重い瞼を押し上げると、体のだるさを感じた。ベッドから起き上がろうとすると体が動かず、手足が何かで固定されていることに初めて気づく。
「目が覚めたようだな」
「んっ……! んっ、ふ」
事態を今だ飲みこめていないダイナは呆けていたために開いた唇を奪われ、舌を絡めとられる。再び混濁していく意識を手放さないよう必死に手繰り寄せようとするものの、何度も気が飛びそうになった。
「ああ。その顔が見たかった」
目を白黒させて口角から涎を垂らすダイナを満足そうに見た男の青い目は妖艶さを秘め、心底嬉しそうにしており、男の手にはダイナの体を縛っている手錠を開けるための鍵が握られている。
「許して、ダンテ……」
手のひらの中で鍵を弄びながらダイナを見下ろすダンテは特徴的な左肩から胸板を覆う黒のベストをつけており、赤と黒を基調とした服装が大人の魅力を引き出している。
「安心しろ」
縛られているダイナの肢体をいやらしい視線で嘗め回しながら全身を優しく指でなぞると彼女は過敏に反応した。
「ひぅ……くすぐったい」
全裸のダイナがベッドの上で身を捩るが、自由に動かすことの出来ない身体でダンテの指から逃れることは出来ず、くすぐったさと別の感覚を甘んじて受けるしかなかった。
どうしてこんなことになっているのか、ダイナ自身記憶が曖昧なためによく分かっていない。分かるのはダンテにずっと抱かれ続けていることだけ。
「はっぁ、ぁ……んんっ……」
触れるかどうかの触り方に異常なまでのくすぐったさともどかしさを与えられ、押し殺しきれない甘い声がダイナの口から洩れていく。この声に気を良くしたダンテはさらに時間をかけて一回、また一回と全身を撫でまわした。
「やめてぇ……は、あ……」
撫でられる度に身体は反応を示し、腰が浮きそうになる。ただし拘束されているため自由が利かず、自分の望む刺激を貰うことはおろか、自身で慰めることすら許されない状態だった。
まだ秘部どころか胸すら触られていないというのにここまで過敏に反応してしまうのは何故なのか、永続的に与えられる全身への刺激に身を焦がしながらも考え、そして思い出す。
どれほど前だったかは最早分からないが、自分は何度もダンテにイカされ、気を失った。それが二度に渡って繰り返され、今回が三度目である。
最初にストレートな言葉で誘われて承諾したのが運の尽き。いつまでもダンテは自分の物は取り出すことをせず、何度も弱い所を指や舌で攻めたててきた。意識を手放すまでイカされ、次に目を覚ました時にも同じことをされ、そして今もまた……。
思い出してしまったために顔が真っ赤に染まっていくことを自分で理解したダイナはせめてもの抵抗にと首を横へもたげる。別段なんてことはないはずの動きであったはずなのに、この程度の些細な行動すら見逃さなかったダンテは何も言うことなく顔を元の位置へと戻し、何度目か分からない口づけを落とした。抵抗しようにも少し強く唇を吸われ、舌を口内に入れられてしまうともう何も出来ない。くぐもった声をこぼしていても瞳は蕩け、身体は悦んでいた。
ダンテが唇を首筋へ移動するとダイナは甘い声を上げながら反応する。そのまま下へ降りていくと存在を主張し始めた突起が唇に当たり、好きだと言われているように感じた。
舌で優しく舐め、唇で挟む。
「ふ……ぁっ、」
主導権を握られてしまったダイナは彼の気が済むまで快感を与えられ続けるしかなく、とにかく堪えることしか出来ない中、金属のこすれる音が聞こえてくる度に自分の体の自由が奪われていることを知らされ、ダンテに翻弄されていることを全身で感じてしまう。
「ああ、あ……! う、ぁ……ああん!」
前触れなく突起を咥えこまれ、身体がはねる。わざと音を立てて吸ったり転がしたりするダンテの思惑通りにダイナの甘美な声は激しく、大きくなっていく。与えられる快感を受け入れる他ない状態でねちっこく同じところばかりを責められたかと思えばやらしい音と共に刺激が収まったと思わせ、もう片方の突起をしゃぶられる。
「んあぁ、あ、あっ……ひっ! や、あ! 両方は、あああぁ……」
ダンテの唾液によって先ほどまで責められていた方は滑りが良くなっており、それを指で弾かれると電流が走ったような鋭い感覚が身体を駆け巡った。もう片方は変わらずに舌で優しく弄ばれ、気持ちいい刺激に脳が溶けていきそうになる。
強い刺激で現実に戻され、優しい快感に身体が溶けていく二重の感覚にダイナは喘ぐことしか出来ず、そんな自分の声にすら興奮を覚え始めていることを自覚し始める。
「んむっ、あ……んぅ、はぁ……んんーっ」
両胸を責めるだけに飽き足らず、ダンテは空いている手を使ってダイナの口内を犯し始める。
「ちゅっ……ん、ぷぁ……あ、むぐっ……んんっ!? んあああ!」
突然、今までの比にならない快感が身体を満たした。驚きと気持ちよさの混じった声がとめどなく溢れ、一瞬視界が白に染まる。
「はぁ……はぁ……あっ、ぅ……」
自分は果ててしまったのだと理解し、意識が戻ってくるまで少しの時間を有した。この間、ダンテはただ彼女を見つめるだけで、攻めの手は止められていた。
「気持ちよかったか?」
ようやっとかけられた言葉はそれだけだった。相変わらず口数の少ないダンテの思考を読み切ることなど到底不可能で、どう答えればいいのか分からず沈黙を保つしかなかった。黙っているとダンテは表情を変えないまま視線を移し、ダイナの秘部を見つめた。
「み、見ないで……」
あまりの恥ずかしさに足を閉じようとするが無駄な抵抗に変わりなかった。ダンテの大きな手で秘部が露出されるだけで身体は悦びの声を上げる。一度果てたためにぐっしょりと濡れ、ひくひくと艶めかしく動くあそこは誘っているようだ。
ダンテはそこを指で一度だけ撫で上げ、充血して存在を主張するクリトリスを転がし始めた。
「んぁぁああっっ! んっ! ひぃあぁぁ!」
先ほどまでとは比べ物にならない快感にダイナは慌てふためき、大きな喘ぎ声を漏らすことしか出来ない。ただこの刺激が先ほど自分を絶頂へと追いやった正体であることを身体はよく知っており、情けなくも更なる愛液を分泌し続けた。
ダンテは何も言わず、入念にクリトリスを転がし続ける。空気によって乾燥したら愛液を掬い取り、滑りを良くして執拗に責め続ける。気持ちよすぎる感覚にダイナは全身を震わせて先ほどの波に抗うも、時折与えられる秘部への刺激が緩急の役割を担い、これがまた気持ちよさに拍車をかけた。
「んっ、ふああぁあ、ひあ……あああっ!」
押し上げられていく快楽に耐えられず、二度目の絶頂を迎える。愛液が撒かれ、ベッドを汚す。痙攣するあそこはしっかりとダンテに見られており、恥ずかしいはずなのにその背徳的な事実に何故か興奮を覚えた。見られたくないはずなのに、見られると気持ちよさを感じる。相反する思考に混乱しているとまたダンテの指によってもたらされる絶大的な快感に意識が持っていかれた。
「ふぁ……あ……ああぁ……はぁ……ぁぁ……」
疲れているはずなのに与えられるもの全てに悦ぶ身体を呪いながらも、相手がダンテであるというだけでどうでもよくなってしまっている自分がいる事実には抗えなかった。
あれから永遠とも思えるほどに弱い所を犯され続けたダイナは何度果てたかも分からぬまま、ただただ意識を手放さないようにと乱れ切った呼吸を繰り返し、ダンテが攻め手を緩めてくれるその瞬間を待った。
「ああ……ダンテ、ダンテ……」
何度目か分からない懇願。名前を呼んで、止めて欲しいと訴えかける。だがそれも虚しいもので、秘部に入れられた指を動かされ中を掻きまわされると卑猥な音と自分の声で消えていく。不思議なことに疲れている身体に反して声だけはいつまでも衰えることなく甘美な音を奏でた。
「はっ、ああ! や、だあ! また一人で……イッ……っっっ!」
また自分だけが快楽に溺れ、果てる。いくら大好きな人からの愛撫といえど、何時間も一人でイキ続けていれば虚しさと苦しさが上回る。
「うっ、あ……やだ……やだ、よ……」
とうとうダイナの口から漏れた否定の言葉にダンテは指の動きを止める。その瞳は何も映していないような虚ろなものだった。
「嫌、だったか」
ゆっくりと労わるように引き抜かれる動作にすらダイナは声を上げてしまうが、縛られていることを気にも留めない様子で身体を必死に動かそうと身を捩りながら訴えた。
「一人は嫌……。一緒、一緒がいいの……」
そう言ってダイナは動くことのない自分の身体をダンテに少しでも近づけようともがく。自分だけは嫌だと、一緒がいいと言い続ける。
「これだけしておいて、ダンテは一度もイッてないなんて……そんなの、ずるいよ……」
「俺のことは気にしなくていい」
優しく頭を撫でられる行為がまるで自分に構う必要はないと言われているようで、ダイナは違うと首を横に振る。
それでもダンテは自身のことを何も見せないままダイナへの責めを再開しようとして、先ほど否定されたことを思いかえし、手足の施錠を外した。
「ダイナはいつも俺のことを第一に考えてくれる。それだけで十分だ」
「ダンテだって同じ。……どうしていつも、本番はしてくれないの?」
ずっとそうだ。誘ってくるくせに、絶対に自分のものを取り出すことはしない。いつも満足するまで愛撫して、絶頂に追いやって、そこで終わり。
「私じゃ、ダンテを満足させてあげられないから?」
秘めていた想いが溢れる。こんなことを言っても困らせるだけだと今までずっと隠してきた言葉はいつの間にか衝いて出てしまった。
「そうじゃない。……ダイナ、あまり誘うようなことを言うな」
真剣な瞳でダンテはそう言った。頼むから誘惑しないでくれと。しかしダイナは引き下がらず、ほとんど力の入らない腕を持ち上げてダンテの首に回し、自ら口づけをする。そして抱きつこうと必死に身体を持ち上げようとした。
「っ……止せ」
身体が密着するとダンテは慌てた。何かをあてないようにと腰を引いており、軽く力を入れてダイナをベッドに固定する。
「とにかく、俺のことはっ……」
言いきろうとして代わりに息を呑む声が聞こえるが、それはやむを得ないことでもあった。何故ならダンテが隠そうとしているそれを、ダイナは露出させようと掴まれていない足を使って彼のズボンを脱がせようとしたから。
「私をこんなはしたなくさせておいて、ずるいんだから」
どうして頑なになってダンテのそれを求めているのかはダイナ自身にも分からなくなりつつあった。だがここで引き下がるという発想は無かったし、一緒になりたいという気持ちも確かにある。しかし、まともに動くはずのない足を使っての攻防はすぐに終わりを迎えた。
結局はダンテに抑え込まれ、首筋を強く吸われると身体中の力が抜けてしまい、反撃どころか抵抗すら出来なくなってしまう。身体に擦りこまれた感覚に負け、再び快楽の海に引き込まれてしまうと身を強張らせた。
「本当に、いいのか?」
返ってきたのは行動ではなく言葉だった。いつもならこのまま意識が飛ぶまで絶頂させられるというのに、初めてダンテが何かを確認するように瞳を覗きこみながら問いかけてきた。
「うん。一緒になりたい」
受け入れたいと申し出た瞬間下半身に大きな衝撃が走り、あまりの圧迫感に一瞬意識が飛んだ。肺から酸素が全て押し出される中、全身を溶かしてしまいそうな熱を感じた。何が起きたのかと慌ててダンテに抱きつこうと身体を寄せると更に熱が体の中に入りこんで来る感覚に襲われ、目を白黒させるしかなかった。
「痛くないか? 意識はあるか?」
吐息を漏らしながらもダンテの口から紡がれる言葉はダイナを心配しているものばかりだった。労わってくれる気持ちが嬉しくて朦朧とする意識の中で必死に頷き返せばダンテは安堵した表情を浮かべた後、一番奥まで身体を入れ込んだ。
「はっっ! あ、あ……!」
手繰り寄せていた意識が飛びかける。何とか取り入れていた酸素も吐き出され、頭が真っ白になっていく。初めてであるはずなのに何故か一度経験したことのあるような形容しがたい感覚に戸惑いながらも、絶対に意識を失ってはいけないと感じたダイナは意識を繋ぎとめるため、自分に快感を送ることを選択して自ら腰を振り始めた。
「あっ……! ああ、ああぁ! んはあぁぁ!」
「待て。そんなに動かれる、と……っ」
想像以上だった。あまりの気持ちよさに先ほどまでの考えなど簡単に吹き飛び、とにかく気持ちよくなりたいという衝動に駆られてただただ腰を振った。
「やっ、ああああ……入って、ああっ!」
淫らな姿をダンテに晒していることも忘れて。
「ナカ、擦れて……! ひっぅ! んっあ、ああっ、イッ……! ~~~っ!」
二人が繋がっている場所から卑猥な音が一際大きく聞こえてくる。ぐちゅぐちゅという音で何が起きているのかを考えてしまったダイナはそれだけでさらに快感を得てしまい、大好きな人のそれを咥えこみながら今までにないほどの締め付けでダンテを誘惑した。
「っ……ぁ。ダイナ、足を離してくれ……俺も、もう……」
「あ、ひっ……出して……全部、ナカに……」
「だから……誘惑するなと……っ!」
我慢の限界だった。ダイナの中に入った時から爆発してしまうのではないかという感覚に何とか抗っていたというのに、あろうことか加減なしに腰を振られ、挙句に収縮を繰り返しながら攻め立ててくるのだから、耐えられるはずがなかった。
彼女の中に全てをぶちまければ、代わりに甘い声が返ってきた。それを悦んでもらえたと捉えてしまう自分の浅はかさに腹を立てたが、果てた後だというのに体を密着させようと腕を伸ばしてくるダイナの行動に幾分か救われたのも事実だった。
「今回は……その、大丈夫だったか?」
「えっ……あ、の……初めてじゃ、ないの……?」
ダンテの言い回しに不信感を覚えたダイナが疑問を口にすれば、やはり覚えていなかったかとダンテの申し訳なさそうな顔が向けられた。
聞けば、初めて行為を営んだ時にダンテが興奮のあまり激しくしてしまったためにダイナは早々に意識を手放してしまったという。ダンテ自身も余裕がなかったために気が付かず、全てが終わった後にダイナが気を失っていることを知り、それ以来、罪悪感に囚われて本番には臨まなくなったというのが事の経緯だった。
「だから欲しいって言っても嫌がったんだ」
「本当にすまなかった。自分ばかり気持ちよくなって、ダイナのことを気遣えず……」
だからダンテは自分のことよりもダイナを優先するようになり、定期的に誘っては彼女だけをイカせて終わっていた。それを繰り返すうちに自分の手で果てるダイナを見れるだけで幸せなことなのだと思いこむようになってしまったらしい。
「ダンテのせいで私、こんなエッチな身体になっちゃったんだから……」
抱かれる度に意識を失うまで絶頂させられ続けたダイナの身体はとっくの昔からダンテのこと以外考えられない身体になってしまっている。だというのに今日までずっと繋がることをお預けされていたのだから、ようやく繋がれた時にあれだけ乱れてしまったのもダンテのせい。……そういうことにしておこうと思った。
「責任、とってね」
気持ちを伝えるとダンテは心と身体で応えてくれた。耳元で囁かれた言葉に胸が高まり、今だ繋がっているそこからは再び熱を持った彼のものを感じた。
今日もきっと、気を失うまでダンテに愛されるのだとダイナは身も心も満たされる思いだった。