Accident came over

「まずは初代から導入を始めたいと思うが、希望はあるか?」
「何したらいいか分かってないからお任せだ」
 そもそもどんな風に始まるのかも分からないため、どんな意見を出せばいいのか分からないというのが本音。他の者たちもとりあえず初代を犠牲に、シナリオの流れを確認するつもりだ。
 初っ端から取って食ったりはしないと考えていたが、馴染みのない事をしようと言い出したのは自分だったことを思い出し、こういった反応になるのも致し方ないかと少し寂しそうな二代目。ただ、そういった素振りを感じさせないため、誰に何を言われることもなく、静かにシナリオが幕を開けた。

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 2000年6月9日午前8時。某国ジャックポット州にあるアラストル警察署に勤める初代が今日も出勤する。
 このところ大きな事件はなく、こんなことを言っては不謹慎だが刺激の足りない日々を過ごしていた。そんなことを考えていると、彼のデスクの上に置かれている電話が音を鳴らす。

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「さて初代。電話だが、取るか?」
「取るかどうかから決めていいのか? てか、アラストル警察署って……電気纏ってそうだな」
 ジャックポット州と言った時点から若干のざわつきがあったのだが、アラストル警察署と来て全員が、ああ……そういう名称で行くんだと察したのだった。
「正直言うならば出勤するかどうかから選んでも良かったんだが、行かないと言われると少し困るのでな」
「自由なんだな。……とりあえず出る」
「ならRPを頼もう」
「キャラを演じればいいんだったな。いつもの自分だが」
 TRPGをするうえで慣れるまで大変なこと。それはルールを覚えることも確かだが、何より“キャラを演じる”ということが難しい。演技を仕事としている人間ならばともかく、一般人が別の人間になりきるというのはなかなかに恥ずかしい。ということで今回は二代目のアドバイスよろしく、全員が自分と似通った思考を持つPCを制作した。……というか、名前もそのままなので本人そのものと言ってもいいぐらいだが。
 とにかくやってみろと言われ、初代のPCが受話器を取るところからRPが始まった。

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「アラストル警察署だ」
「その声……初代か? デュマーリアニマルクリニックの主医を務めている、二代目だ」
「二代目……? 随分と久しぶりだな。どうした、イタズラ電話をかけるような趣味でもあったか?」
「相変わらず冗談がうまい。……イタズラで済めばよかったんだがな。事件だと言ったら、信じてくれるか?」
「……オーケー、状況を聞こうか」
「今出勤したんだがな。院内が何者かに荒らされていて、動物が何匹かいなくなっているんだ」
「それは……事件だな」
「だからそうだと言っている。出来れば初代に来てもらって現場検証してもらいたいところだが……それはわがままだな。誰でもいい、警官を回してもらいたい」
「俺とあんたの仲だろ。どうせ暇してるし、そうでなくても断る理由がない」
「すまない。待っている」

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「なんか……普段の会話だな」
 遊んでいるとは思わせないほど滑らかな話の進み具合に、つい若が言葉を漏らす。確かに自分と同じような性格をしたPCならば、こうして普段通りに話せるので、RPで困ることはなさそうだ。
「勝手に設定作っちまったけど、良かったか?」
「構わない。むしろTRPGはそれこそが醍醐味だ。そうやってPCたちに思い入れや深みが出れば楽しいものとなる」
 今回はHOで初代のPCは二代目主医という人物とは知人であることは決められていたが、前に合ったのが何日前であるなどの細かい部分までは決められていない。先ほどは久しぶりと言ったが、もちろん昨日に会ったばかりだということにしても何の問題もないのだ。
「さて、初代は事件の起こった現場……デュマーリアニマルクリニックに向かうという処理をする。ここで一旦シーンを切って、次はダイナの導入に移る」
「了解。……うまく、出来るといいんだけど」
「導入はある程度道筋が決まっている。そこまで気を張る必要はない」
 初心者とは思えないほどの流れを見せられた後というのはなかなかにハードルが高いが、なるようになると割り切り、シナリオの続きを待った。

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 2000年6月9日午前8時30分。デュマーリアニマルクリニックで働く獣医師、ダイナは普段通りに出勤する。いつもと変わらない時刻。いつものように挨拶をして院内に入る。
「おはようございます、二代目院長。今日の段取りは……」
 毎朝の日課である一日の流れを確認しようとしたところで、言葉を詰まらせた。そこにはいつもと変わらない白衣姿の二代目院長のほかに、警官が立っていたからだ。
 何かあったのだろうかと院内を見渡せば、普段から見慣れていない者であっても、その異常さに気づくだろう。
 非常用出入り口のドアノブは壊されている。また、ここで働いているダイナはいつも以上に動物たちの数が少ないことにも気づくだろう。
「おはよう。……急な話で済まないが、今日から数日間は新規受け入れを中止。現在預かっている動物たちへの処置は普段と変わらずに行う。と言えればいいんだが……初代、このことはニュースに流れるか?」
「隠してほしいっていうなら止めはしないが……俺にそこまでの権力はないぜ」
「だろうな。恐らく飼い主が直に引き取りに来るだろう。そのまま別の動物病院へ連れに行くだろうから、今までの処置内容をまとめた資料作りが今日の仕事になる。……後は現場保管に協力するように。本日の連絡は以上だ」
「あっ……は、はい」
 一体何があったのか? という説明は一切なく、普段通りに仕事を頼まれたダイナ。二代目院長と話を続ける警官──初代と呼ばれる人物──の説明もないまま午前9時を迎え、営業開始時間となった。

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「さて、ここでダイナと初代は初めての顔合わせだ」
「意外と早かったな」
 TRPGの導入部分でどのように探索者たちが出会うのか、それも楽しみの一つである。もちろん合流を楽にするために全員がそれとなりな関係を持っていてもいいし、はたまた見知らぬ者同士がどこか知らない閉鎖空間へと集められるようなシナリオまで様々だ。
「したいことがなければ……導入だからな。こちらで処理を進めるが、何かあるか」
「院内がどうなってるか知りたいんだが」
「私、二代目……院長から何も聞かされていない。いくらなんでも、気になると思う」
 警官がいたり、非常用出入り口が壊されていたり、動物の数が減っていたり……。これだけの出来事が起こっているというのに何の説明もなかったら、どんな人でも確認するだろう。
「後は……そうだ、二代目。これは確認なんだが、APPが高いと美人ってことでいいんだよな」
「その認識で問題ない。初代は……14か。そこそこにイケメンだ。ダイナは15だから美女だな」
 二代目に美女だと表現されるのは、遊びの中のことだと理解していてもなかなかに恥ずかしい。高揚したのを悟られないように軽く目を瞑り、気を引き締めなおす。
「なら、口説くか」
「……え?」
「いいよな、二代目」
「想定内だ。……初ロールが口説きだというのは想定外だが」
「あ……え、っと」
「ずりーぞ初代! 二代目、俺の導入はまだか!?」
 今から口説かれる本人の意見は完全にそっちのけで話が進んでいく。俺も口説きたいと騒ぐ若を押さえるのをおっさんに任せていると、ネロがそれはいいのかと疑問を口にした。
「よく分かってねーけど、その……仲間に何か行動を起こしてもいいもんなのか?」
「問題ない。許容しかねる提案であれば俺が制止する。だからやりたいように発言してくれたらいい」
 無論、それが好印象になるかは別だと付け加える二代目。これからダイナのPCはダイス目次第で初代への好意が変動するが、現実のダイナから初代への心象は……よく考えればからかわれるのもいつも通りなので、普段とあまり変わらないのだった。
「……なら、あしらうことは可能?」
「そう……だな。初代が口説けたかAPPの対抗ロールを振った後に、口説かれていると分かったかどうか<アイデア>で振ってくれ」
 TRPGを遊ぶ上で欠かせないダイスロール。記念すべき初ロールは初代のAPP対抗。二代目からこれを使えと手渡されたのは10面ダイス2個。
 この世には100面ダイスというものも存在するのだが、通称ゴルフボールと呼ばれるほどの球体型をしている。球体ということはいつまでも転がり続け、挙句の果てには100個の数字が書きこまれているせいでもはやどれなのかすら読めない始末。なので大体は10面ダイスを2つ用意し、1つを十の位、もう1つを一の位として扱う。
「記念すべき初ロール、ばっちり決めないとな」
「私としては外してほしい」
「今回の目標値は……初代は45、ダイナは65だ」
 それぞれの思いを胸に、二人は1D100を振る。
 技能や能力値を競わせることを対抗といい、毎回目標値が変動する。また、相手との差があまりにも大きいと自動失敗になることもある。今回は能動側である初代から受動側のダイナへのアプローチであるため、成功率が減っている。
 そして成否の判定だが、出目が定められた数値以下であれば成功。それを超えると失敗となる。なので初代は01~45を出せば成功、ダイナは01~65を出せば成功となる。
 結果は……。

 彼女を口説こう!
 初代 APP対抗 [50+(14-15)×5]% 目標値45
 1D100=85

 口説かれたことに気づくかな?
 ダイナ アイデア65
 1D100=85

「仲良く失敗したな」
「同じ出目とは……ある意味で美味しい展開ってやつか?」
「失敗の挙句、出目も高いのだから喜ばしくないだろう」
 ただでさえ茶番に付き合わされているというのに、と一蹴するバージル。とはいえこればかりはどうしようもないことでもある。
「残念だが失敗したようだな。もっとも、口説かれたことにダイナは気づいていないから、別段思うこともないだろう」
「仕方ない、か」
「良かった」
 失敗したことを残念がる者と、それを良しとする者と反応は分かれたが、ひとまずこの話は終わりだ。
 はてさて、ダイスの結果はどちらも失敗してしまったが、この後はどういう風に話が進むのかと考えていると、突然軽快な音が聞こえてきた。

 秘密の結果
 KP シークレットダイス
 ??=??

「ふむ……。ではここで一旦二人の導入は切るとしよう。院内の情報については後で渡そう。次は少し場面が飛んでバージルだな」
「いや待て。今の音は明らかに二代目もダイス振ってただろ」
「KPは場面に応じて必要になれば勝手にダイスを振るものだ。気にするな」
 気にするな、と言われたら気になるのが人の性。二代目が初代と話している隙にそーっと覗き込もうとした若だったが、それに気づいた二代目にそっとダイスを隠されてしまう。そして何事もなかったように物語を進めるのだった。

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 2000年6月9日午後10時。本日のバージルの仕事は普段よりも長引いてしまい、帰路へ着くのもかなり遅い時間帯となっていた。暗くはないが、決して明るいとも言えない外灯の光を頼りに、いつもの順路を辿っていく。そうして普段と同じようにパンドラパーク前を通りかかった時……。

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「バージル、すまないがここで<聞き耳>を頼む」
 ダイスを振るのは基本的に自分から宣言するのだが、物語の進行中にKPからお願いをする場合もある。
「その技能はとっていない」
「すべての技能には初期値と呼ばれるものが設定されている。今回の<聞き耳>は25%あるから、4分の1で成功するぞ」
 キャラを作る時に、そういえばそんなものも設定されていたと思い出したバージルはダイスを受け取り、振る。

 何か聞こえる?
 バージル 聞き耳25
 1D100=73

 4分の1を成功させるのはなかなかに難しい。……というか、今だ成功が出ないというのはこれからが少し不安だ。
「みんな出目高くないか?」
「ファンブルじゃなけりゃ安いって二代目が言ってたし、大丈夫だろ」
 出目の高さを不安がるネロに対し、ただの失敗だから平気だというお気楽な若。どちらの考えが今後反映されるのか、見ものである。

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 普段であれば気にも留めないただの帰り道。だというのに今晩は何故か異様に公園内が不気味に見えた。
 ……それもそのはずだ。いつもならついているはずの公園内の明かりは消え、まるでそこだけが別次元のようにぽっかりと黒い穴が広がっているように見えるから。
 そんな公園内で一瞬、何かを目撃する。例え明かりがあったとしても、こんな夜遅くに公園に人がいるというのは考えにくい。だが確かにバージルの目には何かが映った。
 目だ。
 一瞬ではあったものの、赤い目と自分の目が合ったのだ。しかし次の瞬間にはもう赤い目はなく、ただただ闇が広がるばかりだ。

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「ここで初SANチェックだ」
 クトゥルフ神話TRPGを遊ぶ以上避けては通れないSANチェック。SANとは正気度のことを指していて、これが0になると廃人となってしまう。ここにいる彼らは例外だが、一般人なんかが悪魔を見たりしたら良くてパニック、下手すれば存在の否定。最悪の場合は現実逃避をして命を絶ってしまうかもしれない。これが表の世界に生きている人間の反応だ。
 このSANチェックの恐ろしいところは、一度失敗し始めると加速的に減っていくというところだ。このゲームは先ほどから振っているダイス目で結果が決まる。この時に用いる成功率はその時々で変わるが、SAN値に関しては失敗すると次回の成功率が減少する。成功率が下がればもちろん失敗のリスクが上がっていくという、まさに負の連鎖なのだ。
「導入からSANチェックか……飛ばすね、二代目」
「赤い目を見たバージルは成功で0、失敗で1のSANチェック」
 自分ではないことをいいことに、ニヤニヤしながらバージルがダイスを振るのを待っているおっさん。これを鋭い眼力で睨みつけた後、二代目に何故俺なんだと問えば、他意はないと軽くあしらわれてしまった。明らかに不機嫌なバージルは舌打ちをしながらダイスを投げる。

 赤い目を見た
 バージル SAN70
 1D100=21

「成功だ。減少はなし。……この後どうする?」
 ようやく出目が下がってきて一安心。バージルがこの場面で取れる行動とすれば、なにも見なかったことにして家に帰ってもいいし、気になるなら公園に足を踏み入れてもいいといったところか。
「……公園を見て回る」
「行くのか? 明らかにヤバイ雰囲気だって……」
「それが何か問題か?」
 この遊びはそれが問題なのだが、やはりPLがバージルである以上、見なかったことにするという発想はないようだ。せっかくのネロの引きとめも聞かず、公園へ足を踏み入れることを宣言する。
「分かった、ならそのように続けよう」

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 先ほどのは見間違いだったのだろうか? それを確かめるためにバージルは公園に立ち寄る。先ほどの赤い目が見えたであろう場所へ、暗くてよく分からないなりに進んでいけば、ぴちゃりと足元から液体の音が聞こえた。そして小さな水たまりに足を突っ込んだような感覚に違和感を覚えたために足元を見れば、何かが横たわっていることに気づくだろう。
「なんだ?」
 屈みこんでようやく分かる。
 それは人の死体だった。今もなお鮮血が溢れ出ており、バージルの足元に溜まっていく。

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「先ほどの奴の仕業か? 死体を調べられるか」
「待て、まずは死体を見たことのSANチェックだ。成功で0、失敗で1D3」
「死体如き見慣れているだろう」
 PLのバージルはそれはもう見慣れているだろうが、PCのバージルはあくまでも作家をしているというだけの一般人だということを忘れてはいけない。人間とは難儀な生き物だと悪態をつきながら、バージルは先ほどのようにダイスを振る。

 死体を発見
 バージル SAN70
 1D100=04

「クリティカルか。……すまないがSANチェック時のクリファンは採用していない。今回は普通に成功扱いでSAN減少はなしだ」
 01~05はクリティカルと言って、いつもより良い結果として処理されるのだが、二代目の説明通り今回はSANチェックだったので適応外。
「残念」
「無駄クリって奴だな」
 素直にもったいないなと考えるダイナの横で、おっさんがケラケラと笑っている。先ほどの態度もあり、とうとう堪忍袋の緒が切れたバージルの容赦ない幻影剣が飛び交い、見事おっさんを壁に磔にした。
「で、調べられるのか?」
「<目星>と<医学>が振れる。情報はどちらも違うものが出てくる。遠くから探すと言ったなら、周りが暗いということでマイナス補正をかけるところだったが、目の前の死体を探るのであれば問題ないだろう」
 どうせ初期値だしな、と付け足しながら二代目が言えば、磔にしてあるおっさんに対してさらに数本の幻影剣を追加する。完全に八つ当たりである。それを見て愉快そうにする若と初代。ネロは興味なさそうに話の続きを待ち、ダイナがいつものようにおっさんを助けに行った。
「どちらも振っていいんだな」
「構わない」
 振るだけならタダの精神でバージルが2回ダイスを転がす。

 死体に変わったところは?
 バージル 目星25
 1D100=89

 死因は分かる?
 バージル 医学5
 1D100=82

「失敗だろうとは思っていたが、急に出目が高くなったな……」
「こんな調子でクリアできんの?」
 8割あればなんとかなるだろうと思って技能値を取る時に上限を設けたのだが、この出目を見ているとやってしまった感がすごい。だが今はまだ導入部分。いわば本編に向けての前座だ。今のうちにこうやって厄払いをしていると考えることにしよう。
「何も分からなかったが、一応死体を発見したバージルはどうする」
「……警察に通報でもするんじゃないのか、人間なら」
 人間らしい振る舞いを口にしたバージルに若がぎょっとする。熱でもあるのかと本気で心配すれば、うっとうしいとおっさんと同じように磔にされた。理不尽である。
 ただ、これこそが二代目の狙いである。……磔のことではない。
 バージルに限った話ではないが、どうしても悪魔との戦いに明け暮れてばかりだと、時折人の感覚というのがすっぽりと抜け落ちてしまうことがある。それを少しでも緩和することが出来ればと思い至り、こうしてクトゥルフ神話TRPGで遊ぼうと言い出したのだ。
 彼の思惑をみんなが知ることはないだろうが、それくらいがちょうどいいのかもしれない。

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 あまりの非現実的なことに直面したバージルではあったが、オカルト類の作品をを取り扱っているからなのか、はたまた元の性格なのかは分からないが、動揺することはなかった。
 ただあまりの暗さに死体の状況を把握することは出来ない。一先ず自分の携帯電話から警察に緊急コールをかけて場所を伝えれば、すぐに現場に向かうのでそこで待っていてくれと言われ、警官が着くまでの間もずっと何かしらの質問を受け続けた。
 待つこと5分ほどだろうか。パトカーのサイレンが近づいてくるのが分かる。そうしてうるさく感じるほどまでやってきて、音が止まった。
 懐中電灯を持った警官がバージルと、その足元に横たわっている死体を見つけると急ぎ足でやってきた。
「あんたが通報してくれた……バージルさんだな?」
「そうだ」
「嫌なものを見つけちまったな。……とりあえず、第一発見者ってことで見つけたときの状況を詳しく教えてほしいんだが……ここではあれだし、署まで同行してもらってもいいか?」
「……手短に頼む」
「協力、感謝するぜ」

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「さて、ここに来た警官というのが初代なのだが……死体を見たからSANチェックしておこうか。成功で0、失敗で1D3だ」
「俺は随分と働き者だな。……懐中電灯で死体を照らしたってことは、死体がどういった状態なのかは分かるよな」
「ああ、ならHOで渡しておこう。とりあえず振ってくれ」
 初代がダイスロールをしている間に、二代目がメモ用紙に先ほどの死体の状態を手早く書き止める。

 無残な死体を発見
 初代 SAN75
 1D100=18

「SANチェックになると途端に出目が安定するようになるのは何かあるのか……?」
「完全にダイスの女神に弄ばれている気分だ。……初代、これが死体の状態だ」
 HOに目を通す初代の表情が固まる。どうするべきかと少し悩んだ後、二代目に尋ねた。
「これは情報共有するとSANチェック、入るか?」
「さあ、どうだろうな」
 今の濁しは明らかに入るんだろうなと考え、とりあえず現段階で伝える理由もないので保留することに。
「懐中電灯で照らしたのなら、俺も見えているはずだ」
「いや、これを見た俺ならすぐに死体から明かりを外すはずだ。一般人に見せるようなものでもないしな。……バージル、せっかく避けてやってるんだから自分から見に来るなよ」
「知ったことか。情報は手に入れるべきだろう」
 SANチェック回避のため、初代は気遣って情報を開示しなかったのだが、バージルにとってそんなことはどうでもいい。信じられるのが己のみだというなら、危険程度で足を踏み入れない理由にはならない。
「……明かりに照らされた死体を見れたかどうか<幸運>だ。ただし、初代の言い分は説得力があったから2分の1で振ってくれ」
 余計なことをと言いたげな視線を向けながら、言われた通りにダイスを転がす。

 死体の詳細は見れた?
 バージル 幸運[70÷2] 目標値35
 1D100=20

「こういう時に限って成功するなよ」
「フン。……さっさと見せろ」
 成功した以上は見せないわけにもいかず、渋々HOを共有する。内容を見て、バージルも顔をしかめた。
「それを見てしまったなら追加でSANチェックしておこうか。成功で0、失敗で1D3」

 死体は想像以上に無残だった
 バージル SAN70
 1D100=04

「……すまないが、SANチェックのクリファンは適用外だ」
「これはバージルのSANは削れないって思っていいな」
 まさかのSANチェックで連続クリティカル。しかも数値まで同じとは、流石に笑うしかない。心配も杞憂に終わり、二人が初めて事件の情報を手に入れたところで、二代目から別のHOがバージルに手渡される。
「…………どうせ、こうしないと困るのだろう」
「協力的で助かる。では次の場面でそのようにRPを頼もう」
 ちらりと壁を見れば、磔にされていたおっさんと若がちょうど降ろされたようで、二人は遊んでいる最中にこれはないとか、また無駄クリしてるとかで雑談に花を咲かせている。
 初代はHOを見返しながら、知らないっていうのは気楽なものだと思うのだった。

 HO情報 
 “横たわっていたのは女性であることはすぐ分かるものだったが、顔の部分だけは原形をとどめておらず、何かでズタズタに引き裂かれていた。身元確認には時間がかかるだろう”

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 2000年6月9日午後11時。初代に連れられてバージルはアラストル警察署へとやってきた。時間帯の関係でただでさえ少ない人数しかいないというのに、先ほど見つかった死体のせいでとにかく忙しそうだ。
「慌ただしいのはまあ、目を瞑ってくれよ。……こっちだ」
 なんていう初代に通された部屋は応接室。中はソファとガラステーブルのみの質素な部屋だ。
「腰かけてくれ。……さて、今日は災難だったな。災難続きで悪いが、いくつか質問に答えてくれ。まず、先ほどの死体を見つけてすぐに通報してくれたか?」
「ああ、そうだ」
「見つけた経緯は?」
「仕事帰りで、あの道は毎日通っている。今日は公園内の灯りが切れているのが気になって、たまたま中を見たんだ。その時見つけた」
「灯りが切れていたのに、死体が見えたのか?」
「……ちょうど、暗闇の中で赤い目と目が合った。だからそいつが何だったのかを確認するために、公園内に入った」
「なるほど。それで近づいたら死体があった、と。……ちなみに、その赤い目っていうのは?」
「分からん。すぐにいなくなった」
「そうか。なら、とりあえずは赤い目をした人物を探さないとな。……今日はこれでいい。気をつけて帰ってくれ」
 もうすぐ日付が変わる時間帯ということもあり、この日の取り調べは終わった。……とはいえ、死体を見た後にこの暗闇の中を一人で歩いて帰る気にならなかったバージルは、警察署を出てすぐに電話をかけた。

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「おいダンテ。さっさと電話に出ろ」
「ようやく俺の出番か!」
 待ってましたと張り切る若。先ほどまで傷だらけだったというのに逞しい限りだ。
「二人が帰宅したらこの一日は終わりだ」
 長かった導入がようやく終わると二代目が一人安堵している。そんな中で、二人が声を上げた。
「いや、俺らがまだ、出てきてすらないんだけど……」
「……むっ」
「二代目。その反応は忘れてたんじゃないだろうな」
「いや、正直に言うと二人の命運は初代にかかっている」
 ただでさえあっちこっちの事件に首を突っ込まされているというのに探偵組の命運すらかかっていると言われ、責任重大な初代。何か気に障るようなことでもしたのかと考えを巡らせても、思い当たる節がない。
 思案しているのが表情として出ていたのか、二代目が察したように弁解した。
「信頼のし過ぎで負担を与えることになってすまないな。導入が終わるまででいい、もう少し協力してくれ」
「オーケーだぜ二代目。いつでも頼ってくれよ」
 二人の信頼関係が羨ましかったのか、いつか自分もあんな風にと憧れの眼差しを向ける者が一人。そんな視線に気づいたのは意外にもおっさんで、彼女の頭を軽く撫でてやれば、少し照れくさそうな表情を返した。

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 2000年6月9日午後11時30分。自宅でそろそろ寝ようかと考えていた矢先に、若の携帯電話が鳴りだした。発信元はどうやら自分の兄、バージルからのようだ。
「こんな時間に兄貴から電話? 珍しいこともあるもんだな」
 年に一度あるかないかというレベルで、兄から電話なんて掛かってこない。だが、今コールサインを送ってきているのは紛れもなく自分の兄。一体何を言われるのか不安を覚えながら、電話に出る。
「兄貴か? 電話を寄越すならもっと時間帯ってのがあると思うんだが」
「誰が好き好んで貴様のような愚弟に電話などするものか。アラストル警察署まで迎えに来い」
「本当好き勝手言うよな……。で、今度はどんな職質受けたんだ? それとも、顔が犯罪者ですって通報されたか?」
「ほう、貴様はそうやって通報されたことがあるのだな。いいから、さっさと来い」
 吐き捨てるように言われたのと同時に電話が切れる。迎えに行けば遅いだのなんだのと言われそうだが、腐っても家族だ。こんな夜遅くに職質を受けたことに多少の同情を寄せ、愛用のバイクを走らせる。
 道路は快適なほどに空いており、別段スピードを出さずともすぐに目的地であるアラストル警察署前に着く。そこには自分と体格も顔もほとんど変わらない兄が立っていた。
「遅い」
「言われると思ってた。で、何したんだよ」
「死体を見つけただけだ」
「…………その、さらっとヤバイ話をぶち込んでくるの、やめようぜ」
 普段から冗談や嘘を言うことはないと知っているだけに、死体を見たという短い言葉に説得力がありすぎる。加えて警察署前にいる事が何よりの証拠だ。理由もなくこんな場所に来るような人間はいないだろう。
「貴様が気にするようなことではない。さっさと帰るぞ」
「へいへい。それじゃあ後ろに乗ってくれ」
 夜遅い時間ということもあり、早々に帰宅した二人は明日に備え、就寝する。

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「これ、家で何かしてもいいのか?」
「止めはしない。が、睡眠時間が少ないとマイナス補正がかかる」
「大人しく寝ろってことか」
 別段したいことがあるわけでもないということで、素直に寝ることにした兄弟。
 これで6月9日が終了し、次の日になる。
「6月10日に入る前に、このHOをダイナと初代に渡しておこう。院内での情報だ。ただ全ての情報が出きっているわけではないから、そこは留意してくれ」
「…………、二代目院長と話は出来なかった感じか?」
 手渡されたHOをさっと読んだ初代が確認を取る。
「ああ、初代を呼んだあと飼い主への説明などで一日院内には居なかった。話が聞きたいのであれば、悪いがまた来てくれ」
 なんでも簡単に情報はくれないようだ。何か気になることがあるのなら、また動物病院の方へ赴く必要があるだろう。ここでダイナもHOを読み終えたが、気になることはなかったようで特に何か言うことはなかった。
 ……別々のHOを用意したということは、二人に渡された情報は違うということになる。そこをきちんと把握しているかが大きな分かれ目になりそうだ。
「さて、6月10日の描写を始めるが、初代からでいいか?」
「そうしたら俺らの出番はあるか?」
 おっさんが暇そうにあくびをしながら問いかければ、二代目が小さく頷いた。
「ようやくか」
「待たせてすまないな。人数が多い以上、どうしても導入が伸びる」
 別に構わないとネロが意思表示すれば、二代目がありがたいと一言添え、6月10日の描写を始める……前に乾いた音を立て、何食わぬ顔でシナリオを続けるのだった。

 秘密の結果
 KP シークレットダイス
 ??=??

 初代へのHO情報
 “現在のところ、犯人と思しき痕跡などは出てきていない。また、二代目院長との話す時間も取れなかったため、もう一度現場に赴く必要がありそうだ”

 ダイナへのHO情報
 “いなくなった動物は犬が6匹。治療用の機材はどれも壊されていなかったため、6月9日はいつも通り動物たちのケアと資料作りに追われる1日だった”

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 2000年6月10日午前8時。今朝のニュースとして、以下のことが流れていた。
 昨夜未明、パンドラパークにて女性の遺体が発見されました。顔の損傷が激しく、今のところ身元は判明しておりません。死因は大量の出血による失血死であると思われ、現在も身元確認を急いでいるとのことです。
 また同日、デュマーリアニマルクリニックに強盗が入り、預けられていた動物が盗まれるという事件がありました。こちらも捜索中であるとのことです。
 2000年6月10日午前8時30分。ニュースを一通り見ていた初代の元へ、上司がやってくる。
「初代、お前はこれから殺人事件の方を担当することになった。しっかりやれよ」
「……待ってくれ。俺は動物探しがしたい」
 殺人事件が起こるよりも前に、二代目に約束した動物探し。どちらも事件に変わりがないのだから、初代としては約束した方を果たしたかった。
「上からの決定だ。それに、第一発見者と接触したのはお前だろう。久しぶりの大きな事件で、みな手柄を上げることに必死だ。……守ってやるんだ」
「第一発見者は犯人扱いされやすい、か……。そういうあんたはいいのか? 部下が手柄を上げれば、自分の鼻も高いだろうに」
「上司に向かってあんたはやめろといつも言っている。私は真実がきちんと証明されれば、それでいい」
「……あんたが俺の上司でよかったよ」
 二代目の力になれないのは不本意だが、第一発見者を保護するという上司の命令に従うことにした初代。そこで彼は、とあるところへ電話をかける。
 2000年6月10日午前8時45分。週休6日制をうたうDevil May Cry 探偵事務所の黒電話が、珍しいことに音を鳴らした。
「Devil May Cry」
 若い男性は受話器を取ると同時に店の名前を伝える。
「Jackpot」
「……オーナーに代わる。少し待っていてくれ」
 一部の人間しか知らない合言葉。これを聞いた若い男性──ネロは事務所のオーナーであるおっさんをたたき起こしに行く。
「おっさん、合言葉ありの仕事だ」
「それはまた珍しい。…………待たせたな。今代わった、俺がこの店のオーナーだ」
「久しぶりだなおっさん」
「初代か? これはまた珍しい奴から仕事の依頼が来るもんだ。用件を聞こうか」
「今朝のニュースには目を通してるか? 実は2つの事件をダブルブッキングしちまってな、手が足りないんだ」
「……なるほど。だから片方を受け持ってほしいと」
「話が早くて助かる。今から依頼主の方に連絡を入れて、そっちに顔出しするように伝えておくから、後のことは任せるさ」
「分かった。報酬、期待してるぜ」
 依頼の件を了承したおっさんが電話を切る。後は初代の言った通り、依頼主を待つばかりだ。
「あんたが仕事を二つ返事で受けるなんて、初めてなんじゃないか」
「言うようになったな坊や。ま、旧友からの頼みだ。断るわけにもいかないだろ」
「旧友……ねえ」
 普段からどんな仕事が来ても興味がないという滅茶苦茶な理由で断るおっさんに、仕事をすることを即決させる人物というのに興味が沸いたネロ。もし機会があれば、一度会ってみたいものだ。
 2000年6月10日午前9時。今度はデュマーリアニマルクリニック内の電話が鳴りだす。
「デュマーリアニマルクリニックです」
「二代目か? 初代だ」
「どうした、何か分かったか?」
「いや、すまない。その件に関してなんだが、今朝のニュースの殺人事件、見たか?」
「一応耳には挟んだ。……そちらの事件を担当することになったんだな?」
「本当に悪い。詫びにもならないが、俺の知り合いの探偵に依頼を出しておいた。今から場所を伝えるから、直接話しに行ってくれるか?」
「気を遣わせたな。……分かった、初代の勧めであるなら信用に足る。頼らせてもらおう」
 探偵の件を了承した二代目は受話器を置くと、先ほど出勤してきたダイナに声をかける。
「ダイナ、申し訳ないが緊急の仕事だ。頼まれてくれるか?」
「はい、大丈夫です。なんでしょう?」
「今からこの探偵事務所に行って、今回の件について依頼してきてほしい。そして必要であるなら調査に協力してやってくれ。数日間に渡っても構わない」
「依頼してくることはいいですが、こちらの処理がまだ……」
「こちらの処理は俺一人でもなんとかなる。……ダイナが昨日頑張ってくれたおかげだ。礼を言う」
「そんな、お礼なんて。……依頼の件と調査への協力、承りました。出来る限り早い解決を心がけます」
「それは探偵の仕事だが……気負い過ぎずに」
 こうしてダイナは探偵事務所を目指し、デュマーリアニマルクリニックを出発する。
 2000年6月10日午前9時30分。地図のとおりに道を進んでいると、目的の事務所が見えてきた。扉の前で一旦立ち止まり、軽く深呼吸をしてから扉を叩けば、数秒の間の後に扉が開き、若い男性に中へと案内された。
「話は聞いてる。あんたが今回の依頼主で合ってるか?」
「はい。ダイナと言います」
「俺はネロ。ここで助手として働いてる。オーナーはおっさんって言うんだが……その、すげー雑な人だけど、仕事はしっかりするから……」
 安心してくれと言われて、分かりましたと言えるかと聞かれれば微妙なライン。そのため、ネロは最後まで言い切れなかった。途中で言葉を切るネロに対し、一体どうしたのかと疑問に持っていると、別の部屋からネロよりも少し背の低い男性が姿を現した。
「初代からの依頼だっていうから、どんな野郎が来るのかと思ってたが、えらい美人が来たもんだ」
「あっ……ダイナです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。早速だが依頼内容について、聞かせてもらえるか?」
「はい。昨日、私の働いている現場、デュマーリアニマルクリニックで強盗があったんです。それで、動物が盗まれてしまって……」
「……なるほど。これが、わざわざ初代が俺に依頼する理由か」
 一人納得しだすおっさんに、ネロが顔をしかめながら説明するようにと言えば、後でとはぐらかされてしまう。
「受けて、いただけますか?」
「もちろんだ。ただ、盗まれた動物の特徴が俺たちには分からない」
「調査への協力は惜しむなと、上司から仰せ付かっています。私に出来ることでしたら、なんでも言ってください」
「いいねえ。そうと決まれば早速捜索と行きますか。……坊やと俺は荷物の準備をしてくるから、少しだけ待っていてくれるか」
「大丈夫です。お待ちしています」
 ダイナを応接室に置いたまま、探偵二人は別室に移動する。
「……で、依頼された理由は?」
 荷物をまとめながら、ネロは先ほどはぐらかされた話をもう一度する。
「今朝のニュースでやっていたので大きく取り上げられていたのは殺人事件だっただろ。恐らく警察はそっちの方に本腰を入れて調査する人員を割くはずだ。そうなったら、ただ動物が盗まれた程度の事件はどうなる?」
「ろくな調査も行われないまま日数だけ経って、分からなくなる……か」
「ご名答。ま、せっかくの美人さんと仕事が出来るんだ。気合も入るさ」
 また下らない事を言っていると話を流し、先に手荷物をまとめたネロはダイナの元へと向かう。一人になったおっさんは……。

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「二代目、ここで<芸術(ヒゲ)>を振らせてくれ」
「……構わないが、用途を聞いていいか」
 突然の要望に、一応理由を尋ねる二代目。まさか使おうとしてくるとは思っておらず、困惑している。
「今日の俺のヒゲがイカしているかを判定したい」
「…………分かった、振ってくれ」
「いいのか!?」
 提案が通ったことに驚くネロ。
「ここでしか使うところがないだろうしな」
 一理ある言い分に、確かにと納得してしまう。……そして、改めて実感する。TRPGはKPがオッケーを出したら、本当に何でもありなんだな……と。

 今日のヒゲはどんな感じ?
 おっさん 芸術(ヒゲ)10
 1D100=33

「ダメか……」
「普段どおりの無法地帯という結果だな」
「誤解が生まれるからその言い方はやめてくれよ。これでも気が向いたときに手入れしてるんだ」
 だから無法地帯と呼ばれているという突込みはご法度。もう少しで導入が終わるからと、二代目がピッチを上げるのだった。

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 本日もイカしている。……そう思っているのはおっさんただ一人。世間一般から見れば、それは間違いなく、ただの無精ひげ。だが当人がそれを良しとしているのなら、誰かが何かを言う筋合いはない。
 2000年6月10日午前10時。ネロに遅れて手荷物をまとめ終えたおっさんが依頼主であるダイナと合流し、本格的な調査を始めることとなった。

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「これでダイナ、髭、ネロの導入は終了だ。2000年6月10日午前10時からは好きに行動してくれて構わない」
「ってことは、これからはもう二代目のアドバイスがなくなるってことか」
「そういう捉え方もある。基本的には今の目的に沿って行動すれば問題ない」
 現在の探偵組の目的は、行方不明になった動物を探すこと。そのためには何からする必要があるかを考えて行けば、おのずと今後の行動も決まりそうだ。
「さて、残りの三人の導入も終わらせてしまおう。それが終わったら一旦休憩を挟んで、行動が決まった面々から話を進めて行こうと思う」
 気が付けばもうお昼前。導入が終わったダイナとネロがお昼を作りにキッチンへ、おっさんは一足先に休憩を取る。どこかの誰かがお腹空いたと騒ぎ出す前に、話を続ける。

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 2000年6月10日午前9時30分。二代目に連絡を入れ終えた初代はその後、事件の第一発見者であるバージル宅にまで足を運んでいた。そして躊躇うことなくチャイムを鳴らせば、昨日見た顔が姿を現した。
「昨日の警官か。何の用だ」
「そう邪険に扱ってくれるなよ。これでもあんたの心配をして来たんだぜ」
「どうだか。……また事情聴取か?」

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「初代、バージル。<目星>か<聞き耳>、どちらか好きな方を振ってくれ」
「俺は<目星>だ」
「……俺も<目星>でいい」
 バージルはどちらも取っていないので、どちらを選んでも大差がないため、初代と同じ技能に合わせたようだ。

 何が見える?
 初代 目星80
 1D100=01

 バージル 目星25
 1D100=78

「1クリ……だと……」
「確か、普通の成功よりも良い結果だったか」
「……その認識で問題、ない。後、セッション終了後に成長判定が入る。メモを取っておいてくれ」
 もうすぐで導入が終わるという最後の最後にクリティカルを出され、あの二代目が動揺している。どうしたものかと数分頭を抱え、ゆっくりと顔を上げた。
「まずは成功情報。バージル宅は先ほどから何名かの警官に見張られていることに初代は気づく。そしてクリティカル処理だが、警官たちは何か無線の連絡を受けたようで、こちらへの注意が散漫になっている。すぐに支度をして家を出れば、尾行されることはないだろう」
「だったらそのことを伝えて、荷物だけ用意させてどっか別のところで話をするとしますか」
「俺ってどうなってるんだ?」
 話に出てこない若は、まさか自分だけ除け者なのかとそわそわしている。
「家にいることになっているから、今から合流だ。その後どうするかは好きに決めるといい」
 合流できると聞いて若は一安心。これで後は場所を変えることに集中できる。

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 先ほどから何かの視線を感じていた初代が辺りを見渡せば、何人かの警官が張り込みしている姿を捉えることが出来た。
「第一発見者ってのは良くも悪くも疑われちまうもんなのさ。出会って間もないが、俺はあんたを出来る限り守りたいと考えている。上司にもそう言いつけられちまってるからな。だから今は俺の言うとおり、手荷物をまとめてついてきてほしい」
「…………3分待っていろ」
 そう言って一旦家に引っ込むバージル。初代に言われた通り急いで手荷物をまとめていると、若が起きてきた。
「どうしたよバージル。今日は休みじゃなかったのか?」
「おい、貴様も3分で支度しろ。すぐに家を出るぞ」
「いつも唐突に理不尽なことを言うよな。今度は何なんだよ」
「どうやら俺たちの家を警官が見張っているらしい。詳しい話は場所を移してからだ」
「本当に何やらかしたんだ……」
 そういいつつもきっちり3分で支度を済ませた若が、バージルと共に玄関を開ければ、辺りを警戒している初代が立っている。
「来たか。今ちょうど無線で誰かと連絡を取っているから、行くなら今だ」
「ならさっさと案内しろ」
「……バージル、マジで後で全部説明しろよ」
「後で俺にもその瓜二つの男について説明してくれよ。……こっちだ」
 お互いがお互いに聞きたいことや確認したいことは山ほどあるが、とにかく今は警官の包囲を抜け出すのが先だ。
 2000年6月10日午前10時。誰一人として警官に見つかることなく、ひとまず落ち着ける場所へと移動することが出来たのだった。

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「これで初代、若、バージルの導入も終了だ。では一旦休憩を挟むとしよう」
「これから自由に探索していいんだよな?」
 随分と出番が少なかったため、今後が楽しみだと張り切る若。ようやく本編に入れると、二代目もどことなく肩の荷が下りた様子。
「昼食を取ったら今回舞台となる街の地図を公開しよう。……それと、どちらのチームから行動するのかと、持ち物も決めておいてくれ」
「持ち物か。何でもいいのか?」
「常識の範囲内であれば」
 気づけばみんなTRPGにハマったようで、食事中もこれからどうするとか、何を持っていこうなんて話で盛り上がっていた。そんな仲間の様子を見て、始めて良かったと二代目は感じるのだった。