思考の下、人々にその真実を隠して活動している。
 しかし、UGNの活動を良く思っていない組織もまた、存在する。
 Farce Hertz(ファルスハーツ)──通称FH──というオーヴァードで構成されたテロ組織だ。彼らはレネゲイドの真実を明らかにし、オーヴァード優位の社会を作り上げることを標榜としている。そのため世界中のあちこちで構成員が暗躍し、大小さまざまな事件をジャームとは別に起こしている。
 またレネゲイドそのものをより深く知るために非人道的な実験なども行っており、オーヴァード適正のある人間を攫っては覚醒を促したり、ジャームとなった者たちを操って戦力の一部にしていたりと危険な組織である。
 FHはUGNと違い、メンバーごとに目的としている行動理念が異なる場合が多く、根絶することが非常に難しい。そのため、今もどこかで人間には決して起こすことの出来ない事件を起こしているというのが、今のこの世界の真実だ。
 レネゲイドウィルスによって変貌を遂げたことを知りながら、この事実を知らない世界の中に紛れ、それでも生きていくしかないオーヴァードたち。ある者はUGNに所属し、ある者はFH構成員となり、またある者は何にも属さずに日常の裏側を生きている。

 ──オーヴァードは人間か否か。

 この問いに答えられるものは未だ、この世界には存在しない。
 だからこそ悩み、考え、迷い、苦しみ、己で答えを見出すしかないのだ。レネゲイドの世界に足を踏み入れた者として。
 それはUGNもFHも関係ない、オーヴァードとなった者全てが抱える問題であり、日々侵蝕を進めるレネゲイドに理性を喰らい尽されないよう、自我を保ち続けるしかないのだ。
 そんなオーヴァードたちを人たらしめてくれているのは他でもない隣人であるということを忘れることなかれ。

 ────“完全勝利”二代目、事務所設立時にてかく語りき