Proof is necessary to side

「ダイナ、悪いが今日は留守番だ」
「……了解」
ダイナと女性を呼んだ、銀髪に赤いロングコートが良く似合う男はそう言い、壁にかけてあった大きな剣と、机の上に投げ出してあった二丁拳銃を手に取って、早々に店を出て行った。
この店はDevil May Cryという。表向きは何でも屋、または便利屋なんて呼ばれている。が、実は悪魔退治をしているデビルハンターが本業だ。店主は先ほど出て行った男、ダンテ。彼女、ダイナはそんなダンテの恋人であり、同じ店で働く従業員でもある。
デビルハンター。文字通り、悪魔を狩るというのが二人の仕事。そんな末恐ろしいものを相手にしている以上、ダンテもダイナも普通の人ではない。
ダンテは伝説の魔剣士スパーダと、人間との間に生まれた半人半魔。ダイナは人間の父と、悪魔の母との間に生まれた半人半魔。
二人が出会ったのは、仕事がきっかけだった。謎の悪魔に追われている、助けてほしい。そう言ってダンテの店に飛び込んできたのがダイナだった。
ただの人間ではないということを見抜いていたダンテは、見逃すことも出来ず、その仕事を受け、依頼通りに仕事をこなした。その時にダイナと共闘し、意気投合。報酬を払うという時に、金ではなくお前がいいと言われ、ダイナはそれに了承した。
……なんてことがあり、今現在に至る。
だが、今日はいつもと違った。ダイナも半人半魔で、弱いわけではない。だから二人になってからは、何か依頼があっても二人でこなしてきた。それが今日、ダイナが来てから初めて、ダンテは一人で仕事に出かけてしまった。ダイナにはそれがたまらなく不安だった。しかし、恋人である前に、自分はこの店で働く従業員の一人だ。どうして? なんて言葉は、言えるはずがない。それにダンテの強さは知っている。いままでの依頼だって、自分がいてもいなくても、対して戦況は変わらなかった。そう思わせるほどに、彼は圧倒的だ。
そんな彼が負ける姿など、想像する方が難しい。だがそうなると、疑問になるのは何故今回の任務は同行させてもらえなかったのか?
──邪魔になったのだろうか?
そんな別の不安が、頭をよぎる。彼は、悪事を働く悪魔でもない限り、女性にはとことん優しい。どんな女性にでも、だ。
だから、私を傷つけないようにと、気を使って別れ話を言い出せないのか?
悪い考えばかりが頭の中を支配する。しかし、どれだけ思考しても答えは出ない。正解か不正解か、それを言ってくれる相手がここには誰一人として、存在していないのだから。
「ダンテ……」
誰もいない店の中に、ダイナの小さな声が漏れる。今までに一度として感じたことのない不安、心配、切なさなどが沸きあがる。
──どうしたらいい? 何をすれば、負の感情は消える?
分からないものが次々に押し寄せてくる。
何一つとして対処できないダイナはどうすることも出来ず、いつもダンテが座っている椅子の傍で小さくうずくまり、ただただ言い知れぬ感情に怯えながら、長い長い時間を過ごした。
陽が沈み、夜が更ける──。
それでもダイナはピクリとも動かず、何を待つわけでもなく、ただうずくまっている。そんな静寂を破るように、ガチャリと扉が開いた。
「ダイナ、帰ったぜ」
昨日聞いた声が店の中を満たした。だがダイナはその声に反応することが出来ない。
「おい、ダイナ。……ダイナ?」
呼んでも返事がないためか、何度もダイナの名を呼ぶ。重そうなブーツが音を立てて、いつもの椅子に近づく。
「何してんだ?」
うずくまっているダイナの頭上から声が降ってくる。
「……ダン、テ」
「なんだ、寒いのか? 俺は暑いぐらいだが」
「……大丈夫」
ダイナは、それ以上何も言えなかった。いや、言いたくなかったのだろう。この後、どんな言葉をかけられるのか。予想がつかなくて怖いのだ。ひとつ息を吐き、ダイナは立ち上がる。
「で、何こんなところでうずくまってたんだ?」
「特に理由はない。気にしないで」
「そうか? ま、理由は知らねえが……」
「あっ──」
気付くと、ダンテの胸の中にすっぽりと納まっていた。
「嘘をつくなら、その泣きそうな顔は隠さないとな」
「あっ……、その……」
「寂しい思いをさせたな」
優しく頭を撫でられ、気が緩む。
沸きあがるのは安堵。それと幸福感。自分でも信じられないほどに先ほどまでの負の感情は消えていた。
「私……。ダンテの気持ちが分からなくなった。それで、どうすべきかが分からなかった。……でも、今はもう、大丈夫」
「俺も不器用だった。……これを」
そう言ってダンテはダイナを自分の胸板から離し、小さな箱を見せる。
「これは……?」
「Happy birthday! プレゼントだ」
「えっ……」
「おいおい。自分の誕生日、忘れてたなんていわねえだろうな?」
すっかり忘れていたという顔をするダイナのおでこを、ダンテは軽く小突く。
「ごめんなさい。……でも、嬉しい。これ、開けてもいい?」
「もちろん」
手渡された箱を開けると、中にはダイヤのついた指輪が。
「ダンテ! これ……!」
「悪かったな、置いていって。どうしてもサプライズしたくてな」
そう言いながらダンテは指輪を手に取り、ダイナの左手の薬指にはめる。
「似合ってるぜ」
「ありがとう。……最高のプレゼント」
「これからも危険な仕事は続く。それでも、俺の傍にいてくれるか?」
ダンテの瞳をしっかりと捉え、ダイナは言う。
「あなたがそこにいてくれれば、私はそれでいい」
「やっぱ、ダイナは最高だ」
二人はこれからも末永く、デビルハンターとして、良き夫婦として。
共に居続けるだろう。