Devil’s Happy New Year

「5」
 クラッカーを手にしたネロが数字を口にする。
「4」
 おっさんも楽しそうに数字を続ける。
「3」
 同じように若も張り切って数を減らしていく。
「2」
 柄にもなく二代目もクラッカーを手に続く。
「1」
 締めの数字を初代が言い、そのすぐ後にクラッカーの乾いた音が部屋を満たす。
「Happy new year!」
 Devil May Cryに響き渡るは新年を迎える声。ダンテーズはもちろんのこと、ネロにダイナ、さらに珍しくバージルの声もが重なった。
「ダイナが作ってくれた料理、冷めないうちにさっさと食おうぜ!」
 クラッカーのゴミをそこらに投げ捨て、テーブルに並べられた料理に早速手を付ける若。これに続くようにおっさんと初代も食事に手を伸ばした。
 所狭しとテーブルに上には焼きたてのピザが何種類も並べられている。もちろんどれもオリーブオイル抜きだ。それ以外にも色とりどりな野菜が盛られた生ハムサラダやステーキなど、普段とは比べられないほどに豪華な料理が用意されている。
「悪いな、全部任せちまって……」
 おっさんたちが料理をがっつく中、ネロはダイナに申し訳なさそうにしている。
「押し付けられたと思っていない。仕事だったから、仕方ない」
 それに対してダイナは首を左右に振り、気にしないでとピザを一切れ手渡し、どうぞと促した。
 今日は1月1日。
 新しい年の幕開けである。それを祝って今日に限りダンテーズの大好物であるピザを数種類、ダイナが最初から焼いたという。そのためにわざわざ作り方も覚えたそうだ。また、その他のメンバー用にそれぞれ別の料理も準備するという徹底ぶり。これには口うるさいバージルも文句を言わず、黙々と食事に手を付けている。
「年明けなんて毎年嫌でも来るものだが、こうして賑やかなのは悪くないな」
「新年を祝うなんて、何十年ぶり」
 いつもはそれぞれが違う場所でたった一人、寂しい思いをしながらの年明けも、今年は違う。こうして美味しい食事を囲みながら、仲間と新年を迎えられる……。これ以上に良い年の始まり方があるだろうか?
「ほら、ダイナも遠慮してないで食えよ!」
「大丈夫、しっかり食べている」
 両手でピザを持っている若。その様子を見ながら普段と変わらず無表情のまま、ダイナもピザに手を付ける。
「手作りの味を知っちまったら、今度も作って欲しくなる」
「ああ。たまにでいいから、食べたいものだ」
 初代の言葉に同意するのは二代目。かなりお気に召したようで、ピザがどんどん片されていく。その隣ではステーキに手を付けるバージルと、サラダを食べているネロ。皆で囲む食卓は暖かく、そして今年も頑張ろうと思えるものだ。
 食事の感想を述べたりバカ騒ぎしていると時間というのはあっという間に過ぎていき、気づけばほとんどの食べ物がみんなのお腹の中へと収まっていた。
「食後のデザートもある。……食べられそう?」
「ダイナは本当に気が利くな。冗談抜きで嫁に来ないか?」
「持ってくる」
 新年早々のおっさんからのからかいを華麗にスルーし、食後のデザートであるストロベリーサンデーを四つ運んでくる。
「私たちは、こっち」
 ダンテーズには安定のデザートを手渡し、バージルとネロには別の物を用意したようで、クッキーの入った皿が用意された。
「クッキーって、随分と普通だな」
「甘いのが苦手なの、知っている。そこまで食べないのも分かっているから、これぐらいかな、と」
「十分だ」
 食後のデザートを求めない人に準備するとなると、何を出すか悩むわけで。それなら手軽で尚且つ甘さを控えられるものがよいとしたようだ。事実、二人には受けが良かったようで、苦情が上がることはなかった。
 そもそもの話だが、こうして“新年を祝う”という風習は彼らにない。それを今回行っているのは、ダイナの父が日本という独特な文化を持つ国の生まれであり、それを少し模した行いに過ぎないのだ。
「どうだダイナ。新年を祝う感じ、それっぽいか?」
「私も父の言っていたのをそれっぽくしてるだけだから、合っているかは分からない」
「細かいことはいいだろ。俺たちがこうして楽しいんだからさ」
 若の言葉にその通りだと納得したメンバーたちは頷き、それぞれ食後のデザートを楽しむ。一癖も二癖もある仲間たちと過ごす時間はあっという間に過ぎ、気づけば夜が明け、朝日が昇り始める。
 陽の光を窓から感じれば、眠気が襲ってくる。
 大きな口を開けてあくびをする者。うとうとと舟を漕ぐ者。目を閉じたが最後、寝息を立てる者。目をこすって眠気に抗う者と、様々だ。
「お開きだな。片付けは俺がしておこう」
「なら、俺はお子様たちをベッドに運ぶとしますかね」
 食器の片付けを二代目に任せ、おっさんが初代の方を軽く叩く。すると少しだるそうにしながらも、大体どういう話の流れになったのかを感じ取ったようで、先に寝ると言い残して階段を上がっていった。
 次にバージル。起こそうと近寄れば気配で目を覚まし、彼も無言で自室へと向かっていった。
 ネロとダイナは起こせば起きるのだがその場を動こうとせず、再びまどろんでいく。これでは埒があかないと判断したおっさんはネロをお姫様抱っこしようと腕を伸ばすと、何か悪寒を感じ取ったのだろう。ガバリと起き上がり、逃げるように自室へと駆けあがっていってしまった。
 ダイナは無抵抗で規則正しい寝息を立てながら、おっさんにされるがまま抱き上げられる。そんな彼女を部屋へと運び込む前に、一度キッチンへと立ち寄る。
「見ろよ二代目。ぐっすりだぜ」
 洗い物をしている二代目は手を止めることなく、視線だけをおっさんの方へとやり、彼の腕の中で身じろぐダイナを見た。
「……気を許しているからこそ、だということは理解しているのだが」
「まったくだ。こうも無防備じゃ、何されたって文句は言えないってのに。……困ったお姫様だ」
 今でこそ、家族と言っても差し支えないほどまでに気を許しあっているが、蓋を開ければ血の繋がっている六人の男どもの中に一人の女性が一つ屋根の下で生活しているというのは、誰にどう弁解しようがアウトだろう。
 しかもダイナは“スパーダの家族を守る”という使命に関しては異様なほどの執着を見せる。そこに至るまでの経緯を知っていれば多少なりとも理解の余地が生まれるだろうが、知らない者からしてみれば完全にただの想い人だ。
 だがこれを咎められるとすれば関わっている者たちだけであるし、当の本人たちは良しとしている以上、ダイナのそういった部分が改善されるのはまだまだ先の話だろう。
「そんなダイナをついからかってしまうのは……俺たちが甘えているからなのだろう」
「ははっ。二代目からそんな言葉が聞けるとは思ってなかった」
 これもダイナのおかげだと茶化しながら彼女を自室へ運び込んだおっさんが降りてくることはなかった。残念なことに若は起こしても起きないことは試す前から明白なため、そのままソファに見捨てられてしまったようだ。
 後に、洗い物を済ませた二代目にようやく起こしてもらい、全員が自分の部屋にあるベッドできちんと寝たようだ。
 今年も、良い一年でありますように。