Stand a step behind Ep.4

 次の目的地に向かうため、二人は先ほどと同じく木に登り、適当な高度を保ちながら身軽に木から木へと渡っていく。
 違うことを挙げるとすれば、若干靄が晴れて視界がよくなったことと、一か所目に向かう時より、森からの攻撃頻度が増えていることだろうか。
「さっきまでが可愛く見えるぜ」
「……しつこい」
 ダイナを追い回す蔓を二人は銃で撃ち落としながら、二か所目へと急ぐ。
 ダンテはエボニー&アイボリー。ダイナはジェラルミンケースを捨て、レヴェヨンを背負い、両手にノワール&ブランを持って撃ち続けている。
「よし、今ので最後だ」
「急ぐ」
 襲い来る蔓すべてに銃弾をプレゼントし終え、二人は軽く息を吐いて先を急ぐ。そしてようやく、二か所目の寺小屋にたどり着く。ここも一か所目と同様、ピンク色の煙で靄が異様に濃くなっている。
「さて、次はどんな欲を増幅してくるか……」
「……耐える。ダンテは、周囲警戒」
「ああ。……無理するなよ」
 コクンと頷き、ダイナは寺小屋の扉を開ける。そこにはやはり、中央に煙を噴出している壺と、それを閉じるための蓋が置かれている。
 ダイナは意を決し、一歩ずつ、ゆっくりと壺へ近づいていく。ダンテも中に入り、周囲に意識を配る。ギシ、ギシ……。ダイナが一歩ずつ進むたび、床が軋む音が響く。
 まるでその音に反応するように、壺から溢れる煙が、ダイナに纏わりつきだす。
「ひっ! あ……!? なん、でぇ!」
 ダイナは自分の身体を抱きしめ、何かの欲と戦いだした。
「あぁっ、あぁ……ほ、しい……。欲しい、のぉ……!」
「財欲か……?」
 何かを必死に欲しがるダイナ。ダンテはそれを財欲と読み、その欲に勝てることを見守ることしか出来ない。しかしダンテは下心ながら、いい機会だとも思っていた。
 普段何も欲しがらないダイナの本音が聞ける可能性がある。本心は何を求めているのか? そのことに、興味があった。……だがこの壺が吐き出す欲は、財欲などではなかった。
「ふあぁ! おかしく、なるぅ……! あっあぁ、あぁ! ダ、ダメ……! ダンテが……見てる、からぁぁ!」
 ダイナの手は、何度も自分の股へと伸ばされては、引っ込めるを繰り返していた。そんな彼女の意識を溶かさんと、壺は煙を吹き出し続ける。
「ふ、たぁぁ……蓋をする……! それで、終わ……りぃ! ああぁ! イク……ふやぁぁぁ!」
 蓋に手を伸ばしていたが、何かが限界に達し、ガクリと地面に倒れこむ。しかしそれでも強靭的な精神を保ち、蓋を手に取る。
「やら、ないとぉ……、ダンテ……来ちゃ、それは……ダメ……」
 ダイナの言葉を聞き、ダンテはその場を動かず周囲の警戒に努める。それこそが、二人の信頼の証だ。ぶるぶると震える手で壺に蓋を置くとピタリと煙が止まり、次第に空気も正常なものへと変わっていく。
「はっ! はぁー……はぁー……」
 そうしてダイナは気が緩んだのか、深呼吸を繰り返す。ダンテも警戒を解き、ゆっくりダイナに近づき、身体を支える。
「一か所目と反応が酷似してたが、どんな欲だったんだ?」
「んぁぁ……、あっ、これも、色欲……。私の予想、外れてた」
「ってことは、他も全部色欲か?」
「……多分」
「この森は欲求不満か」
 ダンテはやれやれといった様子でダイナを見る。紅潮した顔、火照った身体、荒い息遣い、独特の甘い匂い。色欲に当てられていないダンテだが、そんな高揚しきったダイナを見れば性欲が沸く。
「あの煙、媚薬、的な効果。嗅ぐだけで、イッちゃう……」
 ポツリと、ダイナが弱音を吐いた。……いや、弱音ではない。
 ダイナの顔は、男を……ダンテを誘う顔だ。短期間に大量の色欲に当てられたせいで、今のダイナの頭の中はダンテとの行為の事しか思い浮かばない。
「おいおいダイナ、こんな所でしたいのか? 俺は構わないが……」
 ダンテとしては、積極的に行動するダイナも見たいという欲がある。それにこういった欲は、我慢を重ねれば重ねるほど深くはまっていく。なれば、ここで一度抜いてあげるのも手だと考えているようだ。
 ……無論、下心はあるだろうが。
「今、煽るの、いけない……」
 ダイナの意識は混濁している。普段の意識と、性欲を処理したいという意識が入り交じり、かなり不安定だ。
「残り三か所も全部色欲なら、ここで一度抜いたほうがいいんじゃないか?」
「ダンテっ! 誘惑、ダメ……!」
 身体は求めている。しかし、一度それをしてしまえば処理なんて生ぬるいもので帰ってこれるのか? それが脳裏をかすめ、ダイナを抑え込んでいる。
「どれだけ乱れたって、ダイナなら大歓迎さ。……それに、そんな色っぽい姿をずっと見せられているとな。俺にも限界はあるんだぜ?」
 ダンテの本音は、恐らくこれだろう。ダイナもそれを聞き、自分だけがエッチな気分なわけではないという言い訳をし、もう我慢できないとズボンを脱ぎ捨てる。
「もっ、ダメ……! ダンテ、刺激が欲しい!」
 誰も触っていないはずの下着は驚くほどに濡れており、ダイナの割れ目に吸い付いているように見えるほどだ。ダンテのズボンが汚れることも構わず、ダイナはダンテの太ももにまたがり、腰を動かす。
「あぁっ! はぁ、あぁぁんっ! ダンテが、悪いのっ……、誘惑するから……! ひあ、あぁぁ……」
 ダンテの胸板に手を当てバランスを取りながら、激しく腰を振り股をこする。布がこすれる音、ぐちゅぐちゅと卑猥な水滴音、あんあんと喘ぐダイナの声。それに気を良くしたダンテも足を動かし、ダイナへさらに快感を与えていく。
「ひあぁん! 気持ち、いいっ! 良すぎぃ……あぁっ! イクぅ……! あああぁぁん!」
 ガクンとダイナがバランスを崩し、ダンテに倒れこむ。秘部からはとめどなく溢れ出る愛液。下着はもう吸いきれず、溢れた愛液はダンテのズボンを湿らせていく。
「ぅ……ぁ……? わた、し……」
「スッキリしたか?」
 肩で息をしながら、ダイナは我に返る。
 煙で誘われた軽い絶頂ではなく、自ら求めて貪った快感と、ダンテによって導かれた絶頂は比べ物にならないほど気持ちよかった。自分でも驚くほど、今は意識がはっきりとしている。
「あっ……私、はしたないこと……! ごめん、なさい……」
 自分の姿と、ダンテの汚れたズボンを見て大体の事態を把握したダイナは顔を真っ赤にし飛び降りる。近場に投げ捨ててあったズボンを手に取って履こうとし、動きが止まった。
「俺は気にしていないさ。……履かないのか?」
「履きたい。ただ、下着がこれでは……」
 ぐっしょりと濡れそぼった下着。いつまでも履いているのは辛いが、替えがあるわけでもない。少し悩んだが、ダイナは諦めたようにそのままズボンを履いた。
「いいのか?」
「この後のこと考えたら、どうせ替えがあっても、同じ」
「そうか。今後も壺を閉じた後は、抜くのを手伝った方がいいか?」
 ダンテは今回の出来事を若干楽しんでいる節がある。まあ、普段見られない彼女の積極的な姿が見れるというのは、彼氏冥利に尽きるのだろう。
 もちろん、彼らが相当の実力者で、壺を封じられるほどの精神力の強さや、森で襲い狂う蔓たちを捌き切れているからこその余裕ではあるが。
「……また、お願いするかもしれない。疲労はある。ただ、今はかなりいい感じ」
「なら、この調子で三か所目も封印しに行くか」
 二人は次の色欲の壺を封じるため、小屋を後にした。