第24話

「……ザックスさん、体の具合は?」

「もう、大丈夫だ。何時も心配ばっかかけて、ほんとわりぃ」

「いえ。……ただこうしてかくまうことしか出来ず、申し訳ありません」

「それが今は、すごい助かってるんだ。俺も、クラウドも、エアリスも。

 行き場もなく、周りの人に怯える日々。それから解放されただけじゃなく、

 こうして異界探索までさせてもらったり、面白い仲魔がいたり……。

 クラウドが一番神経をすり減らしていたんだ。だけど、今はそんな感じはまったくない。

 勘だけどさ、なんか……いい方向に向かってる気がするんだよ」

「……そうですか。3人とも落ち着くまで、この異界を家と思っていただければ。悪魔だらけですけど」

「じゃ、働いて悪魔をやっつけねーとな!」

「2層を走破したかと思えば、なぜこんな大物の死体が……」

「焼け焦げています。【よほど高位の火炎の術】でもなければ、こうはなりません」

「そいつは【薔薇女】の仕業だど?」

「コボルトか」

「火神、知り合いですか?」

「1層にもいた。どうやら、各層に巣を作ってるみてーだ」

「出すもん出すなら、いいこと教えてやるど?」

「何が欲しいのですか?」

「資源2つで【上の階のマップ】

 さらに資源3つで【階層ボスの概略】

 どうだど? おらは美味しい話だと思うど」

……これだけ大型の悪魔ですら焼け焦げている状態だ。

資源を惜しんで命を危険にさらす必要はないでしょう。

「では、これで」

「おお、こいつ太っ腹だど! カモだどカモ!

 おらたちは【塔の端】が住処だど。隅から隅まで探せば見つかるど」

遭遇するには天塔の各層ずつをくまなく探せ、と。

「上の階は、実は円柱の立ち並ぶ【広い空間】になってるど。

 最大戦闘人数は3人、【登った瞬間すべて開示されると同時に戦闘開始】だど。

 階層の主は【薔薇女】って呼ばれてるど?

 【龍の眼光】ってスキルを持ってて、通常の悪魔の三倍強いど。

 そこの悪魔も、普通の二倍くらいは強いけど、一捻りだったど」

「……死体を見る限り、そうなのでしょう」

「なんか【すげーアイテム】を抱えたおかげで、【龍の眼光】を得て無双状態みたいだど。

 で、その力で【下界に降りようと】してるど」

「降りようと? なんのために……」

「さぁ、そこまではしらんど。

 ……お、ボーナスまでくれるど?

 ならとっておきの情報だど。

 【薔薇女はパラを平均的に伸ばしてる】みたいだど。

 一番凶悪なのは【灼熱の花】ってスキルだど。

 【魔】の対決で勝てないと、問答無用で殺されるど。

 正直、おまえさんらは多分──魔力不足だど」

「仮に、私が【魔】特化の設計で悪魔合体して、

 主と2人で対決を挑んだ場合、どうですか?」

「マリア……っ」

「届くかもしれんど? おらも遠くからウロボロスとの戦いを眺めてただけだから、

 あんまり細かいスキルとなるとよくわからんとこもあるど」

「そうですか、分かりました」

「以上だど! じゃあ、また会うど!」

「ええ、ではまた」

「ダイナさま、提案します。私たちは【薔薇女】のデータを探るべきかと」

「敵情調査、ですね」

先ほどのコボルトの話で気になったのは【すげーアイテム】というものだ。

凄まじい力を有するほどのアイテム……。

私の中では、それは【宇宙卵】なるものではないか、と。

もしそうであるならば、とんでもないことだ。

しかも、何かを目的にこちらへと降りようとして来ている。とても放っておけない。

「相手のステータスを解析し、相手の能力にかぶせる形で戦う。大物食いの基本です」

「そうですね、では早速……」

敵情調査をして、【薔薇女】と呼ばれる悪魔のデータを入手した。

……正直、ひどいなんて言葉で言い表せないぐらいひどくありません?

「現在の状況を見て、ダイナさまがかなり特化型であられますので、

 奇跡的に魔法では相殺し合えるでしょう。

 しかし、それ以外の能力が点でダメです。

 とはいえ、私が悪魔合体を行い、ダンテ様をお呼びすれば、

 さほど脅威ではありません」

「ですが……マリアっ!」

「……今が決断の時です。

 仮にこの問題を先延ばしにしても、いつか向こうからやってきます。

 そうなれば私だけではない。ここにいる全員の命が危険にさらされるのです」

マリアの言う通りだ。もしここで戦いになれば、私一人ならどうとでもなる。火神も逃げられるだろう。

でも、涼太は? 黒子さんは? エアリスさんもザックスさんもクラウドさんも。

皆を、巻き込む。

「勝ちましょう、わが主よ。貴女にはもう、守るべきものがたくさんあるのですから」

「っ……そうですね、勝ちましょう。勝たねばなりません。

 でなければ、私たちが今まで築き上げたモノを否定する事になる。

 この出会いも、別れも、デビルサマナーの宿命です。

 ……貴女が消えて無くなるものとは思ってはいませんが。

 新たなる仲魔には私の中の紳士としての在り方、

 あなたに教えてもらったものを伝えたいと思います」

今が……決断の時。

「ただ、これだけは……。

 ありがとう。っ、ありがとう……ござい、ました──……っ」

邪教の館にて

「悪魔が集いし邪教の館へようこそ」

「お久しぶりです」

「完全造魔の生成から、各種悪魔合体の法則把握、COMPのアプリ調整まで。

 今日の仕事はどれかな?」

「悪魔合体をお願いしたく」

「……マリア殿でよろしいのかな?

 仲魔の希望と主の希望が沿わぬのは、往々にしてありうる事態だが。

 私はサマナーの希望を優先しますが?」

「ええ、天使としての格をみっつ上げる形で。

 スキルなども調整をお願い致します。……資源はこちらに」

「これはまた随分と用意してくれましたな。よろしい、では始めましょう」

「では、また」

「ええ、では、また」