Stand a step behind Ep.5

「くぁ……、あっ……、ふぅ、ん」
「ダイナ、無事か? 今助ける」
「ひぁっ……ブランか……ノワー、ル……取って」
「どっちも地面に落ちたままだ。俺が撃ち抜く」
 ダイナは今、森中の蔓にがんじがらめにされていた。四肢を固定され、身体の隅々を蔓に這われている。ダンテは木々を飛び渡りながらダイナにこれ以上蔓が絡まないよう他の蔓を撃ち落としたり、リベリオンで引き裂いている。
「んぅっ……! へん、たい……!」
 ダイナに絡みついた蔓の動きは胸をいじったり、素股をしたりとやりたい放題だ。冗談抜きで、先ほど一度ダンテに抜いてもらったのは正解だったと、そんなことを考える。
「ちっ、ダイナに好き勝手してるんじゃねぇよ」
 ダンテの撃った銃弾がダイナを縛っている右手の蔓を貫く。自由になった右手を使い、身体ごと縛り付けられているレヴェヨンに手をかけ、自分の背中ごと引き裂く。
「ぐぅ! あ、がっ……ふっ!」
 ボタボタと血を流しながら身体の自由を奪っている蔓から切り裂き、地面に着地する。そしてノワール&ブランを拾い、乱射する。
「派手にやるな! 俺もノってきたぜ!」
 ダンテも華麗に銃弾を避けながら、ダイナの撃ち漏らしを狩りとっていく。そして銃撃音が鳴りやめば、森に静寂が訪れる。
「……殲滅、終了」
 そういったダイナの背中には大きく一筋の引き裂いた痕がある。だが、じわじわとその傷は塞がっていく。
「相変わらず無茶するぜ」
「あの場では、最適解。ダンテの援護、完璧。あれ以上の自由を奪われるのは、得策ではない」
「とはいえ、やり過ぎじゃないか? いくら他の悪魔より治癒能力があるからって、今のはいただけないぜ」
「一つなら、深くても関係ない。数で来られる方が、私は辛い」
 そんな流暢な会話をしている内に、ダイナの背中に合った傷は痕も残さず綺麗に治っている。破れた服まではどうしようもないが、ダイナはさほど気にしていない。
 武器たちを所定位置にセットし直し、三か所目の寺小屋へと歩き出す。ダンテもそれに続くように足を進める。
 二か所目の壺も封じたことにより、森の中はさらに視野が広くなった。おかげでわざわざ木を飛び移らなくてもよくなり、地面を普通に歩く。しかし、いいことばかりではなかった。先ほどもそうだったが、ダイナが蔓に捕まったのは三か所目に向かう途中でもう二度目の事だった。
 原因は蔓の数が増えていること。後はダイナの疲労具合だ。壺を蓋するため、色に当てられるというのはかなり精神力を削る。自身の内に眠る欲、それを尋常ではないほどにまで高められたものを抑え込む以上、疲労がたまるのも無理はない。
「ダイナ、性欲の方は大丈夫そうか?」
「その聞き方は、悪意がある。……真面目に返すなら、あの程度であれば無問題。日頃のダンテの方が激しい」
 森の中で襲い来る蔓たちはあからさまなダイナ狙い。そしてダイナを一度捕まえれば快楽の海へ沈めようと、女性の性感帯であろう部分を容赦なく嬲る。
 普通の女性ならばひとたまりもない。だが、残念なことに相手は半人半魔であるダイナだ。人以上の肉体に、人以上の精神力。これを堕とすのは容易ではない。
「まあ、ダイナを連れてきたのは正解だったな」
「それは、下心?」
「ないとは言わないさ。だがそれを抜きにしても、色とかいうのに当てられて一人で抜いてる所なんか想像したら虚しいだけだ」
「……別に、女でもそんな姿、需要ない」
 何が悲しくて、一人でこんな森奥深くで性処理をしなくてはならないのか。
「ま、そういう意味では俺ら向きの仕事だったのかもな」
「向いてる? 私、エッチなことは、ちょっと……」
「恋人だから、お互い気兼ねなく抱けるだろ? 後は純粋に腕の話さ」
「力量については、異議なし。ただ、恋人だったら抱いていい、という考えは、否定する」
「だが、ダイナは俺に抱かれるの、嫌じゃないんだろ?」
「……否定しない」
「だったら、俺ら向きだろ?」
 なんて、くだらない話をしている内に三か所目の寺小屋に付いた。扉を開けると当然のように中央には壺と、それを封印するための蓋がある。だが、それ以外にも何かが浮いている。即座に銃を構えたダンテだったが、引き金を引くことはなかった。
「アハハ、本当にすごい反射神経。撃たれるかと思っちゃった」
「……幽霊じゃなきゃ、撃ち抜いてる所だったんだがな」
 音として発せられている声というより、脳内に直接響くような声が二人に聞こえてくる。
 浮いている何かは、女性型の幽霊だった。
「……この森を作ったのは、貴女?」
「そ。……好きで作ったわけじゃないんだけどさ」
「原因は?」
「さあ……? 私もよくわかんない。気付いたら地縛霊みたいになっててさ。私、悪魔に犯されながら死んじゃってね。嫌な死に方だったけど、嫌な人生ではなかったよ。だけどまあ、やっぱ未練だったのかな? いつの間にか、こんなとんでもない森の主ってわけ」
 この森の主となってしまったという女性型の幽霊。死んでしまう間際の出来事が歪みを生み、このような異界を作り上げてしまったようだ。
「で、森の主様は、この森を消されないように邪魔しに来たってわけか」
「逆だよー。私も早く成仏したいんだって。だけどさ……ほら、この森って異常じゃない? いろんな人が足を踏み入れては快楽に溺れて死んでっちゃって、困ってたんだよね。手助けしようにも、こんな身体じゃ見守るぐらいしか出来ないし」
「……途方に暮れていた。そこに、私たちが来た」
「そうそう! いやもう本当、あの壺を封印するとかすごい精神力よね!」
 感心したように、女幽霊はうんうんと頷いている。
「で、何が目的で姿を現した?」
「見納めになるかな、と思って」
 聞けば、もう何年この森にいるか分からないほどの時を過ごした中でダンテたちのような強い人が来たのはこれが初めてのこと。彼らの登場に、普通の人たちではとてもじゃないがどうすることも出来なかったこの森を封印できるかもしれない最初で最後のチャンスだと思ったのだ。もしも二人のような手練れでもこの森を封印できなかったら、自分は一生この森の主として生き続けることになる。もし封印してもらえれば、はれて成仏。だから、どんな人たちが希望を与えてくれたのかと見に来たらしい。
「それだけか?」
「それだけ」
 女幽霊はそう言い切り、どこに行くわけでもなくふわふわと宙を漂う。
「まあ、後は謝罪? 望んで作ったわけじゃないけど、作っちゃったのは事実だし。巻き込んで、ごめんね?」
「……人知れず、そういったことに巻き込まれてしまうこともある。この森は、封印する」
「ま、適当な所から見とけよ。こんな色程度には溺れない。……ダイナは、最高の女だ」
「ハハ、本当……眩しいぐらいだよ。……ありがとう」
 お礼を言い残し、女幽霊は霧散していく。別に森の主から解放されたわけではない。きっとどこかからか、二人を見守っているだろう。
「……森を封印する理由。私たちが元の世界に帰る為以外にも出来た」
「そうか? 別に依頼を受けたわけじゃない。目的は森からの脱出だけさ」
 ダンテの皮肉交じりの言葉に、ダイナはただ頷き、壺へと近寄る。その気配を感じ取ったのか、壺は煙をいつもより多く、吐き出し始める。
「ふっぅ……、ぁ……」
 三回目ともなると身体が慣れてきたのか、ダイナはそこまで乱れることなく、壺の前まで進む。……だがそれは、完全に見当違いだった。
「っ……? あっ! やっ、だぁ……!」
 何かが背中に触れた気がしたかと思えば小屋の床を突き破り、ぬるりと液を分泌しながら何かがダイナの身体に纏わりつく。
「何だこいつら、どこから湧きやがった」
 今までと違ったのは、ダンテも束縛してきたことだった。まるでローションのような滑る液体を全身に浴びたダンテは嫌悪丸出しの顔で銃を手に取る。だが、何かが撃たせまいとダンテの両手首を縛りあげ、照準を定められない。
「ひぃん! あっあぁん! ダ、メ……んあぁ、あぁぁっ! あんっ、あぁん!」
「ダイナ! しっかりしろ!」
「そ……んなぁぁ……! ぅぁっ! イ……ク……!」
 ダイナは色に当てられているせいで、軽く全身を擦られるだけで絶頂してしまう。
 二人を襲ったのは今までの蔓とは全く違うものだった。表現するならば触手というのが一番正しい。ダイナには一本の触手が全身を舐め回すように這いずり、分泌する液を擦り込ませていく。
「やぁっ……身体……おかし……く……っ! はっ、あぁ、んはぁ……!」
 その行為だけでダイナはさらに何度か果ててしまう。ダンテの方も全身にかけられた液はダイナに擦り込まれているそれと全く同じもので、自身の身体が熱く火照りだすのを感じていた。
「こんな時に真打登場か。なかなかやってくれるじゃねぇか」
 ダンテは悪態をつきながら縛られている両手を筋力だけで無理やり角度を変え、触手に銃弾を何十発と食わせる。千切れた触手は床に落ち、何度かビチビチと痙攣をした後、動きが止まった。
 自由になったダンテは即座にダイナに絡みついている触手を狙い、躊躇いなく撃つ。
「はっ……うっ、ぐっ……、蓋……を……」
 触手によって持ち上げられかけていた身体が床に落ちる。鈍い痛みに顔を歪ませるが今のダイナにとってはいい気付け薬となり、快楽という果てしない欲を抑え、壺に蓋をする。
 こうして、三か所目の壺も封印することが出来たのだった。