妖精郷にて
「本当によくやってくれたッス、ダイナ。お疲れ様」
「迅速な解決に感謝します。報酬はこちらと……
他に何か望みがありましたら」
「正直、今後も色々とありそうなので、妖精郷とより良好な関係を築けたら、と」
「性格的にも環境的にも、そうでしょうね。平穏無事とはいかないでしょう。
前にも言った通り、出来る範囲で助力は致します」
「それと、ガイアの過激派と接触することになりました」
「……控えめに言ってご愁傷様ッス」
「それはまた……、最悪の事態も考えておいたほうがよろしいかもしれません」
「えっ」
「赤司征十郎は何人たりとも己の上に立つものを許さない、カオスの権化ッス。
気に入らなければ戯れに人を殺す。悪魔よりも引き金が軽いかもしれない」
「しかも相手が秩序となれば、尚更です」
「……望みはないんですか」
「あるにはあるッスけど、立ち回り次第ッスね。
ええとまず、赤司は財を好む。
資源で言えば《魔貨》《道具》《武器》あたりッスかね」
「貢物をして、へりくだって頭を下げる。
彼は独特の“王道”で動いています。
彼の、彼だけの“ルール”を把握して、それに抵触しないように」
「控えめに言って厄介ってレベルじゃないですね」
「後はしかるべき人物の紹介。まぁ、基本だけれど、多少は効果があるはずッス」
「あとは、今何か大かがりなことをしてるみたいです。
……“ベル”の悪魔がどうとか」
「どうか詳しく、お願いします」
「神聖四字の唯一神が世を席巻する以前、偉大なちからを有した神、“原初のベル”。
その名を継ぐ、“ベルの悪魔”たち。それらを彼らは追い求めているみたいッス」
「きっと、ろくでもない企みです、例によって」
「ありがとうございます。まぁ、皇帝に巻き込まれないよう、気をつけます」
「それが賢明だと思うッス」
「それでね、ダイナさん。
黒子君のことなのですが、しばらく貴女のところで預かってもらえませんか?
メシア教の面子を立てたというアピールが必要ですから」
「もちろん、喜んで」
「ありがとう。 あの子の世話とかも色々大変でしょうから、
少しばかりですが、こちらをどうぞ」
「ありがとうございます。……それでは、今日はこれで」
「またいつでも来ていいッスよ」
「夫婦共々、お待ちしております」
「陛下たちとのお話は終わりましたか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「まずは、今回の件、ありがとうございます。
依頼とはいえ、ご苦労をおかけしました」
「いえ、力になれたのであれば幸いです」
「それで、僕は何だったのでしょうか?
そしてこれから、どうなるのでしょうか?」
「少し長い話になりますが、ご説明します」
「……と、いう経緯です」
「そう、ですか」
「少しだけ、生まれ方が通常と違っていたというだけですから……」
「……生まれだけだと思いますか? 流石に変です。
こんな子供みたいな体から、ぜんぜん成長しないのですから」
「……私よりは、十分大きいですけど」
「そうですね。では今は、それで満足することにします。
あ、それで今後、僕は自由に外出してもいいのでしょうか?」
「はい。ただしばらく、黒子さんを私の異界で預かることになりました」
「そうですか。ではこれから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、今は少し人が多くて賑やかですが……」
「みんなただいま戻りました。今日は紹介したい人がいます」
「ん? どこッスか?」
「初めまして、黒子テツヤといいます。
本日からしばらく、お世話になることになりました」
「うわあああ! びっくりしたッス!」
「い、いつから居たの!?」
「やっぱりみんな、最初はその反応なんですね……」
「僕は慣れているので平気です。それにあの、エアリスさん、ですよね?」
なんと嫌な慣れだ……。というか、エアリスさんも驚いてたけど、知り合いなのかな?
「えっ、そうだけど……。どうして私のことを?」
「よく妖精郷の方に来ていましたよね。ここしばらく見かけませんでしたが。
声をかけたことはありませんでしたが、よく見かける方だったので」
「そうだったんだ……、私は全然気づかなくてごめんね! 私とこっちの2人、
ザックスとクラウドも、今ダイナさんのお世話になってるの。よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします。……ダイナさんって、本当にたくさんの人を支えているんですね」
「成り行きですけどね。……でも、嫌ではないですよ」
「僕も出来る限り力になりますから、何かあったら言ってください」
気付けば本当、たくさんの人を抱え込んでいるもんだ……。あはは……。
「とりあえず、今日はゆっくり休んで、明日に備えましょう。……5月ももうすぐ終わり、か」
毎日が忙しすぎて、日にちがすぐに過ぎていきますね……。