愛の形 第5話

「海杏もこの町中であれば一人で出歩けるようになったし、もう心配いらない……と、思っていたんだけど」

横で眠っている海杏の髪を優しく触りながら、何やらダイゴが独り言を話している。

「……んっ…………」

「起こしてしまったかい?」

「……すぅ」

「寝息か。……どうしたら、海杏から出かけるようになるかな」

最近のダイゴの悩み。それは海杏が必要以上に出かけようとしない事だった。足りなくなったものを買い足したり、庭先に出てポケモンと遊びに出たり、海を見に行ったりする姿は確かに見られる。しかし、特に人と関わりそうな場所へは必要でなければ絶対に近寄ろうとはしないのだ。

「ダイゴ……さん?」

「ごめん、起こしちゃったね」

「ううん……、へい……き」

うっすらと目を開けた海杏だったが睡魔には勝てないようで、布団の中で少しもそもそと動いたかと思うと、また気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

「ボクが誘ったらどんな場所にでもついてくるんだけどな。……それこそ、石探しのために洞窟の中だろうが、水中探索だろうが。……まぁ生まれてこの方、ご両親とボクを除いて人と関わったことがないのなら焦っても仕方ないか。それに、ボクのことだけを見ていてくれているのは凄く嬉しいし、これはこれで悪い気はしないんだけど」

ただ、自分の下心のために海杏の将来を狭めてしまうのも如何なものなのか。それがいつもダイゴの脳裏を霞めた。

「ん……」

寝ている海杏に軽くキスを落とし

「一緒に居ればいるほど愛おしくなるなんて本当、海杏は魅力的すぎる。外の世界を知ってほしいというのと同時に、誰の目にも触れてほしくないなんてわがままを言ってしまいたくなるほどに……」

そんなことを呟きながら、海杏を抱きしめてダイゴも眠りに落ちた……。

 

 

 

「んんー……、あれ……」

朝、目覚めようとしてうまく身体が起こせないため、疑問符を浮かべながらゆっくりと目を開く。見るとダイゴに抱きしめられ、身動きが取れない状態であることに気が付く。

「海杏、起きた?」

「あっ……ダイゴさん、おはようございます。……あの、起き上がりたい……」

朝食の準備を。と言いたげにダイゴの服の裾をクイクイと引っ張り、この手を放してと合図を送る。

「離してあげてもいいよ」

と、ニコニコしながら答えるものの、離す気配がまるでない。

「……?いつ、離してくれる?」

「海杏次第かな。ほら、いつもボクからだし、今日は海杏からしてもらおうと思って」

「えっ!それって、その…………。私から、ちゅう……?」

まだ起きたばかりでぼんやりとしていた顔は赤くなり、今では意識も完全に覚醒して恥ずかしそうにしている。

「ちゅう、か……。本当、海杏は可愛い言い方をするね」

「かわかわないでっ……。恥ずかしくて堪らないんだから……」

「ごめんごめん。ボクは目を閉じていたほうがいいかな?」

「うん……」

からかうのも早々に切り上げ海杏の頭をポンポンと撫でた後、ダイゴは顔をぐっと海杏に寄せ瞼を閉じた。それを見た海杏は早まる鼓動を抑えるように右手を胸に添え、震える唇をそっとダイゴの唇に押し当て、すぐに離れた。

「っ…………、そっけないなぁ」

「私からなんて恥ずかしいよっ!」

「もう2年になるのに、まだ慣れない?」

「どれだけ経ってもドキドキする……」

普段から受け身である海杏からダイゴに仕掛けることはまずなく、こうやってダイゴに言われた時ぐらいしかしない。そのため、いまだに初めての時みたいに緊張したり照れたりしている始末。ただ、ダイゴにとってはそんな海杏の姿もそそるものがあるようで……

「いつもボクからして、教えてあげてるんだけどな。……キスはこうするんだよって」

「そんな……、ダイゴさんみたいに上手にできないよ」

「大丈夫。海杏もそのうち出来るようになるから、ね」

「んっ!ぁ……ふぅ、ん……」

今度はダイゴから海杏に少し深めのキスをした。急なキスはよくあるのか、最初は驚いた様子の海杏だったが、すぐにダイゴに身体を預ける。

「……抵抗しないと、もっと深いのするよ?」

「そ、そう言われると……。でも、私はダイゴさんと触れ合えるの、すごく好き。だから、拒みたくない……」

照れながらもダイゴの目を見て伝える。それを聞いたダイゴはふぅ、と息を吐き出し方の力を抜く。

「まったく……、ボク以外にそんなこと言っちゃいけないよ?」

「ダイゴさん以外には、絶対そんな風に思わない……」

海杏の言葉を聞いて満足したのか、ダイゴはかけ布団を取り起き上がった。

「さ、起きようか」

「うん。今日もがんばって朝ごはん作る」

ダイゴに解放された海杏もベッドから起き上がる。こうしていつもの二人の一日が始まる…………はずだった。

 

 

 

「それじゃ、行ってくる」

「んぅ……。今日もお仕事がんばって」

「軽いキスでそんなに照れちゃって……と、これ以上ゆっくりしてると本当に遅れてしまうな。また夜に」

「もう……、気を付けていってらっしゃい」

毎朝ダイゴからのキスを受け、恥ずかしがりながらも身を案じて見送る。扉を開けてエアームドに乗って飛び立つダイゴの姿が見えなくなるまで、海杏はずっと目で追っている。

……海杏は未だにダイゴがどこかへ出かけていくのに慣れていない。それは十数年前に両親が帰ってこなくなってしまったのが原因だった。いつものように出かけて行ったまま、二度と家に帰ってくることのなかった両親。ダイゴもいつかそうなるのではないか?そう思うと出かけていくダイゴについ口走りそうになってしまう。

どこにも行かないで、と……。

だが、海杏もいつまでも子供というわけではない。ダイゴが出かけるのは仕方のないことだと割り切り、今日も一日を過ごす。

「大丈夫。今日も夜になればいつものようにただいまって、私を安心させるように帰ってきてくれるから。……私も今日こそはこれを完成させなくちゃ」

そういって棚にしまってあった何かの機械を取り出す。すると、それをモンスターボールの中から見ていたポケモンたちは早く出してくれとせがむようにカタカタと動き出す。

「そんなに慌てなくても、みんなに味見をしてもらうから心配しないで?……今日は天気もいいから、庭先で作ろうかな」

独り言もダイゴと共に過ごすようになってから増えた。一人になった時は何かしらの音を出して少しでも寂しさを紛らわす。その手段として言葉を口にするのが海杏の癖になっていた。ぶつぶつと独り言を言いながらかなり使い込まれた機械と、まだ最近手に入れたばかりと思われる新しい機械を持ち庭に出る。

「さぁみんな、出ておいで」

腰回りにつけてあった6つのボールからすべてのポケモンを出すと、海杏にすり寄るものやポケモン同士でじゃれあうもの、ボーっとしているものと、自由気ままに振る舞いだした。

「ごめんね、本当はボールにあまり入れておきたくはないんだけど……」

「ワタワター」

「チリーン」

海杏の言葉に反応して、気弱なワタッコやチリーンは気にしなくていいといった様子で首を横に振っている。それを見て申し訳なさそうにしながらも、海杏はありがとうと伝えるようにポケモンたちの頭を撫でていく。

「シャンシャン」

「シュィーン」

「あ、こら。またそんなことして」

海杏の服を引っ張っているのは、この2年の間でダイゴが集めてきてくれた珍しい石、やみのいしを譲り受けてランプラーから進化したシャンデラ。相変わらずいたずらが懲りないようで、同じくいたずら好きのウォッシュロトムと仲良く海杏やレントラーたちにちょっかいを出しては怒られていた。

「レェェン」

「チルー」

そして勇敢でいつもシャンデラたちのいらずらを止めているレントラーと、海杏のパートナーであり、共に過ごしているポケモンたちの総括を取っているチルタリス。この6匹と毎日平穏な日々を過ごしている。

「さぁみんな。今日こそはこの機械でおいしいポフィンを作ってみせるからね」

「シャンシャーン」

新しいほうの機械をポンと目の前に置き、スカートのフリルの内側からどこからともなく取り出したきのみ袋からいくつかのきのみを取り出し、早速ブレンドを始める。

海杏はポケモンのお菓子作りが特に好きで、ホウエン地方特有のポロック作りにはかなりの自信がある。そのため自分のポケモンたちの好物は勿論、ダイゴの手持ちポケモンの好みも把握するだけでなく、初めて出会った野生ポケモンたちのですら何味が好きなのかを当てられるほどである。

そしてシンオウ地方に行ったことがあるというダイゴの話を聞き、少しお願いをして最近ようやくシンオウ地方で有名なポケモンのお菓子、ポフィンを作る機械を手に入れたのだ。しかし、ポロック作りとはまた要領が異なり、全てのポケモンたちの好みに合わせられたポフィンが作れないでいた。

「シャンデラとウォッシュロトム、レントラーにチリーンの好みの味は作ってあげれるようになったんだけど、チルタリスとワタッコの分がまだなのよね……」

そういいながら手際よくポフィンキットの中に入っている生地をかき混ぜていく。焦がさないように遅すぎず、それでいてこぼさないように早すぎず……。

「ワタッ、ワタワタ」

「ん……。ワタッコが反応するということは、ようやく……かな?」

ポフン、とポフィンキットが白い煙を出すと、出口からコロコロと緑色の完成したポフィンがいくつか出てくる。

「チルゥ」

「チルタリスも食べてみる?……どれどれ、私も……」

ワタッコとチルタリスに与え、海杏も食す。お味の方はというと……

「ワタッコ!」

「チルゥー!」

ワタッコとチルタリスはおいしいと感じたのか、嬉しそうに顔をほころばせている。一方海杏は……

「~~~~っ!に……っがぁ……!うぅぅ、でも……この苦みが好きなのよね、2匹は……」

涙を浮かべながら苦みに耐えていた。

「君のポケモン……」

「えっ?」

そんな時、ふと誰かに声をかけられ涙を目下に溜めながら声のした方に顔を向ける。そこには白黒の帽子を被った長い緑髪に、何を見ているのか定かではない虚ろな瞳をした青年がいた。首や手首にもアクセサリーがつけ、さらに腰には立体スライドパネルというかなり特徴的なものがついている。

「今、話していたよね……」

「あの……、随分早口なんですね。それに、この子たちが話していたって……?」

「ああ、話しているよ。そうか、君にも聞こえないのか……。かわいそうに……」

謎の青年に声をかけられたかと思うと、ポケモンが話していると言われ、海杏の頭の上に大量のクエスチョンが浮かぶ。

「貴方には、聞こえるの?」

「聞こえるよ。僕の名前はN(エヌ)」

「わ……、私は海杏」

「このポケモンたち、今までもほとんどモンスターボールの中に入れていなかったんじゃないかな。なのに最近入れるようになった……。どうしてだい」

「そっ、それは……。ずっと、この子たちと一緒に居たいと思って。それで住む場所が変わる時、連れていく手段がなかったから、モンスターボールを……。どうして最近まで入れてなかったって分かったの?」

突然Nと名乗る青年に声をかけられたかと思うと、ポケモンたちの状態を当てられ、言いようのない不安が海杏を襲った。

「ポケモンはそれで幸せなのか。本当は故郷である森の中でのんびりとしていたかったんじゃないのかな」

「っ!…………、私は……」

「海杏と言ったね。貴女はとても魅力的だ。ポケモンの言葉は分からなくても、僕と同じように過ごしてきた人だって、この子たちが教えてくれたから。きっと、僕と分かり合えると思うんだ」

Nはそういって、ポフィンを作るために座り込んでいた海杏と同じ目線まで腰を落とし、ぐっと顔を近づけた。海杏はその虚ろな瞳に囚われてしまったように硬直してしまう。

「チルゥ!」

「あっ……!や、だっ……!」

しかし、チルタリスの鳴き声で我に返った海杏はNから距離を取るために震える身体を懸命に動かし、少しでもNから離れた。

「そのチルタリスだけは他のポケモンたちよりも付き合いが違うようだ。……貴女はポケモンたちをむやみに争わせもしない、僕の理想だ。もし、僕に興味を持ってくれたなら、ここへ会いに来て欲しい。……それじゃ、待っているよ」

そう言って何かを海杏に手渡すと、Nは何もなかったようにどこかへと去って行ってしまった。

「…………はぁっ、はぁっ!……今の人は一体……?ううん、そんなことより怖かった……。でも……」

一気に緊張感が抜け、呼吸を整える。チルタリス以外のポケモンたちも怯え、いまだに震えている始末だった。

「シュ……イィ……」

「シャンシャン……」

「……さっきの、Nって人が言っていた言葉。もしあれが本当だったら……?私は…………」

Nの言葉が海杏には相当堪える何かがあったのか、海杏は震える手でポケモンたちを触れるか触れないかの距離で撫でるような仕草をダイゴが帰ってくる夜になるまで続けていた……。

 

 

 

「海杏、今日は何があったんだい?」

「……っ……。…………」

夜、帰宅したダイゴの目に飛び込んできた光景は、庭先でただただ虚ろな瞳でポケモンたちを見つめている海杏の姿だった。チルタリスだけはダイゴの帰りに気づいて出迎えたが、他のポケモンたちは海杏同様、何を見るわけでもなく塞ぎこんでいた。ダイゴは取りあえず海杏のポケモンたちはモンスターボールにしまい、家に引きずる形で連れ込んで、食事などの支度をして今に至る。

「海杏……、ゆっくりでいいから、話してごらん?」

「っ……私……は……」

何度ダイゴが問いかけても、海杏はこれ以上口を開かない。

「……とにかく、ご飯を食べてお風呂に入っておいで。少しはさっぱりするだろうから」

「う……ん……」

そういってスープを飲むためにスプーンを持ち上げようとするが手が震えてしまい、うまく口元まで運べずにいた。

「ほら海杏、あーん」

「あ……あー……んっ、ん」

そんな海杏を見かねてダイゴは出来るだけいつものように接し、時間をかけてゆっくりと海杏に食事をとらせた。

 

 

 

「ふぅ、なんとかお風呂は一人で行けたね?」

「だって……。一緒に入る?なんて聞かれたら……」

「何度か肌も重ねあってるのに、やっぱり見られるのは恥ずかしい?」

「ま、まだ明るいところでは見られたことないっ……!」

顔を赤く染め、ダイゴに見られないように布団を深く被る。海杏は今ベッドの中でダイゴにからかわれている最中だ。

「海杏、今日は寝かせないよ」

「えっ、そ……それってっ!」

「さらに顔を赤くして、海杏は何を想像しているのかな?……なんて、ボクとしてもそういうことをしたいのはやまやまなんだけどね」

「ダ、ダイゴさんっ!」

恥ずかしさが頂点にまで登り、海杏はどうしたらいいか分からずダイゴの胸を両手で何度も軽くたたいている。ダイゴはそんな海杏を抱きしめ

「今日、何があったのか……聞かせてくれないかな」

静かに、それでいて先ほどまでのじゃれあう声とは異なる、深みのある声に変わる。

「そっ……それは……」

「海杏が今日持っていたこの地図はイッシュ地方のものだ。そこのカラクサタウンにマークが付けられているということは、ここに何かあるということ。……今まで出かけようとしない海杏がこんなものを持っているのは正直、自分で書いたというよりは誰かに手渡されたというほうが説明がつく。……違うかい?」

「……そのとおり……です」

「海杏、顔を上げて」

「私……んっ!?んんぅー!ぁ……んぁぁ……ぷぁ……」

ダイゴに話す決心がついたように勢いよく顔を上げた海杏だったが、唇を奪われただけでなくそのまま舌を絡められ、身体を震わせる。

「……うん。やはり海杏は思い悩んでいる顔より、こうして惚けている顔のほうが可愛いよ」

「も、もうっ!話す決心がようやくついたのにどうしてっ……!」

「だって、今にも泣きだしそうな顔をしていたから」

「あ、ぅ……それ、は……」

「ほらまた」

「ふっ……ぁ、ん……ん……」

キスを何度も浴びせられ、海杏からは今日一日の恐怖や不安が徐々に薄れていき、今はダイゴのことで頭がいっぱいになっている。ダイゴはそれが海杏の表情で分かるのか、嬉しそうに笑みを漏らしながらもう一度力強く海杏を抱きしめる。

「落ち着いた?」

「……うん、ありがとう。……今日はね、不思議な青年と会ったの」

「青年?」

「そう、Nって彼は名乗ったの。そして私にこう言った。”ポケモンが話してる”って」

「ポケモンが……話す?」

「私にも、その真意は分からない。だけどNは私のポケモンたちの声を聞いて、僕と同じように過ごしてきた人だって、この子たちが教えてくれたって言ったの」

海杏の話を聞き、ダイゴは左手で右肘を支え、右手を顎に当て考える仕草を取る。

「だからボクが帰ってきたとき海杏のポケモンたちも怯えて……。海杏は、そのNという人物の言葉を信じているんだね?」

「うん。……私のポケモンたち、チルタリス以外は……本当は、あの森に捨てられた子たちなの。だから、Nって人に出会って当時の境遇を思い出して、それに恐怖していたんだと私は感じた。あの頃のみんなは凄く臆病な子たちだったから……」

「そう、だったのか……。だから海杏だけじゃなくポケモンたちも、人への警戒心は相当強いんだね」

この街で過ごすようになって2年が経った今でも、海杏のポケモンたちは海杏とダイゴ以外には近寄ろうともしない。だからこそ今日のNを見て逃げたりしなかったのは、Nが海杏と同じ境遇であり生まれ育った雰囲気が似ていたからということを裏付けるものとなった。

「それなのに私、この子たちに辛い過去を思い出させてしまって……。それで私、あんなに取り乱しちゃって」

「海杏は本当、嘘が下手だね。……いや、それもきっと嘘ではないんだろうけど。本当に海杏が取り乱したのは、なんだい?」

ダイゴに目を合わせられ、海杏は言い逃れができなくなった。震える唇を無理やりこじ開け、言葉を紡ぐ。

「ポケモンはそれで幸せなのか。……って、言われて。……森からこの子たちを連れていく時……一番悩んだこと、だったから……。言い当て、られてっ……!」

言葉を口にするたびに、海杏の目から涙が溢れ出て頬を伝い、流れ落ちていく。ダイゴはそんな海杏を優しく胸に引きよせ、優しく頭を撫でる。

「……確かにポケモンたちの気持ちを完全に把握することは、ボクたち人間には出来ない。だけど、少なくとも海杏のポケモンたちは、海杏と共に居れて幸せだと、ボクが保障するよ」

「ど……して……?」

「嫌だったらモンスターボールに入れようとした時点で拒んでいるはずだからね。捕まえるときに、ポケモンたちは嫌がっていたかい?」

「うう……ん、みんな飛び込んできた……」

「普通の野生ポケモンはそんなことは絶対にありえない。だから、自分から飛び込んでくることが海杏と一緒に居たいというポケモンたちの気持ちの表れなんだ。それならボクたちはそれに応えて、共に一緒にいてあげることこそ、必要なことじゃないかな」

「一緒に……」

「人間とポケモンたちは支えあって生きている。それをきちんと忘れないでいれば、ポケモンたちはきっと応えてくれるはずだよ」

「うん……、うん。そう、だよね。私がこの子たちのこと、もっと信じてあげないと……」

「その調子だよ。……少しは力になれたかな?」

「少しどころじゃないよ……。本当に、ありがとう。私、これからもこの子たちのこと、大切に育てる。……あの、それでね」

海杏が何かを言いにくそうに口ごもる。それでダイゴは察したのか

「Nという人物にもう一度会って、確かめたいんだね?」

海杏の心を見透かしたように考えを示した。

「そう、なの。でも私一人じゃたどり着けないから……」

「安心して、ボクもついていく。海杏の話を聞いていてボクもNという青年に興味が出たし、何より海杏を一人でどこかに行かせる余裕があるほど、ボクの心は大人じゃないからね」

「えっ?それってどういう……んんーっ、んっんぁ……んぅ……」

ダイゴの最後の言葉の意味を聞こうとしたもののキスにより拒まれ、その日はずっとキスの嵐だった。それに一日の疲れもあってか、海杏はそのまま眠りについた。

そして次の日、海杏はダイゴと共に初めての土地、イッシュ地方へ向かう。Nという青年に指定されたカサゴタウンを目指して……。