Encounter with balloon Pokemon

打倒キーラを目指し、ファイターたちが進軍を続けていたある日のこと。
半人半魔たちは自分たちの仲間を探しながら、ファイターたちに力を貸す日々を送っている。現時点で見つかっているのは3名と、まだまだ助けなくてはいけない者が多く残っている状態だった。
仲間を助け出したいという思いは、何も半魔たちだけに限ったことではない。救出の軸となっているファイターたちにも救いたい仲間がいるのはもちろんのこと、助けられたスピリットも他の仲間たちを救いたいと願っている。
救い出したものたちの中には敵対しているものも存在しているが、悪しき者たちとの決着を付けるのは少なくとのこの世界ではない。思うところはあるにせよ、傀儡を倒して解放したのち、元の世界へと帰還させていた。
スピリットにとって、元の世界に返されることは一番の願いだ。これは半魔たちも変わらない。来るべき日が来た時、ファイターたちに元の世界へ返してもらうことになるだろう。
だがそれは、今じゃない。残りの4名が救出されていないことはもちろんのこと、強敵を倒すためにスピリットの力は必要不可欠。キーラを倒す日が来るまで、何より全員が揃う日が来るまで、ファイターたちと行動を共にすることになると、薄々感じていた。
また最近はファイターたちが増えてきたこともあり、小さなグループが出来ていた。
相容れない相手がいるわけではない。気の合う者同士が自然と集まりやすくなっているというだけだ。有事の際に協力を惜しむことはないし、普段から言葉を交わさないこともない。
「いいか。振りきる時はこうやって……」
おっさんは木の棒をフルスイングしながら、敵を気持ちよく吹っ飛ばすレクチャーをしている。重心のかけ方や打撃力の上げ方など、ちょっとした工夫を聞いて感心しているのはリュカ。ザリガニの一件を経ておっさんとは距離を縮めたようで、ファイターとスピリットの中でもよく一緒にいる姿が見れる。リュカが懐いているというよりおっさんがちょっかいをかけに行っているような感じではあったが、嫌がっている様子は無かった。
コツを教えているおっさんの目の前に、羽ピクミンの力を借りて高度を上げたオリマーが現れた。下を見てくれというジェスチャーを受けて足元を見れば、頼んでおいたものをピクミンたちが運んできてくれていた。
「ありがとよ。……よし、今のを踏まえて打ってみろ」
オリマーに感謝を伝え、木の棒をリュカに返し、ピクミンたちが調達してくれた丸い小石を手に取る。リュカが構えを取ったことを確認したおっさんは、木の棒目がけて小石を投げ始める。
棒を狙ってくれているお陰で身体に当たることはない。ただし、相応の力を乗せて投げてきているので、先ほど手ほどきを受けた方法でないとうまく打ちかえせないことをリュカは実感した。
そんな三人の元へやってきたのはプリンだった。つい最近キーラの支配から解放された新たなファイターで、自分も混ぜてほしいとおっさんのコートの裾を引っ張る。
「ああ、プリンか。悪いが今は見てのとおり、リュカの相手をしてるんでね。別の奴に構ってもらってくれ」
門前払いを食らったプリンは頬を膨らませて怒った顔をするものの、相手にしてもらえなかったので言われたとおり、別のファイターたちの元へと足を運ぶ。
初代はスネークと共にいた。話している内容はいかがわしいもので、男だけの世界に入っているようだった。
「……なるほどな。そんな手もあるのか」
自分では到底思いつくことのない、あんなことやこんなことをスネークから教えてもらった初代は良いことを聞いたと悪い笑みを浮かべている。もちろんお返しとして自分の経験したことを話してやれば、スネークも色々と想像を膨らませたようで、こちらもなかなかに悪い笑みを浮かべた。
これを聞いているのはカービィだが、彼にはよく分からなかったのか、終始興味なさそうにしていた。
そこへやってきたのは、おっさんたちに相手をしてもらえなかったプリン。自分も混ぜてほしいと身振り手振りで注意を引こうとするものの、初代とスネークには気付いてもらえず素通りされてしまう。カービィはプリンの存在に気付いたものの、自分に声をかけられているわけではないと判断したようで、特に気に留めることなく初代とスネークの後について歩いていった。
またまた相手にしてもらえなかったプリンは頬を膨らませ、怒った顔をする。もういいとそっぽを向いた後、最後の組の元へと足を向かわせた。
残りのメンツはというと、戦いについての話をしていた。
肉弾戦を得意とするマリオ。剣術に長けたマルス。銃の扱いに心得があるフォックス。長所と短所を伝えあい、補わないといけない部分や誰に任せるべきかなどを共有しあっていた。
この会話に耳を傾けているのはダイナ。戦いへの意識を高く持っている彼女にとって、経験者の言葉は各戦闘スタイルへの対応の幅を広げられる絶好のチャンス。とにかく吸収したいことが山ほど出てくる会話で、今までにないほど魅力的な時間だった。
そこへやってきたのは、初代たちに気付いてすらもらえなかったプリン。話をしている者たちの服を引っ張ったりして、構ってくれと自己を主張する。
はじめは、何だどうしたとプリンに意識を向けた面々だったがプリンを構うことはなく、すぐに戦闘への熱を入れなおした。なおもすがろうとするプリンを止めたのはダイナ。何か言葉をかけるわけではないものの、瞳が静かにしていてと言っているようなものだった。
誰にも相手をしてもらえなかったプリンはとうとう行動に移る。それぞれに歩みを進める誰よりも先頭に立ち、この先は行かせないと両手を広げて阻んだ。
これには全員が足を止め、プリンの方に視線を向ける。ようやく自分に意識を向けてもらえたわけだが、邪険に扱われた怒りが収まることはない。怒りをぶつけるため、プリンが取った行動は“歌う”ことだった。
「ま、待てプリン! 歌うの……は……」
「やべ……聞いちま……った……」
「なんで……歌う、の……」
プリンに一番近かった初代が真っ先に意識を手放す。続いてスネークやカービィも地面に寝転んでしまった。おっさんも膝をついてしばらくの間抗っていたものの、とうとう地面に突っ伏した。リュカとオリマーもおっさんを枕にするように眠ってしまう。
少し距離があったマリオたちもプリンの歌には敵わず、一人、また一人と眠ってしまうのだった。
観客を全て眠らせたことに気を止めることなく、気持ちよく歌いきったプリンは満足したのか、自身もおっさんを枕にして寝てしまった。
プリンの歌には、相手を眠らせる力がある。普段から歌われるのは困りものだが、休息を取らせるために眠りへ誘えると思えば悪くない。使い方さえ間違えなければ、心強い……かもしれない。