アーヴェンヘイム

 レダの家から出たアンジュは、歩き出す彼の後ろをついていく。
「さて、世界で唯一の図書館であるアーヴェンヘイムについて、アンジュはどれだけのことを知っているか教えてくれるかな?」
「あっと……。アーヴェンヘイムには世界中の本が集められます。図書館の建っている山の手からはもちろんのこと、秩序が失われた水の辺からも、本だけはきちんと回収されていると」
「うん。他には何か」
 ここは是非とも知っている限りのことを披露してレダに好感触を与えたいところだ。しかし、アンジュにはそれが出来なかった。
「他のこと……いえ、すみません。そのことしか……」
 うんうんと頷いたレダは特に失望しているような感じはなく、むしろ安堵していた。そしてエレベーターのボタンを押して、立ち止まった。
「アーヴェンヘイムについて一般に公開されている情報はそれだけだから、十分だよ。他のことは全て司書たちしか知らない機密事項ばかりだ。だから、知ってると言われると私としては困った事態なわけだ」
 情報漏えいが起きているのと同義だとレダは苦笑いした後、到着したエレベーターにアンジュを先に乗るよう促し、すぐに自分も乗って目的の階層のボタンを押した。
「まず、アーヴェンヘイムは今もなお成長を続ける図書館だ」
 レダの言葉の意味がよく分からず、アンジュは黙っていた。
「分からないって顔をしているね。でも安心して。その原理については私もいまだに理解出来ていないから」
 理解出来ないことは良いことではないが、レダにすら分からないことが今の自分に到底理解出来るはずもないことなのだと思え、ホッとした。
「この図書館がいつ頃から建っているのか? そもそも誰が建てたのか? これも不明だ。ただ事実として残っていることは、図書館はここにあること。そして本は全てここに集められるよう人々の意識に擦りこまれ、本を管理して良いのは定められた基準を満たした司書だけ」
 そして今は、司書として認められたという判断をしているのがこの私だとレダは言って、さらに続けた。
「人は今も誰かが新たな生を受けて、同時に誰かが本になっている。これは人という種族が絶滅しない限り、永遠と繰り返され続ける輪廻だ。では無限とも呼ぶべき数の本が生まれ続けたら、図書館はどうなる?」
「……いつの日か、本が入らなくなる?」
「そのとおり。図書館という場所が有限であったならいつかは本で埋まり、新たな本を迎えることが出来なくなる。だからなんだろうね。この図書館を創ったのが誰かは分からないが、今の我々では再現することはおろか、理解すら到底及ばない技術を用い、自らの意志で空へと階層を伸ばし続ける図書館を何者かが創り上げた」
 これがアーヴェンヘイムにおける永遠にして最大の謎だとレダはかぶりを振った。

 エレベーターが目的の階層に着き、扉が開く。レダに促されるままアンジュが先に出て、続いて出てきたレダは迷うことなく足を進めていく。
「原理はともかく、定期的に階層が増え続けているわけだけど、構造は一階からすべて同じで六角形の閲覧室の積み重ねで成っている。中央には司書がその階層で業務を行うためのカウンターと、利用者が返却するボックス。後は四つのエレベーターがあって、どれもが全ての階層に止まる仕様だ」
 図書館内で一度手に取った本はどんな理由があっても自分で戻すことは禁じられている。理由は知識のないものに本棚へ戻されると、正しい位置に収められないことが多いからだ。だから利用客たちは一度手に取った本は次の階層に移動する、または帰る前にその階層にある返却ボックスに本を入れる決まりになっている。
 もちろん、これらを元の場所に返すのが司書の仕事の一つだ。
 エレベーターから降りて渡り廊下を通ればすぐに本棚と対面できるようになっていて、本は六角形の壁に沿ってつけられている本棚に、決められたとおりの法則に従って整頓されている。
 上下左右、どこを見ても綺麗に並べられている本に包まれているこの感覚がアンジュにはたまらない。そして整然と並べられた本棚を、次は自分が作り上げていくのだと思うと気分が勝手に高まっていく。
「それで、三の倍数となる階層には六角形の内一か所だけ扉の付いた、人の住める部屋が出来る。これを我々は個人の家。つまりは社宅として利用している」
 確かにレダの言うとおり、アンジュが利用客の一人として図書館に毎日来ていた時も、上の階へ行くたびに何度も関係者以外立ち入り禁止の札が掛けられた扉を見たことがある。言われるまで何層ごとにあるかなんてことまでは気にしたこともなかったが、まさか扉の奥には部屋があって人が住んでいるとは考えてもみなかった。
「現在この図書館で働いてくれている司書の数は私を含め、アンジュで72人目。そしてみんな、上の階層に登るのは大変なので近場の部屋を選ぶ」
 別にそこに関しては規律はないんだけどと付け加えてレダは笑う。ただアンジュにとってはそんなことより、自分を含めて司書が72人しかいないことに絶句した。
 図書館は今も成長を続けていて、3年前の自分が好奇心だけで行ってみた最上階が確か――千階はくだらなかったはずだ。それをたった71人で管理していたなんて……。
「というわけで一番近くても200階は超えちゃうんだけど、こればかりはごめんしてね」
 それでも実家から通うよりは間違いなく近いからとレダは慌てて言葉を足しながら、どうにかアンジュの気を引き止めようとしている。契約を交わした後で今になって辞めますなんてアンジュとしても言いだすつもりはないが、やはりレダとしてはそこら辺を気にしているようだ。
「私は大丈夫です。自分だけ遠い部屋というのもあれなので、空いている階に案内してもらえると嬉しいです」
「ああ、よかった。きっとそう言うと思って最初から213階に来てるんだ」
 213階と聞いて、アンジュははたと止まる。
 3階はレダの部屋で、そこから順に先輩たちが使っているのなら72番目の自分は216階のはず。どういうことだろうか。
「1人、足りないように感じるのですが……」
「ああ。一人だけちょっと特別な業務についている人がいてね。彼は666階にある危険書庫管理室という、彼を除いて私の許可なしで立ち入ることは司書であっても許していない部屋にいるんだ」
 聞いたこともなければ見たこともない管理室があるということにも驚いたが、その管理室の話をした時のレダの顔が今までに一度として見せたことのない険しい表情をしていたことに、アンジュは心を乱した。
「さ、着いたよ。一応自分の目で見てこれでいいか、確認を取ってきてくれるかな? 私はここで待っているから」
 女性の部屋に入るなんて真似はしないと笑うレダの顔は元に戻っていて、先ほど見せた暗い顔……いや、恐怖に歪んだような表情は見る影もなかった。
「それと、足りないものがあったら遠慮なく言ってね。出来るだけ早く用意するから」

 アンジュはレダから渡された鍵を使い、言われたとおりに扉を開けて中に入った。
 早速、玄関で靴を脱いで上がってみると、外からでは想像できないほどの広い空間がアンジュを包みこんだ。
 広さとしては1LDKほどで、一人暮らしするなら十分過ぎるほど。キッチンはもちろんのこと、ダイニングテーブルも既に置かれていて、リビングも今すぐにくつろげる程度の家具が揃えられている。今すぐ住めと言われても二つ返事出来るだろう。
 あまりの待遇の良さにドキドキしながらアンジュが家を後にすると、ご機嫌なレダと目が合った。
「どうだった? 家具が気にいらないなら取り替えられるから、遠慮しないで」
「いえ! 私が想像していた以上に広くて、しっかりしてて! 本当に私が住んでもいいのかなって……」
「もちろんだよ。壊さない程度になら本当、好きに飾りものとかもしてもらって構わないから。防音もしっかりしてるから、好きなだけ歌ってもらっても誰にもばれないし」
 茶目っ気たっぷりに空気マイクを持って歌う振りをするレダの仕草にアンジュは必死に笑いを堪えながら、もう一度この部屋で大丈夫だと伝えた。
「ま、生活してたら時期にこれがほしいなーって思う時が来るだろうから、その時になったらだね。……さてと、部屋も決まったことだし、後は図書館内をぐるっと回りながらもう少しだけデートと洒落こもうか」
「えっ、デート!?」
「おっと、そういう冗談は嫌いだった? ごめんごめん、勉強会のこと」
 突然のことでびっくりしてしまったアンジュが声を荒げたため、レダは慌てて謝罪した。これには少し罪悪感を覚えたアンジュであったが、何故自分が罪悪感を覚えたのかを考えようとして、すぐに辞めて勉強会に集中することにした。
「さてと、残る話は……司書の階級と本の種類についてだ」
 どこか行くあてがあるのか、レダが階段を上りだしたのでアンジュも後を追って階段を上っていく。
 まず司書の階級からとレダは言って、説明を始める。
 最初、自分の家に来てもらった時に少し言葉にしたロードという単語を覚えているかとアンジュに聞く。これにアンジュは覚えていますと返すとレダは微笑み、続きを話していく。
 司書には階級が設けられていて、ロードから順にデューク、マーキス、カウント、バイカウント、バロンと割り振られている。
 君主の意味を持つロードとはもちろんレダのことで、彼以外にこの階級に分けられている人物はいない。
 それからは大体が年功序列で割り振られているが、もちろんそれらは実力があることを前提とされていて、司書になって一年であっても類稀なる実力を発揮すればマーキスやデュークといった階級につくこともある。
「とは言っても、この階級で何が変わるかと言われるとお給金ぐらいなんだけど。みんな自分の階級をひけらかすような子たちじゃないし、良くも悪くも距離感が近いから、デュークだろうとバロンだろうと仲良くやってるよ」
 それに、普段の仕事が忙し過ぎて司書同士でいがみ合ってるような時間なんてないに等しいとレダは笑った後、本当に申し訳ないとため息を漏らしていた。
「まあ、司書の階級はそんなに気にしてもらわなくていいよ。仕事振りを見てこっそり私が階級を上げて、次のお給金の時に驚かせようっていう理由で作ったものだし」
 何とも緩い理由で作られたことにアンジュは苦笑いをしながら、次の話に耳を傾けた。
「いやはや、長かったようで短かったな。もう最後の話だ。これは司書として仕事をするうえですごく重要な話だから、決して忘れないで」
 今までの緩い感じは一瞬にして消え、レダから漂ってくる気配が真剣なものへと変わったことを肌で感じ、アンジュは大きく頷いた。

「まず、アンジュはどんなものを本として認識している?」
「……え? 本として、認識しているもの?」
 図書館が成長していると聞いた時と同じ感覚に陥ったアンジュはどう答えたらいいのか分からず、情けなくも目の前の本棚に並べられている本たちを指さすことしか出来なかった。
「うん、正解。でも、あれらはただ並べられているわけじゃない。本と呼ばれるものにはきちんとした定義が設けられている。その定義を満たしているかを司書、つまり我々が選定してこの図書館に収めているんだ」
 適当な階まで上ってきたレダが壁際まで行って、一冊の本を手に取る。そしてアンジュにも表紙が見えるように手に持っている本の高さを降ろす。
「一般人、ひいては我々ですら何気なく使っている〝本”という言葉だけど、これらは明確に四つに区別されている」
 唯一の本、共通の本、無価値な本、紙束。
 これはレダがアーヴェンヘイムのロードになるよりも前、つまりはこの図書館が出来上がったとされる時から存在している定義だと説明しながら、レダはさらに続けた。
「この四つの内、正式に〝本”として認められるのは唯一の本と共通の本。その中でもよく使われる〝本”という言葉が指しているのは共通の本のことだ。今私が手に持っているのも、この図書館内で一般の人が閲覧して良いとされているものも全て、正式名称は共通の本だ」
 山の手に住んでいる人間が目の当たりにする本と言えば、ほぼ全てが図書館の中にあるものだ。もしそれ以外で見る機会があるとすれば、それは家族の誰かが亡くなるか、事故にあって本となってしまったものが届けられるぐらいしかない。それも結局はすぐに図書館へと届け出るため、やはり図書館以外の場所で本を見る機会はないに等しい。
 逆に、水の辺にはそこら中に本が転がっていると噂されている。実際に行ったこともなければ見たこともないアンジュにとっては一生知る由のないことだが、そういった噂は水の辺ではよくあることだ。
「えっと、本には価値の高い、低いがあって、それに応じて本を届け出た人に見合ったお金を送り返しますよね。その階級で共通の本、あるいは唯一の本と認められたものだけが図書館にあるってことでいいのでしょうか?」
「うーん、それは不正解。さっきも言ったけど、ここにあるのは全て共通の本だけで、唯一の本は一冊としてない。……まず、ここを見てみて」
 言われたとおり、レダが指さしている所に目を向けてみる。それは共通の本の表紙に書かれているタイトル部分で、名前は論理回路。
「これから私の言う本というのは全て、共通の本のことだと思ってね。アンジュはよく図書館に来ていて、たくさんの本を読んでいるから覚えていると思うけど、本の表紙はどれも同じだ。違うのはタイトルの名前と、その名前を囲っているちょっとした模様。そして模様のどこかに埋め込まれている、小さな宝石」
「……あっ。何か綺麗な石が埋まってる」
 レダの指さすところには確かにキラキラと光る小さな石がはまっている。今まで本の表紙なんていうのはタイトルを見てどういった内容のことが書かれているのかを知る手掛かりとしてしか見てこなかったから、この発見は新鮮だった。
「我々はこの光る石のことを宝石と呼んでいる。もちろんこれも極秘事項。一般の人は知りもしないことだ」
 あるいは気付いている人物がいたとしても、この宝石は一体どのようにして埋め込まれているのか、それを知る術は無い。
「共通の本は、人が死んで出来上がった知識と知恵の詰まった特異なものも住み着かなかった本である。これが定義だ。そしてそれを裏付けるのが、こういった宝石たちがついているもののこと」
 人が死んで出来上がった本には必ず表紙タイトルを囲むように出来ている模様のどこかに宝石が入っていて、これを判別するのが司書の主な仕事だとレダは言う。
「次に、無価値な本と呼ばれるもの。これらは元々共通の本だったもののことだ。何かしらの要因で宝石が抜かれてしまった共通の本は無価値な本となり、その名の通り本としての価値を失う」
 共通の本から取り除かれた宝石はその時点で輝きを失い、ただの石ころに変わる。その為、共通の本から宝石を引き抜き、無価値な本、または紙束に埋め込んで共通の本に偽装するといった技術は今現在も確立されていない。
 さらにこの世界には共通の本の表紙タイトルに埋め込まれている宝石以外に宝石というものも存在していないため、自作することも不可能となっている。
「そして人が書いたものに関しては全て紙束と呼ばれ、本の形状をしている、いないに関わらず無価値な本にも値しないものとして人々から注目されることはない。しかし、共通の本と見分けの付け方を知らない人も多く、毎日のようにこの紙束が本と誤認されて図書館に運ばれ、司書の手によって焼却処分されている」
 何故紙束が作られるのかというと、共通の本に偽装して金儲けをしようとする人間がいたり、本を読んで自分の知識と知恵を使いたいという欲を満たすために人間が物語を綴るからであるとされていて、これらの処理も相当に大変な仕事であるとレダは言った。

「私、全然知りませんでした。一定枚数の紙が一方の端を綴じられた状態になっているものであれば、なんでも本だと……」
「本を正しく理解している者はこの世界では少ない。そしてアンジュは今、本のことを正しく知った」
 これから司書としての働きに期待しているとレダは微笑みながら、手に持っている本を戻した。
 利用客であれば絶対に許されない行為も、司書であれば許されるという事実を目の当たりにした瞬間だった。もちろんこれはレダが正しい場所に本を戻せるからこそ許されているわけだが、やはりアンジュにとっては新鮮に感じた。
「ちなみに、本の質が高い、低いに関して呼び名が変わることはないよ。人が死んで出来上がった知識と知恵の詰まった特異なものも住み着かなかった本であれば、それらは一律として共通の本だ」
 この質の高さというものを判断するのが、司書の仕事でもっとも難しいことであるんだけどとレダは困った顔をしながら一つ息を吐いて、意を決したように残りの説明を始めた。
「そして唯一の本とは、共通の本の中に〝フォールン”が住み着いている本のことを指す。これらは全て、図書館内に設けられた危険書庫管理室と呼ばれる場所に保管している」
 フォールンという、聞いたことのない単語にどう反応したら良いのかアンジュには分からない。それでも一つ分かったことは、この単語を口にした時のレダの顔は恐怖に歪んでいて、苦悩に満ちていたことだけ。
 人が苦しみ、怯えている。
 それが何故か、アンジュにとっては甘美なものに見えた――気がした。

「その……フォールン、というのは?」
「正直、フォールンについて知っていることはあまりない。どのようにして本の中に住み着き、何故存在しているのか。全てが謎に包まれたままだ」
 それでも、少ないながらに分かっていることもある。
 まず、それぞれが全て別個体であり、各々に独自性の能力を持ち合わせていること。そして唯一の本の中から時折飛び出し、災害をもたらすこと。
 もう一つは、人が死んで共通の本となった時に低い確率でフォールンが住み着いていることがあること。見分け方は簡単で、フォールンが住み着いたものは全て絵本と呼ばれる、絵を中心として物語が進んでいくものであり、これにもきちんとタイトル名付近の模様に宝石が埋め込まれている。
 後は、どのような人物が死んだとしても全てに等しく唯一の本になる可能性が秘められていること。それと、唯一の本が共通の本や無価値な本に戻ることがないこと。共通の本や無価値な本、さらには紙束が唯一の本に変容することもないこと。
「本から、飛び出してくるんですか? そして災害をもたらすって……」
「全くもって迷惑な連中だろう? 唯一の本は極稀にだが光出すことがある。この状態を一時間ほど放置すると、その本に住んでいるフォールンが本の中から現れる。そして、それぞれが持っている能力を現実世界で振るうんだ」
 そこまで話したレダはかぶりを振って、話すことをやめてしまった。そして頼りない足取りでエレベーターへと向かって行くレダに、アンジュはただついて行くことしか出来なかった。
「……フォールンについてはその、良い思い出がなくてね。だけど、今は安心してくれていい。危険で凶悪なフォールンたちは確かにとてつもない脅威だが、対抗は出来ている」
 ただしこれも、私が出来ているわけではないと弱々しく話すレダに、アンジュはどうにも心が痛む感覚を覚えた。
 レダの力になりたいと、素直なアンジュはそう感じていたから。
「まあ、滅多にお目にかかれる代物でもないことが救いではあるかな。10年の間に一冊見つかるかどうかといった具合だから、そんなに不安がらないで。そしてもしも選定の時に絵本を、つまり唯一の本を見つけたらすぐ私に連絡をして。後は私と……彼で対応するから」
 結局この日は、最後までレダが濁している彼というのが誰のことなのかをアンジュが知ることはなかった。
 そしてフォールンのことについては司書たちの間でもタブーとされているから、あまり話題に出さないようにと念を押され、今日の業務は終了した。
 次の日からアンジュは一人の先輩司書の元について仕事を覚える日々が始まった。
 これがとにかく覚えることが山のようにあり、レダがあれだけ過酷だと言い続ける理由がよく分かるほどだ。正直言って根を上げそうになった日もあるが、それでもアンジュは踏ん張って仕事を一日でも早く覚えられるよう、必死に頑張った。