ルルアノ・パトリエ 第10話

「えぇーーーーー!?」

お互いの気持ちを伝えあった日の帰り道、ララクは部活を終えた緑間とともに帰路についていた。
今日の昼休みの時、無理やり男子に手首を掴まれたときに助けてくれたのはほかの誰でもない、アンカルジアだった。
カバンから飛び出し、地面の砂を掴んで男子の顔に向かって思いっきり投げつけたのだ。
目に砂が入った男子は痛みでララクの手首を離した。その気を逃さず、ララクは急いで自分の教室へと走り帰った。
その後、授業が始まってしまったのでアンカルジアはカバンの中に帰れなくなり、
体育館でバスケ部の活動が始まるまで二階の窓際で昼寝をしていた。
そして見学に来たララクと合流したのだった。そして高尾と別れた後に、
アンカルジアに今日のことを伝え、それに驚いたアンカルジアの声がこだまして、今に至る。
「じゃあ、じゃあ……、二人は今日からカップルってこと……?」
「面と向かってそう言われると……恥ずかしい……」
緑間も隣にいるのに、はっきりと言い切られると恥ずかしさでどうしたらいいのか分からず、目があちこちへと泳ぐ。
「こんな何考えてるかわかんない人間のどこがいいのさ!?」
「……本人がいる前でよくそんなことが言えるのだよ」
アンカルジアに良く思われていないということを緑間は分かっていたため、
ある程度の反応は想定していたが、それでも改めて言われると怒りも沸いてくるものだ。
「アンカルジアは、どうしてそこまで真太郎さんを毛嫌いするの?」
人間が嫌いならば、高尾や篠菜たちのことも嫌っているはずだ。
しかし、アンカルジアが嫌うのは緑間に対してのみだった。
「だって一番仲良くするんだもん」
「えぇっ!? 仲良くしちゃいけないの?」
「そうじゃないけど! こう……、なんか嫌なの!」
アンカルジアの要領の得ない発言に、ララクもどうしていいのか分からず困ってしまう。
「俺の何がそんなに気に入らんのだ」
緑間に問われ、アンカルジアは腕組みをして考え込み
「“何も知らない”ところが嫌い!」
そう言い放った。
「何も知らないことないだろう。ララクが天使だということも、
 皇女になるかもしれないということも知っているのだよ」
「そういうことじゃなくて!」
「煮え切らん奴だな、はっきり言うのだよ」
今にも喧嘩になりそうな険悪な雰囲気にララクは口を挟めなくなり、固唾を呑んで見守る。
「緑間よりアタシの方がララクのこといっぱい知ってるし、
 いっぱい大事にしてきたんだから、ララクにとっての一番はアタシだけでいいってこと!」
その言葉を聞いて、二人はキョトンとした。
「それってつまり……、真太郎さんに妬いているってこと?」
「なんだ……、そういうことか」
「うっ……。だって、ララクにはこっちに来てたくさん頼れる人が出来ただろうけど、
 アタシには結局ララクしかいないわけで……」
「そっか……、ふふ。不安にさせてごめんね。
 私にとってはアンカルジアも真太郎さんも、かけがえのない大切な者たちなんだよ」
ララクはアンカルジアの気持ちが分かって嬉しいのか、ニコニコしながら両手で優しく包み込んだ。
「ったく、くだらん意地をはるな。オレはオレなりにララクを守ってみせる。
 だからアンカルジアも自分の思うようにララクを守ればいいのだよ」
「むぅぅ! 緑間にそうやって悟られるとやっぱなんか腹立つ!」
「何故素直に聞けないのだよ!?」
「ほらほら、二人とも喧嘩はダメですよ」
クスクスとララクの笑い声がいつまでも絶えない帰り道となった。

「それでは明日より夏休みとなります。羽目を外しすぎないよう、有意義な休みとするように。起立、れい」
「「ありがとうございました!」」
普段より生徒たちの気合が入ったあいさつが終わると、みなが楽しみにしていた夏休みの幕開け。
足早に家に帰る者、友達と集まってどこへ遊びに行くか相談する者、部活へと足を進める者と、
いつも以上に活気がある。それはララクたちのグループも例外ではない。
「やーっと、待ちに待った夏休みね! いやぁ、これから何するか……、考えるだけでもワクワクしてくる!」
「そうだな、せっかくの長期休みだし、いつもは出来ないようなことに挑戦してみたいな」
「……私は、この作品を全部読もうと思ってる」
「うげぇ! なにこれ分厚い! しかも作品ってことは……」
「……うん、後5冊ある」
「あたしだったら失神するわ……」
「本好きの朱夏だからこそ出来るチャレンジだな……」
朱夏が取り出した分厚すぎる本への話もそこそこに、三人組の視線はとある二人に向けられた。
「あの、真太郎さん」
「どうしたのだよ」
いつもより小さな声で話しかけてくるララクに、荷物を整理する手を止めずに返事をする緑間。
ただ視線だけはララクへと向けられていた。
「夏休みって、なんですか?」
「…………」
まさかの質問に荷物整理していた手は止まり、ララクを見ていた動向は大きく開かれたが、
天界には夏休みというものがないということを理解した緑間は説明を始めた。
「簡単にいうと学校に来なくていい時期なのだよ。大抵は遊んで過ごすか、
 部活に打ち込むかの二択だが……、ララクはこの機会に姉の行方でも探してみるか?」
「そんな制度があるんですね。……うーん。真太郎さんの言うとおり
 姉様を探すにはいい機会ですけど、目途が立たないことには……」
「……そう、だな」
ララクの意見が最もだと感じた緑間は、何も言えなくなった。
「おーい真ちゃん、迎えにきたぜー。っと、お邪魔だったか?」
そこへ、いつものように高尾が二人を迎えに来る。昨日は随分とギスギスしていた二人だが、
今日は今までと変わらずに普通に話をしている姿を見て高尾も機嫌をよくしながら、いつものようにからかっていく。
「あ、高尾さん。全然お邪魔じゃないですよ」
そしてからかわれていると気づかない、丁寧なララクの返答。
緑間は言葉の意味を理解し、頬を薄紅色に染めながら、それでいて不機嫌そうな視線を高尾に向けている。
その反応の違いがさらに高尾に笑いをこみあげさせる。
「昨日の真ちゃん、かっこよかったぜ? いきなり抱き寄せて……、そうそう!
 あの後なんて言ってララクちゃんからオッケーもらったのか気になるんだけど
 「それ以上言うと殴るのだよ」おーこわ」
今にも殴りかかってきそうな緑間を見て、さすがに身の危険を感じた高尾は言葉を慎む。
「くだらん話は終わりだ。さっさと体育館にいくぞ。ララクもついてくるか?」
「今日は半日部活動があるんですか?」
「あぁいや、俺ら二人は自主練。だから昼頃には切り上げる予定だけど、来る?」
「そうなんですね。はい、今日はお邪魔させていただきます」
ララク自身、いつの間にかバスケが好きになっており、特に二人の練習姿を見ることがお気に入りになっていた。
その様子を見ていた三人組は……
「いやぁ、長かったような短かったような……。まあ引っ付いたわけだし、めでたしって感じね」
「……一時は、どうなるかと思ったけど……、よかった」
「お前らは相当躍起になってたもんな……。ま、あの二人ならもう大丈夫さ」
「よーし、せっかくの夏休みなんだから、あの二人がうんと楽しめるように、いろいろ計画してあげなくちゃね!」
「……楽しむのはあの二人っていうより、お前ら二人だろ……」
「……夏は、長い」
不敵な笑みを浮かべる女性陣を隆二は呆れ顔で見ながら、ようやく誕生したカップルにがんばれとエールを送るのだった……。

「よっ……と……。あり? 先客がいんじゃん」
高尾が体育館の扉を開き、中を見ると何人かの生徒が監督と話している姿が見受けられた。
「何か取り込み中の様ですので、私は二階に行っていますね」
高尾と緑間に軽く頭を下げ、二階へと昇る階段を目指す。
その足音に、バスケ部の部長である大坪がこちらに気づき、お前たちも来いと言うように二人を手招きする。
「先輩たちに監督まで集まって、なんかあったんすか?」
レギュラーである先輩たちだけなら、自分たちと同じように自主練をしに来たのだろうと思うが、
監督までいるとなると話は別だ。何か良くないことでもあったのかと、少し身構える。
「高尾に緑間、ちょうどいいところに来たな」
「実はちょっと、困ったことになってな……」
同じレギュラーの先輩である宮地と木村が、事のいきさつを教えてくれた。
秀徳高校のバスケ部は歴史のある学校で、毎年夏休みの間に合宿が行われる。
そのため、毎年お世話になっている宿があるそうなのだが、今年はどうやら別の団体客も来るそうで、
調理場の関係上自炊せざるを得なくなったというものだった。
「自炊……っすか。誰が担当するんすか?」
「だから、みんなそれで頭を悩ませてんだよ」
「監督が料理を振る舞ってくれるとか……」
「誰がその間お前たちに指示を出すんだ?」
「ですよね……」
想像以上に大きな、そして解決策の出ない問題に直面し皆が頭を捻る中、緑間が口を開いた。
「誰か、部活以外の人物に頼むというのはどうですか」
「誰に頼むんだよ。あー、こんな時にマネージャーがいればなぁ」
「いや、マネージャーだからといって料理が出来るものだとは限らないと思います」
緑間は中学時代のマネージャーを思い出し、いつも殺人料理を食べさせられていた人物を頭に浮かべ、眉をひそめる。
そんな緑間の独り言は誰に聞かれるわけでもなく、またも沈黙が訪れる。
「……そうだ真ちゃん! ララクちゃんにお願いしてみるのはどうよ?」
「ララクちゃん……?」
高尾の提案に出てきた人物の名に、先輩たちは首を傾げる。
「いつも2階から見学している子だね。……うん、いいアイデアじゃないかな」
「えっ、監督いいんですか? 部活に関係のない人を巻き込んで……」
「んー……、今はそれしか手立てがないからね。それに断られたら元からこの話はなかったことになるだけで、
 困るのは我々だけだ。それなら頼んでみるのも悪くないだろう」
「うっしゃ! んじゃ、ララクちゃんを呼んできます!」
言うや否や高尾は階段を駆け上り、数分もしない内にララクと一緒に戻ってきた。
「あの、高尾さん……。大事な話って何ですか?」
突然下の階に連れられ、ララクは戸惑いを隠せない。
「いきなりすまないね。事情は私から説明しよう」
そして極め付けには監督直々からの話が始まり、自分が見学に来ていたのは迷惑行為だったのだろうかと深読みしてしまう。
しかし話を聞いていくと、人手が足りないので夏休みの数日間だけお手伝いを頼めないだろうか。という風に解釈したララクは
「はい。私なんかで力になれるのでしたら、喜んで」
快く承諾した。
「マジでいいの!? やったな真ちゃん! ララクちゃんの手料理が食べ放題……って、冗談なんだからそんな睨むなって!」
高尾の下心が何なのかを知った緑間は、決して口にはしないものの態度から
察することが出来る程度に機嫌を損ねていた。
「あ、そのことなのですが、本当に私の料理なんかで良いのでしょうか?
 みなさんのお口に合うかどうか、確かめられると私としても助かるのですが……」
「確かに……。こう言っては失礼だが、1年の二人はともかく、俺たち3年は何も接点がないからな」
「そうだなー。どっかで1度、飯を作ってもらえるといいかもな」
「それなら明日お弁当を……。
 あ、でも夏休みだから、みなさん学校に来ないですよね。……どうしましょう」
先輩の大坪や宮地達のことは見学席から見ていたのと、帰り道に聞かせてもらっている高尾からの面白話で、
全く知らないわけではない。それでも面と向かって話すことは初めてに変わりないし、
なにより力になると言った以上は妥協したくないと考えるララクは、案を出してみるものの良き案は出ず、悩みこんでしまった。
「ふむ……。もし時間があるなら、今から軽く材料を買ってこようか。後は家庭科室を借りればいいだけになる。お前たちも時間はあるか?」
「ちょうど昼時ですし、良い案だと思います」
「ただ飯でそれがララクちゃんの手料理ってんなら、食わない選択肢はないっしょ。な、真ちゃん?」
「フン、仕方ないから食べてやってもいいのだよ」
「プププ! 素直じゃねーなぁ」
「そういうことでしたら、先に家庭科室で道具の準備を始めていてもいいでしょうか?」
「構わないよ。それじゃ、私は買い出しに行ってくるとしよう」
「ういっす! んじゃ行こうぜララクちゃん。ホラ、真ちゃんも!」
「うるさいのだよ高尾、言われなくても行く」
「随分と機嫌がいいですね。何か良いことでもありましたか?」
先ほどからテンションの高い高尾に連れられながら、1年生組は家庭科室へと足を進めた。
「監督。さっきの子のことですが……」
「大坪が思っている以上にしっかりしている子だと私は感じたがね。
 まさかここまで一生懸命に考えて行動を起こしてくれるとは思っていなかったから、
 今でも少し驚きが隠せないぐらいだ。彼女には感謝せんとな」
「そう、ですね」
監督の言葉に先輩たちも頷き、家庭科室へと移動した。

「……それにしても、あの子もよく承諾したよな」
「ん、どういう意味っすか?」
数刻を経た家庭科室では、監督から手渡された材料を使い料理に励むララクの姿を見ながら、
宮地がふと口を開いていた。その言葉の真意が測れなかった高尾は首をかしげている。
「ホントだよな。まだ、よく絡んでいるお前ら2人に飯を作るって話ならともかく、
 話したこともない年上の人の分を作ってくれなんて、頼まれても普通断るだろ」
木村のもっともな意見に、宮地も大坪も確かにというように頷いている。その意見には高尾も緑間も納得したが
「でも、なんていうんすかね。ララクちゃんはそういうことでもオッケーしちゃう子なんですよ」
「困っている人に頼まれごとをされて、断っている姿を見たことがないのだよ」
「マジかよ。何かこっちが悪いことしてるみてーじゃねぇか」
「まぁまぁ、本人が良いって言ってくれてるんですし、お言葉に甘えましょうよ」
「お前さっきから何をそんな嬉しそうに…………。ハハーン、そういうことか」
先ほどからの高尾の態度が宮地は気になっており、
問おうとしたところで何かを思いついたのか、言葉を濁した。
「何が“そういうこと”なんすか?」
宮地の意味深な言い回しに高尾が聞き返す。
「あの子、ララク? はお前の彼女で、その手料理が食えるからニコニコしてんだろ?」
「いっ!?」
まさかの誤解に高尾は額から冷や汗を流しながら恐る恐る緑間のほうに振りかえる。
そこには今までに見せたことのない鬼の形相で高尾のことを睨み付ける緑間の姿があった。
「高尾…………、お前……」
「真ちゃんタンマタンマ! 確かに手料理が食べれて嬉しいって下心はあるけど、ララクちゃんとはマジでなんもねーって!
 てかいつもの二人のやりとりを見てて間に入り込もうなんて思わねーって!」
高尾が必死に弁解しながら緑間をなだめる様子に一度はポカンとした宮地だったが、話しが読めてきたのか
「……まさか、緑間の彼女とか言うんじゃねぇだろうな?」
と、冗談交じりで発言した。
「まさかのまさか、その通りなんすよ、これが」
「「ハァァ!?」」
これには主将の大坪も口をあんぐりと開け、驚いていた。
「あの……、料理が出来上がったのですが、運んでもよろしいでしょうか……?」
そんなとんでも空気に割って入るようにララクがおずおずと声をかける。
自分が料理をしている間にバスケ部員たちの会話は想像以上に盛り上がっていたため
声をかけるのにもだいぶ躊躇っていたようだ。
「あっ、た、頼む」
驚きを隠しきれないまま、生返事の大坪。
「その、何の変哲もないカレーですけど……」
料理に必死だったララクは部員たちの会話内容がよくわからず、とにかく一皿ずつ並べていく。
ただそれだけの行為でさえ、自分の料理を食べてもらうということが緊張させ、手が震える。
そんなかすかな震えに気づいた緑間は皿を受け取るように手を差し出す。そのとき、ほんの少しだけ指が触れた。
「……えっ?(今、なんでしょう……。一瞬、奥底から力が湧き出たような……)」
緑間はテーピング越しだったため、触れたことにすら気付いていない。本当に、その程度の軽い触れ。
ララクは不思議な気持ちになりながらみんなにカレーを配り終える。
皆が目の前に並べられているカレーを見て腹が減ったという感じでスプーンを手に取る。
「んじゃ……」
高尾の何気なく発した言葉を合図に
「「いただきます」」
の声が重なり、各々がカレーを口へと運ぶ。……数秒の沈黙。
「……、美味いな」
「いつもの弁当もいいけど、こう……オレらのために作ってくれたって思うと格別にうめぇ……」
言葉は少し綴られただけで、その後はスプーンが皿に当たったときの金属音が部屋に響く。
みんながカレーを頬張る姿がララクの目の前に広がった。そして数分が経ち、皿が空になったところで
「ごちそうさま」
の声が耳に入った。この言葉が今のララクにとってはとても心地よいもので、
同時にみんなの口に合ってよかったと胸を撫で下ろした。
「うん、これなら大丈夫そうだね。それじゃあこれが当日の予定表だ。
 と言っても基本的には料理を担当してもらうだけだから、ある程度は自由時間ができるよう調整をかけた。
 あまり遠出は許可できないが、そこは了承してくれ」
「ご丁寧にありがとうございます。それでは合宿の時に、またお邪魔させていただきます」
監督から当日の予定表を受け取り、礼儀正しく一礼する。
「それじゃ、これ片づけて帰るとするか」
使った料理道具をきちんと元の場所に戻し、先輩と別れのあいさつを交わして1年生組はいつも通りの帰路につくため、校門へと足を進めた。

「ララクちゃん、今回の合宿引き受けてくれてほんとサンキューな。オレ今からすげーテンション上がってるわ」
「そんな……、いつもお世話になっていますし、これで少しでもお役に立てるなら私としても嬉しい限りです」
ララクにとっては突然与えられた長期休暇だ。特に目的もなく怠惰に日々を過ごすぐらいならば誰かの力になれるほうがいい。
「合宿は遊びではないのだよ」
「んなこたわーってるって。でもよ、楽しみの一つぐらいあったっていいっしょ?」
「楽しみだなんて……。期待に応えられるよう、精一杯頑張りますね」
先ほどから高尾はご機嫌のようで、ずっとニコニコしている。そんな高尾に微笑むララクが気にくわないのか、緑間は眉をひそめている。
「あ、ララクー! やっぱまだ学校に居たんだ! 待ってて正解ね」
校門を出ると篠菜の声が聞こえてきた。隆二は腕で額の汗をぬぐいながら、朱夏は本を読みながら待っていたようだ。
「篠菜さん! こんな暑い中、外で待っていたんですか?」
「ん、いやいや。さっきまで図書館で涼んでたよ。隆二が汗っかきなだけだから」
「仕方ねーだろ? こう、ジリジリと肌を刺すような暑さなんだからよ……」
「……来た?」
どうやらララクのことを待っていたようで、3人がこちらに近寄る。
「ねぇ3人とも、今週の土日、どっちか暇してない?」
「土日、ですか? 私はどちらも平気ですよ」
「あー……、俺らは土曜日まるまる練習だからなあ……。オレは日曜日平気だけど、真ちゃんは?」
「日曜日ならば特に予定はないのだよ」
「じゃあ今週の日曜日、このメンバーでどっか遊びに行かない?」
突然の篠菜の提案に、ララクはキョトンとした様子で首を傾げ、緑間は面倒くさそうな顔をした。
「お、いいんじゃねーの? 基本オレらバスケ三昧だから、滅多に遊べないしな。真ちゃんらもどうよ?」
高尾は乗り気のようで、二人を誘う。
「あ、はい。私も大丈夫ですよ」
「何で遊ぶのだよ」
「んー、そうだな……。ちょいとみんなで共通して買いたいものがあるから、まずデパートに行って買い物かな?その後はまあ、無難にカラオケ?」
「みんなで買うもの……?」
一瞬ニヤリとした篠菜を見て、隆二は嫌そうな顔をする。
「あぁ、荷物になるようなものは買わないから安心してよ」
「ま、オレはそれでいいぜ? 久しぶりに思いっきり遊びますか!」
「特に異議もないみたいだし、決まりね! じゃあ今週の日曜日、朝10時に……」
篠菜が集合時間と場所を伝える。みんなそれに了承したように頷いている。
「よっし、伝えたかったことは伝えれたし、あたしらも帰るわ。また日曜日ねー!」
「はい。買い物、楽しみにしていますね」
「んじゃまたなー」
「……また、日曜日」
別れをすまし、それぞれの家へ歩を進める。
「……篠菜、よかったの? 二人きりにさせてあげてもよかったんじゃ……」
「そりゃ、できることなら二人のデートしてる姿を見たいけどさ。あの緑間がデートに誘うとも思えないし、ララクからどこかへ誘う姿も思い浮かばないっしょ?」
「……まぁ、うん」
朱夏も二人の姿を思い浮かべて、篠菜の言う通りといった感じで返事をする。
「それならまあ、あたしらお邪魔虫もいるけどある程度出かけるっていうこと自体に免疫つけてあげたほうが得策っしょ」
「篠菜にしてはよく考えてるんだな。と、いうとでも思ったか? どうせデパートで買うものがなんかあるんだろ?」
「ふっ……。流石は隆二、伊達にあたしの幼馴染をやってるだけのことはあるわね。ま、隆二もいい思いが出来る内容だから後であたしに感謝を言いたくなるわよ」
「ろくな事にはならねぇな、これ……」
呆れ顔で言う隆二の想定をも超える出来事が、今週の日曜日に起こる……。