Encounter with quiet boy

まだ歳にして十になるかどうかというような、幼いファイターが救出された。
彼の名はリュカ。歳の割には何かを悟っているような雰囲気を持ち、大人しい少年だ。PSIという超能力を扱うことが出来ることもあり、ファイターとしての力は申し分なかった。
「リュカ、こっちに来てみろよ」
声をかけたのはおっさん。今は小さな田舎町で息抜きをしている最中で、一人で何をするわけでもなく座っているリュカを呼んだ。自分から話すことを滅多にしないリュカだが、呼ばれたことを無視するようなひねくれ者でもない。一体何の用だろうと心当たりがないまま、おっさんの元へとやってきた。
「ほら、ここ。ザリガニがいるぞ」
指さされた先には用水路があり、確かに赤い殻に身を包んだ小さなザリガニが数匹泳いでいる。
「……なんだ、反応が悪いな。ザリガニは嫌いだったか?」
別に、嫌いというわけではないが特別興味があるわけでもない。言ってしまえば、ザリガニを見せてどうしたかったのかが分からないので困った、というのがリュカの心境だった。
一方おっさんはというと、どう言葉を返そうか悩んでいるリュカには目もくれず、用水路に手を近づけたかと思えば素早くザリガニを捕まえ、どんなもんだと嬉しそうに見せびらかした。これでは、一体どちらが子どもなのか分かったものではない。
ザリガニの背を掴んでいたおっさんがもう片方の手のひらに移し替えようとした時、立派なハサミに指を挟まれてしまった。
「いてて。粋が良いじゃねえか」
指先からうっすらと血が滲む。挟まれる瞬間を目の当たりにしたリュカは慌てておっさんの手からザリガニを払い落とそうとしたが、心配はいらないとおっさんはリュカを阻んだ後、自分の手でザリガニのハサミを取り、水の中へと返してやった。
大した怪我ではないにしろ、やはり痛そうに見える。本当に何ともないのかと不安がるリュカに、怪我をした本人は気にするなと指先に唾をつけ、もう大丈夫だと安心させた。出血は止まっているし、傷口も深くない。この分であれば意識を向けていないといつ治ったかさえも忘れてしまうほどだろう。
「なんか、心配事を増やしちまって悪かったな」
リュカほどの歳の子であれば、まだまだ遊び盛りであるはずだ。しかし、彼の生い立ちまでは分からないにしても、纏っている雰囲気や超能力のこと、そしてファイターとして選ばれるほどの実力を見れば、普通と呼ばれる男の子たちと同じような人生を送ってきたとは考えにくい。
何より、リュカ自身が気付いているかは分からないが、ふと見せる心悲し(うらがな)そうな表情は見ていて辛いものだった。昔の自分と被って見え、同じような苦しみに耐えている子が他にもいるのだと思うと、どうもやるせない。
だから、少しでも気を紛れさせてやれればというおっさんなりの気遣いだった。不甲斐ない姿を見せてしまう羽目になったが、リュカとしては気にかけてもらえたことが嬉しかったようで、ありがとうと言った。
「……独りで抱え込み過ぎるなよ」
おっさんは呟いただけのつもりだったがリュカの耳にはしっかりと届いていたようで、小さく首を縦に振ってくれた。