トレーナーはお嬢様!? 第4話

「お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ!またのご利用をお待ちしてます!」

「ありがとうございます」

私の初戦は完敗に終わった。一緒に戦ってくれたチルットの傷を癒し、気持ちを切り替えて私は旅を再開。

……の、前に。

「えっと、その……ダイゴ、さん?」

「なんだい?」

「あ、うーん……、その……」

流れで助けてもらって、私の初戦の相手までしてもらっておいて今更だけど、ダイゴさんってあのデボンコーポレーションの御曹司なんだよね……。

婚約話を親が持ってきて、相手を見るより自分の思いが先に爆発しちゃって、顔写真もほとんど流し目でしか見てなかったから、実物を見るとなんかこう、自分とはレベルが違うって思い知らされる……。

一応自分も令嬢ではあるんだけど……。

私は全然慎ましい生活なんかしてこなかったからなぁ。毎日家を飛び出そうとしては怒られて、半ば無理やりな形で花嫁修業させられて……。それと比べるとダイゴさんはこう、出所がいいのが分かるというか、気品溢れるというか……。

どう考えても私みたいながさつな奴が、ダイゴさんみたいな御曹司と釣り合うわけないんだよねぇ……。

「そんなにボクを見つめて、惚れてくれたのかな?」

「やっ、ちがっ!なんですぐそういうこと言うかな、全く。……そうじゃなくて、さっきのポケモンバトル。アーマルドって、何タイプのポケモンだったの?」

考え事してたせいで見つめたままだった私も悪いけど、どうしてそういう発想になるんだ!話を変えるためについ出まかせでさっきのバトルの話になっちゃった。……まぁ、それも実際思ってたことではあるんだけど。

「アーマルドは虫・岩タイプだよ。……海杏は水タイプだと思ったんじゃないかな」

「むしぃっ!?……そして水タイプだと踏んでいたのは大当たりです……」

「やはりそうだろうね。海杏はかなり相性を気にして戦うみたいだったから、最初にみずでっぽうを使うことでタイプを水だと思い込ませたんだ」

あちゃぁ……全部お見通しってことか。まんまとしてやられたってわけだ。

……でもそれだけであのみずてっぽうの威力は誤魔化されない。私が想像している以上にダイゴさんのポケモンは強く、そして立派に育てられてる。

「それなら、ダイゴさんはものすごく強いんだから、私みたいな素人を相手するよりこの街にあるジムとかに挑戦する方が腕試しにいいんじゃないの?」

「うーん。海杏の言いたいことは分かったよ。でもボクはね、ポケモンバトルよりも珍しい石集めの方が好きなんだよね。それに、海杏みたいにポケモンへの情熱が人一倍強い人を見ている方がボクにとっては嬉しいことなんだよ」

「そ、そういうもの……なのかな」

まぁ、ポケモンへの考えっていうのは人それぞれだけど。

「海杏は旅に出て、何かしたいことはあるのかい?」

「飛び出した時はとにかく家から出ることしか考えてなかったから、そこを突かれるとなかなか痛いんだよね……。でも、せっかくいろんな街を回るなら、各地のジムに挑戦したいなとは思ってるの」

「うん、いいと思うよ。ボクは海杏についていくから、行きたいところは海杏が決めるといい」

「……それ、どうしてなの?」

違和感、あった。

「それって、どれのことかな」

「ダイゴさんは私より旅慣れしてる様子なのに、どうして私についてくる必要があるの?」

私には分からない。クチバシティで襲ってきたような怪しい連中たちとグルなのかとも考えたけど、私より珍しいポケモンを持っている人が、チルットしか持っていない私みたいなのを狙う必要もない……。

「ボク言ったよね、海杏のことが好きだって。それでは納得してくれない?」

「っ!……うん。納得できない」

今……、一瞬だけど凄みを感じた。有無を言わせない迫力っていったらいいのかな。この人って優しい顔のわりに、自分の成し遂げたいことは結構手段を選ばない感じ……?

ううん、そうじゃない。そうじゃないけど、かなり言葉巧みに誘導されてるような……。

うーん、うまく言えない。

「鋭いね。……もっと海杏がトレーナーとして成長したら渡そうと思ってたんだけど、今でも十分よさそうだ」

「なんの、話……?」

「さ、手を出して」

……何、これ?バラのコサージュに……石?……でも、なんだろう。すごく不思議な力を感じる。

「メガシンカ。……聞いたことぐらいはあるんじゃないかな」

「ここ最近見つかったとされる、進化を超える進化……。でもそれは、特殊な石が必要なのと、選ばれたトレーナーしか扱うことができないって…………石?」

まさか……そんな。でも、話の流れとしては、今手渡されたのが……

「分かったみたいだね。そのコサージュにはキーストーンが埋め込まれている。そして丸い石がメガストーン。チルタリスがメガシンカをするために必要なものだ」

「こんな大事なものをどうして私に?それに……」

なんで、そんなすごいものを持ってるの?ダイゴさんって一体……。

「ボクはチルタリスを持っていないから、海杏に有効に使ってもらった方がいいと思ったんだ。……なんて信じてもらえないか。さっきの理由も別に嘘ではないんだけど……。ボクの本当の目的はね、見たいんだよ」

「見たい?チルタリスがメガシンカした姿をってこと?」

「うん。ボクは自分なりのルーツでメガシンカを研究してるんだけど、それにはまだまだ知らないことが多くてね」

「そっか……、それで私に使いこなせれば儲けもの。ダメでもまた別の人に任せるなりでデメリットはなし……ってこともないよね。こんな珍しいものを他の人に渡すって、盗まれたりとかしちゃうでしょ?」

「だから、海杏に託したいんだ」

それを意味指すことはつまり……

「私を信用してるってこと?」

「ポケモンバトルをすれば相手の気持ちが分かる。海杏もボクの気持ちを少しは汲み取ってくれたと思うんだけど……」

ポケモンバトルで感じた、相手の気持ち……。ダイゴさんとのバトルの時に感じたのは、力強さと……私への期待。

「まぁ、うん……」

「後一つ反論させてもらうとするなら、ボクは海杏がメガシンカを扱えると確信してる。それに将来妻になる相手に損得勘定なんかしないよ」

「だ、だからっ!なんでそういう恥ずかしいことをさらっというかな!……でも、うん。誰かに期待されるのは、ちょっと嬉しいかな。がんばってみる」

なんか、うまいこと丸められた気もするけど……。でも、今はこれでいいかな。私はまだダイゴさんを恋愛対象としてみてるわけではないけど、純粋にトレーナーとしては憧れるほど強かったし。……そう考えると、すごい人と旅することになったんだなぁ。

「ありがとう。……ボクのために海杏ががんばってくれると思うと、嬉しいなんて言葉だけでは表せないな」

「えっ?……んっ!」

「…………っ。これからよろしく、海杏」

触れた……。唇に触れた……。柔らかいものが、触れた。ダイゴさんの顔が離れてく。

「な、なななな、何いきなり、キ……キスしてんの!?」

急すぎて何の抵抗も出来なかったんだけど!?……じゃなくて、何してくれてんの!?わ、わ、私のファーストキス……!

「言葉だけで表せなかったからつい、ね」

「そんなあいさつみたいなノリで!?……あー、もーっ!いいからほら!ニビジムに挑戦しにいこ!」

私の中のダイゴさんの印象がトレーナーとしてすごい人じゃなくて、行動が大胆過ぎるって意味でのすごい人に変わりそう……。

「ははは、そんなに照れなくても。……ニビジムはこっちだよ」

「いったい誰のせいだと思ってるのさ……!」

これからの旅中で、過激なスキンシップが無かったらいいけど……。

うー、さっきのことは忘れる!

初ジム戦だから気持ち、切り替えていかないと!

チルット、がんばってジムバッチ、GETしようね。

「あぁほら、待って」

「こ、今度は何!?」

警戒心をむき出しにしてしまった。でもこれぐらいしてないと、またさっきみたいに何かされちゃう……。

「コサージュ、ボクが海杏に付けてもいいかな」

「へ?あぁ……まぁ、それぐらいならどうぞ」

「…………うん、これでよし」

びっくりした。……でもこのバラのコサージュ、本当に綺麗。あ、綺麗と言えばダイゴさんが付けているラペルピンもすごく綺麗。

「ねぇ、ダイゴさんのキーストーンは、そのラペルピン?」

「うん、そうだよ。よく分かったね」

「コサージュと同じ雰囲気がするから、そうなのかなって」

「キーストーンの不思議な力を感じ取れる海杏はやはりトレーナーとしての才能があるよ。今後に期待だ」

「わっ、わぁ!だからすぐそうやって触れようとするの禁止!」

油断も隙もあったもんじゃないんだから!

「これは手厳しい。……まぁ、海杏がそれを望むなら出来るだけボクも努力はするけど、我慢できなくなった時は許してほしいな」

それって……今度触る機会があったらとんでもないことになるって意味だよね?

冗談、なわけないよね。まだ短い間の付き合いだけど、ダイゴさんのことは大体分かった気がする。……つまりこれは、ある程度了承しておかないとあと後やばいことになる!

「うぅぅ、分かった分かった!触るのはたまにで、その……軽めでお願いします……」

「海杏からおねだりだなんて、大胆だね」

「何故そうなった!?」

これ、間違いなくいいように言いくるめられてる!だが、今の発言だけを聞けば確かに私が触ってほしいと言っているように聞こえないことも無い……。くぅ、やられた!いや、私が勝手に墓穴を掘っただけか?どっちにしても、このままじゃダイゴさんの掌の上だ。

「これ以上からかうと本当に構ってもらえなくなってしまいそうだ。まずはジムへ挑戦だったよね、そろそろ行こうか」

「うん……。ダイゴさんとの言葉の駆け引きしてるよりポケモンバトルの駆け引きしてる方が何十倍も楽な気がしてきた……」

ダイゴさんとの旅路、私やっていけるかなぁ……。