ルルアノ・パトリエ 序章

―――遥か、遥か昔のこと。

世界がまだ神界と冥界しかなかった頃、一つの生命が誕生した。
その生命は本来交わることの許されない、生まれてはならない禁理を犯した存在だった。生命の身体は赤い肌で顔には大きな口がついており目は金髪の前髪に隠れあるのかないのかが見受けられず、翼は骨格のみだった。
しかし、その生命は何も知らないまま6年の時を刻んだとき、世界に存在を知られ、父母ともに幽閉された。
そして幽閉されてから幾許かの後、生命は空腹を訴えた。
我が子の要望に応えるべくして両親のとった行動は、自身の血肉を分け与えることだった……。
理を犯した冥界の父と神界の母の血肉を食らった生命は、恐ろしいほどの力を手に入れた。
そして腹が満たされた生命がとった次の行動は横たわる事だった。そして……。

                        悠久の時の眠りに身を投じた―――。

「うー……うーん……、もうちょっと……」
「がんばれー! アタシじゃ重くて持てないから、自分で取るのよ!」
空色の髪の女の子が、崖淵に落ちている何かに一生懸命腕を伸ばしている。落ちているものの傍には何やら小さな生き物がふわふわと飛び回りながら、ここにあるよと言わんばかりに動き回っている。
「落ちないで頂戴ね? まぁ、落ちても問題は「きゃぁあああああ!!」……ふぅ」
言わずものがな、と言った感じでガラガラと石などの瓦礫の崩れる音とともに落ちていく女の子を見つめながら、やはり……といった様子で首を軽く左右に振る、若紫色の髪を持った少女。その少女の近くにも、姿は違うものの小さな生き物が若紫色の髪に見え隠れするように肩にちょこんと座っていた。
「皮膚が引きつる感覚……、何かしら……?」
この時、少女は違和感を覚えた。
「な、なんですかこれ! 飛んでも上にあがれない!?」
女の子は必死に真っ白な翼を羽ばたかせているが、上がってくるどころかどんどんと地面に吸い込まれているように見える。女の子を吸い込んでいるように見受けられる地面にはブラックホールというよりは、少し紫がかったワープホールのようなものが広がっており、先ほど女の子が腕を伸ばして取ろうとしていた物はその中へと吸い込まれていった。
「わぁぁぁ! 吸い込まれるぅぅ!」
先ほどの小さな生き物は空色の髪にしがみ付きながら、必死に耐えている。
「……まずい!」
「ワタシたちも行きましょう!」
少女が感じ取ったそれがなんだったのか、気づいたころには遅すぎた。
女の子は地面に飲み込まれ、少女もそれを追いかけ姿を消した……。