第7話

ガイア教道場にて

久しぶりにきたけど……本当、いつ見ても立派な偶像が並んでいることで。

外観は正直その……口が裂けてもきれいとは言えないんだけど……。

「(外から見ると破れ寺なのに、内部は広さも違う荘厳な空間。

 流石は【超人】の住まいといったところですね)」

「もしもし、お邪魔いたします……」

本当にマリアの言う通り。なんでこんなにでかいんだか……冷汗が止まらない。

「ん? 珍しい客も来るものだ。

 久しぶりだな、ダイナ」

【超人】丸藤亮。別に威圧されているわけじゃないんだけど……。

こう、いざ面と向かうといつもドキドキする。

恐らく世間でいえばイケメンなんだろうけど、業務の意味で話すとなると結構高圧的なのよね!

特に鋭い目とかね! 生まれつきなものだろうし、仕方ないんだけど。

「最近は随分とご無沙汰だったが。今日は、どういった用件だ?」

「あー……なんと申しますか」

目的はあいさつ回り。礼儀と節度をもって……。

「あいさつ回りに参りました。

 少し新しい事業というか、異界の管理人を任されることになりまして」

「ほう? それはまた……。

 一先ずはおめでとう、と言えばいいか?

 となれば、ご住所も変わるのか?」

まぁ、それは妖精郷で調べれば分かることだし、別に黙ってる必要もないか。

「はい、×××街のあたりの異界に拠点を構えることになりまして。

 それでその、任に就くにあたって、少しそちらと揉めてしまいまして……」

「ああ……そういうことか。

 事業を始めるにあたって、もめ事は気を遣うだろう。

 少し待っていろ」

何確認してるのかな。あー……この沈黙だけでもすんごい心臓に悪い。

大体家にいるあの人が原因なんですけどね!

「……今のところ、お前個人をどうこう、という話にはなっていない。

 ガイア教団は個人主義だ。下部構成員が抗争でやられた程度では、

 そうそう組織だっての報復、とはならん」

「そうですか。一安心、といったところです」

それが知れただけでも結構安心だ。今の私には最も必要な情報。

主に私の胃に穴を開けない意味で。

「だが、むやみな殺生はいただけない。

 それがメシア教であっても、あるいはガイアの者でも、悪魔でも」

「もちろん、『むやみな』殺生はしていないつもりですし、

 できるできる限りは回避したいと思っています。

 こちらが信じる秩序に反しない限りは、ということになりますが」

「やはりその点──分かり合えんな」

「悪魔の力の乱用を野放しにしておいては、かえってより多くの被害をもたらします。

【悪魔との共生】……その思想に、私は賛同できない。

 一定の秩序のもとに、弱者は保護されるべきである……。

 その考えは、今でも変わっていません」

「その秩序という枠組みこそが、悪魔を虐げ、押し込める檻。

 我々と悪魔はほんとうの意味で、ともに在ることができるはずだ」

「いや、それは貴方のような強者の理屈──。

 ……やめましょうか、非常に不毛です。

 スタンスは違えど、それでも私たちは【建設的な話し合い】ができるはずです」

「……そうだな。すまなかった、戯言だと流してくれ」

「いえ、こちらこそ。必要以上に反論してしまい、申し訳ない。

 お互いのスタンスの確認ができたと思いましょう」

「ああ。だが、考えを変えたくなったら、いつでも歓迎しよう」

「……貴方のような凛々しい男性にそう言われたら、

 その辺りの女性ならころっとまいってしまうそうですね」

「ふん、そういうお前がころっとまいってくれればいいんだがな?

 だか、こんな風に見えても、もうずいぶん長く生きている」

「……ま、実際問題、悪くないお誘いかとは思いますけど。

 神への信仰とは、曲がらず在ることに意味があると思いますから」

「……たとえ、俺がこの場でお前に仕掛けても、か?」
 
「こちらも、いつでも歓迎しますよ?

 と、同じセリフを返しておきます」

「……本当に、惜しい人材だ」

流石に、いくら手をあげようとしても、意志の感じられない威圧では私もたじろかないよ。

だけどまぁ、マリアとしてはたとえ嘘でも、私を守る立場上、構えざるを得ない……か。

「(大丈夫ですよ、マリア。まず、彼から本気で仕掛けるなんて、ないでしょうから。

 良い意味でも悪い意味でも、【人も悪魔も区別しないほどの許容性】を持つお方。

 正当防衛や緊急避難ならばともかく、無駄な理由で殺生はしませんよ。

 本人も仰るとおりに。

 事故で人間を潰せる巨人と、力の弱い人間が同じ家に住んでいるとして、

 力の弱い人間が被害を受けるかもしれないからと言って、

 巨人の方を一方的に枷でがんじがらめにすることは許されるのか?

 この場でいくら議論したって、答えは出ない。

 お互い【歩み寄りの余地の少ない部分】ですから、こればかりは)」

「……話題を変えよう。仕事は充足しているか?」

「あー……異界の方のアレが持ち出し状態で。

 まだまだ、利益をあげるには遠いな、といった具合です」

「何か依頼を紹介しよう。

 物資の調達や、戦闘の依頼、調査の依頼といったところだが」

「えーっと、依頼のリストを確認したりは?」

「無論、大丈夫だ。ただ、ものによっては詳細は受けてから、というのもあるが」

「では、そうですね。まずは、確認させてください」

手渡されたいくつかの依頼に目を通してみたけど……。

「うん。悪くないラインナップ。罠っぽい依頼もなさそうだし……」

「ダイナを陥れようとするほど、俺も性格は悪くないつもりだ。

 仲介する時点で、一目見てまずいものは排除してある。

 【一見まともに見えてまずい依頼】もあるかもしれんが……」

「えっと……、複数受けることは可能でしたっけ?」

「ああ、【複数の依頼の同時受注も可能】だ

 無論、受けたからにはこなしてもらう。

 失敗した場合は【相応の責任】を。……まぁ、罰金を頂く、とかだな」

「ガイアの依頼は久しぶりですが、形式は変わっていないようですね。

 だいたい【他の組織も同じ形式】だし、ありがたいことです」

「ああ、特に独自色を主張する必要もない。

【罠依頼を踏んだら自己責任】

【失敗したら自己責任】

【失敗が重なれば信頼を失う】

 逆に、同じ組織の依頼を多くこなせば、

【その組織との繋がりは深くなる】だろう」

「【より込み入った依頼を受けることも可能に】なり、

 その分、【その組織と繋がりが深いと見られる】ようになる。

 確認はそんなところですね」

「なら、どの依頼を受ける?」

『調達代行もとむ』『調査代行願い』『GIANT KILLING!』かぁ……。

今は少しでも依頼をこなして、資源がほしいところだから……。

「全部受けさせてください」

「……いいんだな? なら、早速だが『調査代行願い』の詳細についてだ」

「はい。お伺いします」

内容はメシア教の、とある人物の戦闘能力について調査してもらいたいというもの。

下手をすれば私の知り合いの情報を提供することになる可能性もある。

「どうやら最近、妖精郷辺りでうろついているメシア教の人物がいるらしくてな。

 名前は黒子テツヤというそうだ。見た目がそれっぽいからメシア教だろうと思われているらしい。

 が……、【そうでない可能性】もある」

あれ? 地雷依頼踏んだ? ないって思ったのになぁ……。

「黒子テツヤ……ですか。聞いたことないですね」

「お前で聞いたことがないとなると、新人か? まぁ、問題なのはここからだ」

やっぱ問題あるのか……。報酬の多さに目がくらんだかな……。

「唯一の目撃情報なんだがな。そこまで強くないわりに、気付くと姿をくらましていたそうだ」

「えっ……」

「とんでもない能力を持っている可能性があるということでな。調査してほしいということになった」

「……仮に、私が戦闘能力等の情報を提示できた場合、その黒子テツヤという人物の処遇は?」

「さぁな、それは俺の決めることじゃない」

……結構ヤバめかな。でも、逆に考えれば、私が先に押さえることが出来れば、保護できる可能性もある。

「まぁ、私も依頼として請け負う以上、きちんとこなして見せますよ」

「あぁ、期待している」

「それでは、本日はありがとうございました」

「またな……。そうだ、ひとつだけ言っておこう」

「なんでしょうか?」

「俺は個人的にお前のことを買っている。何かあれば、頼るといい。

 ……ただ、その時は色々とぶんどるとは思うが、門前払いはしないでやろう」

「お気遣い、感謝します。出来るだけそうならないように善処しますよ」

なんだかんだ、スタンスのことさえ目を瞑ればいい人なんだよねぇ……。