Professional wrestling Pretend

 柔らかい材質のクッションが一面に敷き詰められた部屋から、何やら騒がしい音が聞こえてくる。かなりガタイのいい男性が部屋の真ん中を陣取り、小柄な女性は肩で息をしながら果敢にも男性に攻めかかっていた。
「次は……こう!」
 助走をつけて男性の前まで走ると、それを捕まえようと男性が腕を伸ばした。女性はこれに合わせるようにスライディングで仁王立ちする男性の股下を抜けて両足を掴み、勢いを使って思い切り引っ張った。
「おっ……と、なかなかやるな」
 立っていられなくなった男性は前面を床に叩きつけられる形とはなったが、幸い両手が空いていたためある程度軽減は出来た様子で平気そうだ。しかし女性の攻めはこれで終わらず、男性が立ち上がるよりも早く体勢を立て直して馬乗りになり、片方の足を掴んでそのまま足を反り返らせて締め上げた。
「これでどう?」
「思った以上に……厳しいな、これは」
 片方逆エビ固めを決められ苦しそうな表情……は一切浮かべていない男性はどう逃げ出そうかと軽い気持ちで考えを巡らせている。一方攻めているはずの女性は相手の足を必死に反り返らせているのだが、元に戻そうとする力に抗い切れず、逆に自分の身体が持っていかれそうになっている。
「っ……ダンテ……! 力、つよっ……!」
「当然だろう? これぐらい出来なきゃダイナを守ってやれない」
 言い切ったのと同時にさらに足へ力を込めれば、足にしがみついているダイナごと面白いように元に戻る。今でも手を放すまいと足にひっついている彼女の愛らしい姿を想像すると自然と口元は緩み、もっと意地悪をしてやりたくなる。
「ダイナ、放してくれ。じゃないと立ち上がれない」
「ダンテがギブアップするなら」
「ギブアップ? 俺が?」
 どうしても勝負に勝ちたいらしい彼女の口から出てくる言葉がこれまた愉快で、ダンテはつい鼻で笑う。そして聞き分けのないダイナにお仕置きすることを決めたようで、へばりつく彼女ごと身体を反転させた。
「うっ……そ……!」
 一瞬の浮遊感を感じ、まさかと考えている頃にはもう遅く、今度は自分がダンテの足とクッションに挟まれ身動きが取れなくなってしまった。今更手を放したところで体重をかけられたダンテの足をどけられるわけもなく、そのまま上体を起こしたダンテにがっちりと身体を押さえ付けられてしまう。
「さて、ようやく捕まえたぜ」
 仰向けのダイナに覆いかぶさったダンテは不敵な笑みを浮かべながら彼女の腰に両腕を回す。ここから何をされるのかはまだ分からないが、ろくなことではないと彼女の第六感が危険信号を鳴らす。何とかして拘束から逃れようと彼の胸板を押したり叩いたりするものの効果は無く、恐れているその時がやって来た。
「あ、うっ……いっ……!」
「ほら、さっさとギブアップしないと腰を痛めるぞ」
 行われたのはベアハッグ。本来であれば立位対面した時に掛ける技なのだが、二人の体格差と常人を遥かに超える腕力を持ち合わせたダンテが相手だったことが災いし、相手が座っている状態であるにも関わらず胴回りを抱き込まれ、絞り込むように締め付けられている。
 背骨やら肋骨やらを圧迫され続けた状態にいつまでも耐えられるわけがなく、ダイナのか細いギブアップの声でようやく勝負がつくのだった。
「はっ……ぁ。また、負け……」
「三回も付き合ってやったからな、今度はそっちが付き合う番だ」
 一体彼らは何をしていたのか。それを表現するに相応しい言葉がある。
 “プロレスごっこ”
 これに尽きる。
 言い出したのはもちろんダンテ。だがこれは言葉の意味どおりのプロレスごっこをするために言ったのではない。つまりは隠喩として用いたわけだったのだが、彼女は言葉の意味どおり受け取り、承諾。
 彼自身が使った意味合いで襲おうとした結果、彼女から強烈な関節技をもろに食らい、この時に初めて意味が伝わっていないと理解した時のダンテの心境を語るには優に一時間は超えるだろう。さらに負けず嫌いであった彼女に何度も勝負を挑まれ、今に至る。
「付き合うって……そもそも言い出したのはダンテの方。まあ、意固地になったのは私だということは否定しないけど……」
 今もなお呼吸を乱し、じっとりと汗ばんだダイナの肢体はかれこれ一時間以上お預けを食らっているダンテには酷なもの。もう我慢する必要もないとタガを外し、何も言わずに再び覆いかぶさった。
 予測不能な行動に抵抗できるはずもなく、ダンテの腕の中にすっぽりと収まってしまったダイナは一体何事だと目を丸くした。
「あれはあれで楽しかったが、もっと愉しいことがしたいと思って誘ったんだ。例えば……こんなこととか」
「んぅ!? んっぁ、ふ……あ、んん……!」
 いきなり唇を奪われ、反射的に抵抗しようと首を動かそうとするが逞しい腕に固定された頭を動かせるわけはなく、激しいキスに若干の苦しさと恥ずかしさを覚えながら、ゆっくりと身体から力を抜いて身を委ねる。
「……あんまり力を抜いてると際限なしに食べちまうが、いいのか?」
「ん……は……」
 キスから解放された頃には瞳が潤み、とてもじゃないが声を出せる状態ではなかった。
 彼女が力を抜いたのは求めているというのも否定しないが、抵抗するとダンテが調子付くのを知っているからこそだ。拒まれるとなお燃え上がる体質のダンテに燃料を注ぎ込んだが最後、冗談抜きで丸一日抱かれかねない。とはいえ、抵抗しないとそれはそれで好きなように身体を弄られてしまう。どちらに転んでも一旦火のついたダンテを相手にするのはかなり大変そうだ。
 それでも、嫌だと思うどころかもっとと求めてしまうのは愛がなせる業なのか、それともダンテに仕込まれてしまったが故か……。
 もう一度と目で訴えれば、それを汲み取ったダンテがダイナの唇を指でなぞり、焦らす。何度も何度も、ただなぞられるだけに耐えられなくなったダイナが指を食めばその指は口内に難なく侵入し、彼女の唾液を絡め取りながらいやらしい音を響かせ犯す。
「こんなに音を漏らして、恥ずかしくないのか?」
「あぁ……は。んふっ、ん……ん! ひっ、ぅんん、あんっ!」
 まだ口内しか触れられていないというのにダイナは身体を揺らし、迫る快感を必死に逃がす。感度の高いところは余すところなく熟知されている以上、どこを責められても甘く痺れる感覚に身も心も溶かされながら快楽に流されまいと意識を保つ。
「今日はよく耐えるな。……良い子だ」
「ひゃっ!? んん! んぅぅ……ふっ、あっ!」
 口内を犯されていることに意識がいっていたため、上着のボタンを外されていたことに気付かなかった。露わになっている自己主張の激しい二つの突起にダンテの指が当たれば否が応でも身体は反応する。
 優しく撫でられ、かと思えば指先で弾かれ、指の腹で加減良く潰される。痛みのない心地よさともどかしさを与えらえる胸とは裏腹に、口内は指の抜き差しを繰り返して激しく責め立ててくる。
 巧みに緩急をつけた責めはダイナを素直にするための調教のようで、事実効果は絶大だった。口内から指を引き抜き、胸を触る手を一旦止めれば、内腿をこすり合わせて何かを堪える彼女の完成だ。
「辛そうだな。要望があれば聞いてやるが」
「そん、な……ぁ、いじわ、る……しない、で」
 ここまで来てお預けなんてされたら気が狂ってしまう。一度そう考えてしまったが最後、ダイナの脳内を支配するのは彼との……大好きなダンテとの交わりだけだ。それがどれだけ淫らで下品なことだと言われても、もう彼女には我慢できない。
「俺も一時間以上待たされてダイナに意地悪された後だからな。もう少し、さっきの責めの続きをしようか」
「ご、ごめんなさっ……お願い、もう……我慢、出来ないの……」
 ただでさえ触れてほしいところに触れてもらえず、じわじわと断続的に与えられる優しい波に翻弄されておかしくなりそうだというのに、これ以上お預けをされたら自分でも何を口走ってしまうか分からない。それほどまでにダイナは待ち焦がれていた。
「どうしても、か?」
 耳元で囁くためにわざと密着すれば、ズボン越しからでも分かるほどに濡れそぼった所にダンテの熱くなったモノが押し当てられる。
「う、ぁ……ほし、い……よ。ダンテの……」
 そこまで言いかけて、言葉を飲み込んだ。若干の理性が辛うじて残っているようで、流石に次に口から漏れ出そうとした言葉は恥ずかしい様だ。とはいえそれを求めているのも事実な為、ダイナの表情はダンテを誘うそれだった。
「ここまで求められたら俺も我慢できないな。……しても、いいか?」
「ん、う……ん。お願い……来て……」
 好きな女にここまで求められ、ダンテの気分も最高潮になる。手際よく自身と彼女の肌着を取り去り、ダイナの大切な場所へと自分のモノをあてがう。互いの発する熱で感覚は溶け合い、二人はすぐに繋がりあった。
「随分と……っ、準備がいいな」
「あっ! はっ……! 大き、い……!」
「それに太いだろ?」
 今までにも交わったことはあるが、それでも彼のモノを受け入れるたびに色々と規格外なことを思い知らされる。しかし今日の彼女は一味違うようで、大きさなどもろともせずに最奥部まで咥えこみ、ダンテを包み込んだ。
「ダン、テ……ダンテ……。ごめ、ん……我慢できない、よ……」
「どうやらそうみたいだな。そんなに腰を振って……気持ちいいか?」
 普段であれば自分から動くなんて余裕はなく、いつもダンテの動きに翻弄されそのまま果ててしまうのだが、今日の彼女は積極的だった。これまでと変わらず……いや、それ以上の快感が身体中を巡っているのが分かる。それでも何故か、今日は自ら動いてしまうほどにダイナは淫らになっていた。
 自分のことしか考えられない最低な奴に成り下がっていると頭で理解しながら、心は快楽を求める身体に屈していた。
「あ、ああっ、は……! ダンテが……わる、い、の……! こんなに……あんっ! 焦らす、からぁ……!」
「ああそうだ。なんたって俺は悪魔だからな。だからこうして……っ、ダイナの弱い部分を突いて突いて突きまくって、何度もイカせちまうのさ」
「あっ、あっ! あぅ、ぁ……! はあ、ああん! ひっぃ……も、イッ……!」
 ダンテの責めと自らの腰振りで快感はすぐに頂点へと達し、絶頂をもたらす。ただ悪魔である彼がこの程度で動きを止めてくれるわけもなく、伸縮を繰り返すダイナの中をさらに激しく掻き回した。
「んんっ! あっああ……くぅん……! あっん! ああ、あぁぁ……!」
 身体を仰け反らせながらもダイナはやめてと口にしない。傍から見れば快楽の虜になっているからのようにしか見えないが、唯一繋がっているダンテには何故言わないのかを肌で感じ、嬉しく思いながらダイナの中でさらに暴れる。
「……っは、ダイナ……すまん、そろそろ限界……だ」
「んっ! あっ、来て……! ぜん、ぶ……受け止め……た、い……あっ、ひっ……!」
「ダイナ……!」
「ダンテぇ……!」
 互いに身体を手繰り寄せ、身体の奥深くで相手を感じながらダンテは今日初めての、ダイナは三度目の快感に身悶える。
「たまには……いいな。積極的なダイナっていうのも……」
「うっ、あ……恥ずかし……。忘れ、て……」
 無論忘れてもらえるはずもなく、度々こうしたプレイを求められるようになってしまったダイナだが、彼女自身もまんざらではない様子を見るに、すっかりダンテに調教されてしまったようだ。