私は今、ダンテの彼女として、街を歩いている。
自分でいうのもあれだけど、どうしてこうなった……?
そもそも、小さい頃は異能力者として蔑まれ、いつも一人。
メシア教に無理やり入団されられてからはテンプルナイト。
周りは男しかいなかったけど、喧嘩を売ってくる輩はいても好きだとかのたまう男はいなかった。
大体、その頃の私は物凄く高圧的で、舐められないようにと相手を見下すような態度ばかり取っていた。
当然、彼氏なんてものどころか、異性の知り合いすらできるわけもなく……。
マリアのおかげでだいぶ丸くなったころにはメシア教を抜け、フリーのサマナーに。
それから男女問わずいろんな人と関わるようにはなったが、全てがビジネス話。
恋愛どころか、誰かを好きになるなんて初めてで……。
というか、さっきの質問のされ方だと、嫌いじゃない時点で好きというしかなくて、
好きといえば付き合う流れだったんじゃ──!?
「ダンテ。さっきの、私のこと嵌めた……?」
「んなことしてないだろ? ダイナは好きでもない奴と付き合うほど、軽い女なのか?」
「それは違います。好意がないのに付き合うのは相手に失礼です。
一度も付き合ったことがない私でも、そんなことはしません」
「なら、それが答えだろ? 俺のことが好きだっていう、な?」
「うっ……ぁ……。私、本当に慣れていないから……からかわないでっ……」
「自分から話し振ったんだろ? なら最後まで責任持たないとな?」
「~~~っ! 許して……」
「あー、ヤベ。俺が抑えられなくなる」
「だからそれはダメですって!」
さっきからダンテの好き放題されてる……! なんか悔しいっ!
だけど私、本当にこういうの初めてで……。
不本意だけど、エスコートしてもらうしかない。
……そういえば。
「どうしてダンテは、私を恋人に? 私たち、かなりスタンスが違うと思うんだけど……」
「確かに、スタンスは違う。だから恐らくこの先、衝突もするだろう。
それで愛想が尽きてさよならするかもしれない」
「否定は、出来ません。本当にお互いが譲れない道だったら、別の道を行くしかないでしょうから」
「ああ、そうだろうな。だが、そうなる未来だったとしても、俺は今、ダイナと居たいと思った。
それじゃ理由が足りないか?」
「足りない……というか、本心が見えません」
「……変なところで勘が鋭いな」
「ダンテの濁し方が下手なだけかと」
「言ってくれるな。……同情、なのかもしれれない。俺は半人半魔だ。それだからこその苦労もあった。
ダイナは異能力者だ。俺とは違う部類だが、世間から見れば大差はない。
だからか、ダイナを見ていると昔の自分を見ているような気分になる」
「ダンテの言う通り、苦労はした、と思います。
でも、そういうことなら、好きという感情ではなく、哀れみとかのほうでは?」
「はじめはそうだったんだろうな。だが、数回だがともに任務をこなして感じた。
お前は過去なんてのはとっくに振り切っていて、前に進んでるってことを。
それで気付かされたんだよ。俺は自分の過去を哀れんでほしくて、ダイナを哀れんでいたんだ」
「ダンテ──」
「それからだ、態度を改めたのは。もし対峙することになったら絶対に手は抜かないとも決めていた。
ま、結果として惨敗したが……」
「あれは惜敗だってば……。それで、その……、態度を改めたら、私のことを好き……に、なったの?」
「ああ、そんなところだ。だが、それだけじゃない。普通に女としていいなと思っていた。
それを決定づけたのは、間違いなく俺の腹筋を触っていた時だな」
「あっ、あれはだからっ! 本当にごめんなさいって!」
「取り乱しても、依頼のことになればすぐに切り替えられる冷静さ。戦闘時の判断力。どれをとっても一流だ。
メシアンじゃなけりゃ、すぐに手を出していた」
「……そこは、譲れませんから」
「ダイナが神を信仰してることに対しては何も言わない。だが、メシアンというのは堅物ばかりだからな。
どうしてもそこで踏ん切りがつかなかったんだが、あの時のあんな恥じらう姿を見せられたら──な?」
「な? と言われても……。あの時は本当にその、実用的な意味で羨ましくて……。
寝ているのをいいことに触って、ごめんなさい……」
「怒ってるわけじゃない。ま、結局原因を作ったのはダイナの方だからな。責任、取ってもらうぜ?」
「お手柔らかに……」
哀れみ、か。それなら私は、憧れだったんだと思う。
初めて会った時、純粋なまでに、どこまでも強い人だと思った。
私がダンテを見る目が変わったのはきっと、この間の試合で勝てたから。
憧れだった人に勝って、勝手だけど、対等な立場になれたような気がした。
だから……、憧れから好きへと昇華したんだと……そう思う。
それに私は、過去のことを振り切れるほど、強い人間じゃない。
今だってまだ、引きづっている。
……いつの日か、ダンテに話せる日が来るだろうか。
また、ダンテが私に打ち解けてくれる日が来るだろうか。
その答えはまだ分からないけど、そうである存在になりたいと。
なれるように努力したいと……心から思う。
「結局ぐだぐだと話してたら昼になっちまったな。……何かしたい事はあるか?」
「うっ……その、デートって何をするの……?」
「本当に経験ないんだな……。とりあえずどっかで腹ごしらえして、買い物でもするか」
「買い物……って、魔石とか地返玉とか、そういうのじゃなくて……?」
「……色気ぜろだな」
「これまでの人生、買い物なんて必要なものを買い揃えるっていうイメージしか……」
「なら、今日は俺から何かプレゼントってことにするか」
「そんな、理由もなく何かをもらうなんて……」
「彼女にプレゼントしたいっていうのは理由にならないのか? たとえそれがなかったとしても、
今日は急に呼び出した挙句、こうして付き合ってもらってるんだ。礼ぐらいいいだろ?」
「それなら、うん。……プレゼントなんて初めてだから、ワクワクしちゃう」
「ああ、期待しておいていいぜ」
食事を終えて、ダンテがプレゼントを選ぶために立ち寄ったのはアクセサリー店。
そこまで高価というわけではなけど、どれも綺麗。
「あっ。これ……」
目に留まったのは、ロザリオ。私よりも、ダンテに似合いそう。
「それが気に入ったのか? なら……」
「ううん。私がこれをダンテにプレゼントしたいって思っちゃった」
「おいおい。自分のじゃなく、俺のを選んでどうするんだよ」
「アクセサリーには、不幸を避けるお守りとしての意味もあるの。
ダンテはきっと、これからも危険な任務をこなすだろうから……」
「だったら、身に着けても壊しちまうだけだ」
「アクセサリーが壊れてもダンテが無事なら、
嘆くよりも身代わりになってくれたと、喜べばいいの」
「……ったく。なら、俺からはこれだ」
「ブレスレッド……? あ、ワンポイント入ってて、可愛い……」
着けても邪魔にならない細身な感じに、小さなエメラルドが一つ。
「ありがとう、大事にするね」
「ダイナも結局俺に買ってたら意味ないだろ……」
「いいの。私が贈りたいって思っただけだから」
「……大事にする」
気付けばもう、月が街を照らす時間。
「今日は本当に助かった。無理に呼んで、悪かったな」
「まさかこんなことになるとは思ってなかったけど……。
私、恋愛経験ないから、また粗相をしたらごめんね?」
「これから日があれば、いつでも体験させてやるぜ? 今度はもっと濃いのをな」
「……う、ん。私も頑張って、リード出来るように勉強する」
「勉強、か。相手はもちろん俺だろ?」
「他に親しい男性なんて、いないから……」
「色々と抱え込んでいるようだが、潰れる前に相談しろよ」
「それはお互いさま」
「気付いている、か」
「聞いてほしくないって顔をしてたから。……私と同じで、巻き込むのが怖いっていう顔」
「俺から告白しておいてこんなことを言うのはなんだが、面倒ごとを抱えているからな」
「それは……私も、かな」
ダンテが抱え込んでいることは、恐らく半人半魔のこと。
気安く触れていい話題ではないし、別に隠されているとも思わない。
言いたくないことを言う必要なんてない。本人がそれできちんと折り合いが付けられるなら。
そうでいられなくなった時に、頼れる人がいれば、それでいい。
願わくば、それが私でありたい。
「時が来れば、言うことになるだろうさ」
「それもお互いさま、かな」
「ダイナ」
「んっ──!」
「……気を付けて帰れよ」
「あっ……おやすみ、なさい……」
不意を突いてからの即時撤退。本当に……敵わないな。
今日は自分でも驚くぐらい、ダンテに躾けられちゃった……。