「……ザックスさん、体の具合は?」
「もう、大丈夫だ。何時も心配ばっかかけて、ほんとわりぃ」
「いえ。……ただこうしてかくまうことしか出来ず、申し訳ありません」
「それが今は、すごい助かってるんだ。俺も、クラウドも、エアリスも。
行き場もなく、周りの人に怯える日々。それから解放されただけじゃなく、
こうして異界探索までさせてもらったり、面白い仲魔がいたり……。
クラウドが一番神経をすり減らしていたんだ。だけど、今はそんな感じはまったくない。
勘だけどさ、なんか……いい方向に向かってる気がするんだよ」
「……そうですか。3人とも落ち着くまで、この異界を家と思っていただければ。悪魔だらけですけど」
「じゃ、働いて悪魔をやっつけねーとな!」
「2層を走破したかと思えば、なぜこんな大物の死体が……」
「焼け焦げています。【よほど高位の火炎の術】でもなければ、こうはなりません」
「そいつは【薔薇女】の仕業だど?」
「コボルトか」
「火神、知り合いですか?」
「1層にもいた。どうやら、各層に巣を作ってるみてーだ」
「出すもん出すなら、いいこと教えてやるど?」
「何が欲しいのですか?」
「資源2つで【上の階のマップ】
さらに資源3つで【階層ボスの概略】
どうだど? おらは美味しい話だと思うど」
……これだけ大型の悪魔ですら焼け焦げている状態だ。
資源を惜しんで命を危険にさらす必要はないでしょう。
「では、これで」
「おお、こいつ太っ腹だど! カモだどカモ!
おらたちは【塔の端】が住処だど。隅から隅まで探せば見つかるど」
遭遇するには天塔の各層ずつをくまなく探せ、と。
「上の階は、実は円柱の立ち並ぶ【広い空間】になってるど。
最大戦闘人数は3人、【登った瞬間すべて開示されると同時に戦闘開始】だど。
階層の主は【薔薇女】って呼ばれてるど?
【龍の眼光】ってスキルを持ってて、通常の悪魔の三倍強いど。
そこの悪魔も、普通の二倍くらいは強いけど、一捻りだったど」
「……死体を見る限り、そうなのでしょう」
「なんか【すげーアイテム】を抱えたおかげで、【龍の眼光】を得て無双状態みたいだど。
で、その力で【下界に降りようと】してるど」
「降りようと? なんのために……」
「さぁ、そこまではしらんど。
……お、ボーナスまでくれるど?
ならとっておきの情報だど。
【薔薇女はパラを平均的に伸ばしてる】みたいだど。
一番凶悪なのは【灼熱の花】ってスキルだど。
【魔】の対決で勝てないと、問答無用で殺されるど。
正直、おまえさんらは多分──魔力不足だど」
「仮に、私が【魔】特化の設計で悪魔合体して、
主と2人で対決を挑んだ場合、どうですか?」
「マリア……っ」
「届くかもしれんど? おらも遠くからウロボロスとの戦いを眺めてただけだから、
あんまり細かいスキルとなるとよくわからんとこもあるど」
「そうですか、分かりました」
「以上だど! じゃあ、また会うど!」
「ええ、ではまた」
「ダイナさま、提案します。私たちは【薔薇女】のデータを探るべきかと」
「敵情調査、ですね」
先ほどのコボルトの話で気になったのは【すげーアイテム】というものだ。
凄まじい力を有するほどのアイテム……。
私の中では、それは【宇宙卵】なるものではないか、と。
もしそうであるならば、とんでもないことだ。
しかも、何かを目的にこちらへと降りようとして来ている。とても放っておけない。
「相手のステータスを解析し、相手の能力にかぶせる形で戦う。大物食いの基本です」
「そうですね、では早速……」
敵情調査をして、【薔薇女】と呼ばれる悪魔のデータを入手した。
……正直、ひどいなんて言葉で言い表せないぐらいひどくありません?
「現在の状況を見て、ダイナさまがかなり特化型であられますので、
奇跡的に魔法では相殺し合えるでしょう。
しかし、それ以外の能力が点でダメです。
とはいえ、私が悪魔合体を行い、ダンテ様をお呼びすれば、
さほど脅威ではありません」
「ですが……マリアっ!」
「……今が決断の時です。
仮にこの問題を先延ばしにしても、いつか向こうからやってきます。
そうなれば私だけではない。ここにいる全員の命が危険にさらされるのです」
マリアの言う通りだ。もしここで戦いになれば、私一人ならどうとでもなる。火神も逃げられるだろう。
でも、涼太は? 黒子さんは? エアリスさんもザックスさんもクラウドさんも。
皆を、巻き込む。
「勝ちましょう、わが主よ。貴女にはもう、守るべきものがたくさんあるのですから」
「っ……そうですね、勝ちましょう。勝たねばなりません。
でなければ、私たちが今まで築き上げたモノを否定する事になる。
この出会いも、別れも、デビルサマナーの宿命です。
……貴女が消えて無くなるものとは思ってはいませんが。
新たなる仲魔には私の中の紳士としての在り方、
あなたに教えてもらったものを伝えたいと思います」
今が……決断の時。
「ただ、これだけは……。
ありがとう。っ、ありがとう……ござい、ました──……っ」
邪教の館にて
「悪魔が集いし邪教の館へようこそ」
「お久しぶりです」
「完全造魔の生成から、各種悪魔合体の法則把握、COMPのアプリ調整まで。
今日の仕事はどれかな?」
「悪魔合体をお願いしたく」
「……マリア殿でよろしいのかな?
仲魔の希望と主の希望が沿わぬのは、往々にしてありうる事態だが。
私はサマナーの希望を優先しますが?」
「ええ、天使としての格をみっつ上げる形で。
スキルなども調整をお願い致します。……資源はこちらに」
「これはまた随分と用意してくれましたな。よろしい、では始めましょう」
「では、また」
「ええ、では、また」