Not me oneself

 貴族風の青いコートに身を包んだ男の後ろをちょこちょこと追いかける女性が、息を切らしながら声をかけた。
「バージルさん、バージルさん」
「なんだ」
「もう少し、ゆっくり歩いてもらえませんか?」
「知らん。辛いなら、ついてこなくていい」
「もう! そうやって、すぐに私を邪険にするんですから!」
 そっけない返事にぶうぶうと文句を言いながら、女性は歩く速度を上げる。だがかなり足に疲れがきているのか、歩き方が変だ。
「そもそも貴様は……」
「リエルです! 貴様、なんて名前じゃありません」
 名前で呼んでくれないバージルに、またまた文句をつけるリエル。バージルは鬱陶しそうに眉間にしわを寄せ、言い直す。
「リエルは、俺より強くなるのではないのか」
「なりますよ! ……身を守ることしか出来ませんけど」
「なら、その程度で音をあげていてどうする」
「そんな、急に強くはなれませんよー!」
 いくら強くなるとは言っても、一日二日でなれるものなら誰も苦労はしないだろう。なんて言い合いをしながらも速度を落とさないバージルに一生懸命ついていっていたリエルだが、とうとう足が悲鳴を上げた。
「わっ……わわっ!」
 舗装されていないけもの道で派手に転ぶ。足が痛みに耐えかね、もつれたようだ。
「いっ……たたた。……って、ちょっとバージルさん! 待ってくださいよ!」
 かなり大きな音がしていたはずだが、バージルは一度として振り返ることなく先へ進んでいく。
「なんて薄情な……! この間は、あんなに素敵な言葉をかけてくれたのに!」
 初めて出会った時にかけてくれた「悪魔だろうが気にしない」という言葉に胸を撃たれ、バージルについていくことを決意したリエル。
 しかし今は、心配なんて少しもかけてもらえないどころか、見捨てられる始末。急いで立ち上がり、後を追おうとする。
「~~っ! うぅー! 痛くて、立てない……」
 が、足はもう限界だ。立ち上がる為に力を入れようものなら激痛が走る。しかし、そうこうしているうちにもバージルはどんどん先へと進んでいってしまう。
「待って……、待ってください! 本当に、お願いします! 少しだけでいいですから、休憩をください!」
 夜道、大声で叫ぶリエル。恥なんてくそくらえといった様子で、なんとかバージルに待ってもらえるよう懇願する。それでも、バージルは止まらない。
「バージルさん! バージルさんってばあ! ふざけてるわけじゃないんです! お願いしますから、戻ってきてください!」
 リエルはめげない。バージルが見えなくなるか、バージルが折れるまで叫び続けるだろう。
 結局、あまりにも品のない大声で名前を呼ばれることに耐えかねたのか、バージルがリエルの元まで戻ってくる。
「バージルさん……! やっぱり、素敵な人です! 戻ってきてくださったんですね!」
 嬉しさを表現しようと抱き着こうとする。だが、距離がいま一歩足りず、地面に倒れ込む。
「そんな元気があるなら、さっさと立て」
「優しくしてくれるなら、最後まで優しく貰えると嬉しいです」
 倒れ込んだ上半身を起こし、手を伸ばす。バージルに引き起こしてもらうつもりのようだ。
「甘えるな」
 だが、その手はバージルに払われる。
「最後まで優しくしてくださいって、言ったばかりなのに! あ、でもふざけてるわけじゃないんですよ? 自力で立てそうにないので、助けてほしいのです」
 払われた手をもう一度伸ばしながら、バージルに助けを求める。
「……愚かな女だ」
 そんな言葉を投げかけながら、バージルはリエルを引き上げる。
「ありがとうございます! いっ……」
 バージルの助けを借りて立ち上がったは良かったが痛みで足元がふらつき、そのままバージルに倒れ込む。
「どうせ立たせたところで、そうなるだろうと分かりきっていた」
「じゃあ、このままもう少し、手を貸してください」
 そう言ってリエルは、バージルの手をしっかり握る。
「貴様、あまり調子に……」
「リエルです! それに、調子になんて乗っていません。私が調子に乗っているとしたら、きっとバージルさんに、もっと好きになってほしい……なんて、言い出してますから」
 だから、調子に乗っていません。なんて言いながら、リエルはバージルに笑いかける。
「私はバージルさんに、もっとバージルさんのことを好きになってもらいたいって、そう思ってるだけですから」
「……どういう意味だ」
 よく分からない言い回しに、バージルは聞き返す。
「半人半魔である私に、そんなことは大したことじゃないって言ってくれたじゃないですか。そんな素敵なことを言ってくれる人が、自分のことを好きじゃないなんてダメです! ですから私は、バージルさんが、もっと自分を好きになれるお手伝いをしたいと……」
「余計なお世話だ」
 バージルに言葉を遮られ、リエルは怯む。そして、悲しそうな……困ったような表情を浮かべながらこう言った。
「調子に乗っちゃいました……ね」
「……分かればいい。行くぞ」
「はい」
 リエルの気持ちが伝わることは、困難を極めるだろう。それでも今はバージルの傍に居られることを良しとし、少しずつでも距離を縮めることからはじめるべきなのだ。
 まだまだ、二人にはたくさんの時間があるのだから……。 貴族風の青いコートに身を包んだ男の後ろをちょこちょこと追いかける女性が、息を切らしながら声をかけた。
「バージルさん、バージルさん」
「なんだ」
「もう少し、ゆっくり歩いてもらえませんか?」
「知らん。辛いなら、ついてこなくていい」
「もう! そうやって、すぐに私を邪険にするんですから!」
 そっけない返事にぶうぶうと文句を言いながら、女性は歩く速度を上げる。だがかなり足に疲れがきているのか、歩き方が変だ。
「そもそも貴様は……」
「リエルです! 貴様、なんて名前じゃありません」
 名前で呼んでくれないバージルに、またまた文句をつけるリエル。バージルは鬱陶しそうに眉間にしわを寄せ、言い直す。
「リエルは、俺より強くなるのではないのか」
「なりますよ! ……身を守ることしか出来ませんけど」
「なら、その程度で音をあげていてどうする」
「そんな、急に強くはなれませんよー!」
 いくら強くなるとは言っても、一日二日でなれるものなら誰も苦労はしないだろう。なんて言い合いをしながらも速度を落とさないバージルに一生懸命ついていっていたリエルだが、とうとう足が悲鳴を上げた。
「わっ……わわっ!」
 舗装されていないけもの道で派手に転ぶ。足が痛みに耐えかね、もつれたようだ。
「いっ……たたた。……って、ちょっとバージルさん! 待ってくださいよ!」
 かなり大きな音がしていたはずだが、バージルは一度として振り返ることなく先へ進んでいく。
「なんて薄情な……! この間は、あんなに素敵な言葉をかけてくれたのに!」
 初めて出会った時にかけてくれた「悪魔だろうが気にしない」という言葉に胸を撃たれ、バージルについていくことを決意したリエル。
 しかし今は、心配なんて少しもかけてもらえないどころか、見捨てられる始末。急いで立ち上がり、後を追おうとする。
「~~っ! うぅー! 痛くて、立てない……」
 が、足はもう限界だ。立ち上がる為に力を入れようものなら激痛が走る。しかし、そうこうしているうちにもバージルはどんどん先へと進んでいってしまう。
「待って……、待ってください! 本当に、お願いします! 少しだけでいいですから、休憩をください!」
 夜道、大声で叫ぶリエル。恥なんてくそくらえといった様子で、なんとかバージルに待ってもらえるよう懇願する。それでも、バージルは止まらない。
「バージルさん! バージルさんってばあ! ふざけてるわけじゃないんです! お願いしますから、戻ってきてください!」
 リエルはめげない。バージルが見えなくなるか、バージルが折れるまで叫び続けるだろう。
 結局、あまりにも品のない大声で名前を呼ばれることに耐えかねたのか、バージルがリエルの元まで戻ってくる。
「バージルさん……! やっぱり、素敵な人です! 戻ってきてくださったんですね!」
 嬉しさを表現しようと抱き着こうとする。だが、距離がいま一歩足りず、地面に倒れ込む。
「そんな元気があるなら、さっさと立て」
「優しくしてくれるなら、最後まで優しく貰えると嬉しいです」
 倒れ込んだ上半身を起こし、手を伸ばす。バージルに引き起こしてもらうつもりのようだ。
「甘えるな」
 だが、その手はバージルに払われる。
「最後まで優しくしてくださいって、言ったばかりなのに! あ、でもふざけてるわけじゃないんですよ? 自力で立てそうにないので、助けてほしいのです」
 払われた手をもう一度伸ばしながら、バージルに助けを求める。
「……愚かな女だ」
 そんな言葉を投げかけながら、バージルはリエルを引き上げる。
「ありがとうございます! いっ……」
 バージルの助けを借りて立ち上がったは良かったが痛みで足元がふらつき、そのままバージルに倒れ込む。
「どうせ立たせたところで、そうなるだろうと分かりきっていた」
「じゃあ、このままもう少し、手を貸してください」
 そう言ってリエルは、バージルの手をしっかり握る。
「貴様、あまり調子に……」
「リエルです! それに、調子になんて乗っていません。私が調子に乗っているとしたら、きっとバージルさんに、もっと好きになってほしい……なんて、言い出してますから」
 だから、調子に乗っていません。なんて言いながら、リエルはバージルに笑いかける。
「私はバージルさんに、もっとバージルさんのことを好きになってもらいたいって、そう思ってるだけですから」
「……どういう意味だ」
 よく分からない言い回しに、バージルは聞き返す。
「半人半魔である私に、そんなことは大したことじゃないって言ってくれたじゃないですか。そんな素敵なことを言ってくれる人が、自分のことを好きじゃないなんてダメです! ですから私は、バージルさんが、もっと自分を好きになれるお手伝いをしたいと……」
「余計なお世話だ」
 バージルに言葉を遮られ、リエルは怯む。そして、悲しそうな……困ったような表情を浮かべながらこう言った。
「調子に乗っちゃいました……ね」
「……分かればいい。行くぞ」
「はい」
 リエルの気持ちが伝わることは、困難を極めるだろう。それでも今はバージルの傍に居られることを良しとし、少しずつでも距離を縮めることからはじめるべきなのだ。
 まだまだ、二人にはたくさんの時間があるのだから……。