第21話

今日の朝も、ザックスさんは精神力だけでクドラクの暴走を抑え込んだ。

そんな彼を見て、クラウドさんは昨日ほど荒れる様子はなく、どこか達観していたように見える。

……良くない方へ向かわないことを今は願うしかない。

そんな彼らに見送られ、マリアとともに『死霊使い』の依頼をこなすべく現地へ。

ダンテと合流した……の、だが……。

「(この、状況は……まずい!)

 マリア、足止めをッ!
 
 ダンテッ! こちらへ!」

「分かっている!」

「■■、■■■■■■──?」

「いま、マリアが落ちました。COMPに情報だけで戻っています」

「……最悪だな。来るぜ、ダイナも覚悟はいいな?

 マジでイカれてるぜ、この依頼は……」

ギギ……と、扉と床がこすれる鈍い音。

「さあ、鬼ごっこです。たーくさん、遊びましょうね。

 何も我慢しなくていいのですよ、【アリス】?」

「わあい! 黒おじさん似のおじさん、ありがとう!」

アリスと呼ばれた少女。姿はあどけない。

どこか良いところのお嬢さん、人形のような華奢な体。

そんなことを彷彿とさせるが……今の私には、まさに悪魔にしか見えない。

「あっちのおにーちゃんは、いつかのまじめなおにーちゃんに似てるなぁ。

 おねーちゃんは、へんなおにーちゃんに似てるやー。

 おにごっこ♪ おにごっこ♪ たのしみだなぁ!」

「ダイナ! 先手を取る! 俺に合わせろ!」

「分かりました、援護します!」

「2人とも速いんだね! 全然追いつけないや……」

「そこだっ!」

「いったあぁい! ……でも、……えへへ、捕まえたっ」

「ダンテッ!」

嘘でしょ! あのダンテの脳天割りを直でくらって立っているだなんて……!

「ちゃんとおねーちゃんとも遊んであげるから、安心してね?」

「っ! こいつ……俺の力をっ……!」

「ぁ……くっ! これだけ離れているのに、平気で吸い上げて……!」

これが青峰さんたちが言っていた、カラッカラの死体が出来上がる原因!

間違いない、吸血系のスキル! 干からびる前に、倒し切らないとっ!

これだけでもまずい状況なのに、まだ不安要素が減らない! 何か……何かまだある!

「良い感じに体力も戻ったから……

 ねぇ

 死んでくれる──?」

「──っ!」

「させないっ! ≪マハザンマ≫!」

間一髪! 今ダンテが落ちれば、間違いなく私も死ぬ!

「ナイスだダイナ! こいつを食らいなっ!」

「わわわっ! おにーさん、銃も上手なんだね!

 でもそんなに撃たれちゃ近寄れないよー」

「……もう、その必要はないぜ、ベイビー」

「えっ──」

「これで終わりだからなっ!」

「あっ……がっ……! 痛い……痛い……よ。

 黒おじさん似のおじさん……助けっ……」

アリスという悪魔の心臓部にダンテのリベリオンが突き刺さる。そして脳幹に2発の銃弾。

霧散していく体。……私たちの、勝ちだ。

「ああっ……あああ! アリス……アリス!

 行かないでくれっ、アリス!」

「短い間……だったけど、アリス……楽し……か……」

「……ったく、とんでもない悪魔を使役してくれたもんだ。

 次はお前だ、分かっているよな?」

「許さん……許さんぞっ! よくもアリスを──っ!」

「こっちの世界で好き勝手やったんだ。……今のてめぇにはその姿がお似合いだ」

「使役者も脳幹2発……」

「まさか、生かせとは言わないだろ?」

「……、反省の色も見えなかったし……」

「ならこの依頼はこれで完了だ。久しぶりに肝が冷えたぜ」

「本当に……。あまり、力になれなくてごめんなさい……」

「おいおい、そういうのはなしだぜ? あの時ダイナが勘づいたから、

 俺がここにいる。……それじゃ不満か?」

「うう、ん……。本当にダンテが無事で……よかっ……た……」

「今回の依頼のパートナーがダイナで、本当に助かった。

 だが依頼はもう一つある。その時はまた頼むぜ?」

「は、い……。がんばります」

「そんなに泣くなよ。公私混合はしないたちじゃなかったのか?」

「ごめ、なさ……切り替えます……から、少しだけ……待って……」

安堵したら急に涙が込み上げてきた。……自分でも、信じられないくらいに。

「俺としては嬉しいがな。……立てるか?」

「……んっ。もう、大丈夫です。心配をおかけしました」

「そうか。じゃあ、また今度だ」

「はい。次の依頼もよろしくお願いします」

「先日は最後までお傍にいられず、申し訳ありません」

「マリアが謝ることではありませんよ。危険な依頼を受けてしまった、私の落ち度です。

 それに貴女は最後まで庇ってくれた。……感謝しています」

昨日みたいにならないよう、これからはもっと依頼を吟味しないと……。

「……では、気を取り直しまして。本日は?」

「今日は引き続き天塔探索に行こうかなと。私とマリア、後ザックスさん、いけそうですか?」

「お、仕事か? ちょうど体を動かしたいって思ってたからな、もちろん行くぜ!」

「いいなー! 今度は私も連れて行ってね!」

「ザックス。……気を付けて」

「心配すんなよ! 俺は強いからな! なんたって……」

「私に勝ちましたからね」

「俺のセリフ!」

「ダイナさん、ザックスのこと、頼みます」

「もちろん、無理はさせませんから。……では、行きましょうか」

「普通に敵が強いのですが……。よく昨日、探索できましたね……」

「火神が偉大だったってことを今すげぇ実感してる……」

「ダイナさま、ここは一時撤退がよろしいかと」

「そうですね、しんがりは私が務めます。全員、速やかに撤退してください」

「じゃあ、やっぱり火神さんがいれば探索はいけるってことね!」

「お、おいエアリス、まさか……」

「クラウド! 火神さん! 探索行きましょ!」

「……ちなみに、何層の予定で?」

「もちろん、2層!」

「……火神、くれぐれも頼みましたよ」

「ああ、任せとけ!」

「今回も順調だったよ! はいこれ、いろんな道具があったの」

「探索、私よりエアリスさんたちのほうが上手? ということは異界経営も……」

「ダイナさま、お気を確かに」

おかしいな。エアリスさんと私だけでも倍近く、レベルが離れているはずなのに……。

「ま、そんなときもあるッスよ! 悲観するより、後輩サマナーの成長を喜べばいいんスよ」

「涼太が……すごくいいことを言っています。ですがその通りですね」

「今のさり気にひどくないッスか!?」

「ダイナさまの調子が戻ったところで、今日はどうしますか?」

「……そろそろ、妖精郷から受けている依頼をこなさないとね。

 いつまでも黒子さんが妖精郷から出られないのも、辛いでしょうから」

「……会いに、行かれるのですね」

「はい。……ついてきてくれますか? マリア」

「無論です」

「……よく分かんないスけど、気を付けて」

「ええ、行ってきます」